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第五十六話 陽気な狼との争闘 その一

お疲れ様です。


引き続きの投稿になります。


ごゆるりと御覧下さい。




「んっふふ――んっ」



 随分とご機嫌な彼女の後に続き、マイ達とはかなり離れた距離まで歩いて来た。


 森と広い空間の狭間に近い場所に到着すると、彼女が歩みを止め。


 長い灰色の髪をクルっと柔らかく揺らして此方に振り向く。



「お待たせっ!! この辺りで良いよね!!」



 今から楽しい料理を開始してしまいそうな声色でそう話す。



 君にとっては楽しいかも知れないですけどね?? 俺にとってはかなり緊張感を伴うのですよ。


 リューヴ、といったか。


 彼女の分身体であるルーの身体能力は恐らく、元の体と同程度の筈。


 そして戦闘方法も、使用する魔法も未知の領域なのだから。



「別に構わないけど……。そう言えば、君達珍しい魔法使うよね?? どうやって二つの体に別れているの??」



 詮索じゃあないけども。


 少しでも多くの情報を得て戦いを有利に進めたいので、さり気なく会話の内容の中に質問を混ぜてみた。



 引っ掛かるかな??



「魔法?? 違う違う。私達は二人で一つって言えばいいのかな??」



 おっ。


 意外や意外、乗って来てくれましたね。



「二人で、一つ??」



「生まれた時、どういう訳か一つの体に二つの魂が宿ったみたいなの。んで、こうやって魔力と力を分け合えば体を二つに分ける事が出来るんだ」



 これはまた随分と数奇な産まれ方だな……。


 魔物との出会い、化け物達との出会いが無ければ首を傾げてそんな馬鹿なと一言二言放つのですが。


 ちょっとやそっとの出来事では驚かない自分に対し、逆に驚いてしまった。


 幾多の経験を得て肝が据わった、とでも解釈しましょうかね。



「魔力を分ける?? じゃあ今は本来の力じゃ無いって事??」


「そうだね。割合で説明するとぉ――。私が二割、あっちが八割かな??」



 細い顎に指をちょんとあてがって話す。



 二割……。


 俺はその程度の力で十分って事か。これは余り聞きたく無かった情報ですね。


 裏を返せば、マイ達を抑える為にそれだけの力を割く必要があったのです!!!!


 うん、これなら納得出来るぞ。




「一つになって戦った方がいいんじゃないの?? ほら、二人だと力も分散されちゃうだろ??」



 戦力を分散すればそれだけ力が劣ってしまうからね。



「そうしたいのは山々なんだけどねぇ。ど――も、リューと折り合いが付かないと言うか、噛み合わせが悪いと言うか……」


「戦い方、性格の不一致で戦いに支障が出る……、と??」



 多分こういう事でしょう。


 先程の会話の内容からしてまるっきり正反対の性格だったし。



「そうそう!! そんな感じ!! レイド分かってるじゃん」



 屈託の無い笑顔でこちらを見る。



「成程ねぇ。もう一つ質問いいかな??」


「うん!! いいよ!!」



 口角をキュっと上げ、陽性な笑みと共に承諾してくれた。


 明るい性格で助かりますよ、向こうの個体ではこうはいかないだろうからね。



「さっき言っていた成人の儀式って何?? その為にここへ来ているのかい??」



「私達の里ではね?? 族長の子供は十八になると成人の儀式を受けなきゃいけないんだぁ。んで、私達が強い相手と認めた人と勝負する。勝ったらその者の一部を受け取り里へ帰る、負けたら……」



「負けたら??」


「え――。どうしよっかなぁ――……」



 両手を後ろに組み、言い辛そうに俯き。何やら考えている御様子。


 と、言いますか。


 一部を受け取って持ち帰るって……。


 人体の一部じゃないでしょうね?? 戦いに負けて体の一部を失う破目は御勘弁願いたい。



「ん――……。この続きは私に勝ったら教えてあげるよ!!」



 判断に躊躇していた顔から、ぱぁっと明るい顔になって話す。



「仕方が無い。その儀式に見合う実力じゃないかもしれないけど我慢してくれよ??」



 此処からは気を引き締めて戦いに臨もう。



 抗魔の弓を構え、弦を軽く引くと朱の矢が現れて手元を赤く照らす。



「それだよ、それ……。初めて見る矢……」



 こちらの攻撃の意思を汲み取ったようだ、明るい表情から一転。獲物を狙う鋭い眼光が金色の瞳に宿った。


 狩猟者、若しくは捕食者足る強き瞳に捉えられ。刹那に産毛が逆立つ。



「安心して、刺さっても大した怪我は負わないから」


「安心?? それが私に当たるって思ってるの??」



 腰をぐっと落とし、重心を低く構える。



 切っ掛けさえあれば直ぐにでも、鋭い牙を剥き出しにして襲って来そうだ。



 落ち着け……。


 先ずは相手の出方を窺うんだ。




「あれ?? 射って来ないの??」


「……」



 無言のままルーに狙いを定める。


 恐らく、先程の言動から察するに。己の素早さに自信があるのだろう。


 ルーとの距離は十メートル程。


 この距離なら外さない自信はあるが、どれ程の速さを有しているか見極めておきたい。



「まっ、いっか。よっ、ほっ……」



 軽く地面の上を数度跳ね、体を解し終えると。



「行くよ!!!!」



 狩猟者の瞳を浮かべたまま目を疑う速さで突進を開始した。



 はっっや!!!!



「このっ!!」



 向かい来る狩猟者の体の中心に向かい矢を素直に放つ。


 いつもと変わらない速度で矢が空気を切り裂き、俺が思い描いた通りの軌道を描く。



「わわっ!!」



 慌てふためく表情を浮かべ、間一髪回避。


 走りながら向かい来る矢を躱す、か。


 では、連射ならどうなる!?



「ふっ!!!!」


「ちょ、ちょっと!! そんな沢山ずるいよ!!」



 言葉とは裏腹に随分と余裕があるみたいだ。


 襲い来る矢の軌道を確実に目で捉え、着弾する前から軌道を予測して躱している。



 何て反応速度だ。


 瞬き一つの間に着弾する距離で矢を躱すんだぞ??


 感心すると同時に、次なる策に出た。



「でやぁ!!」



 更なる力を籠めて弦を引き、鋭く矢を射る。


 連射の時は矢の速度、並びに威力を敢えて抑えておいた。



 この急な変化に、即座に対応するのは困難だろう。



「あわわ!!」



 当たる!!


 そう思った次の瞬間、我が両の目を疑った。



「…………。えへっ、残念でした」



 片目を瞑り、あざとい笑みを浮かべるとその場から姿を消してしまったのだから。



 えっ!?



「嘘だろ!!」



 どこに消えた!?


 この距離で見失うのはおかしいだろ!!



 月明かりを頼りに血眼になって灰色の髪を探した。




「――――。ここだよ??」



 不意に足元から澄んだ声が聞こえて来たので。



「……っ」



 ゴクンっと。


 大変硬い唾を飲み込み、視線を恐る恐る下げると。



「へへっ」



 そこにはちょこんとしゃがみ、笑顔で手を振って此方を見上げる彼女が居るではありませんか!!


 あの距離から一瞬でここまで来たのか!!




「でぇい!!」



 此方と視線が合うと同時。


 その場から御自慢の脚力を生かして恐るべき速さで飛び上がり。全体重を乗せた昇拳を顎先目掛けて放って来た!!



 やばい!!



「くっ……!!!!」



 咄嗟に上半身を仰け反らせ、急所を狙いすました拳を躱した。


 あ、危なかった……。



「あら――。今の避けるかぁ、レイドやるねぇ!!」


「そいつはどうも」



 戦いが楽しくてしょうがない様子だ。


 今も拳を合わせ、口元には軽い笑みが溢れている。


 この飄々とした感じ。


 マイとユウと気が合いそうだよね……。



 さて!! 仕切り直しだ!!



 再び距離を置き、矢を構えると。



 マイ達が居る方角から激しい衝突音が聞こえて来た。


 姿は闇に紛れて朧にしか見えないが、激しい火花が所々で飛び散り。姿が見えぬとも、あの光が激戦を物語っている。




「ん?? おぉ――。向こうも激しくやっているねぇ」



 此方の視線に気付いたのか、クルリと背を向けマイ達の戦いを呑気に観戦している。



 戦いの最中に背を向けるなんて……。


 呑気なのか、それとも余裕を表した態度なのか。



 流石に女の子の無防備な背中に矢を穿つのは気が引けるからね。


 このまま見の姿勢を保持しましょうか。



「ねぇ……」



 此方に背を向けたまま静かに話し掛けて来る。



「何だ??」


「どうして射って来ないの??」


「どうしてって……。そりゃあ、後ろから射ったら卑怯だからな」



 正々堂々と、敵と相対し勝利を掴む。


 うむっ、我が師匠が好きそうな言葉だ。



 己の芯の通った信念に満足気に頷くと、ルーの肩が小刻みに震え始めた。



「ぷ、ぷふっ。あ、あはは!! ひ、卑怯?? おっかし――!!」



 俺の言葉が笑いのツボに入った様ですね。


 こちらを振り向くと目に大粒の涙を浮かべ、腹を抱えて笑っていた。



「い、今時。そんな事考える人いないよ――!!」



「べ、別にいいだろ!! 俺の信念なんだから!!」



 く、くそう!!


 顔が熱い!!



「あ――。笑った……。ふふ、レイドって面白いね??」



 笑い過ぎて苦しそうだ、息が大分乱れている。


 笑わせるつもりはなかったのですがね!!



「人間……。ん――ぅ?? ちょっと違う感じも混ざっているの、かな?? 良く分からないけど、私達と話せるし。理由を教えてよ!!」



 勘がいいのか、鼻がいいのか。


 龍の契約について勘付いているのかも。




「さぁ?? それは秘密って事で」


「ふぅん。じゃあ私が勝ったら教えてね!!」


「勿論。でも……。勝てたらな」



 一つ大きく呼吸をすると、騒いでいた心を落ち着かせ再び弓を構えた。


 今度は外さない……。




「ここから先は本気出すからね?? ちょっと痛いけど我慢して??」


「安心しろ、我慢強さには定評があるんだ」



 常日頃から殴られ続けていますので、それ相応の痛みじゃない限り。悲鳴は上げない自信があります!!



「そう……。ならいいけど……」



 ルーが左手を翳し、精神を集中させると。宙に白き魔法陣が浮かぶ。


 そして強烈な圧が魔法陣から放たれると同時。


 彼女が白き魔法陣の中へと勢い良く手を差し入れた。









「白き雷よ!! 疾風の如く地を駆けろ!! その力、我が身に宿れ!! ヴァイスラーゼン!!」



 う、嘘だろ?!


 ルーも継承召喚が出来るのか!!



 白き魔法陣から出て来た左手の甲には、美しい純白の鋭い三本の爪が備わった鉤爪が装着されていた。


 切っ先は敵を確実に刺殺する為に鋭く尖り、一直線上に伸びたそれは肉を心地良く抉り。五臓六腑まで確実に到達するだろうと思わせる形状だ。



 これはかなり不味いぞ……。


 継承召喚は術者の力を増幅させる効果がある。それはマイ達を見れば一目瞭然。


 それの相手をしなければいけないのか!?


 絶望にも似た感情を胸に抱き、彼女の圧に気負い圧倒されてしまった。





最後まで御覧頂き有難う御座いました。


このまま執筆活動を続けますが、次の投稿は深夜になる予定ですのでもう暫くお待ち下さい。


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