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第五十七話 強靭な狼との絶戦 その三

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


それではどうぞ!!




 彼女から一刻も早く逃れようと風が恐怖を孕んだ速度で方々へと逃走し、迸る魔力と憤怒の力によって大地が細かく震え泣き叫んでいる。


 自然環境を脅かす程の力は正に天晴と賛辞を送ってやりたい。



 大魔の力を受け継ぐ者には自然の力さえも及ばない。


 いいや寧ろ、支配していると言った方が正しいのかもね。



 森羅万象。


 この世に遍く存在する者達は奴さんの今の姿を見たらきっと、尻尾を巻いて逃げ遂せるだろうさ。


 臆病なもう一人のあたしもその内の一人なんだけども……。



 押し寄せる風圧によって体が後方へと押し退けられそうになり、そのまま泣きっ面を浮かべて逃走してやろうかと刹那に情けない考えがチラつくが、心がそれを完全に拒絶。



 目の前の傑物から逃れるなと叫んでいた。



 分かっているさ。


 あたしとマイがやられたら、きっとレイドも。後ろで控えているカエデとアオイもやられちまう。


 前衛を務める者が居ないと分隊は崩壊しちまうからねぇ。



 前衛ってさ、損な役回りだよなぁ――……。傷だらけになっても後衛を守らなきゃいけないし。



 あたしもアオイやカエデみたいに遠距離からの攻撃を主攻に出来ればガンガン前に出なくてもいいんだけれども。


 残念ながら、それは無理っ。


 馬は馬方と呼ばれる様に自分にしか出来ない事を、今ヤルだけ。



 そう……。


 強敵を叩き潰せば問題は万事解決ってね!!!!


 萎れかけた闘志に火を灯し、怯えた体の尻を蹴っ飛ばして気合を注入してやった。




「おっしゃああ!! マイ!! 気合を入れるぞ!!」



 左隣りではわわぁと、口を開いてビビっているあたしの親友の小さな尻を左手でパチンと叩いてやる。


 おほっ。


 良い音。



「いってぇな!! 何すんのよ!!」


 

 お返しとしてあたしの胸にいつもの痛みが走る。


 へへ、嬉しい痛みだね。



「ビビってる顔してたから気合を入れてやったんだよ」


「ビ、ビビってねぇし。武者震いだしっ」



 分かり易い嘘だなぁ。


 まぁ、虚勢を張るのは理解出来るよ。あんな化け物相手にしたら誰だって尻窄むさ。



「生まれたての小鹿みてぇに膝が笑ってるぞ」



 タイタンを仕舞い、丹田に力を籠めてそう話す。



「こ、これは尿意を我慢……。ん?? 武器仕舞うの??」


「ん――。当たらねぇ攻撃を続けていても負けるだけだし。新しい魔法を試したいからね」



 日々成長を続けるあたしの友達に置いていかれまいと、自分なりに試行錯誤を繰り返しているんだよ。


 ってか。


 尿意我慢してんの?? 戦いの最中に漏らすなよ??




「おぉっ!! アレでしょ?? アレ!!」


「そっ、あれだよ……。ふぅぅぅぅ……。んがっ!!!!」



 体中の魔力を集結させ、右腕を前方に翳して深緑の魔法陣を浮かべる。


 そして、一気苛烈に破裂させてやった。



「行くぞ!!!! 鉄拳制裁アイアンフィスト!!!!」



 堅牢な大地に存在する鉄を己の拳へと集結。



「んぎぎ……っ!!」



 同時。


 身体能力の向上と強烈な自重の増加によって襲い掛る負荷へ、奥歯をぎゅっと握り締めて対抗してやった。



「ふ、ふぅ――。うんっ、まずまずだな」


「すっげぇ……。手に鉄が纏わり付いてんじゃん」



 あたしの手元を見て赤き瞳がきゅっと見開かれる。



「拳をぎゅっと握ればそれに従って変化するんだ。それだけじゃないぞ?? 頑丈な体が更に頑丈に、体重も相手の攻撃に負けない位グンっと大増量したんだ」



 まっ、その分。滅茶苦茶疲れるけどね。


 この状態での活動限界時間は……。ざっと見繕って十分って所か。


 その間にケリをつけてやる。




「外見上は変わんないわよ??」


「試しに体、突いてみ」



 さぁ、どうぞと許可を与えたのだが……。


 この馬鹿は何を考えたのか。



「おりゃぁあっ!!」



 あたしの胸を思いっきりブッ叩くではありませんか。



「いってぇな。突けっていったのに、何で殴るんだよ」



 いつもならあたしの胸のデカさにビビった顔を浮かべるのだけど、今回は違ったね。



「いっでぇえええ!! な、何よそれ!! 滅茶苦茶硬いじゃん!!」



 髪と瞳と同じ位に真っ赤に晴れた手に向かって。


 ふぅ――!! ふぅぅ――!!!!


 と、可愛い口から息を吐きかけていた。



「だから言ったじゃん。頑丈になったって」


「程度ってもんがあるだろうが!! 鉄じゃん!! 鉄!!」


「いつかは鉄をも超える硬さを手に入れてみせるさ。――――。さぁって、マイさんやい」



 今にも此方に向かって恐ろしい牙を突き立てようと、四つん這いの姿勢を取った化け物に視線を戻して話す。 

 


「何だい?? ユウさんやい」



 あはは。


 いつものやり取りが心地良いや。



「あれ、絶対ヤバイ奴ですわよ??」


「えぇ、その通りですわね」



 マイがあたしのノリに付き合い、言葉を伝え終えると同時。



「ウ゛ゥゥ……。ギィィィィヤァァァァァ!!!!!!」



 後ろの二本の脚で地面を蹴り飛ばすと、粉塵と土塊が宙へと舞い上がる。


 馬鹿げた脚力で得た推進力を纏って、何の工夫も無くあたし目掛けて突っ込んで来やがった!!



「上等っ!!!! 強く、より頑丈になったあたしの重撃を食らいやがれぇぇえええ!!」



 あたしの喉元を突き破ろうとする漆黒の鉤爪に向かい、腰の入った拳を突き出してやった。



「っ!!」



 拳と鉤爪が衝突すると激しい轟音と共に火花が周囲を照らし、馬鹿げた突進力を迎撃したあたしの腕が後方へと持っていかれてしまう。



 腕の筋力が捻じ切れんばかりの衝撃に顔を顰めるが……。



 その価値は御釣りが来るほどだったね!!




「マイっ!!!!」



 力で速さを相殺してやったぞ!!


 これが、あたしが今出来る最大限のお膳立てだ!!



「おぉうっ!!」



 推進力を失い、両足を大地に突き立てた奴さんに襲い掛かる深紅の髪の女性。



「くらえぇ!!」



 全力を込めた槍の中段突きがリューヴの胴体を貫いたと、あたしは確信したが。



「グルァ!!」



 それを容易く左手で弾くと、右手の鉤爪をマイの喉元目目掛け突き出して来た。



 嘘だろ!?


 普通、今のを躱すか!?



「あぶっ!!」



 そして、燕の飛翔よりも素早き一撃を半身の態勢で間一髪躱すお前さんも普通じゃないって。



 反応が瞬き一つでも遅れていたらマイの細い首に非情の鉄が突き刺さっていたのか。


 そう考えると背筋が凍っちまうよ。



「ガァァッ!!」



 左右の恐ろしい連打がマイの顔、そして胴体に襲い掛かるが。



「おっ、んんっ!!!! あっぶねぇなっ!!」



 素晴らしい体捌きで攻撃を躱す。


 一見、紙一重の攻防にも見えるが……。攻撃が届く前に見切って次の攻撃に備えていあたり、流石というべきだな。



 その様子をじぃっと窺っているとある事に気付く。


 リューヴが放つ攻撃はどれも確実に急所を狙いすましていた。



 首の太い血管、心臓、人中、顎先。


 

 そう全部、急所だ。



「やめろ!! 殺す気か!!」



 口では恐れ慄く台詞を吐いているが、その実。


 闘志が灯った赤き瞳はリューヴの攻撃を確実に捉えながら回避し続けている。



 きっと、当て気に逸った大振りを待ち構えているのだろう。


 必ず急所に向かって来る攻撃に対しマイは身を削って千載一遇の勝機を渇望していた。



 そして……。それは唐突に訪れた。



「グアァアアッ!!」



 マイの肩口へ目掛けて袈裟切りの要領で振り下ろそうと、右手の甲に装着した鉤爪を鋭く上段に振り上げた。



 此処だ!!



「マイっ!!!!」










「おぉう!! お客様ぁぁああああ!!!!」



 あたしの予想通り。


 待っていました!! と言わんばかりに鋭く相手の懐に侵入。



「当店はぁ……ッ!!」


「ゴッ!?」




 左手の拳で相手の顎を跳ね除け。




「乱暴なお客様のぉぉおお!!」


「グッ………」



 右手に持つ黄金の槍を咄嗟に両手で構え、手元でクルっと半回転。


 石突の部位で胴体を激しく穿ち。



「入店は御断りしてしまぁぁぁぁすっ!!!!」



 前屈みなった頭部の横っ面へと矛先を薙ぎ払った。



 決まった!!


 恐らく、あたし以外の者でもそう確信したマイの一撃だが……。


 どうやら奴さんは此方の一枚も、二枚も上手だった様だ。




「ギギ……」



 恐ろしい声をと共に面を上げ。



「グッ!!!!」



 顔面を捉えようとする矛先を紙一重で躱してしまった。



「嘘でしょ!?」

「嘘だろ!?」



 あたしとマイが同時に叫んだ刹那。



「ガァァァァッ!!!!」

「うぶっ!?」



 槍の横撃によって泳いでしまったマイの胴体に左拳をめり込ませ。



「ギィィィィヤァァァァアアアアアアッ!!!!」




 隙だらけの彼女の右足を掴んで宙へと持ち上げると、膂力任せに堅牢な大地へと叩きつけた!!




「ぐぁっ!!」



 後頭部が大地に着弾すると肉が弾ける鈍い音が響き、地面が微かに抉れ。



「アァッ!!」


「あぐっ!!」



 跳ねた勢いを生かして反対側へ、大地に顔面を叩き付けると粉塵が舞い上がる。



「アァッ!!」



 再び頭上へと掲げると、掴んでいた手をぱっと離し。


 宙へと放り捨て、独楽の要領で鋭く回転。



「――――――。へ、へへ。出来れば……。手加減宜しく……」


「ガァッ!!」


「あぶちっ!!!!」



 遠心力を生かした鋭く、しかも的確な回し蹴りがマイの脇腹を捉え。


 彼女の軽い体は何度も地面を跳ねて森の奥へと消失してしまった。



 今のは不味い!!


 無防備で真面に食ったぞ!!




「マ、マイ!!!! て、てめぇ……。よくもあたしの親友をぉぉ!!!!」



 容体を確認するのは後だ!!


 コイツはあたしが倒す!!



「くらえぇええええ!!!!」



 大きく振りかぶった右の拳を上空からリューヴの胴体目掛けて振り下ろす。


 恐らく、いいや。


 確実にコイツは躱す!!



「グッ!!」



 ほらな!?


 後ろにぴょんと飛んで躱しただろ!?


 

 だけど、今のあたしの攻撃力は大地を吹き飛ばすまで高まっているんだよぉぉ!!!!



 握った鉄の拳を仕舞う処か、勢いを保ったまま大地へと突き刺す。



 鉄の拳と大地が接続した瞬間、轟音と共に大地が割れ巨大な岩と土塊が周囲へと爆散。



 そう!! これだよ、これ!!


 飛び出した岩で奴を攻撃、怯んだ隙に顎をブチ抜く!!!!



 飛び出した多数の岩々。



 その内の一つがリューヴへと直進して行くのを見届け、着地と同時に足に気合を入れて突撃を開始しようとしたが……。



「……っ!!!!」



 パチッ!! と。


 乾いた音が爆ぜた刹那に、彼女の姿を見失ってしまった!!



「はぁっ!?」



 何、今の!?


 黒い稲妻が一瞬光ったと思ったら……。



「ガァァァァッ!!!!」


「いぃっ!? どわっ!!!!」



 背後からの急襲を受け、地面へと馬乗りの姿勢で組み伏せられてしまった。



 や、やっべぇ……。


 この姿勢は本格的に不味い!!


 奴さんも勝利を確信したのか……。



「クルル……」



 嬉しそうに喉を鳴らし、真っ赤に染まった瞳であたしの顔を見下ろしていた。



「こ、このぉっ!!!!」



 左右の拳を放ち、腰を突き上げて圧し掛かる体を吹き飛ばそうとするがそれは叶わず。



「ギィッ!!!!」



 あろうことか、あたしの両肩をぎゅっと掴み。


 御自慢の鋭い牙を見せつけるかの様に、あ――んっと顎を大きく開いてしまった!!




「ちょっ!! あたしを食べても美味しくないって!!」


「ガァッ!!」



 首の筋力を全開で稼働させ、初撃を躱す。


 耳元で炸裂した牙と牙が触れ合う音が、此方の恐怖感を増大させた。



 の、野良犬より質が悪いぞ!!


 もっと優しく噛め!!



「ガッ!! ハァッ!!!!」


「や、やめ!! おっわ!! 食うな!!!!」



 二度、三度。


 続け様に獣の牙がお構いなしに上空から降り注ぐ。



「グルルゥ…………」



 牙が肉の感触を感じない事に苛立ちを募らせたのか。


 あたしの顔を両手できゅっと掴むと、顎を夜空へとクイっと向けた。



 ま、まさか。


 顔を齧り取っちゃうの??



「ガァッ!!」



 恐ろしい想像は現実の物となり、狼の牙があたしの顔へと愚直に降り注いできた!!




「はっは――!! 来ると分かっている攻撃は大好物さ!!!!」



 首と腹筋。


 上半身に装備した全ての筋力を最大可動させ、向い来る恐ろしい顔の額へと此方の額を正面衝突させてやった。



 金属同士が衝突する鈍くて乾いた音が爆ぜ、頭の奥を貫く鋭い痛みが発生するが。


 ここは我慢の一択!!



「キ、ギギギ……」



 リューヴが額を抑え、上体を仰け反った隙を狙い撃つ!!



「吹き飛びやがれぇぇええええ!!」


「ギヤァァァァッ!!!!」



 渾身の力を籠めた右の拳を、あたしの親友に与えた同じ脇腹へとぶち込んでやった!!



「はっ!! どうだ!?」



 地面の上をコロコロと転がって行くリューヴに向かってそう叫んでやるのだが……。



「ガッ!!」



 回転の勢いを生かして、颯爽と立ち上がってしまいましたね。



 ふぅむ……。


 やはり、腰の入っていない拳は効果が薄いか。



 でもぉ、形はどうあれ。漸く真面に一発入ったんだ。


 スカッ!! とした爽快感が体内を駆け抜けて行き。ヤル気がグングンと漲って来る。



「はっは――!! ど――した!? 掛かってこぉい!!!!」



 薄い肉が剥がれ落ち。


 額から零れ落ちる大量の血液を手で拭う彼女に向け、鉄の拳を突き出して言ってやった。



「…………ッ!!」



 自分が負傷した事が許せないのか。


 将又。


 ノロマなあたしに一撃を貰ったことに対して憤っているのかは知らんが。


 深紅に染まった血液を捉えると、あからさまに姿が豹変してしまった。



「ググ……。ウゥゥゥッ!!!! ウワァァァァァァァァアアアア!!!!」




 天へ向けて雄叫びを上げると、彼女の足元の大地がひび割れ。漆黒の稲妻が体内から迸る。


 彼女の圧に吸い寄せられた風が足元で渦巻き、埃を纏って空高く舞い上がり。


 舞い上がった落ち葉が黒き稲妻によって穿たれ、灰となって何処かへと去り行く。 




「お、おいおい……。まだ上があるのかよ……」




 常人であるのなら、力の差に愕然し。地面に両膝を着けて助けを請うだろう。


 神様、どうかお助け下さいってね。



 だ、け、どぉ!!


 常人を越えた傑物であるあたしはヤル気に満ち溢れ、助けを授けて下さる神の手を堂々と跳ね除け。


 猛った獣を迎え撃つ為、地平線の彼方まで届く声量を解き放った。




「掛かって来やがれ!! 化け物!! 何度も血ぃ、見せてやらぁぁああ!!!!」


「ギャアアアアアア!!!!」



 黒き稲妻を纏って襲い来る獣。


 あたしは臆することなく彼女……。いいや、獣人と呼ぶべきかな。


 タガが外れた人外なる者へと不退転の想いを籠めた熱い拳を突き出してやったのだった。




最後まで御覧頂き有難うございます。


そして、ブックマークをして頂き誠に有難う御座いました!!


本当に嬉しいです!!



悪天候が続きますので、気温の激しい変化によって体調を崩されない様に気を付けて下さいね。

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