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第六十五話 根拠のあるいわくつき その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿なります。


深夜の投稿になって申し訳ありませんでした。


それではごゆるりと御覧下さい。




 宿の予約を滞りなく終え、ふわぁぁっと馨しい香りを放つ松葉亭の前を後ろ髪引かれる思いで通過。


 それから暫く道なりに歩いて行くと、大小様々な船がさざ波に揺られながら停泊している港が見えて来た。



 停泊している船は漁師達の命令を待ち、今にも風を受けて沖へと出航してしまう力強さを感じるのですが。


 生憎、俺が探し求めているのは船着場では無くて酒場なのですよ。



 港の少し手前。


 大分古い木造の建物が潮風に晒され佇んでいる。そこの店の看板には寂れた文字で酒場と短く書かれていた。



 ここが松葉亭の店員さんの言っていた酒場、か。


 今にも崩れてしまいそうな造りで見ているこちらに要らぬ杞憂を与えてしまいますね。



「ふぅ」



 一つ小さな溜息を吐くと、耳に不快感を与える音を出す扉を開け中に入った。



「……。いらっしゃい」


 正面に立つ店主らしき人物が俺を見付けると、酒を提供する長机の向こう側から消え入りそうな声で話しかけて来た。


 左右を見渡すと、三つの丸型の机が置かれその内の一つに三名の客が着席し。



「わはは!! それでよぉ――!! うちのカミさんがぁ!!」


「そっちもかよぉ!! 皆一緒の悩みで何よりさぁ!!」



 愚痴を肴に陽性な感情を籠めて酒を楽しんでいた。



 店の外観と店内の雰囲気は暗いが客は元気そうで何よりです。


 どれも暗いと此方の気分も沈んでしまうからね。



 机の間を通過し、周囲と同化する様に佇む店主に声を掛けた。



「あの、すいません」


「何でしょう??」



 近くで聞いても小さい声だな。


 まぁ、酒を楽しむ人達の邪魔をしない為に敢えて小さく話しているのでしょう。



「ロブさんって人を探しているのですが。御存知ではありませんか??」


「彼ならあそこの机で飲んでいますよ??」



 店主の視線を追うと店の角。


 小さな机の前で侘しそうに酒を飲んでいる白髪の老人がいた。



「彼が??」


「えぇ、そうです。彼に何か用でも??」



「ここからとある無人島へ任務で赴くのですが、彼に船を出して貰おうと考えていまして。それじゃ、どうも!!」



 店主に向かい礼を述べるとロブさんの元へと向かった。



 こちらが近付いても酒の入ったコップを見つめ微動だにしない。


 起きているのか?? それとも酒が回って寝ている??



「あの、すいません。ロブさん……。ですよね??」



 蝶の羽ばたきよりも小さな声量で尋ねた。


 すると、声でこちらの存在に気付いたのか。面をゆっくり、そう亀の歩み程にゆるりと上げた。



「何だ??」



 見た目より大分低い声が鼓膜を刺激する。



 太陽の陽射しによってこんがりと焼けた浅黒い肌。


 長きに渡る人生によって刻まれた深い皺に、船仕事で得た筋力は衰えを知らず。彼の服を内側からこんもりと盛り上げている。


 萎れている体のお爺さんと呼ぶよりも、いつか来る戦いの時に備えて己を研ぎ澄ませている分厚い剣と呼ぶべきか。


 只、ちょいと酒臭いのが残念です。



 お年を召しても尚存在感を放つ彼の前で確と立ち、此度の件の説明を開始した。




「自分はパルチザンの兵であります。訳あって無人島への調査の為にこの街に参りました。それでロブさんにはその島への渡航の助力を願いたいと考えています」



 彼の前にレフ准尉からお預かりした偽造書類を差し出す。


 それを邪険に受け取ると任務内容や、記載されている印章等を舐めるように見つめた。



 バ、バレないよね?? 流石に。




「……。七名に……、地質調査?? 以前も行ったじゃないか」



 レフ准尉達の事だな。



「えぇ、ですがもう一度調べて来いとの事で……。一兵士である自分は任務を全うするだけでありますので上層部の真意は伺い知れません」


「ふん、下っ端か。まぁいい、金は??」



 此方に書類を返すと、ブスっとした顔を浮かべ。そっぽを向いて現金を催促する。



「……。こちらに」



 事前に用意しておいた渡航費を渡すと、無言でそれを受け取り。


 満足のいく値段だったのか。


 適当に折り畳んだ紙幣をシャツの胸ポケットへと仕舞った。




「いいだろう。明日の朝一番にそこの船着場に来い。向こうで……。三泊四日の予定か。それ相応の食料と物資を持って来るんだな」



「分かりました。それでは宜しくお願いします」



 彼に向かって礼儀正しく一礼を送るのだが。


 ロブさんはそれをさも面倒くさそうに手であしらうと再び酒を飲み始めてしまった。



 大丈夫かな……??


 酒をあぁも飲む人に操舵を任せて。


 多少の不安は残るものの此れにて、一応の依頼は終了。そう考えて店を出ようとすると。



「おい、兄ちゃん」


「はい?? 何でしょうか??」



 ロブさんとは対角の角で飲んでいた漁師達に呼び止められる。


 愉快な顔を浮かべて此方に手招きをするのでそれに従い、彼等の机へとお邪魔した。



「じいさんと何話していたんだい??」


「とある島への渡航を依頼しました」


「それって……。あの無人島の事??」


「えぇ。それが何か??」



 俺がそう話すと、三名の漁師達は顔を近付けなにやら囁き始めてしまった。


 何?? まさか、渡航する事で罰せられたりするの??



「悪い事は言わねぇ。止めておけ」


「どうしてですか??」



 ちょっとだけ呂律が怪しい彼に問う。



「ん――。話しても良いけど――。ほらぁ、此処は酒場だろ??」


「えぇ、そうですけ……」



 あぁ、はいはい。


 一杯驕れって事ね。



「店主さん。彼等にお酒を提供して頂けますか?? お代は自分が払いますので」


「畏まりました」




「うっひょう!! 兄ちゃん、軍人さんのくせに話が分かるじゃあないか!!」



 運ばれて来た酒をグビグビと喉の奥へと流し込み。



「ぷっはぁぁああ!! んめい!! やっぱ仕事終わりの一杯は最高だよなぁ!! もう酔っちゃうよぉ!!」



 一杯でそこまで酔いませんよね??


 まぁ、酔っ払いに問い詰めても無駄ですからね。ここは流すのが正解っと。



「――――。では、御話を伺っても宜しいでしょうか??」



 店主さんに今の酒代を支払い、彼等の机の前に戻って来ると同時に問うた。



「今から話す事は俺達の戯言だと捉えてくれ。良いな??」




 おっ。


 陽気な顔から一転。


 急に真面目な顔になりましたね。



「了解しました」



 彼等の真剣そのものの表情を受け取り、小さく頷いた。


























「あそこは……。人を飲み込む島だ」



 人を飲み込む??



「詳しくお聞かせ下さい」



「今から……。よぉ、何年前だっけ??」


「十年前くらいじゃないか?? あの島へ男と女、五人が向かって行ったんだ。まぁここも外からの客で成り立っている事もあるからな。行きたいと言えば連れて行くさ」


「その男女達の目的は??」


「さぁ?? 興味本位で遊びに行ったんじゃないのか?? それで一週間後に迎えに来いって言っててさ……」



 そこから先は言いにくそうにしている。



「続きを教えて下さい」


「…………。いくら待てど暮らせど五人の姿は現れなかったらしいんだよ。迎えに行った漁師の一人が島を見回ったが人っ子一人見付けられなかった……」



 どういう事だ??


 その島に入ったら人が忽然と姿を消すとでも言うのか??



「それで気味が悪くなったそいつは逃げ帰るようにその島から離れた。勿論、日が暮れるまで離れた所で待っていたが約束の場所にはそいつらは現れなかった。後日、警察の兄ちゃん達が島の中を捜索したんだけど……」



 当然、発見には至らなかったんだな。



「アイツ等も地元出身だからな。おっかなびっくり上陸して、ちゃっちゃと捜索してはいお終い。他所から来た連中は見つからなかったとして事件は片付けられちまった」



 ほらね??


 良くない方向の予想って当たるんだよ。



「変な話だろ?? だからさ、悪い事は言わねぇ。やめておきな」


「ですがこちらも仕事ですので……。話を聞かせて頂きありがとうございました」


「兄ちゃん無茶はいけねぇ。俺達は一応忠告したからな」



 頭を下げ感謝の意を表し、重い足取りで店を出た。






 呪われた島、消えた五人の男女。


 しかし、これは彼等の証言で得られた情報だ。確固たる証拠は無い。


 そうは言っても不気味だよなぁ。


 休暇で訪れた筈なのに何やらきな臭い香りがプンプンしますよ……。



 この事をマイ達に伝えるべきか??


 恐ろしくも首を傾げたくなる状況証拠に対し、面白がって突っ込んで行きそうだし。


 敢えて話さない手もあるけれども……。



 う――ん。



 カエデにだけ、相談してみようか??


 彼女なら判断を誤る恐れも無いし。でも、内緒話がバレたら後で地獄の悪魔も命乞いをしてしまう酷い目に遭わされる。


 自分の変わり果てた姿と判明してしまった恐ろしい真実の欠片を天秤に掛け、どちらに傾くのかと頭の中でその姿を観察し続けていたが。


 等しき重さを証明するかの如く、決してどちらかに傾く訳でも無かった。


 その悩ましい公正さに苛まされ腕を組みつつ、三度松葉亭の前を通過。


 馨しい香りが心に柔らかい光を灯して天秤を霞の如く消し去ろうとするが。匂いが消失すると同時に再び天秤が頭の中に浮かんでしまいそれは決して消える事は無く。

 

 いつまでも俺の心を悩ませ続けていたのだった。




最後まで御覧頂き、誠に有難う御座いました。


そして、ブックマークをして頂き有難うございます!!


これからの執筆活動の励みになります!!!!



バカンスも中盤に差し掛かり、彼等はいよいよ無人島へと乗り込みます。


当然、普通に休暇を過ごせる訳はないので御安心?? 下さい。


それでは皆様、寝苦しく蒸し暑い夜ですがゆっくりと休んで下さいね。

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