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第六十話 急に頂いて困る物。それは長期休暇 その一

お疲れ様です。


日曜日の午前中にそっと投稿を添えさせて頂きます。


それでは御覧下さい。




 完璧な円も思わず丸い顎に指を添えて、ほぅ?? っと頷いてしまう満月が夜空に浮かび。矮小な星々の瞬きが月明りを美しく装飾。


 地上に灯る柔らかい橙の色が月に負けじと懸命に光を放つのだが、月の女神様の笑みには敵わず。


 その憤りを表すかの様に燻ぶる煙を周囲に放ち続けていた。



 王都帰還まで残り一日。



 後少しで此度の任務が達成されるって考えると、何だかちょっと気が抜けちゃうよね。


 食後に相応しい景色を何とも無しに眺めながら肩の力を抜き、大きな溜息を吐いて空を仰ぎ見た。




 ふぅむ……。


 夜景は圧巻の一言に尽きる。


 しかし、幾ら絶景の中に身を置いていても鼓膜を悪戯に刺激する雑音が放たれ続けていては台無しになってしまいますよね??



「カエデちゃん!! 温かい雨有難うね!!」



 金色の瞳の狼が一日の汚れを落とし、最高な環境下で読書を嗜む彼女の背後からぬぅっと顔を覗かせて話す。



「どういたしまして」


「綺麗さっぱりしたから早く寝ようよ!!」



 カエデが羽織る白のローブの裾を食み、天幕へと引きずろうとするのですが。



「まだ本を読んでいます。先に休まれたら如何ですか?? マイとユウが天幕の中に居ますので」



 あ、面倒だと思ってあの二人に擦り付けたな。



「おぉ!! そうだね!! マイちゃ――ん!! ユウちゃ――ん!! 遊ぼう――!!」



 左右に尻尾を全開で振りつつ、珍しく静かな天幕へと陽性な狼が突撃を開始。


 灰色の尻尾が見えなくなるとうら若き乙女達が放つとは到底思えない声色が静かな平原に響きわたった。



「鬱陶しい!!!! 私はお腹一杯で眠いの!! くっせぇ鼻くっつけんな!!」


「あぁ――!! そういう事言っちゃうの!? じゃあユウちゃんでいいや!!」


「止めろ!! 全部出ちまうだろうが!!」



 何が出るのだろう……。


 その正体を確かめたいのは山々ですが。あの天幕を使用して良いのは女性のみですので、男性である俺にはその権利はありませんのであしからず。



「主……。済まぬな」



 焚火の前で丸くなっていた翡翠の瞳の狼がふと顔を上げて話す。



「気にしないで。元気があっていいじゃないか」



 まぁ、それは程度にもよりますけども……。


 内部で強力な突風でも吹いたのかと頭を傾げたくなる勢いで天幕の布が揺れ続ける様を見つめつつ答えた。



「後で言い聞かせおく」


「仲間同士の可愛いじゃれ合いじゃないか。そこまで言わなくても良いって」


「そうか……。了承した」



 彼女達を仲間に加え、大森林から移動する事約十日。


 その間、あの陽気な狼さんは兎も角。


 リューヴは何処か見えない壁を俺達との間に建てている気がするんだよねぇ……。


 勿論。


 此方が話し掛ければ必ず返答を頂けるし、率先して天幕の設置にも手を貸してくれている。



 もう少し砕けた性格になれば良いんだけど。


 まだ仲間になって間もないし、俺達の事を完全に信用するには早過ぎるかな??



 まっ、この問題は時間が解決してくれるでしょう。



 コップへ注いだ温かい白湯をズズっと啜り、ふぅっと息を吐く。



 明日には到着、か。


 リザードと狼の件は何んと報告すれば良いのやら。



「カエデ。今回の報告はどう伝えればいいと思う??」



 草原の上にちょこんと体操座りをして読書を続ける彼女に問う。



「――――。リザード達は三体と報告したのですよね??」


「そうだよ」


「ふ、む……」



 読みかけの本を静かにパタンと閉じ、何やら考え込む仕草を取る。



「レイドが獅子奮迅の活躍を見せて撃退した。これが理想の報告なのですけども。要らぬ詮索を受ける可能性がありますので、彼等の姿を確認して矢を穿ったまでに留めておいて下さい。 今まで人間の弱さに味を占めていた強奪行為なのですが。本来、弱小である人間の予想外の攻撃を受けて彼等は驚き退散してしまった。これで大丈夫でしょう……」



「アイツ等が戻って来る可能性は??」



「女首領さんへ軍が出動すると伝えましたので、あの街道で横着を働く可能性は限りなく低いです。徐々に交通が増え、街の皆さんが困惑する事は恐らくありません」



 あれだけこっぴどく痛めつけられたんだ。


 これに懲りて、野盗行為を止めてくれれば幸いですけども……。


 違う場所で再び野党の報告が上がればきっと俺の報告が役に立つし、奴等の特徴を報告書に記載しておこう。




「狼の件はどう説明するので??」



 右肩に飛び乗って来た蜘蛛さんが続け様に尋ねる。



「街に実害はありませんので。遠吠えは聞こえたが姿は見えなかった。これで丸く収まります」



「それなら……。うん、大丈夫そうだね。有難う、カエデ」


「いえ、お気になさらず」



 静かな声色で話すと、再び読書に興じた。



 これで報告の件は片付いた。


 残りは新たに加わった二人が王都の人口密度に辟易しない事を願うばかりだな。



 まぁ、先輩方が率先して案内をしてくれると思うし。その点に付いては余り気にし過ぎない方が良いのかも。



 首筋に襲い掛かるチクチクした毛を指で押し退けつつ、内部から放たれる怒号と暴風によって今も激しく揺れ動く天幕を眺めていると杞憂じゃない気がして来た。



 頼むぞ……。先輩達。


 狼さん達に正しい街の散策方法を教えてくれよ??



 杞憂が不安の色に変わり、何とも言えない感情のまま。


 決して退こうとしない黒き甲殻を纏った蜘蛛さんの胴体を掴み。静かに横たわる翡翠の狼さんの背へと放ってやった。



































 ◇






 激闘を繰り広げた北の大森林から数える事十一日。遂にこの大陸最大の都市を捉える事に成功した。


 遠目からでも理解出来てしまう見上げんばかりの高さを誇る城壁に近付くにつれ街道上で行き交う人の頻度が上昇。


 その上昇度は内部の経済状況の好況さを表している様にも感じてしまう。


 人が増えればそれだけ物と貨幣が行き交うのだから至極当然の事だが、それはあくまでもあの街の内部を知る者の心境。


 初見である御二人は行き交う人々に好機の目を向け続けていた。



 それもその筈。


 二人は未開の地で生まれ育ち、これだけの人口を誇る街に訪れるのは初めてなのだから。




『わぁっ!! 今の荷馬車!! 沢山の野菜が積まれていたよ!?』



 ルーが先頭を歩くマイの両肩に両手を乗せ、抑えきれない衝動を誤魔化す様にぴょんと一つ跳ねる。



『別に珍しい光景でも無いでしょ』


『わっわっ!! あっちはトウモロコシ!!!!』


『あ――も――!! 一々燥ぐな!! ド素人め!!』



 そう邪険に扱わないの。


 貴女も初めて訪れた時は驚いたでしょうに……。



 御者席に着き、手綱を巧みに操りながら皆へ言葉を送った。





「俺は今からウマ子を厩舎に預けて本部へと報告に向かうよ。その間、ルーとリューヴを案内してあげて」




 早朝。


 街に入るという事で彼女達へ慎ましい額の現金を渡し、賢い海竜さんに一方通行の魔法並びに念話の魔法を掛けて下さるようにお願いした。



 口を開かずとも会話を可能にする魔法が気に入ったのか。



 今朝からずぅっと喋りっぱなしのルーに憤るのも分かるけど。折角、人の文明に触れる機会なのだから親切丁寧に案内して貰いたいのが本音かな。



 いや、人間を嫌いにならないで欲しい。



 それが本心だ。



『へ――いへい。うまぁい飯を探すからついて来なさい!!』


『おぉ!! それは楽しそうだね!!』



 う、うぅむ……。


 果たしてあの腹ペコ龍に一任しても良いものだろうか。


 少し釘を差しておこう。



「さて、今から首都に入る訳だが。ルーとリューヴは初めてだよな??」



『そうだよ!!』


『あぁ、そうだ』



 二人同時。


 片方は真昼の空に浮かぶ燦々と輝く太陽、そしてもう片方は夜空に浮かぶ月の様に静けさを含ませた声色で話す。




「ここレイモンドは人が多く住む街だ。カエデの魔法で向こうの言葉は理解出来るけどこちらの言葉は通じないから注意するように。買いたい物は屋台等、身振り手振りで済ませられるようなお店で済ます事。もし、必要な物があれば俺に言ってくれ。派手な行為は避けるように、特に魔法の使用はご法度だ」



 取り敢えずの諸注意はこんな所か。


 街中で巨大なミノタウロスが突如と出現し、手乗り大の龍が飯を求めて大暴れして、蜘蛛が巣を作り、小さな海竜がえっこらよっこらと移動し。


 挙句の果てに二頭の大きな狼が好き勝手に駆け回ったら王都内は大混乱の境地に達してしまいますからね。



『街に入る度に注意ばかりで疲れる――』



『ルー、黙って聞いていろ』



「それだけ今は繊細な時期なんだ。魔女、そしてオークの事もあるしね。マイ達は何度も訪れているから細かい事は彼女達に聞くといい」



『ふふん。何でも聞きなさい。美味しい食べ物の事ならお任せよ!!』



 二人の前に立ち、小さな胸をムンっと張って話す。



「俺はこれから本部に帰還報告をしてくる。それが終わり次第合流しよう」



 カエデに相談した通りに説明すれば大丈夫だよね??


 それだけがちょいと心配だな。




『マイちゃん!! 服!! 服欲しい!!』


『はぁ?? 服なんか買っても腹は膨れないから却下よ』


『えぇ!? 嫌だ!! 可愛い服が欲しいもん!!』


『何か適当にパクついてから服屋に行こうか。それでいいだろ??』



 流石ユウだな。


 こういう時、陽気組を纏めてくれるのは本当に有難いですよ。


 深紅の髪の女性と灰色の髪の女性の肩にポンっと手を乗せて二人の意見を纏めている姿に朗らかな気持ちを抱いた。



『主、私はどうすればいい??』



 リューヴが少々不安気な表情を浮かべて此方を見上げる。


 人で溢れる所は苦手だろう。道中、立ち寄った街でも人間の姿を見るとちょっとだけ眉を顰めていたし。



「そうだな……。皆、申し訳無いけど全員で行動してくれ。これから何度も街に訪れるし。此処の事を知っておいて損は無いと思う。後、派手な行動は控える様に」



『分かりました。食料関係はマイ、図書館等施設の案内は私が担当します』



 カエデが静かに頷き、二人を交互に見つめる。



『あぁ、頼む』


『宜しくね――!!』



 マイ達が近くに居れば大丈夫だろう。


 早く人間に慣れてくれるといいのだが……。




『さぁ……。腹がはち切れるくらい食べるわよ!!』



 言った傍からそれかよ……。



『はぁぁ……。レイド様の気苦労が身に沁みますわぁ』


『あぁ?? 何か言ったか??』



『二人共そこまで――。今から楽しい散策が始まるんだ。仲良く行こうや』



 快活な笑みを浮かべ、ユウが一触即発の不穏な空気を吹き飛ばしてくれる。


 彼女が居れば喧嘩は起こり得ないか。


 それにカエデも居る事だし。気にし過ぎるのも良くないかな??




『ふんっ!! 皆の者出陣だ!! 我に続け!!』


『お――!!』


『あ、馬鹿!! 置いて行くな!!』



 マイ、ルー、ユウは軽やかな足で西門へと向かうが。他の三人はそれを少しだけ冷めた目で見つめていた。


 こうもハッキリと性格が分かれるとは。



『はぁ……。カエデ、リューヴ行きましょうか』


『主、行って来る』


「折角来たんだ、楽しまなきゃ損だぞ」


『あぁ……』



 やっぱり人が多い街は苦手か。これを機会に少しでも人間に興味を持ってくれればいいんだけど。



『新しい本が欲しい』


『それは後にしましょう。まな板達が暴走しないように監視をしないと』


『まな板?? 誰の事だ??』


『まぁ。分かりませんの?? それはですね……』



 アオイさん??


 不必要な情報は与える必要ありませんよ??


 これから行動を共にする仲だから必要な情報かも知れませんけども……。




 それはさておき、俺も自分の務めを果たしますかね!!



 久々に帰って来たんだ、さっさと報告を済ませて美味い飯でも食って羽を伸ばさないと。


 気を取り直してウマ子と共に進み出したのだが、徐にあの忌々しい紙の山が頭の中に浮かんでしまう。


 まさかとは思うが、今回も馬鹿げた量の報告書が待ち構えているんじゃないだろうな??


 先程までの陽性な感情は何処へ。


 嫌々、致し方ない。


 どちらかと言えば負の感情が籠った手で手綱を取り、陽性な感情が溢れ出て来る西門へと進み始めた。




最後まで御覧頂き有難う御座いました。


一気に纏めて投稿しようかと考えていましたが、少々文字数が多くなってしまいましたので分けての投稿になります。


後半部分は現在編集中ですので、もう暫くお待ち下さい。

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