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第五十九話 喧嘩の後は格好良く仲直り その一

お疲れ様です!!


本日の前半部分の投稿なります。


それでは御覧下さい。




 周囲に漂っていた嫌悪感を抱かせる血の香りは風で洗い流され、その代わりに爬虫類特有の生臭い香りが悪戯に鼻腔を刺激していた。


 カエデが灯した明かりの下で寝転がる五体の重傷者。


 この者共が私の神経を逆撫でいるのは自明の理なのですわ……。


 レイド様の指示が無ければ今直ぐにでも彼の下へと駆けつけ、御側で御守りしますのに。



 先程爆ぜた馬鹿げた魔力は恐らくまな板が放った物、しかしそれと同程度の魔力が爆ぜた事に私は気が気じゃ無かった。



 レイド様の身に何かがあったのではないのか??


 彼が傷付き倒れているのでは??



 彼の無残に朽ち果てた姿が頭の中に浮かぶと、治療に身が入らなかった。



「アオイ、休んでいいよ」



 私の手元を見つめたカエデが話す。


 その額には大粒の汗が浮かび、美しい曲線を描く頬を伝って地面にポトリと垂れ行く。


 彼女もまた私と同じく戦場に駆け付けたいのでしょう。


 時折、急激に膨れ上がった魔力を感知すると治療の手を止めていたのが良い証拠ですわ。



「この個体が最後ですからね。続けますわ」



 カエデがこちらに応援に駆けつけてくれたのが本当に助かりますわね。


 此処で倒れていたのは四体の蜥蜴。正直、私一人では手に余りましたので……。



「カエデ、レイド様達は大丈夫でしょうか??」



 嫌悪感を抱かせる色のマントを羽織る個体の治療を続けながら問う。



「多分」


「多分??」



 珍しいですわね。


 カエデが曖昧な答えを導き出すのは。



 いつもであれば苦戦、善戦、拮抗。


 この辺りの単語を使用しますのに。



「あの三人は早々負けやしない」


「その早々が心配なのですよ」



 レイド様を含め、戦場へと向かった三名は紛れも無く強者として位置づけられる実力を持っていますわ。


 しかし、それを越える者が待ち構えていたら??


 あぁ、もぅ……。


 こぉんな臭い蜥蜴は放っておいて、レイド様の下へと駆けつけたい。


 逸る想いが不安の種を咲かせ、自分でも制御出来ない感情に四苦八苦しているとカエデがふっと顔を上げた。



「アオイの取り越し苦労。ほら、来たよ」



 藍色の瞳が森の暗闇を見つめ、それを追って視線を向ける。


 すると、闇の中からレイド様が此方に向かって来るではありませんか!!!!



 服は所々傷付き、その下からは今も血が溢れ出し大地へと零れ落ちている。


 優しい御顔にも裂傷が目立ち、指先一つで押せば今にも倒れてしまいそうな姿に私は思わず息を飲んでしまう。


 変わり果てたレイド様の姿を捉えると、無意識の内にその場を飛び出した。



「レ、レイド様ぁ!!!!」


「ごめん、待たせちゃったね??」



 あぁ、私のレイド様がこんなにも傷を負うなんて……。


 その痛み。


 私が全て綺麗に癒して……。



「レイド様さえ無事なら私は……、って!! 誰ですの!! この女は!!」



 私は自分の目を疑った。


 それもその筈。


 私の特権である御姫様抱っこを見ず知らずの女性にしているからです!!!!



「わ、私のレイド様にお、お、お姫様抱っこをして貰うなんて!! 何様ですか!!」


「……」



 女は私を一瞥するが、興味を失ったのかふいと顔を逸らしてしまった。



 し、し、しかもぉ!!


 レイド様の御召し物を肩から羽織ってぇぇええ!!


 許しませんわっ!!



「まぁ!! 何て態度の悪い女です事!! レイド様、この女。私めが懲らしめて差し上げます!!」



 着物の裾からクナイを取り出し、愚か者へと突き刺そうと試みたのですが……。



「まぁまぁ。悪い子じゃ無いから喧嘩は止めて」



 レイド様が温かい声色で私を御してしまった。


 しかも!! 温もり溢れた視線付きでっ!!



 もぅ、ズルイですわよ。


 そんな目で見つめられたら何でも言う事を聞いてしまいますぅ。



「で、ですがぁ……」



 レイド様の温もりを求め、さり気なく。そして何気なく流れに任せて彼の御背中へと回り込んで体をピタっとくっ付け。


 大きなお背中に鼻頭を密着させた。



 汗と男の香りが入り混じり、女の性を強烈に刺激してしまうこの香。


 はぁっ、駄目ですわぁ。


 私、イケナイ子になってしまいますぅ……。


 スンスンッとレイド様の御香りを堪能していると、彼が今も治療を続けているカエデに声を掛けた。



「カエデ、ちょっといいかな??」


「何??」



 あらあらぁ。


 置いてけぼりを食らって大変冷たい声ですわねぇ。


 そういう所がまだまだ垢抜けていない証拠ですのよ??



 女性の柔肉で傷ついた殿方の体を癒すのが大人の女性の姿なのですわ。


 そして、私はその資格を持つ。


 んふふ……。


 今日の夜は忙しくなりそうですわね!!




「あ、う、うん。忙しい所、悪いんだけどね?? この人にも治療を施して欲しいんだ。マイ達も後から来るから……」



 まな板と爆乳は余分ですぅ。


 レイド様さえ居れば私は何もいりません。



「はぁ――……。分かりました。そこへ寝かせて下さい」



 彼女が顎で指差した箇所は蜥蜴達から離れた位置に敷いてある毛布。


 あの毛布は私が!! 敷いたので御座いますわよ??


 きっとレイド様がクタクタになって帰って来ると考えていましたので。



「りょ、了解。リューヴ、君の怪我の状態が一番酷い。あそこで治療しているカエデって子に治して貰って??」



 密着した私の体を引きずる様に毛布の位置へと移動を終え。


 生意気な女を毛布の上へと優しく寝かせた。



「あぁ、分かった。大人しくしよう」


「うん。有難う」



 そしてぇ……。


 両腕が空いた今が大好機ですわっ!!



「はぁんっ。レイド様ぁ……。持病の癪がぁ……」



 彼の首に甘く腕を絡ませ、ぴょんと乗っかると。



「っと……。急に何??」



 傷だらけの腕で私の抱き抱えて下さりました!!



「ずぅっと治療していて疲れてしまったのですっ。ですからぁ、レイド様は私を御姫様抱っこする義務が発生する訳なのですわよ??」



 困った様な、でも仕方ない様な。


 何とも言えない優しい顔を浮かべる彼の顔を見上げながらそう話す。



「そっか。それは……。有難う……。ね??」



 あら??


 随分と眠たそうな御顔に変わってしまいましたわね??



 甘える子猫の如く。


 レイド様のお胸に頬を摺り寄せていると、不意に彼の力が抜け落ち。そのまま崩れ落ちてしまった。



「レ、レイド様!?」



 私を腰の上に乗せ、自ら大地に横たわる。


 是、即ち……っ!!!!




「わ、分かりましたわ。初めての時は私とレイド様二人だけ。魂までも蕩ける甘い環境下で行うと決めていましたが……。周囲の目に対し憚れる事無く男女の営みを交わしたいと申すのですね??」



 他者に見られながら夫婦の愛を交わそうなんて……。


 レイド様は意外と大胆ですわねぇ。



「さぁっ!! 私のお腹に愛を注いで下さいましっ!!」



 興奮してちょっとだけ震える唇を密着させようと、彼の肩をきゅっと掴み。


 徐々に距離を縮み始めた。



「頂きますわっ……」



 彼の鼻息が顔に掛る距離まで接近すると同時。



「――――。なぁにが頂きますだよ」



 ユウの声が響き、何かが此方に向かって飛翔する音を捉えてしまった。



「むっ!?」



 咄嗟に蜘蛛の姿へと変わり、その物体を回避。


 素晴らしい蜘蛛の複眼でその正体を確認すると……。



「ガバルルゥ……」



 醜い顔を浮かべて眠りコケるまな板ではありませんか!!



「ユウ!! あ、貴女という人は!! 私に向かって汚物を投擲するとは一体何事ですか!?」


「汚物って……。カエデ、アオイ。わりぃ。あたしの治療と、この蜥蜴姉ちゃんの治療を頼む……」



 傷だらけの顔でそう話し。


 右手に持つ蜥蜴の女首領を蜥蜴達の側へ乱雑に放って移動を開始。



「んがぁぁ……」



 まな板の側に到達すると、安心しきったのか。毛布の上にぐしゃっと崩れ落ちて眠ってしまった。



 帰って来た五名全員重傷、ですか。



「はぁぁぁぁ……。カエデ、徹夜の作業になりそうですわね」



 人の姿に変わり、レイド様の御側に座って口を開く。



「これが私達の仕事」


「そうですわねぇ。――――。所、で。そこで隠れて此方を窺っているお馬鹿さんは誰ですか??」



 レイド様の黒き髪を撫でつつ、背後に向かって話しかけた。



「おぉっ!? 気配を殺していたのに良く気付いたね!!」



 陽気な声に反応し、振り返ると。


 金色の瞳を宿す一頭の狼が闇の中から現れた。



 私が知る限り、喋る狼はいませんので。恐らく、この二頭が此度の犯人。




「気配を殺そうが魔力を探知すれば丸分かりですので」


「そうなんだ!! 今度から練習しないとなぁ……。おぉっ!! リュー寝ちゃったよ!!」



 大きな前足で仲間の頭をタフタフと叩く。



「先ず、名を伺っても宜しいでしょうか??」


「私?? ルーって言います!!」


「そう……。では、何故彼等が傷だらけになったのかを説明して頂けますか??」



 一切の音を立てずに立ち上がり、狼の前に立って話す。


 もしも。


 レイド様にこれ以上の危害を加えるようでしたら、その命を奪います。


 蜘蛛は狡猾であり、冷酷なのですわよ??



「え――っと。何処から話せばいいのやら……」



 二本の前足を体の前で器用に組み、今回の事件の経緯を説明し始めた。



「――――。と、言う訳で!! 蜥蜴さん達が勝手に襲い掛かって来てぇ。レイド達と楽しい喧嘩をして負けちゃったんだ!!」



「はい、御苦労様でした」



 きゅっと口角を上げ、有無を言わさず愚かな狼へと向かってクナイを投擲してやった。



「あっぶなっ!! な、何するの!?」



 ちぃっ。


 流石にこの距離では見切られますか……。



「私の夫であるレイド様の体を傷付けた罪は大変重たいのです!!」


「え?? レイドとお姉さんって結婚しているの??」


「えぇ、その通りで御座いますわ。もう間も無く子を身籠る予定ですっ」



 大事にお腹を撫でつつ話す。



「え――。そんな感じには見えないけどなぁ」



 まぁ――。この狼ときたら。


 その金色の瞳は節穴ですか??



「アオイ、馬鹿な事言っていないで手を動かして下さい」



 馬鹿な事でなく、事実なのですがねぇ。



「はぁ……。分かりましたわ……」



 巨大な溜息を吐き、レイド様の治療を開始したのは良いのですが……。



「おぉ――……。凄い魔法だねぇ」



 レイド様の御体に汚い鼻頭をくっ付ける狼が非常に邪魔ですわね。



「治療の邪魔になりますので退いて頂けますか??」


「見てるだけだから邪魔にはならないよ?? 後、向こうでリューの治療を開始した人の名前は何て言うのかな」


「彼女の名はカエデ=リノアルト。海竜の血を受け継ぐ者ですわ」


「おぉ!! お父さんから聞いた事あるよ!! 南の海に居るんでしょ!? でも、何で一緒に居るの??」



 あぁ、もう!!!!


 五月蠅いですわねぇ!!!!




「ルー、一つ頼み事がありますわ」


「何々!?」


「距離感ですわっ!!」


「いたっ!!」



 灰色の毛に覆われた体の先にある大きくて真っ黒な鼻頭を此方にくっ付けようとするので、思わず横っ面を叩いてしまった。



「ここから東へ向かうと街道に出ます。そこに荷馬車が置かれていますので、毛布を取って来て下さい」



「東だね!! 分かった!!」



 陽性な声を残し、闇の中へと四本の足を猛烈な勢いで動かし。颯爽と駆けて行った。



「はぁ――……。これで暫くは静かになりますわね」


「随分と元気の良い狼ですよね……。此方の狼さんは眠ってしまいましたよ」




 カエデと慎ましい会話を交わす中。



「只今!! はい!! 毛布!!」



 何と、ものの数十秒で帰還するではありませんか!!


 此処までの距離をたかが数十秒で……。何んという剛脚ですの。


 レイド様がこのお惚け狼に苦戦したのも頷けますわね。



「有難うございます。次はぁ……。私の荷物の中から枕を持って来て下さいまし」


「アオイちゃんの荷物、どれか分かんないよ??」


「匂いを嗅げば分かりますでしょう」


「おぉ!! そうだね!! では、行って来ます!!」



 さて、と。


 喧しい狼が帰ってくる前に下拵えを終えませんと。



「失礼しますわね……」



 レイド様の上半身の御召し物を脱がして、先ずは体を視姦……。


 では無くて。


 じっくりと観察。



 あっ、はぁっ……。


 今は出血と裂傷が目立ちますが、私がこの柔肌を用いて治療しますわねぇ……。



「はい!! 持って来たよ!!」



 機会を見計らった様に登場した狼から私特製の枕を受け取る。



「ねぇ、アオイちゃん。何でその枕に、『肯定』 って縫い付けてあるの??」



「うふふ。此れはですね?? 夫婦の営みを交わす際の合図なのですよ。レイド様が肯定の面を表にして眠っているのなら、それは私への合図なのですっ」



 彼の頭を優しく起こし、肯定の面の上に乗せてあげる。


 ふぅっ。


 これで準備完了ですわ!!



「レイド様ぁっ」



 彼を起こさぬ様。


 毛布を優しく掛け、そして。そしてぇ!!



「お邪魔しますわねぇ……」



 ススっと彼の腕に甘く体を絡ませ、毛布の中で愛の序章を歌い始めた。



「んふふ。レイド様ぁ、本日は肯定、ですか?? 私もそろそろかなぁっと考えていたのですっ」


「ねぇ、裏面も見たけど。そっちにも肯定って書いてあったよ??」



 狼は無視ですわ。


 この機を逃す手はありませんからね!!



「ささ。私と愛を交わしましょう!!」



 レイド様の上に跨り、手の平を体の上に乗せ、子供を授かる準備は完了!!


 後は、愛の口づけを……。




「私も一緒に寝る――!!」


「や、止めなさい!! 此処は私とレイド様の愛の巣なのですわよ!?」


「楽しそうだから良いじゃん!! ほらほらぁ!! アオイちゃんの顔舐めてあげるよ!!」



 巨大な口から獣臭がたぁっぷりと含まれた舌が私の顔面を襲う。



「や、止めなさい!!」


「えへへ――。嫌――っ」



 こ、このケダモノめ!!!!



「アオイ、遊んでいないで早く治療して下さい。此方も処理しないといけませんので」



 ちぃっ……。


 此処迄ですわね。


 カエデの声色が注意していないと分からない程に冷たさを帯びてしまった。


 それを合図と捉え、ケダモノを突き放し。


 此れでもかと唇をむぅぅっと尖らせて、纏わり付く狼の手を払い除けつつ真面な治療をレイド様に施し始めた。




最後まで御覧頂き有難う御座いました。


引き続き、後半部分の編集に取り掛かりますので今暫くお待ち下さい。

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