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第五十六話 陽気な狼との争闘 その二

お疲れ様です。


続きの投稿になります!!


それでは御覧下さい!!




 彼女から此方に届く圧が肌を悪戯に刺す。


 まるで空気が形を模って襲い掛かる錯覚に囚われ、圧倒されたまま思考が停止してしまう。


 単純に凄いと感じる一方。


 これに対抗しなければならないという絶望感。


 相反する感覚が体の中を駆け抜けて行った。



「さぁ、行くよ??」



 金色の瞳が怪しく光り、突撃の体勢を整えてしまった。



 ちょ、ちょっと待ってくれよ。


 まだ対処策が浮かんで……。



「グアァァ!!!!」



 雄叫びを上げると同時に、空気の壁をブチ破り。常軌を逸した速さでこちらへと向かって来た!!



「食らえっ!!!!」


「フッ!! フゥッ!!!!」



 ルー目掛け矢を連射するが、余裕を持って左右に躱されてしまう。



 くそっ!! まるで当たる気配が無い!!



 気が付けば、接近戦に持ち込まれていた。



「グァッ!!」



 低い軌道から左手に装着している鉤爪を振り上げて来る。


 その速さと威力は此方の予想を遥かに上回り。まるで目の前の空気が吹き飛んだような錯覚に陥ってしまった。



「うわっ!!」



 寸での所で回避に成功するものの、今のは運が良かったとしか言いようがないな。



 よ、良かった。重心を後ろ足に残しておいて……。


 もし、前足荷重になっていたらと考えると寒気がするよ。



 しかし、安心したのは束の間の出来事。



 上空へと流れた体を半回転させ、左足の回転蹴りを此方に目掛けて解き放った。



 やばい!! 直撃する!!


 考えるよりも先に、咄嗟に後方へと飛んだ。



「がっ!!」



 両腕で防御に成功するがその威力は凄まじく、体が後方へと弾き飛ばされてしまった。



「いてて……」



 背中から地面へと受け身無しで着地してしまい、体中に衝撃が駆け抜けて行く。


 痛む体に鞭を打ち、必死の思いで立ち上がった。



「へぇ、後ろへ飛んで威力を殺したんだ。並の奴なら今ので倒せるんだけどな……。流石リューが認めただけあるよ」



 先程までの明るい口調とは打って変わり、冷酷で寒気すら覚える声色で話しかけて来た。



「伊達に鍛えていないからね」



 さて困った。


 遠距離からの攻撃はまるで役に立たない。


 そして接近戦では相手に分がある。そして攻撃力、素早さも劣る。



 正に八方塞がりって奴だな。



「もっと……。もっと私を楽しませてよ!! こんなに楽しい戦い久々!! レイド、もっと戦おうよ!!」



 ルーの声は狂気を伴い増々昂って行く。


 それと共に彼女の体から放たれる圧も比例して増加。


 分けた力は二割って言っていたけど……。


 マイ達と変わらぬ力を纏っているじゃないか……。




 どうしたらこいつを倒せる?? 考えろ、状況判断に思考を巡らせろ。



 そして……。


 心に澄み切った水面を映せ……。



「アァァァ!!!!!!」



 昂った感情のままにこちらへ再び獣の如く襲い掛かって来た。



 当たらない矢は不要!!


 弓を背に仕舞うと同時、右手に短剣を構えルーを迎え打つ。



「ウアァアァ!!」



 左手の鉤爪と、右手の指先に生える鋭い爪。


 左右の凶器の連打がお構い無しに俺の命を奪おうと牙を向く。



「くぅっ!!」



 短剣と身のこなしで寸での所で躱しているが、正直防戦一方だ。


 互いの武器が激しく衝突して火花を散らし、刹那に闇の中に橙の明かりを迸らせる。



「ぐっ……」



 落ち着け。こんな激しい攻撃、ずっと続く訳が無いんだ。相手が疲労で止まった所を狙う!!


 それまで耐え凌げ!!!!



「……。ねぇ??」



 不意にこちらを見上げると言葉を漏らす。



「何だ??」


「この連撃が止むのを待っているんでしょ??」


「っ!?」



 こちらの思考を読まれたのか、的を射た質問に心が波打ってしまった。



「さぁ?? 何の事だ??」


「無駄だよ?? これくらいの攻撃なら一晩中続けていられるからね」


「ひ、一晩中?!」



 た、頼む。嘘だと言ってくれ。


 今も必死に攻撃を躱すので精一杯なのに。こんなの、一晩中も続けられるか!!



「……。へへ、嘘だよ??」



 ルーが片目をパチンと瞑り、男を惑わせる笑みを浮かべる。



「はぁっ!? どわっ!!」



 それに気を取られ、隙だらけの顎先に彼女の左足が直撃してしまった。




 う、ぐぐっ……。


 や、やべぇ。体が痺れて……。



 右膝から地面に着き、全身を襲う痺れに対抗するものの……。全く動く気配が無い。



 不味い……。脳震盪を起こして視界がぼやける。



 勝利を確信して立つ彼女の姿が二重にも、三重にも見えて来てしまった。



 動けよ!! 情けない体め!!




 奥歯を粉砕させる勢いで噛み締め、全筋力を再活動させ必死に立ち上がるが……。まるで足元が覚束ない。



 くそっ!!


 やりにくいったらありゃしない。獣の様な低い動きを見せれば、卓越した格闘術も使用する。どうにか隙を見付けないと……。



「うっ……」



 ふらつく足元に喝を入れ、ルーを見返す。



「なぁ、二つの体って言っていたけど。何か不便な事ってあるのか??」



 このままでは確実に負ける。


 幾つかの質問で時間を稼ごうと画策した。



「不便?? ん――。さっきも言ったけどさ、力が分散されるのが痛いかな??」



 良し、上手くいったぞ。


 彼女は親切にも俺の質問に、正直に答えてくれている。



「あ、でも便利な事もあるよ?? 私が経験した事、例えば今レイドと戦っているけどさ」


「ふんふん」



 わざとらしく相槌を打つ。


 頼む……。此方の意図に気付くなよぉ……。




「経験した事を共有出来るようになっているんだ。戦いの記憶、御飯の記憶。色んな経験を共有出来るのが強みかなぁ??」


「そいつは便利だな。お互いが勉強すればするだけ賢くなれるじゃないか」


「え――。勉強嫌――い」



 プイっとそっぽを向いてしまう。



「それに共有は出来るけど、不必要な事は覚えないようにしているの。だからリューが勉強しても私はそれを覚える気が無いから何時まで経っても私は賢くならないんだっ」



 自信有り気に余り褒められない事をムンっと胸を張って話す。



 片方がサボるのなら経験、知識の共有は万能とはいかないか。



「それは自信を持っていい事なのか??」


「レイドだってそうでしょ?? 覚えられる事には限界がある。私はある程度の知識で満足しちゃってるの」



「勿体ないなぁ」



 指先の感覚は戻って来た。


 後は、足の感覚さえ戻れば……。



「いいもん!! 勉強以外にもっと大事な事を学ぼうとしているからっ」


「それは何??」


「んっと――。美味しい御飯だったり、服の事だったり。色々だよ」



 そうか。


 里を出て間もないのかな?? もっと色んな所に向かえば様々な経験が出来ると言うのに。



「戦う以外にも色んな事を学んだら?? 例えば……、人の街を探索するとか。美味しい御飯屋で食事をするとかさ」


「それは……。うん、楽しそう」



 何だ??


 急に寂しそうな表情を浮かべて。



「さて……。もう回復したかな??」


「何だ、待っていてくれたのか」



 お陰様で回復しましたよ。


 試しに足の指を動かすが、頭の命令通りに全部動いてくれるし。




「後ろから撃たなかったからね。そのお礼」



 屈託の無い無垢な笑顔を見せてくれる。



「リューだったらこうはいかないよ?? 戦闘馬鹿で融通が利かないんだから」


「顔は瓜二つでも性格は正反対なんだな」



 重心を落とし、短剣を右手に持ち戦闘態勢を整えた。


 うん、足元もはっきりと地面を捉えている。


 これなら戦える!!



「まぁねぇ。さて、そろそろ……。決着をつけるよ」



 ルーの体が閃光を放つと……。

 

 その光の中から一頭の灰色の狼が現れた。




 金色の瞳はそのままに。犬の数倍大きな体、後ろ足で立てば俺と余り変わらないんじゃないか??


 いいや、余裕で大きい。


 狼の背中が俺の腰の位置よりも高いし……。



 灰色の美しい毛並み、僅かな音も聞き逃さない大きな耳。そして口から鋭い牙がこちらの体を噛み砕こうと覗いていた。



 で、でけぇ。


 狼ってこんなに大きかったか??



「レイド、本当に楽しかったよ。また戦おうね」


「まだ戦いは決まった訳じゃ……。ガッ!!」



 正面に捉えていた狼が消えたと思った次の瞬間、左腕に激痛が走った。


 見れば肉が引き裂かれ、一筋の血が流れ落ちていた。



 そして、この傷跡……。


 リザード達が受けた傷と酷似している。


 アイツらもこれを受けて負けたんだ。




「何て速さだ……」



 心の声を、思わず口に出してしまった。



「ほら……。どんどん行くよ!!」



 姿は見えないのに声は聞こえてくる。



「うあぁぁぁぁぁ!!!!」



 右腕、両肩、そして両足。体の様々な部位に容赦ない攻撃が突き刺さる。


 それと同時に皮膚が裂け、血液が体内から飛び散り周囲を汚していく。




 や、やばい。


 このままでは確実に……。死ぬ!!



 両腕を正面に翳し。急所を切り裂かれない様に防御してそのまま後方へと下がる。


 今は防御しか策が見当たらない。


 な、何とかして策を見出さないと……。


 弓は……。駄目だ。姿が見当たらない相手に対しては役に立たない。


 では、襲い掛かる相手に短剣を突き刺して相打ちを狙うか??



「ガァァッ!!」


「うぐっ!!」



 だ、駄目です!!


 こんな速さに相打ちもクソもあるか!!



 今し方浮かんだ案は役に立たないと、切り裂かれた肉が叫んでしまう。



 龍の力を解放し速さを得て、接近戦での活路は見出せないか??


 だが、この速さに対抗する為にはそれ相応の力を解放させる必要がある。


 血を失い、体力が枯渇寸前の体でそれは不可能だ。



「ガァァァァッ!!!!」


「ぐぅぅっ……」



 ま、不味い。


 両腕に感覚が無くなって来た。


 これ以上、攻撃を受け続けたら肉が削げ落ち。骨が断たれてしまう!!



 流れ落ちる大量の血液で大地に生える雑草の緑を赤に染めつつ、必死に思考を巡らせた。



 な、何か。何かある筈だ!!


 超接近戦を制する為の案はきっとある!!














 ………………。


 待てよ。

 

 接近戦という言葉に何か引っかかる物を感じた。そう言えば……。






『おらぁっ!! さっさと飯を作れや!!!!』



 違いますね。


 御飯を強請る恐ろしい龍の姿じゃあ無くて……。もうちょっと後です。




『ち、力が抜ける……』



 そう、ここ!!


 此方に来る前。マイの手の平に矢を突き刺した光景がふと脳裏を横切って行った。



 こ、これだ!!!!



「くっ……」



 激しい攻撃を受けながら、背後の森へと決意を籠めた後退を開始する。



 一か八か、伸るか反るか!! 相手が止めを刺しに来た時の大振りを狙う!!


 俺にはこの方法でしか、生き残る道は残されていない!!



「はぁ……。はぁ……」



 一本に木の幹に体を預け、両腕の防御を解き。


 体を弛緩させた。



「良くここまで頑張ったね。これで、終わらせてあげる!!」



 灰色の狼が久し振りに姿を現し、四つん這いでこちらを正面で捉えた。



「グルルルゥ……」



 鼻頭に皺を寄せ、嘯く声を放つ。


 獲物の命を断つと決意を籠めた低い姿勢を捉えると心が折れ、居る筈も無い神に対して。救いの祈りを放つ愚か者もいるだろう。



 だが、お生憎様。


 俺は神なんて信じないんだよ!!


 信じるのは己の力のみっ!!



 さぁ……。掛かって来やがれ!!


 俺は此処にいるぞ!!!!




「グガァアァアァ!!!!」



 獰猛な雄叫びを上げ、大きく口を開ける。


 そして、太く鋭い牙を俺に突き立てようと正面から愚直に向かって来た。



 来たぁ!!!!


 痛みは我慢出来る、俺にはこれしかないんだ!!


 襲い掛かる痛みをある程度想像して、勝利の鍵をルーの前に差し出した。



「ガアァァア!!」

「うわぁぁぁぁああああああ!!!!」



 左腕に想像を絶する激痛が走り、牙が肉を突き破り。骨まで達する勢いで牙が突き立てられた。


 血管から飛び出た生温い鮮血が狼の顔を、そして俺の体を汚す。




 い、意識を保て。敵を捉えろ……。


 肉を切らせて骨を断つ!!


 痛みと引き換えに、勝てるのなら本望だ!!



「くらえぇええええええええええ!!!!」



 背負っている弓の弦を右手で引く。そして、矢を引き抜くとルーの左脇腹に鋭く突き刺した。


 て、手応えあり!!!! どうだ!?



「アァァァァァっ!!!!」



 痛みから逃れる絶叫を放つと、力無く地面へと横たわり。


 そして、己の脇腹に突き刺さっている朱の矢を物珍し気に眺めていた。



「な、何。この矢……。力が抜ける」


「それは抗魔の弓って言ってね。力を奪う効力を持っているんだ」



 精一杯の力を振り絞って話すと、その場にへたり込んでしまった。




 つ、疲れたぁぁ……。


 も、もう限界。


 歩く処か、立ち上がれる事さえ怪しいよ。



「最初からこれを……。狙っていたの??」



 弱弱しい声を放ち、金色の瞳を此方に向ける。



「偶然だよ。真正面から戦っても勝てないし、何んとかしようと思って下がっていたんだ」


「そっか。私、負けちゃったね」


「今回は……。な」



 次はこの手は使えないし。


 正直、勝てる見込みはありません。




「ふふふ。また戦う機会があればいいけど」



 狼の鋭い目がどことなく柔和になる。



「それは勘弁してくれ。こんな疲れる戦い二度とごめんだ」



 正直な感想を述べてあげる。



 大きな疲労を含ませた吐息を吐き尽くし、天を仰ぐと。



 夜空に浮かぶ星達が俺の勝利を祝う様に美しく、煌びやかに瞬いていた。


 お体ご自愛下さいね?? と。


 優しく月が笑みを浮かべてくれるのですが、まだ向こうでは戦闘が継続されていますので。その笑みはもう少し後で送って頂けると幸いですね。




「え――。いいじゃん、レイドといると楽しそうだしさ」


「はいはい。向こうの戦いが終わるまで大人しくしてなよ?? これ以上危害を加えないから」


「私の体、好きにしてもいいよ??」


「毛皮を剥ぐ趣味はありません」



「む――。どうせなら人の姿のまま負ければ良かった。レイド、優しいんだね??」



 どうせって……。


 それはどういう意味でしょうか??


 果てしなく疲れているので、皆迄問いませんけども……。



「普通だよ」


「ううん、そんな事無い。普通だったら私の事怖がって、殺そうと考えるかもしれないし」


「おいおい、穏やかじゃないな。魔物と共存を望んでいるからね、そんな気は毛頭無いよ」


「へへ。そっか……。そうなんだ……」



 そう言うと大人しく体を丸め、抵抗する気を完全に失くしてしまった様だ。



 こっちは何とか勝ったぞ。


 マイ、ユウ……。お前達も絶対勝てよ??


 勝てないのなら、そっちに向かうからな……。それまで待っててくれ。


 深くなる闇の中。


 今も激しく火花を散らし、激闘を続けている彼女達に煌びやかな勝利を願ったのだった。





最後まで御覧頂き有難う御座いました。


深夜の投稿になってしまい、大変申し訳ありませんでした。



雨が酷い地域が御座いますが、皆さんのお住まいの地域は大丈夫でしょうか??


天候、並びに体調面にお気を付けて下さいね。

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