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第五十八話 雷狼の娘達

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


ごゆるりと御覧下さい。




 体の方々から零れ落ちて行く血液と蓄積された激痛が疲労へと変換し、双肩に重く圧し掛かる。


 情けない事にこの体はそれに対抗する術を持ち合わせていないらしく??

 

 体内から発せられる即座に休息を開始しろという指示に従い、木の幹に体を預け。離れた位置で繰り広げられている絶戦を指を咥える思いで観戦していた。



 す、凄いな。あの三人。


 何をどうしたらあそこまでの力を発揮出来るのだろう……。もう既に体は限界に達している筈なのに。


 互いが互いの限界を無くし、より高みに昇り続けている。そんな感じにも見えた。



 息をするのも忘れ、彼女達の力と力の応酬に魅入ってしまうと同時に。


 俺も、いつかあんな風に戦えたら。


 そんな悔しさが心の中に顔を覗かせてしまった。



 俺の太腿に顎をちょこんと乗せる狼さんも此方と同じ考えの様で。




「うひゃ――……。すっごい。リューと互角以上に戦っているよ」



 金色の瞳をきゅっと見開いて同じ方向を見つめていた。



「えっと……。ルーさん??」


「ルーで良いよ!!」



 左様で御座いますか。



「ルー達は掟にしたがって里を出たって言っていたけど。詳しく説明してくれるかな??」



 未だ全てを聞き終えた訳ではありませんのでね。



「良いよ!! えっとね?? 私達のお父さんが狼の里の族長を務めていて、十八歳になったら古くから伝わる掟に従って里を出なきゃいけないの」



 さっき言っていた奴か。



「強者と認めた者と決闘を果たし、勝利を掴んだのなら戦利品として里に強者の一部を持って帰るって言っていたね」


「そうそう!! 指でも良いし、髪の毛でも良いし。何でも良いんだって!!」



 良かったぁ、負けなくて。


 指を失う訳にはいきませんからね。



「それで?? ルー達が負けた場合の話を聞いていなんだけど」


「あ――。はいはい。えぇっと、もし負けちゃった場合はね??」



 続きをどうぞ??



 此方に向かって顎をクイっと上げた金色の瞳の狼さんに対して一つ頷く。



「その人に師事して体を鍛えて貰うんだってさ!!」


「つまり、マイ達がこのまま勝てばリューヴさんとルーは俺達に師事するって事??」


「正解っ!!!!」



 大きな左前足で俺の太腿を叩くのですが。



「あいたっ!!」



 まだ脇腹に朱の矢が突き刺さったままですので、その痛みが体を襲った様だ。



「も――。いい加減これ抜いてよぉ――」


「駄目です。向こうの戦いにケリが着くまで……」



 そこまで話すと、正面から腹の奥をぐぅっと万力で掴み締め付けて来る圧が放たれた。



 マイの奴。


 決めるつもりだな。



 炎の槍が出現し、地上に美しい光が灯ると同時に俺は勝利を確信した。



「おおぉぉっ!!!! 何!? あれっ!!」


「マイのとっておきの技だよ」


「へぇ――!! そろそろリューも限界かな??」



 自分の姉妹、なのかな??


 体が一緒で生まれて来たんだから姉妹じゃなくて、同一人物である訳だから……。


 あぁ、もうややこしい!!



「仲間がやられそうなのに心配しないの??」



 姉妹では無いのだからこれで良いでしょう。



「ん――……。心配なのは心配だよ?? でも、あのマイちゃんって人。リューの足元狙っているし」



 ちょ、ちょっと待って。



「この位置からアイツの目線を追えるの??」



 周囲は未だ深夜。


 彼女達とは数十メートル離れているので、常人の瞳の能力だと彼女の顔がぼぅっと捉えられるのが限界だろう。


 それなのに視線の先まで追えるとは……。


 凄い身体能力だな。




「狼は夜目が効くのだ!!」



 顎をムンっと上に向けて話す。



「後、耳と鼻も良いよ!!」



 羨ましい限りで御座います。



 マイの炎の槍が分裂し、リューヴの両足を穿ち。


 黄金の槍が炎を纏い、最終投擲の構えを見せた。




 良くやったな、二人共。


 王都に帰ったらゆっくり休もうな??




 炎を纏った黄金の槍が地面へと着弾すると同時。


 周囲の環境を脅かす轟音と熱波が発生し、その衝撃によって土中に眠っていた岩が掘り起こされ。



 何と、此方に向かって来るではありませんか!!


 やっべぇ!!



「わ、わっ!! ちょっと大きい岩が飛んで来るよ!?」



 しまった!!


 ルーは動けないんだった!!



 彼女の体を咄嗟に庇い、背に襲い掛かる激痛に耐える為。


 丹田にこれでもかと力を籠めてその時を待った。




「――――。うぎっ!!!!」



 小さな子供程度の大きさの岩が背に直撃。


 此方の予想通りに背骨と皮膚を痛めつけてくれましたね。



 い、いってぇぇ!!!!


 あ、アイツ!!


 もうちょっと手加減して攻撃しろよ!!!!



「レ、レイド。大丈夫??」



 腕の中にすっぽりと収まる狼さんが心配そうな声色で話す。



「だ、大丈夫。頑丈さには定評があるからさ」



 けれど、それにも限界はあります。


 この余計な一撃で折角回復した体力と気力が根こそぎ持って行かれちゃいましたからね。



 土が燃える焦げ臭い匂いと、肌を刺激する熱波がふわりと風に乗って届く。


 その香りと熱に反応して背後に視線を送った。



「――――。はは、流石だ」



 右手をグンっと夜空へと掲げて勝利を宣言する狂暴な龍。


 その姿を確と捉え、ルーの脇腹に突き刺さった朱の矢を引き抜いて立ち上がった。



「ねぇ、矢を抜いても良いの??」



 犬が水を被り、毛に付着した水分を吹き飛ばす時に見せるアノ仕草を取りつつルーが話す。



 その後、前足をぐぅんと伸ばして解し。軽くピョンと飛び跳ねた。


 元気一杯な姿が大変羨ましいです。




「構わないさ。もうこれで喧嘩はお終いだろ??」



 足元……。


 とは言い難いな。


 腰付近から此方を見上げる金色の瞳にそう話す。



「うんっ!! じゃあ、皆様子を見に行こうか!!」


「賛成です」



 此方よりも先に陽性な感情を籠めた足取りで向かう一頭の狼。


 まるで今から遊びに出掛けるみたいだな。



 十八って言ってたけど……。


 実年齢よりも随分と幼い性格だよね?? まぁ――……。両方強面狼さんだと更に恐ろしくなっちゃいますから、あれで丁度良い塩梅なのでしょう。



 痛む体に鞭を打ち、槍の爆心地へと向かった。




「リュー!! 起きて!! 喧嘩、終わりだよ!!」



 その状態の人に起きてって……。


 無茶を言い過ぎじゃないですか??



 両足を貫いた炎の槍は消え失せ、代わりにぽっかりと空いた穴から黒焦げた大地へと血液が零れ落ちて行く。


 激戦の名残を残した上下の服はズタズタに千切れ果て、その……。大変少ない面積になっていますので……。


 これ以上直視は出来ません。



 全身に負う軽度の火傷、裂傷、並びに出血。



 この状態で生きているというのだから、大魔と呼ばれる魔物の生命力の高さをまざまざと見せつけられた気がします。




「ねぇ、レイド。あっちでグーすか眠っている子は放っておいていいの??」


「あぁ、マイの事?? 別に大丈夫だよ。アイツは寝れば直ぐに怪我が治る体質だからさ」



 少し離れた位置。



「ンガッビッヒィ……」



 四肢全てを大胆に開いて鼾を掻く女性を見つめながらそう話す。


 一応、女性何だからもうちょっと慎ましい寝相を取って貰いたいものです。



 腹ペコ龍よりも、こっちの狼さんの方が重傷だし。


 先に救助しますかね。



「起きてぇって!!」


「ルー、退いて。今から仲間の所へリューヴさんを運ぶから」



 大きな前足で彼女の頭をタフタフと叩く狼さんに一声掛け、リューヴを抱えて運ぼうとしたその刹那。



「っ!!!!」



 閉じていた瞼がカッと開き、翡翠の瞳が俺を捉えた。



「き、貴様!! くぅっ……!!」



 咄嗟に立ち上がるものの。


 立ち上がって初めて己の状態に気付いたのか、自重に両足が耐えきれず。右膝を地面に着けてしまった。



「リュー、私達負けちゃったんだよ??」



 ルーが彼女の傍らに座り、優しく語り掛ける。


 その声色を受け、現在の状況を理解したのか。



「ふっ……。どうやらそのようだな」



 リューヴが弱弱しい笑みを浮かべた。



「さぁ、私を殺せ。私はお前の仲間を傷付けた。弱者は強者に虐げられる存在。生き恥を晒すくらいなら潔い死を選ぶ」



 潔い死、ねぇ。


 今時古風な考えた方だな。



「レイドぉ……」



 ルーは何かを此方に伝えようと金色の瞳を潤ませ、凛々しい狼らしからぬ表情を浮かべた。



 はいはい。


 分かっていますよ。



 腰から短剣を抜き、潔い死を迎えようとしている彼女の正面に構える。



「そうだ……、戦いに敗れ命を落とす。私らしい最後だ……」



 そして、右手に掴んだ短剣を彼女の頭部へ目掛けて鋭く振り下ろしてやった。



















「…………。な、何をする!!」


「何って……。リューヴさん達の掟だと、勝者は敗者の一部を戦利品として持ち帰るんだよね??」



 短剣で切り取った美しい一本の灰色の髪を指で摘みながらそう話す。



「そ、それはそうだが……。私は貴様の仲間を傷付けたんだぞ!?」


「あはは。そっちは殺す気だったかも知れないけど。マイ達は気持ちの良い喧嘩程度にしか捉えていないよ」



 今も気持ちよ――く眠るマイへと視線を移す。



「大喧嘩の前にも言ったけど。強者は弱者を救い、導く使命があると思うんだ」



 大魔の血を受け継ぎ、そしてその血を受け継ぐ者達と互角以上の戦いを演じたのが強者足る証拠だ。



「リューヴさん、ルー。二人は驚く程に強い。考えを改め弱者を導く……。いいや、違うな。里の皆さんの手本となるべき存在だ。だから、こんな所で人生を終わらせるのは勿体ないよ」



 リューヴに向かい、手を差し伸べるだが。



「や、止めろ!! 敵の施し等受けん!! 殺すんだ!!」



 差し伸べた手を勢い良く跳ね退けてしまった。



 もう!!


 言う事を聞かない横着者さんですね!!



「いい加減にしなさい!!」


「……っ」



 勢い良く声を出すと恫喝として捉えてしまったのか。


 美しい翡翠の目がきゅっと見開かれた。




「仲間を傷付けた事はよくない。だけど、無抵抗の女性を殺せる程俺は堕ちちゃいない。俺は……、弱い。仲間がいるからそれを守る為に強くなろうと思えるんだ。 けど、強さだけを求め、好き勝手に敵を傷付けていたら外道に堕ち、悪鬼羅刹に変わり。いつかは道を外す。 頼もしい仲間がいればそれに気付かせてくれる、止めてくれる。リューヴさん、君にはルーがいるじゃないか。もっと自分を大切にしなさい」



 俺が話している間、彼女は静かに。そして聞き入る様に耳を傾けてくれていた。



 ちょっと説教ぽくなっちゃったけど。


 言いたい事は伝わったのだろうか??



「リューヴさんは重傷だ。森の奥に仲間が待機している。そこで治療をさせて貰っても良いかな??」



 再び手を差し伸べると……。



「――――――――。分かった」



 そっぽを向きながらも俺の手を震える手で掴んでくれた。



 只、ちょ――っと外観が宜しくありませんので。



「失礼するよ??」



 上着を脱ぎ、リューヴさんの肩から掛け。


 傷だらけの体を抱えてやった。



「な、な、何をする?!」


「何って。その状態だと一歩も動けないでしょ??」



 女性の柔らかさはある程度感じるものの、しっかりと筋力が備わった素晴らしい体ですね。


 ちゃんと鍛えている証拠です。



「お、降ろせ!! 一人で歩ける!!」



 無意味に両足をパタパタと動かし、横着な爪先が此方の顎先捉えた。


 これが今出来る精一杯の抵抗、か。



 あの死闘を演じていた者の攻撃とは思えませんよ。



「その怪我で歩けるって言われてもなぁ。余計な心配が増えるからそのまま大人しくしていて」


「くっ……」



 無意味な抵抗だと思い知ったのか、大人しく腕の中に納まってくれた。



「本当は嬉しいんじゃないのぉ――?? お父さん以外の男の人に御姫様抱っこされてぇ」


「う、五月蠅い……」



 ルーの揶揄いを受けた顔が朱に染まっていく。


 きっと怪我の影響で熱が出たんだろう。


 早く治療を開始しないと……。



 今も眠りコケる龍に向かって進み始めると。



「お――い!! 大丈夫かぁ!!」


「ユウ!! こっちだ!!」



 森の奥からユウが顔に太陽を浮かばせて向かって来た。


 只。


 顔は元気一杯なんですけども、服が所々破れ、出血が目立ちますので。出来る事なら激しい運動は控えて頂けると幸いです。



「レイド!! 無事だったか……って!! その女!!」



 腕の中で大人しくしているリューヴさんの姿を見付けると、丸い目が更に丸くなってしまった。



「ユウも無事で良かったよ。今からカエデの所に行って怪我の治療をしてもらうんだ。ユウ、悪いけど……。マイとデイナを運んでくれないか??」


「いや、まぁレイドがそう言うなら良いけど。いきなり襲ってきやしないよな??」



 まだリューヴさんに対して警戒しているようだ。


 こちらに近付こうとしない。



「ははは。大丈夫だって。もう喧嘩はしないよね??」



 そう話し、リューヴさんを見下ろすが。



「……」



 プイっと顔を背けてしまった。



「全く。相変わらず甘いなぁ。まっ、そこがレイドの良い所だけどさ!!」


「そいつはどうも。ルー、ユウを手伝ってくれ。このまま仲間達の所に向かうよ」


「うん!! 分かった!! 宜しくね!! ユウちゃん!!」



「宜しくっ!! さて……。よっと!!!!」



 虫達の歌声が響き始めた美しい環境下の中で鼾を放ち続ける彼女の体を爪先で蹴り、うつ伏せの状態へ。


 そして、何の遠慮も無しに彼女のズボンのベルトを左手で掴み上げた。



「かっる。お前さんはもう少し体重を増やすべきだぞ――」



「いやいや。手荷物じゃないんだから……」



 マイの体を前後にプ――ラプラと揺れ動かしている彼女へそう話す。



「だって二人分運ばなきゃいけないし」



 そりゃあそうですけども……。



「よぉ。リューヴ、だっけ。お前さんは狼の血を引く大魔なのか??」



 森に向かって進み続ける中。



 ユウが前を見据えたまま話す。



「あぁ、正確に言えば……。雷狼の子孫だ」



「「雷狼??」」



 ユウと声を合わせ、むっすぅっと眉を顰めている彼女を見下ろした。



「お父さんが大魔の血を引いていて。その名前がらいろ――なんだってさ!!」



 へぇ、雷の狼か。


 だから体から雷が迸っていたんだ。



「ユウちゃんの種族は??」


「あたし?? ミノタウロスだよ――」


「おぉ!! お父さんから聞いた事があるよ!! 南の森に住んでいるデッカイ牛さんなんだよね!?」


「牛じゃねぇっつ――の」



 あはは。


 陽気な者同士、直ぐに打ち解けそうですね。



「あの者の種族は分かるか??」



 リューヴが今も楽しそうに揺れ動いているマイの体を見つめて話す。



「此処からずぅっと西に向かった先にあるガイノス大陸に住む龍だよ」


「ほぅ……。西の大陸に住む龍、か。父がいつか話していたな」




 そうなんだ。


 随分と博識な父親ですね。



「リューヴさんの父親は随分と物知りなんだね」



 そう話し、負傷している腕の上に乗る女性を持ち上げ直す。


 不味いな……。


 陽気な雷狼さんに切り裂かれた腕の傷がより大きく開いちゃったよ。俺も早く治療をしないと。




「――――。敬称は不要だ」



 暫しの沈黙の後。


 依然そっぽを向き続けている彼女から呼び捨てにして名前呼ぶ許可を頂けました。



「はは、了解」


「ふんっ……」



 喧嘩は一件落着。


 しかし……。




 俺達の状態を見たら賢い海竜さんは何んと仰るだろうか……。


 お叱りの声を頂けるのならまだしも。最悪、これ以上の傷を負ってしまう恐れもある。



 仲の良い友人と日が沈むまで遊び惚け。


 その帰り際。全身傷だらけ、服は泥と汗と綻びが目立つ状態になっている事に気付き。


 玄関口で保護者に対する言い訳を模索する頑是ない子供の心情を胸に抱き、恐ろしい保護者が待ち構えている森の奥へと進んで行った。




最後まで御覧頂き、有難う御座います。


気温の高低差が激しい地域もありますので、体調管理に気を付けて下さいね。

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