第五十七話 強靭な狼との絶戦 その一
お疲れ様です!!
本日の投稿になります。
それでは、御覧下さい。
月明かりに照らされた遠く彼方の山の峰から風が吹き降りて来る。
夏真っ盛りだってのに肌がゾクっと泡立つ冷たさにちょいと顔を顰めた。
このゾクゾク感は恐らく真正面に立ち塞がっている者から放たれる威圧感がそうさせているのでしょう。
まぁ、私は世界最強だからビビっている訳じゃないんだけど??
ほら。
心と体が勝手に判断しちゃうって奴。
滅茶苦茶強い奴が纏う只ならぬ空気に私とユウは緊張感を持った面持ちを浮かべ、灰色の髪の女性と対峙していた。
「なぁ、レイド一人で大丈夫か??」
開いた空間の奥へと向かって行った二人に視線を送りつつユウが話す。
「私達と共に行動しているのよ?? あれくらいの相手、どうにかして貰わないと困る」
リューヴっていったっけ。
コイツに比べればマシでしょ。
「信用しているんだな」
「まぁね――」
私達と共に行動を続け、ボケナスは力を付けて来た。
イスハの教えを確実に守りそれを実行に移せる力もある。
それに??
私の攻撃を受けても飄々としているし!!
速さや戦闘技術で劣るとも、馬鹿げた体力と頑丈さに物言わせて。龍の力を解放すれば早々負けないのよ。
だが、まぁ――……。
ヤバそうになったら手を貸すか。
勿論、これを大きな貸しにして。わんさか飯を驕らせる為にね!!
「待たせたな。始めるとするか」
鋭い翡翠の瞳が私とユウを捉えると、先程の下らない雰囲気を払拭するかのように緊張感が互いの合間に広がる。
うひょ――!!
堪んないわね!! この雰囲気!!
こうやって改めて対峙すると相手の強さが体中にひしひしと伝わって来る。
重心の取り方、立ち振る舞い、積載された筋肉量。
地面に立っている。只それだけなのに途轍もない圧を放ちこちらを圧倒しようとしてた。
「お。向こうも始めたみたいだな」
ユウがレイド達の向かった方角へ視線を移す。
――――――。
本当だ。矢が空気を切り裂く音が徐に鼓膜を刺激した。
「ほう。あの男、ルーと互角にやりあっているではないか。大したものだ」
腕を組み、顔半分を向こう側に向けて話す。
「あいつを甘く見ない事ね。ルーって子も負けるかもしれないわよ??」
「はは、それは無い。共に里で鍛え抜かれた戦士だ。天と地がひっくり返ろうが起こり得ぬ事だ」
ば――か。
それを驕りって言うのよ。
コイツ、自分が最強だって錯覚してんじゃないの??
そういう奴に限って足元掬われるのよ。
………………。私の場合は別だけどね!!!!
「それはどうだろうなぁ。あたし達と一緒に行動してからと言うものの、レイドもかなり上達してるからな、良い勝負すると思うぞ??」
ユウさんやい。
そのあたたかぁい目は一体全体どういう意味です??
子鳥の覚えたての飛翔を眺める親鳥みたいな温かい目で追っちゃってまぁ――。
「ふん、そんな事はどうでもいい。どっちが先に死にたいんだ??」
挑発するような視線をこちらに向けると重心を低くして攻撃の構えを見せた。
「嫁に行くまで死ぬ訳にはいかないなぁ。先鋒はあたしが行く」
私より一歩前に出ると指の骨を鳴らし、仁王立ちで相手を正面に捉える。
「ユウが先?? 私が相手をしてもいいのよ??」
槍をユウの前に出そうとするが、それを左手で押し退けてしまう。
「冗談。たまにはあたしもいいとこ見せないとね」
ユウの事だ。
私に相手の実力を見せようと考えているのだろう。いらぬ心配だって言うのに……。
「おっしゃぁああ!! 派手な喧嘩にしようや!! 母なる大地よ!! 我に力を!! こぉぉおおい!! タイタンッ!!!!」
美しい緑の魔法陣を浮かべ、その中へと剛腕を派手にぶっこみ。
「へへっ。本日もぉぉ……。絶好調っ!!!!」
大戦斧を取り出して男らしく肩に担いだ。
「ほぅ……。やはり貴様達も私と同じく、大魔の血を受け継ぐ者であったか」
「その通り。おら、お前さんもさっさと獲物を装備しなよ」
強者相手に気負う事無く、いつも通りの口調で話す。
うむっ!!
流石ユウね。やっぱり胸がでけぇと肝もデケェんだろう。
「一度に二人の強者。この高揚感と緊張感、生まれて初めて味わうぞ」
舌舐めずりをして私達を交互に見比べる。
その姿は今から御馳走を平らげようとして待ちきれない面持ちであった。
「そいつはどうも」
「さぁ……。私を楽しませてくれ」
リューヴが右腕を前に翳すと、黒き魔法陣が浮かび上がり。
その中へと一気呵成に腕を突っ込む。
「天を裂き、暴虐の限りを尽くせ!! はぁぁっ!! デスポートシュバルツ!!」
そして、魔法陣の中から腕を引き抜くと。右手の甲に黒き鉤爪が装着されていた。
真っ直ぐ伸びた鋭い三本の黒き鉤爪。
鋭利な刃面はきっと分厚いお肉ちゃんも綺麗にスパパっと切れるでしょうね。
装着したお陰で奴さんの魔力と身体能力がべらぼうに上昇し、私のお腹ちゃんがきゅっと窄んでしまった。
ほっほ――……。
こりゃ上物だわ。
「ま、当然そうくるよな」
リューヴの圧を受けるとユウの表情がキリっと引き締まり、声色も緊張した物へと変化。
今更ビビる玉じゃあ無いとは思うけども、一応声を掛けておくか。
「ユウ、気を引き締めなさいよ??」
「分かってる。こいつは想像以上だ……」
戦斧を正面に構え、リューヴの出方を伺う。
ユウらしくない戦法だが今は見に徹するのが賢明だろう。相手がどんな攻撃を仕掛けて来るのか分からないものね。
「さぁ……。楽しい戦いを始めようじゃないか!! ウォォォォォオオ!!!!」
「「うるせぇ!!!!」」
さっきからワンワンキャンキャン吼えやがって!!
けたたましい狼の遠吠えを上げ、凄まじい音量の波が襲い掛かり鼓膜が破れてしまいそうだ。
「…………。グルル」
「来るわよ!!」
戦士の雄叫びを吼え終えると、地を這うように低い姿勢を取りユウに向かって突進を開始。
低い草々を掻き分けて進んでくる様は、まるで一陣の突風の様であった。
「このぉ!!!!」
ユウの間合いへと到達した刹那、相手の突撃を嫌がるように大戦斧で横一文字に薙ぎ払う。
威力は十分。
しかし、速度が今一足りなかった。
「……、あり?? どこ行った??」
空振りに終わり、何の手応えも感じなかったのか。
目の前に居る筈の相手を探して忙しなく周囲へキョロキョロと視線を動かしていた。
「馬鹿!! 上よ!!」
「遅い!!」
上空から重い蹴りの一撃をユウの可愛い横っ面へと叩き込んでしまった!!
「へっ!? どわぁっ!!!!」
やっば!!
隙だらけの顔面へ真面に入っちゃったじゃん!!
だ、大丈夫かしらね……。
森の奥へと飛んで行ってしまった友人の身を案じるのだが、残念な事に様子を窺いに行く暇も無いのよねぇ。
背を向けたらぜってぇ襲い掛かって来るし。
「ふん。他愛のない」
蝶のような軽い足取りで着地。
そして、これが私の力だと。
己の攻撃力の高さをまざまざと此方に見せつけ、満足気に私の瞳を見つめて話す。
野郎……。
よくも私の親友の顔を蹴っ飛ばしてくれたわね??
普通なら此処で、親友の仇だぁ!! って憤る言葉を吐いて向って行くのだけれども。
残念ながら、私達は普通じゃないのよねぇ……。
「よぉ、リューヴ。わりぃけどうちの怪力爆乳娘を嘗めたらいけないわよ??」
「私の一撃を真面に食らったのだ。首の骨が折れ曲がり今頃……」
やぁぁっと気付いたか。
得意気に開いた口を閉じ、ノッシノッシと。
今、何かした??
飄々と、そして今起きましたよ――と。呑気な表情で森の中から馬鹿げた乳を揺らしながら我が親友が再登場した。
「――――。よぉ、姉ちゃん。あたしの骨を折りたければ今の十倍の強さで蹴って来い」
「ほぉ……。今の一撃を食らって立ち上がるとはな。里には居なかったぞ、それ程の耐久力を持つ者は」
素直に感心したのか。
翡翠の瞳をきゅっと見開いてユウの体を見つめた。
「あ?? こんなの……。えぇっと……。猪の蹄で踏まれたくらいだ」
ごめん、ソレ。結構痛い奴じゃん。
「マイ、まだあたしの番だよな??」
「その調子だと苦労しそうね。変わろうか??」
「んにゃ。まだまだやれるよ」
余裕に見えるけども。
初手の一撃、そして今の二撃目。
どっちも真面に食らっているし。ちょいと休憩した方が良いと思うんだけどねぇ。
「そっか。いつでも代わってあげるから安心してやられなさい」
「辛辣だねぇ。やい、狼女!! あたしを倒したかったらもっと腰を入れて打って来い!!!!」
戦斧をどっしりと再び正面に構え、リューヴの前に立ちはだかる。
「それでは、そうさせて貰おうか」
口元に歪な笑みを浮かべると、両手を広げを。
さぁ、打って来い!! と、ユウを誘った。
「嘗めやがってぇ。くらぇぇええ!! 大地烈斬!!!!!!」
大戦斧を力の限り大地に叩きつけると地が裂け、その割れ間から鋭い岩が突き出てリューヴへと向かっていく。
何度も見たユウのカッコイイ得意技だ。
「ふん。威力は大したものだが速さがな……。遅過ぎて欠伸が出るぞ」
襲い掛かる岩の波を軽々と回避。
しかし、ここからがお化け乳の真骨頂なのよ!!!!
リューヴに向かって直進する岩の波の僅か後ろを、えっこらよっこらと大戦斧を担いで超爆走。
阿保みたいなデカさを誇るアレが無ければも――少し速く走れるのに……。
背の高い岩陰に身を顰め。相手の死角に身を置きながら走る様はこっちから見ると丸分かりで少々格好悪いわね。
岩を挟み、相手の丁度真横に到着すると……。
「はっは――――!!!! 地平線の果てまで飛んで行きやがれぇえええ!!!!」
大戦斧で聳え立つ岩を力の限りにブっ叩き、その衝撃で弾け飛んだ巨大な岩の塊をリューヴへと叩き込んだ!!
「何!? ぐっ!!!!」
咄嗟に防御するものの。
意外と策士な怪力娘の一撃はお構いなしに防御態勢を取った彼女に襲い掛かり、それを受けたリューヴは大きな岩と御手手を繋いで仲良く森の奥へと吹き飛んで行ってしまったとさ。
「へへ。飛んだなぁ――」
可愛い御目目ちゃんの上に手を翳し、きゅぅうっと目を細めて吹き飛んで行った方角を見つめていた。
「呆れた馬鹿力ね」
「馬鹿は余分だ。これであいつも懲りただろ」
勝利を確信したのか戦斧を担ぎ、相手に背を向ける。
「そうだと良いんだけどねぇ……」
ユウの一撃は正直、誰よりも上だけども。
たった一発でアイツが沈むとは思えないのよ。
自信満々に鬱陶しい胸をプルンっと弾ませて頷き。確信に満ちた表情で私を見つめるが。
爆乳娘の確信は、水を掛けられた砂山の様に脆く容易く崩れてしまった。
「――――。今の一撃、かなり効いたぞ。里の者でも私に此処迄の攻撃を与えた者は居ない」
返り血を浴びた黒いシャツに付着した土埃を払いつつ、何事も無かったかの様に戻って来てしまいました。
ほらね??
やっぱり私の思った通りじゃん。
「嘘だろ?? 少しは堪えろよ。自信無くしちゃうよなぁ」
お道化て見せているが内心、動揺しているに違いない。
タワンタワンっと揺れているアレが良い証拠さ。
悠然と構える狩猟者に対し。
さぁ、お次の手はどうしますか?? と。
もう一人の私が問い始めて来たのだった。
最後まで御覧頂き有難う御座います。
長文になってしまいましたので、一旦此処で区切らせて頂きました。
追加分は現在編集中ですので今暫くお待ち下さい。