第五十七話 強靭な狼との絶戦 その二
お疲れ様です!!
続きの投稿なります。
それでは、ごゆるりと御覧下さい。
中々浮かんで来ない妙案に対し、ちょいと苛つきを覚え。
考える事を止めて派手に突貫して適当に暴れ回って活路を見出そうかなぁっと。
若干無茶っぽい考えに至ってしまった頭にお叱りの声を上げていると、リューヴが静かに口を開いた。
「面倒だ。二人纏めて掛かって来い」
うはっ。
カッコイイ台詞!!!!
長い人生の中で一度は言ってみたい台詞を軽々と言い放ちやがった。
「だってよ?? どうする??」
女の戦いは基本タイマンなんだけれども……。
「仕方が無い。私達の力を見誤った事を後悔する事ね」
相手にこれ以上手の内を見せるのは得策では無いし。
何より、ボケナスの方も気になる。
負けないとは思うけども、アイツはちょいと甘ちゃんだし。余裕ぶっこいてやられる可能性も捨てきれないからねぇ。
さっさと片付けて、御飯を作らせる為にも超短気決戦に持ち込みますか!!
「ふっ。そうだ、それでいい」
「なんかあたし達、嘗められてね??」
「いいんじゃない?? 牛蒡みたいにだらしなく伸びた鼻をへし折ってやったら気付くでしょ。私達には敵いません――って」
「そりゃそうだな。……。来るぞ!!!!」
先程と同様、こちらに向かって無策で突撃を開始する。
こいつの頭の中はどうなってるのよ。
同じ手が三度も私達に通用するとでも思っているの??
「ふんっ!!」
流石に相手の速さに慣れたのか、ユウが鉤爪の一撃を大戦斧で受け止め。
「でやぁ!!」
私はリューヴの側面へと身を置き。がら空きの脇腹へと石突を鋭く突いた。
捉えた!!
そう思い込んだ刹那、相手が此方の攻撃を半身の姿勢でスルリと躱し……。
「嘘でしょ!?」
半身の姿勢のまま、左足を軸に。
馬鹿げた速さの烈脚を花も恥じらう私の可愛い顔に蹴り上げて来やがった!!
「うんぬぅぅっ!!!!」
襲い掛かる上段蹴りを、必死の思いで上半身を反らして躱してやった。
あっぶっね――!!
気を抜いてたら食らっていたわね!!
「良く避けた。今のは褒めてやる」
「てんめぇ!! 何様だ!!」
灰色の髪へと目掛け、上段から矛先を鋭く振り下ろす。
鉤爪と槍が衝突し激しい火花を散らすと、手の平がジィんと痺れてしまった。
器用に受け止めるわねぇ。
だけど、防御していいのかなぁ――??
動きを止めちゃったら、乳娘の餌食ですよ――??
「どおりゃあ!!」
私の想像通り!!
美しくしなやかな狼女の胴体をぷっつりと両断させる為、ユウが大戦斧を地面と平行に薙ぎ払う。
「ふっ……」
「おっふ!?」
この攻撃は織り込み済みだったのか、私の槍を鉤爪で跳ねのけ空中で半回転。
大戦斧を宙で避けるのと同時に、右の烈脚をユウの頭部へ向け。空気を鋭く切り裂きながら叩き込んだ。
「やばっ!!」
咄嗟の判断なのか、それとも爆胸が勝手に反応したのか。
モキュっと。
筋力で盛り上がった肩で蹴りを受け止めるが、見た目以上に重い雷撃によって地面へと強烈に叩きつけられてしまった。
うっわ。
痛そう……。
「貴様も状況判断に長けているな。私の足技を真面に食らえば無事では済まない。頭部への一撃を肩で防御するとは良く考えたな??」
「いって――。褒めてくれるのは嬉しいけど、もう少し手加減しろよ」
ふにっと柔らかいお尻ちゃんに付着した土を払い、ちょっとだけ辛そうに立ち上がる。
「それは無理な注文だ。お前達相手に手加減はできん」
「お、褒めてくれてるの??」
「あぁ。私なりの賛辞だ」
「そいつは……。嬉しいねぇ!!」
大戦斧を袈裟切りの軌道で振り下ろすが速さに差があり過ぎてまるで当たる気配がねぇ。
何度も、工夫を凝らして様々な角度で切りつけるが余裕の態度で躱されてしまう。
残像を切っても本体が切れなきゃ無意味だし。
ふぅむ……。
コイツ、やっぱり強いわ。
一発の力はユウに劣るものの。
速さは私と肩を並べ、純粋な戦闘能力は恐らく私達の中でも飛び抜けている。
ヒラヒラと攻撃を躱すきしょい蜘蛛の技術と、私並みの速さに、防御力に定評のあるユウを困らせる攻撃力。
そんなべらぼうな相手に対し、真面に攻撃を加えても当たらねぇし。
ちょいと頭を使ってみっか。
攻撃はユウに任せ、私はじぃぃっと。
子供が地面の上にちょこんとしゃがみ込み、行進する蟻の大群を物珍し気に観察する瞳で奴さんの動きを目の奥に焼き付け始めた。
「そらどうした?? 私はここだぞ??」
「ぬおぉおぉ!!」
怒りに身を任せ、頭上に掲げた戦斧を大地に叩きつける。
その威力は凄まじく地面が大きく抉れ。割れた地面から石礫や、土の塊が宙へ飛び出す。
「威力は流石の一言。しかし、当たらなければ意味が無い」
リューヴは後方へと飛び、大戦斧の一撃と後からやって来る障害物を軽やかにそして易々と躱した。
「避けんじゃねぇ!! 一発くらい食らいやがれ!!」
「それは無理な注文だ」
ほぅ……。
何となぁく分かって来たわ。
コイツ、すんげぇ目が良い。
いや、目じゃなくて。相手が今からどう動くか、それを筋力の動きから察していると言えばいいのか。
今のユウの攻撃を例に例えるとぉ……。
怪力娘が大戦斧をぎゅっと握って上段に構える。そこから放たれる一撃は悪魔も慄く程だ。
大戦斧が地面に直撃すると。ドカン!! と地面が吹っ飛ぶと予想する。
んでもって。
弾け飛んだ岩達が自分に襲い掛かると想定して、大戦斧が地面に直撃する前に後ろへと軽やかに飛んだ訳。
基本に忠実なのだが、それに野生を加えた戦闘方法。
その牙城を崩す為にはぁ……………。
ん――……。んっ?? ん゛っ!!!!
んぉおお!!
閃いたぁっ!!
ピコ――んっと、私の頭の中にとんでもない妙案が光を灯してしまった。
真面にやっても当たらないのなら。摩訶不思議で、奇天烈な攻撃をすれば良いんじゃん!!
んっふふ――。
さぁっすが、私。
天才で世界最強なのも頷けるわねっ!!
早速行動を開始しましょう!!
息を顰め。
「むっふっふ――……」
基。
ワクワク感を満載した鼻息と共に槍の柄をぎゅっと握り締め。その時を待つ。
「ふんがぁっ!!!!」
「ふっ。その武器は腕を鍛える為にあるのか??」
「あぁ、そうだよ!!」
もうちょい、右……。
「当たれぇえええ!!」
「威力は十分。だが…………」
き、来たぁぁああああああ!!!!
千載一遇の大、大、大好機到来ぃぃいいいい!!!!
リューヴが此方に背を向けた刹那。
私は上空へと向かい、すんばらしい脚力を生かして飛翔した。
此方の予想通り、狼女がユウの一撃を後方に飛んで躱す。
そして、私の体は彼女の頭上を通過。
重力に引かれて地面へと落下していき、リューヴの獣の目が私の『背』 を捉えた刹那。
「何ッ!?!?」
脇から槍の石突を猛烈な勢いで突き出し、狼の胴体へと乾坤一擲をぶちかましてやった。
「グホッ!?!?」
勢い余って地面の上をコロコロと転がり、ちょっとだけ格好悪い着地だけども結果良ければ全て良し!!
「おっしゃぁあああああ!!!! 一本ぅぅうううう!!」
満天の星空へと右手を掲げ、私の最高な一撃を高らかに誇ってやった。
相手の死角から飛び、そして交差する刹那に体を盾にして槍の死角を作る。
二重の死角を利用した攻撃は私の予想通り、格好良く決まったわね!!!!
「ぐ、ぐぅ……!!!!」
リューヴが腹部を抑え地面へと両膝を着く。
ふぅむ、かなりの痛手の様ね。
「ゴ、ゴフッ……!!!!」
吐瀉物か、吐血なのか。良く分からんが。
口から何かを吐き出さないように口元に手を添えていた。
「すっげぇな。今の攻撃」
んっふ。
馬鹿乳娘よ、もっと崇め賜え。
「まともに攻撃したら当たらないからね。名付けて!! 超必殺最強悶絶内臓殺しよ」
「技の名前は超最強にダサいけど、威力は相当なもんだな。奴さん痛そうに腹を抑えているし」
ユウの言葉を受け、奴さんに視線を送ると。
「グ……。グゥゥ……」
今も痛そうに腹を抑え微動だにしないでいた。
まさかと思うけど、これで決着??
それとも夜御飯吐き散らかしててスッキリする??
勝利の尻尾を掴みかけたと確信したのですが……。
「ふふふ……。ククク……!! あ――――はっはっはぁああああ!!」
リューヴが肩を不気味に揺らし、頭を垂れたまま乾いた笑い声を上げた。
「な、何だ?? 痛すぎて頭がおかしくなったのか??」
「そんな訳無いでしょ」
私達が会話を続けている最中もその笑い声は止む事は無かった。
寧ろ、少しずつ大きくなっている。
な、何。
ちょっと不気味なんですけど……。
「ははは……。私は、嬉しいぞ」
「「嬉しい??」」
ユウと同時に突拍子もない声を上げてしまう。
こいつ、本当におかしくなったのか?? 殴られて嬉しいって……。
「あぁ、生まれて初めてかもしれん。これ程までに高揚するのは……」
腹を抑えていた両の手をだらりと下げて徐に立ち上がる。
しかし、表情は項垂れたままで窺い知れない。
な、何をする気??
「貴様らは私の全てを出して戦うに値する」
「そいつはどうも。出来れば手加減して欲しいけどな」
右に同じく。
ってかもう戦いは止めたいのが本音ね。
私の第六感が叫んでいるもん。
この場から早く立ち去れって。
「感謝しよう、今日という日に……。ガァァァアァァア!!!!」
リューヴが叫ぶと同時に体から閃光が迸り、円蓋状に周囲へと光が広がって行く。
「お、おい――――!!!! 何だよ、これ!!!!」
「分かる訳無いでしょ――!!」
彼女から放たれる魔力と暴風に吹き飛ばれまいとして足に力を籠め、大声を張り上げた。
な、何をしようっていうの!?
全身の肌が泡立ち、槍を取る手に汗が滲む。
この力……。
イスハと対峙した時に感じが似ているわね。
つまり!!
それだけやべぇって訳だ!!
突如として発生した嵐を全て吸収し終えると、リューヴが静かに面を上げていく。
その顔を見たく無いけど、見なきゃいけない。
怖いもの見たさで体が震えちゃうわね。
そして。
ゆぅぅっくりと。
徐々に上がって行く彼女の顔を遂に、私のお目目ちゃんが捉えてしまった。
「………………。ハァアァ」
「「げぇぇっ!!」」
ユウがあからさまに嫌な表情を浮かべた。多分私も彼女と同じ顔を浮かべている筈。
白目の部分が血よりも真っ赤に染まり、口からは闘志と熱気を含んだ白い息が吐き乱れ、人間の歯では無く獣の牙が口から覗く。
激しい呼吸と共に上下に揺れる肩、体表面を覆う禍々しい魔力、込み上げる魔力を抑えきれないのか。
時折、パチッ!! と。
乾いた音が爆ぜると黒き稲妻が体内から迸り体外へと放出されていた。
な、なぁにぃ――。
これぇ――……。
ほ、本物の化け物じゃん!!!!
絶対ヤバイ奴じゃん!!
「ギィヤァァァァアアアア!!!!!!」
「「うっ!!」」
周囲の空気を吹き飛ばすような雄叫びを上げる。
狼の咆哮で堅牢な大地が震えるようだ。
桁違いの魔力と恐ろしい圧……。
こ、これは本気で洒落にならん!!!!
「マイ、一対一に拘るなよ!!!!」
「分かってる!!!! 気を抜いたら死ぬからね!?」
「おう!!!! 死ぬ時は一緒だからな!!」
「そうね!!」
――――――。
いやいや!!
私、死ぬ気は毛頭ないからね!?!?
見当違いな言葉についつい肯定しちゃったけど、言い直す暇は無い!!!!
私達の命を狩ろうとする真の狩猟者が向かって来そうだからね!!
祈る神様はいないけども、願わくば……。
ど――か!! 勝てますよ――にっ!!
襲い掛かる恐怖に対抗すべく、乱れた呼吸を整え。汗だくの手で黄金の槍を握り締めた。
最後まで御覧頂き誠に有難う御座いました。
本日も悪天候でしたが、皆様の地域は御変わりありませんか??
まだまだ続く予報ですので、お気を付けてお過ごし下さい。