第五十七話 強靭な狼との絶戦 その四
お疲れ様です。
本日の投稿になります。
それでは、彼女達の死闘を御覧下さい。
頭がおかしくなる位の激痛が体中を駆け回り、その痛みに必死に耐えていると。
もう休んでも良いのよ??
私の意識を甘い園へと誘おうと優しく甘美な手が何処からともなく差し出された。
大変御硬い地面が柔らかぁい高級ベッドにも感じ、柔らかく吹く風が頭を撫でて睡眠欲を悪戯に刺激。
このまま眠れば、どれだけ楽か。
疲れちゃったし……。眠っちゃおうかな。
頭の中で響き始めた悪魔の甘言に唆され、長い瞬きを繰り返す。
眠ろうとする甘い自分に対抗して鉄よりも重い瞼を開け続けていると、遠く彼方で私の親友が必死な面持ちで激戦を繰り広げている場面を捉えてしまった。
速さに劣るユウは御自慢の膂力で対抗しているが、いつかは……。手に負えなくなる。
私が……。ううん。
私だけがアイツを倒せるんだ!!!!
「う、うぎぎ……」
激痛と疲労が蓄積された両腕でうつ伏せの上体を起こし、地面に座り続けようとする情けない両足に喝を入れて立ち上がる。
何んとか足の裏で地面を捉える事に成功するものの。
た、立つ事ってこんなにも疲れる所作だったの??
一瞬でも気を抜けば膝がカクンと折れ曲がり、今も此方に向かって手を伸ばし続けている大地と体が抱擁を交わしてしまうだろう。
あ、甘えは捨てろ。
此処でアイツを張り倒すんだ……。
黄金の槍で体を支え前に一歩踏み出そうとすると、気が狂いそうな痛みが脇腹を襲い。
それと同時、体内から何かが込み上げて来た。
「ゴ、ゴフッ!! ゴホッ!! ――――ゥェッ!!」
左脇腹を庇いつつ、何の遠慮も無しにそれを吐き出す。
――――。
地面の雑草にへばり付いたそれは、唾液と血が混ざり合った形容し難い色の液体であった。
血……??
体の何処ががやられたのか??
吐き出した所為で喉の粘膜がやられ、ひり付く痛みが襲う。
口元の残り滓の液体を手の甲で拭うと、額の上から生暖かい液体が重力に引かれ眉間に降りて来た。
汗、か??
何気無く指先でその液体を拭い見てみると、吐き出した液体よりもしっかりと赤い液体が指先に纏わり付いていた。
あ、あはは……。
地面に叩き付けられ、脇腹を蹴られ、楽しぃく地面の上を転がればそうなるわなぁ。
「くくく……。いひひ……。はははは!!!!」
怪我の酷さに慄く処か、笑えて来た。
そりゃあ愉快でしょ?? 世界最強の私に対して、なぁんの遠慮も無しに凶悪な攻撃を加えて来たのよ??
「愉快爽快痛快な痛みってかぁ!?」
口を開けて何の遠慮も無しに笑い声を上げ、ケタケタと両肩を揺らし続けていると何だか痛みがスっと収まって来た。
多分、これは……。
体の奥からぬぅぅぅっと湧いて来た憤怒によるものね。
「ひ、ひ、人様の体を好き放題にヤッちゃってくれてまぁ――」
笑い声をピタリと止め、全身の状態の確認を開始。
足の疲れ……。うん、大丈夫。まだ動く。
左の脇腹の痛みは……。うぅむ、残念。まだちょいといてぇ。
頭部から流れ落ちる血は無視!! いつかは止まる!!!!
ってな訳でぇ……。
「良くもやってくれたなぁぁぁぁああああああああ!! このクソ狼女がぁぁぁぁああああああ!!!!」
この星の裏側まで届く声量の雄叫びを上げ、ヴァルゼルクを仕舞い。ユウと激戦を繰り広げている狼女の下へと歩み出した。
今の私の顔は額から垂れ続ける血よりも真っ赤っかに染まっているのだろう。
猛牛は赤色を見付けると興奮してその色目掛けて襲い掛かると聞いた事があるが……。世界最大級の巨体を誇る猛牛もきっと、私の顔を見付けると同時。
ごめんなさぁい!! と。
ゆっさゆっさと巨体を揺らして逃げ去るであろうさ。
現に。
「うげっ!! マ、マイ。お前その顔……」
私と同じ位に血を流しているユウがぎょっと目を見開いているのが良い証拠だ。
「さ、触らないでよ?? ちょっとした刺激でも怒りが炸裂してどうにかなっちゃいそうだから……」
「お、おぉ……。分かった」
心配する親友の前をスタスタと歩いて通過。
「グルルルル……」
相も変わらず敵意剥き出しのリューヴの前に到着すると、頭の中で何かがプツっと切れる音が響き渡ってしまった。
「私が受けたこの痛みぃ……。じゅ、十億倍にして返してやらぁぁぁぁああああああ!!!!」
体の奥から迸る魔力を全開放。
周囲の大気を吹き飛ばし、大地を震えさせる圧を放つ。
「ギィィィィヤァァアアアア!!!!」
狼女も私の圧に負けじと魔力を解放し、黒き雷が私の魔力と衝突して乾いた音を奏でた。
龍と狼。
此処に相打つ、か。
最終局面に相応しい状況じゃあないか!!!!
「全身隈なくぶん殴って肉屋に卸してやらぁぁあああ!! 行くぞぉぉぉおお!! 風爆足!!」
付与魔法を自身に掛けると同時、地を這う一陣の風となって突撃を開始。
「グッ!!!!」
私の攻撃を嫌う様に突き出した右の鉤爪が顔面を襲うが、此処で避けるのは素人!!!!
鉤爪が頬肉を掠りピリっとした痛みが発生するが。恐怖を勇気に塗り替え。敢えて前に突っ込み、突き出した腕を伝って狼女の懐に到着。
「おらぁっ!!!!」
がら空きの胴体に右の拳をぶち込むと、肉を食むきんもち良い感触が拳を狂喜乱舞させた。
気持ちい感触じゃないか、えぇ!?
でもなぁ……。これで終わりじゃねぇぞ!?
私をボコった罪は死罪よりも重いんだからな!!!!
「まだまだぁぁぁあああああああ!!!!」
折れ曲がった上体の先にある顔を両手で掴み、額へと右膝を叩き込む。
「ギッ!?」
既に負傷していた額へ攻撃を受けると、コイツも流石に痛みを感じたのか。
鋭い鳴き声を上げると、一歩下がった。
そう、初めて一歩後退したのだ。
前に出る事しか考えていなかった獣が弱みを見せた。
そしてぇ……。
弱みに付け込むのが本物の狩人なのよ!!!!
「おっしゃぁぁああ!! ふんぬっ!!」
左足でぴょんと飛び、右足の甲で額を蹴り飛ばし。
「オグッ……!!」
後方へと吹き飛んで行く狼女を並走し、そして追い越し。
「飛びやがれぇえええええ!!」
左足を軸にして右足で無防備な背中を上空へと向かって蹴り上げてやった。
「ガァァァァアアアア!!!!」
勝機到来か!?
両足にド根性を籠めて大地を蹴ると、宙へ舞い上がって行くリューヴを追走。
「ふんがっ!!!!」
先ずは腹部に私の超絶カッコイイ足の雷撃を加えぇええ!!
「アギッ!?」
更に上空へと昇って行く横着女の脇腹に右の拳をぶっこんでぇ!!!!
「アァッ!!!!」
更に宙を蹴って追撃!!!!
「もっと飛べやぁああああああ!!!!」
すんばらしい力を籠めた右の烈脚で顔面を蹴り上げ、下拵えは終了!!!!
「ふんぬぅっ!!!!」
丹田に力を籠め宙を蹴って移動。
猛烈な勢いで空へと昇って行くリューヴの背を真正面で捉えた。
さぁぁ……。
地面に突き刺してやる!!!!
「止めだぁぁぁあああああ!!!!」
此方に向かって昇って来る彼女の背に向かい、両手を合わせて振り下ろそうと構えた。
しかし……。
「ギィアッ!!!!」
「嘘でしょ!?」
彼女の体から漆黒の稲光が迸るとその姿を消失し。
「ガァァアア!!」
何と、私の後ろ側に移動するではありませんか!!
コイツ!!
私と同じ移動方法を備えていたのか!!
「やっばっ……!!」
背に襲い掛かる痛みを想定して、ぎゅむっと奥歯を噛む。
お願い!!
せめて腕で攻撃して!!
「シィアッ!!!!」
まぁ、そうなるわよね……。
私の祈りは天に届く事は無く、リューヴの強烈で激烈な足技が背中に届いてしまった。
「あぁぐっ!!!!」
目玉が飛び出る程の衝撃が走ると同時に、大地へと猛烈な勢いで下降していく。
こ、この速さはやっべぇ……。
多分、地上に激突したら二度と立てん!!!!
どうにかしてこの呆れた速度から抜け出そうとしても、体が言う事を聞いてくれない。
残り少ない力を使い過ぎた代償ね。
硬いかたぁい大地が両手を広げて私を迎えようとしていたのだが。
「おっしゃあ!! 受け止めてやる!!」
「ユウゥゥゥゥ!!」
さっすがね!!
こういう時は本当に頼りになるわ!!
さぁ此処へおいでなさい?? と、ユウが足元の広がる大地と同じ姿勢で両手を広げて私を迎えてくれるのですが……。
此処でふとある疑問が湧いてきてしまう。
そう言えばぁ。
ユウって戦う前に付与魔法を自身に掛けていたわよね??
あの硬くなる魔法。
も、もう流石に解けているわよね……??
彼女の肩口の先へ、ツツツ――っと視線を送ると……。
「ぃっ!?」
カッチカチの鉄がくっ付いたままであった!!
つまり!! 一見、柔らかそうに見える馬鹿げてケシカラン爆乳は鉄並みに硬いって事だ!!!!
「いやぁぁああ!! ユウ!! 退いてぇぇええ!!!!」
「安心しろ!! ちゃんと受け止めてやっから!!!!」
ち、ちげぇぇ!!
あんたの鉄胸に挟まれたくないのよ!!
襲い掛かる痛みを体がもう想像してしまったのか。
目の奥からじわぁっと液体が滲み、肝がキンキンに冷えてしまった。
喉が張り裂ける勢いで叫んでも我が親友は。
『大丈夫!! さぁ、ここに来い!!』 と。
カッコイイ顔を浮かべて待ち構えているし……。
仕方がない。
彼女の善意を頂きましょうかね。
強張っていた全身の体の力を抜き、彼女のお胸に向かって私の顔が到着してしまった。
「どっせい!!!!」
「んぐぶぶぶぅぅ!!!!」
私の想像通り、鉄と遜色ない痛みが顔面を襲い。せまぁい隙間へと肉がスブスブと挟まって行く。
終点地である渓谷に鼻頭がくっ付くと、両側から常軌を逸した圧力が頬肉をむぎゅっと、そしてペチャンコにしてしまった。
「カ、カヒュッ!!」
肺の僅かな空気が開きっぱなしの口から零れて行き、生命を維持する為に息を吸おうとするのだが。
『させるか、軟弱者め』
「ン゛ン――っ!!!!」
カッチカチのお胸が周囲に溜まる空気をプシューっと、圏外に送り込み。
私の御顔は真空空間へと留まってしまった。
な、何じゃこりゃああああ!?
何で地上で窒息しなきゃいけないのよ!!
「へへ、今の攻撃凄かったな??」
「ン――!!!! ンン!!!!」
さっさと引き抜けぇええ!!
頬が押しつぶされて言葉が話せないので、代わりに彼女の体をポコポコと殴って言葉を伝えるのですが……。
「だけど、相手が僅かに上回った。あの高速移動であたしも危ない目に遭ったんだよ」
よく頑張ったな?? と。
有り得ない胸から僅かにはみ出た私の後頭部をヨシヨシと撫でるのですが、そうじゃねぇ!!!!
窒息して死んじまうんだよ!!
「奴さんもそろそろ限界らしいぞ?? 足がプルプル震えているし」
後方から聞こえて来た僅かな音はリューヴが地面に着地した音か。
確認したいんだけどぉ!! 全く顔が動かん!!
「ンギギギギィ!! ムッキィ――!!」
ユウのお腹に両足をくっ付け、肩らしき場所に両手を接続!!
四肢全ての力を利用して頭を引っこ抜こうと全身全霊の力を籠めてやった!!!!
「ンンン――…………ッ!!!!」
――――。
それでも抜けないっておかしいだろ!! ど――なってのんよ!! あんたの谷間は!!
左右にブンブンとお尻を振り、苦しさを紛れさせる為。両足を無意味に動かしていると……。
「あ、ごめん。挟まったままだったか」
ユウが漸く私の異常事態に気付き、背中の服を引っ張ってこの地獄から救出してくれた。
「ぶっはぁぁぁぁ!!!! い、い、い、生きてるぅぅっ!!!!」
満天の夜空から生還祝いとして贈られた新鮮な空気を肺一杯に取り込むと思わず涙が溢れて来てしまった。
良かったぁ。
地上で窒息死しなくて……。
嗚咽しながら呼吸を整え、正面を見据えると……。
「グ、ググ……」
ユウが話していた通り、生まれたての芋虫みてぇに体中がプルンプルンと震えていた。
己の出血と私達の返り血を浴びて赤い染みが目立つ黒きシャツ、ズタボロに綻んだズボンに、額から流れ続ける深紅の血液。
お互い満身創痍ね……。
でも、それももう終いにしようや。
「ユウ、お願いがあるんだけど……」
私が意を決した声色で右隣りに立つ親友に話す。
「んっ。何分??」
おっほっ!!
やっぱり、ユウは凄いや。全部言わなくても理解してくれるしっ!!
「一分!!!!」
前回と違って、魔力がすっからかんなのよねぇ。
しかぁしっ!! ボロボロの奴さんをぶっ飛ばすのに全力は不要!!
つまり、一分間魔力を高め続ける事が出来れば私達の勝利よ!!
「了解っ!! やいっ!! 狼女!! 次はあたしが相手になってやる!!」
有難う!! ユウ!!
帰ったら何か驕るからね!!
男らしい台詞と、超絶カッコイイ背中を見送り。
最強最高の魔法を放つために詠唱を始めた。
「満足な食感を得られるために野菜をちょっと大き目の一口大に切り落とす。沸々と煮えた湯におしょ――ゆとお塩ちゃんを入れてぇ……」
良いぞ。
順調に高まっている……。
昂っていた精神を鎮め、魔力を高める事に全神経を集中させていると正面で死闘が開始された。
「ガルァァッ!!!!」
「うぶっ!?」
リューヴの左拳がユウの可愛いお腹ちゃんに直撃し、彼女の体がきゅっと曲がってしまう。
「ガッ!! ガッ!! ガァァァァッ!!!!」
ユウの頭を両手で掴み、人体の中でも危険な箇所とされる硬い膝で何度も。何度も彼女の額を傷付けて行く。
蹴り上げる毎に血飛沫が地面を穢し、見る見るうちにユウの体に力が抜けていってしまうのが傍目にも理解出来てしまった
「ギギィィアッ!!」
これで止めと言わんばかりに足の爪先でユウの顎を蹴り上げると、彼女の体が垂直にピンっと伸びあがってしまった。
やっべぇ!!
「ユウゥゥゥゥゥゥ!!!!」
意識はあるの!?
も、もしかして既に失神して……。
ぐにゃあっと弛緩した体に絶叫を放つと、私の声に反応したのか。
「…………っ」
右手の小指がピクっと反応した。
「ウルァッ!!!!」
ユウの命を奪おうと右の鉤爪が彼女の心臓へと向けて襲い掛かるが……。
私と同じく、顔面血だらけのユウの瞳に強烈な闘志の火が灯る。
「…………。調子に……、乗るなぁぁぁぁああああああああ!!!!!」
「っ!?」
狼の翡翠の瞳と目が合うと。
ブチ切れた声を張り上げて、猛烈な反撃に打って出るではありませんか!!!!
す、すっげぇ。
あそこから反撃したよ……。
「ふんがっ!!」
「ギャッ!!!!」
左の拳がリューヴの顎を跳ね上げ、その隙を狙い。
リューヴの背後へと回り込んで彼女の胴体にガッチリと両腕を絡ませた。
ま、まさか。そのまま後ろのぶん投げるつもり??
「どぉぉっせぇぇいっ!!!!」
私の予想通り。そのまま剛腕を生かして、リューヴの体を持ち上げようとするのだが。
「グググゥッ……」
持ち上げられまいと、上半身。下半身に力を籠めて対抗するのですが。
お生憎様。
うちの怪力爆乳娘の拘束は解けないわよ??
「い、いい加減に……。くたばりやがれぇぇええええええええええ!!」
地面に根を張る巨木を引っこ抜く勢いでリューヴの体をふわりと浮かし。
「止めだぁぁぁぁああああああああ!!!!」
「ギャァァアアアア!!」
全速力で彼女の体を持ち上げ、背後の堅牢な大地へ叩き付けてしまった!!
クルンっと湾曲する橋状に美しく曲がった体がピタっと静止すると……。私の足下へ叩き付けた衝撃波が地面を伝わって届いた。
完璧に決まったわね!!
でもぉ……。今度からユウを余り怒らせない様にしよう。
あんな風に投げられたく無いもんね!!
「も、もう駄目……。後、宜しく……」
橋状の体を解除して、そのまま地面の上をコロコロと転がって安全地帯へと避難して行った。
「ウ……。アウゥゥ……」
ユウの怪力で大地に叩き付けられてもまだ立つのか。
その根性は見事!!!!
だけど、それももうお終いよ!!!!
「はぁぁぁっ!! 炎槍!!!!」
右手の先に浮かんだ深紅の魔法陣から出現した真っ赤に燃え盛る槍を右手に掴み、右足をぐぐっと引いて投擲の構えを見せた。
「さぁ……。燃え上がれ!! 私の魂よ!!!!」
下半身から連動して伝わる筋力の流れを肩へ、そして腕に伝えて炎の槍を彼女に向けて投擲。
「グッ……。クッ!!!!」
襲い掛かる槍を回避しようと此方から見て右側へと素早く回避行動を取る。
逃がすか!!!!
「散!!!!」
直進する槍に向け拳をぎゅっと握って指示を送ると、槍が二つに分かれ。
「ギャアアアアアアアアア!!!!」
彼女の両太ももに突き刺さり、貫通。
後方の大地へ串刺しにしてやった。
さぁ、終演よ……。
「我、龍族の名に懸けて。敵を討つ!!!! 覇龍滅槍、ヴァルゼルク!!!!」
黄金の槍を召喚。
そして、再び炎槍を召喚し。二つの槍を体の前で合一。
「うぎぎ……」
今にも弾け飛んでしまいそうな圧に対し、持てる全ての力を絞り出して拮抗。
再び槍の投擲の姿勢を取った。
「ガッ!! アァッ!! アァァァアアアアッ!!!!」
両足に突き刺さった槍を引き抜こうと藻掻き、絶叫を放つ。
その姿はまるで、罠にかかった獣ね……。
だけど。
ここで情けは不要!!!!
そして、そしてぇぇええええ!!!!
「これでぇぇ、私達の勝利だ!! くらえぇぇええ!! 覇龍憤炎槍ッ!!!!」
空気を切り裂き、焦がしながら私が放った一撃が美しい朱の尾を引いて飛翔していく。
燃え盛る黄金の槍が着弾する刹那。
「ガッ!!!!」
何と、両方の槍を引き抜くではありませんか!!!!
だが、時。既に遅し!!
あんたは直撃を逃れられない運命なのよ!!
放たれた槍は彼女の足元へ迫り、そこから逃れようとリューヴが咄嗟に後方へと飛んだ刹那……。
地を揺るがす衝撃音が天へと轟き、灼熱の熱波が迸り、自然環境を変えてしまう程の暴風が発生した!!
「ギャァァァァアアアアアアアア!!!!」
炎と衝撃波で吹き飛ばされて行く獣を見届け、私は天に向けて拳をぎゅっと突き上げた。
「これぞ正に!! 乾坤一擲の一撃よ!!!!」
夜空に浮かぶ星々へ誇らしげに勝利を報告し終えると当時。
大量に失った血液と常軌を逸した疲労感によって私の意識は霞の彼方へと誘われてしまった。
も、も――無理っ。
眠す過ぎて、お腹が減り過ぎて起きていられない……。
ボケナス。
私達、勝ったわよ??
大気を焦がす熱によって朧に歪んでしまった景色の向こう側、刹那に見付けたアイツの顔に一言伝え。
体がずぅぅっと渇望していた眠りを与えてやったのだった。
最後まで御覧頂き有難う御座いました。
地方によっては、まだまだ悪天候は続くみたいですので気を付けて下さいね。