表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/1223

第五十九話 喧嘩の後は格好良く仲直り その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。深夜の投稿になってしまい、大変申し訳ありませんでした。


それでは御覧下さい!!




 心地良い眠りを享受する為にはそれ相応の環境が整っている必要がある。


 俺の体を温め続けている柔らかく温かい陽射しの温もりがその例の一つですね。


 ダランと弛緩した体を労わる様に照らしてくれる太陽の笑みにお礼を述べ、何気なく寝返りを打つ。



 う――む。


 今度は物凄く良い香りが漂ってきたぞ。




 温かい朝の陽射しに、精神を何処まで癒してくれる優しい香り。


 左頬に感じる柔らかい枕さんは俺の体の事を親身に労わってくれるのだと、夢現の中で確信に至った。



 どうせなら、この香りを独り占めしたい。


 そして、もっと柔らかさを与えておくれ……。



 あれ程強烈に感じていた痛みが消え失せた両腕で枕さんをきゅっと抱き締める。



 そうそう。


 この香りと、柔らかさだよ。俺が求めていたのは……。


 柔らかい底無し沼に顔を埋め、世界一の香りを享受していたのだが。




「――――。こ、こほん」



 横着な枕さんがこれ以上は進むなと咳払いをしてしまった。


 ふ、む……。成程。


 此処で止まれ、と??


 素敵な香りを放つ枕さんに対して、ちょいと失礼ですが。それは無理な相談です!!



 今まで以上に強く、そして逞しく抱き締めてやった。



「だ、駄目っ!!!!」



 駄目とは一体……??



 枕さんにそう問おうとしたのだが、体全身を駆け抜けた衝撃によってそれは叶う事は無かった。




「イデデデデ!!!! ――――。あ、あれ??」



 激痛によって目を覚ますと、これでもかと眉を顰め。頬をポっと朱に染めたカエデが俺を見下ろしていた。



「おはようございます」


「あ、うん。おはよう……」



 あの枕さんは何処に行ったのかしら……。


 給料一か月分の値段程度だったら即決して買うのに。




「なぁ、カエデ。俺の枕知らない??」


「そこにある奴じゃないですかっ」



 そこにある奴??



 ガシガシと後頭部を掻きながら上体を起こし、何気なく左後方を確認するとそこには。



『肯定』 と。



 何を肯定するのだろうかと首を傾げたくなる枕が寂しそうに横たわっていた。



「ん――。多分、これじゃない。もっと柔らかくて、物凄く良い香りがする枕なんだけど??」


「し、知りませんっ。それより、正座して下さい」



 そんなに沢山の皺を眉間に寄せちゃうと、跡に残るよ??


 そんな下らない事を言えば確実に焼かれてしまうので、キチンと膝を折り畳み。


 男らしい佇まいの彼女を見上げた。



「あなたが眠っている間にあそこで眠っているルーから事情は伺いました」



 藍色の瞳の視線を追うと。



「すぅ――。ふにゃらぁ。へへ、柔らかぁい」


「んん……」



 大きな狼がアオイの体を甘噛みしながら眠り続けている姿を捉えた。


 噛まれ続けている彼女は普段の凛とした姿とは想像出来ない程に顔を顰めている。


 きっと、口から放たれる獣臭がそうさせているのだろう。



「彼女達は里の掟に従い、我々に師事すると伺いましたが……。その件について皆さんに一度意思の確認を取るべきではありませんか??」


「あ、はい。俺もそう考えていたのですけれども。疲れ過ぎて眠っちゃって……」


「言い訳は嫌いです」



 御免なさい。


 取り敢えず、親犬に叱られた子犬の面持ちを浮かべて取り繕い。



 何故、俺だけこんな朝も早くから叩き起こされて叱られなければならないのだろう。


 そんな居たたまれない感情を胸に抱き、この場に居る全員を起こす為。朝もまだまだ早い時間帯ですので、森の小鳥さんを起こさぬ程度の声量を上げようとしたのだが……。



 ふとした違和感に気付く。



「カエデ、リザード達は??」



 周囲で横たわるのは見知った顔のみ。


 あの黒みがかった緑色の皮膚の者共は一体何処へ??



「彼等は起床後。ルー達を見付けると一目散に逃げて行った」


「そ、そっか」



 あれだけの怪我を負わされたんだ。


 心に傷処か、一生立ち直れない重傷を負ったのかも。


 でもまぁ、命あっての人生だ。怪我が治ればまた元気にやり直せるだろう。


 今度は真面な人生を送って欲しいものです。



 さてと!!


 これ以上ゆっくりしていたら頭に雷が襲い掛かって来ますのでね。隊長殿の指示に従いましょうか!!



「皆さん!!!! 朝ですよ――!!!!」



 腹に力を籠めて叫んでやると。



「ん――……?? なぁにぃ??」



 俺の声に反応し、重たい瞼を必死に開けた眠気眼の狼さんがアオイの体から離れ。



「レイド様……?? く、臭い!? ちょ、ちょっと!! 私の体に何をしたのですか!?」



 狼の悪戯を受けていた彼女が顔を顰めて起き上がる。



「おはよう」



 もう一頭の狼さんは既に起床していたようで。


 キチンとお座りをして此方を翡翠の瞳で捉えた。



 さて、此処迄は大方の予想通り。


 問題はあの二人をどう起こすかだな。




「すぅ……。すぅ……」



 深緑の髪の女性は大変心地良い眠りを享受しているようで、それが寝顔にちゃんと現れている。


 気持ち良さそうな寝顔だ。


 ですが、その問題は彼女の胸元にあった。。



「ン……。ン゛ッ……。カ、カヒュッ……」



 何故貴女は自ら死地へと赴いたのですか?? 自殺志願者を止める気は更々ないのだが……。



 魔境にガッツリ捕えられ、窒息寸前のマイの足を致し方なく掴み。


 寝起きに堪える力で引き抜いてやった。



「んはっ!!!! ぜぇ……。ぜぇ……」


「おはよう」



 汗に塗れて朱に染まる顔にそう話してやると。



「あ、有難う。もう数十秒遅かったら死んでたわ……」



 荒い呼吸を続けながら珍しく礼を述べてくれた。



「正に危機一髪だったな」


「もう少し早く助けろ」



 それは無理な注文ですので、あしからずっと。


 そして、此方の騒ぎを聞きつけたのか。



「ん――……。くぁっ……。ねっみ……」



 ユウが上体を起こして狼さんも心配になる程に顎を解放して大欠伸を放つ。



「皆、起きて早々悪いんだけど。俺の考えを聞いて貰えるかな??」



 汗だらけの一名を除き、早朝に相応しい顔を浮かべる者達へと声を掛けた。




「昨夜、俺達はリューヴ達と激戦を繰り広げ。辛くも勝利を収めた。彼女達は本当に強く、そして素晴らしい力の持ち主だ」



 マイ達と同じく大魔の血を受け継ぎ、身体能力は頭一つ抜けて高い。


 それはこの身を以て思い知っている。



「リューヴとルーは里の掟に則ると、俺達に師事……。じゃあないな。共に行動する事となる。その点に付いて、皆の意見を聞きたいんだ」




「…………っ」



 金色の瞳の狼は皆に拒絶されまいかと不安げな表情を浮かべ、大きな耳を僅かに震えさせながら皆を見つめ。



「……」



 翡翠の瞳の狼の表情は険しいままであるが、その視線は何処か寂しげにも映る。


 二人共、俺達を傷付けたことに少なからず思う所があるのだろう……。




 ルーが寂しそうな表情を浮かべて言ったあの言葉。



『楽しそう』



 この言葉に彼女の感情が集約されていると思うんだよね。


 俺達と出会って彼女達の中で何かが変わり、そして。此方も彼女達と出会って世の広さを知った。


 彼女達は間違いなく傑物の部類に位置付けられている。


 そんな二人と行動を続ければ俺達の実力も確実に上昇する筈。

 



 俺は、彼女達と共に行動したいと考えているが。


 果たして皆の答えはどうだろう??





 朝の陽射しが柔らかく差し込む森の中。


 爽やかな朝に不釣り合いな、少しだけ重い空気を吹き飛ばす一言が深紅の髪の女性から放たれた。







「あぁ――。何だ、そんな事か。私は別に良いわよ。私の飯を食べなければね……」


「あたしも良いよ――。くぁっ……」



 そんな事で一々起こすな。


 そんな風に話すと、二人が仲良く再びコロンっと横になってしまった。



 マイとユウは賛成。


 さて、アオイとカエデはどうかな??



「私も賛成です。力在る者と切磋琢磨すれば自ずと頂へ登る事になりますからね」



 カエデは賛成っと。



「アオイは??」


「私は……。その……。レイド様が傷付いてしまった事がぁ、やはりぃ」




「はい、賛成ね!! 俺も勿論大賛成だよ!! リューヴ、ルー!! 良かったら俺達と一緒に来ないか!?」



 口ごもる彼女の賛成票を無理矢理奪還して、二頭の狼へと手を差し伸べた。




「やったぁぁぁぁああ――――!!!! レイドぉ!! 宜しくねぇ!!」


「ちょ、あはは!! 止めろ!! くすぐったいって!!」



 大きな狼に組み伏され、良い様に顔中を舐められてしまう。



「良いじゃん!! 本当に嬉しいんだから!! 沢山冒険しようね!!」


「あぁ、強き者との出会いは私も楽しみだ」



 二人共喜んで頂けたのは結構なのですが……。


 ちょっと獣臭過ぎませんかね!?




「ルー!! 止めて!! ちょっと獣臭い!!」


「やぁ――!!」


「ルー、止めろ。あるじが困っている」



「「主??」」



 狼さんが舌をピタリと止め、俺と共に声を合わせた。



「そうだ。里の掟により私は主の従者になると決めたんだ」


「ちょ、ちょっと待って。いきなりそんな事言われても困るんだけど……。それに、リューヴを倒したのはマイ達だろ??」



 大勢のアヒルがガーガーと鳴き声を上げて行進しているのかなと、首を傾げたくなる鼾を掻き続けている両名へと視線を送る。



「えっへへ――。それがねぇ、さっき聞いたんだけどぉ。リューはどうしてもレイドに付いて行きたいんだって」



 漸く退いてくれた金色の瞳の狼さんがそう話す。



「俺に?? 何故??」


「もぅ、にぶちんだなぁ。あのね……」



 狼さんの左前足がすっと上がり、こちらに耳打ちしようと顔を近付けるので。それに従い耳を傾けるものの。



「それ以上言ったら殺す!!」



 そうはさせまいと、鋭い牙を剥き出しにした翡翠の瞳の狼が彼女に襲い掛かった!!



「私を殺したらリューだって只じゃ済まないよ!!」


「五月蠅い!! そこに直れ!!」


「や――!! レイド助けて!!」



 俺を中心に二頭の狼が走り回る。


 よくもまぁこんなグルグル回って目を回さないもんだ。



「いったぁい!! 尻尾噛まないで!!」


「隙を見せた貴様が悪い」


「もう!! お返しだよ!!」


「私を捕らえる事は不可能だ」



 今度はルーが追う番か。


 こうも賑やかだと飽きはしないが……。頭痛の種が増えそうだ。



「また五月蠅くなりそうだね??」



 微笑ましい光景を眺めていると、カエデが隣に立ち。静かな声を放った。



「まぁね。でも、嫌いじゃない光景だろ??」


「えぇ。――――。ですが、五月蠅すぎるのは了承出来ませんので。頃合いを見計らって叱りますね」


「よ、宜しく……」



 刹那に鋭く光った藍色の瞳にちょっとだけ肝が冷えてしまいましたよ。



 お気楽狼と強面狼、か……。


 こりゃカエデも気苦労が増えそうだね。


 勿論、カエデだけじゃなくてそこには俺も含まれますけども。






 一陣の風が草をかき分け、傷口に未だ残る火照った熱を優しく冷まし。頭上を飛び行く鳥達が一日の訪れに相応しい歌声を上げて何処かへと飛翔して行く。


 森の木々の合間から柔らかい陽の明かりが降り注ぎ、大自然の中で駆け回る二頭の狼を照らす。


 それはまるで新たなる仲間を迎える事に対し、太陽が祝福している様にも見えてしまった。



 いつまでも駆け続ける二頭の狼に対し、大悪党も泣きっ面を浮かべて逃げ去る雄叫びを上げて憤りを露わにした深紅の女性。


 その超悪党に対し、詫びる姿勢も見せずに自慢の口と体躯で襲い掛かる金色の瞳の狼。




 誰しもが渇望する幸せな光景は意外と近くに在るのかも知れない。




 襲い掛かる舌撃に対して必死に悶え打つ腹ペコの彼女の姿を温かい瞳で見つめ。朗らかな想いを胸に抱きながらそんな事を考えていたのだった。





最後まで御覧頂き有難う御座いました。


そして……。


漸く七名のメインキャラクターが出揃いました!! 此処に至るまでいやはや……。長かったです。



雷狼の二人を仲間に加えた彼等の新たなる門出を祝し。そして、日頃からこの話を読んで下さる皆様へ感謝の気持ちを届ける為に……。



次回の御使いは初のバカンスへと赴きます!!


勿論、普通に休暇を過ごせる訳は無いので。待ち構える問題を楽しんで頂ければ幸いです。



御盆期間中に何んとか皆様へ恩を返したいとプロットを執筆していたので、喜んで頂ければと考えております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ