第五十三話 対決!! 超大悪党 対 小悪党!!!!
お疲れ様です。
本日の投稿になります。それでは、御覧下さい。
柔らかい土に足を取られぬ様、注意を払う。しかし、それでも前方へ向かう体は全力に近い速度で駆け続けていた。
激しい運動によって肺が熱を帯び、体内で留まろうとする熱を冷やそうと新鮮な空気を荒い呼吸で取り込む。
マイの奴……。
何て速さだよ。こちとら全力で駆けているってのにもう見失っちまった。
闇の中から次々と現れる木の幹という障害物を躱し続けていると、漸く街道を捉える事が出来た。
「レイド!! 来たか!!」
颯爽と森を抜けるとユウが険しい面持ちでこちらを迎える。
荷馬車の側では新たな篝火が焚かれ、橙の光が周囲を優しく照らす。
明かりが届かない対面の森の中からは今にも化け物が出現しそうな雰囲気に、より一層警戒心を強めた。
「どう?? もう見えて来そう??」
荒い呼吸を整え、前方から視線を一切外さずに話す。
「まだです」
カエデが静かに、しかし警戒心を強めた声色を放ち森へと手を翳している。その手は淡い光に包まれていた。
索敵魔法、だろうか。
今暫く時間が掛るのなら……。
「ウマ子、今から戦闘が始まる。後ろの森で待機していてくれ」
『あぁ……。だが、大丈夫なのか??』
此方の身を案じてか、中々移動しようとしない。
「大丈夫。俺達は負けないからさ」
彼女の体に優しくそっと手を添えると、甘える嘶き声を上げてくれた。
『精々気を付ける事だなっ!!』
「有難う!! ―――――――。ふぅっ」
ウマ子を見送ると同時に気持ちを切り替え、五人全員が横一列に並んで迎撃態勢を完了させた。
「五つの魔力……。あの化け物級が五体も来るってオチじゃないよな??」
報告書、並びに此処に来るまでに得た情報から加味した結果。ティカで会敵した同類の可能性も捨てきれない。
あんな化け物が五体同時に現れるとか、勘弁してくれよ??
「その可能性はありません。恐らく、種族は特定出来ませんが魔物が持つ魔力を感知していますので」
はぁぁ……。良かった。
カエデの声を受け、強張っていた肩の力をふっと抜く。
「おら、ボケナス。気ぃ抜くんじゃないわよ??」
戦闘に備え肩をグルグルと回し、柔軟を続けているマイが話す。
「分かっているよ。皆、警戒を続けよう」
彼女の声を受け、刹那に緩んでしまった気持ちに平手打ちを放ち。
緊張の糸をしっかりと張り詰め直してやった。
誰かの呼吸を整える音。
逸る気持ちを抑える為、悪戯に大地を踏む音。
そして。
戦闘前のピンっと張り詰めた緊張感の中に相応しい音が不意に途切れた……。
「…………。来ます!!」
緊張感を持ったカエデの言葉から数秒後。
暗闇の中から五体の魔物が現れた。
黒みがかった緑の鱗、縦に割れた爬虫類特有の鋭い目付き。
険しい牙が生え揃う口からは長い舌を覗かせ、悪戯に空気を舐め続けている。空気を伝って届く生臭い吐息、それはまるで鼻先に野生の蜥蜴を押し付けられたみたいだ。
それもその筈。
現れた五体の魔物は二足歩行を可能にする蜥蜴、なのだから。
目測で約二メートル以上、大人を余裕で見下ろせる巨躯を誇り。その巨躯を支える足の筋力も体に比例して分厚い筋肉を纏っていた。
大木をも薙ぎ倒す事を可能に出来る太さの尻尾が腰から生え伸び。
鱗に守られた太い右腕の先には殺傷能力の高い鉈、手斧、長剣等をそれぞれの個体が所持している。
薄汚い腰蓑と、肩口までの鉄製の胸防具を装備し。
その内の一体は何故か真っ赤なマントを誇らしげに羽織っていた。
え、えぇっ!?!?
な、何!? あの生物は!!
先日の化け物の件もあって、早々驚かないとは考えていましたけども。
まさか、二足歩行の蜥蜴と会敵するとは思いませんでしたからね。
驚くのも致し方無いか。
「うっは。歩く蜥蜴ちゃんだな!!」
ユウが嬉しそうに驚きの声を上げる。
「摩訶不思議な生物がこの世には居るのですわねぇ……」
アオイの表情は特に変わってはいなかったけども、興味を引かれたのか。
全個体へと視線を送り続けていた。
「おい。殺されたくなければ荷物を置いてさっさと失せな」
手斧を持った一体の蜥蜴が、己の武器を悪戯にちらつかせながらこちらに歩み寄って来る。
肩で風を切る歩行に、ドスの聞いた声色。恐らく威嚇しているのでしょう。
蜥蜴さん達の巨躯もあってか、異常なまでに様になっていますね。
普通の人間が暗闇の中で蜥蜴さん達を発見したのなら、そりゃあ脱兎の如く逃げ出すでしょうねぇ……。
報告書並びに噂話から得た情報とコイツらの外見を照らし合わせてみると、ピッタリと当て嵌まるし。強奪犯は間違いなく、この蜥蜴さん……。
いや、悪党に敬称は不要だな。
蜥蜴達が真犯人って訳だ。
「人間相手に言葉は通じないって。適当に脅せば逃げ出すに決まってらぁ」
「ははは!! 違いねぇ!! この前の人間達は御笑い種だったな。逃げながら漏らしていたしぃ!!」
「「「ぎゃはははは!!!!」」」
既に勝利を確信したのか、五体全員が牙を剥き出しにして大笑いを放つ。
こいつら……。マイ達が魔物って気付いていないのか??
「はぁぁ――……。笑った……。――――――。んんっ!? こいつら良く見たら魔物じゃねぇか!!」
「嘘だろ!? こんな所で会うなんて珍しいじゃねえか!!」
おっそ!!!!
やっと気付いたか。
「ちょっと君達いいかな??」
一歩前に踏み出すと、マントを羽織った蜥蜴に話しかけた。
「何だぁ、てめぇ。ん――……。あぁ?? どっちだ?? 人間か魔物か分からないな」
ごめんなさいね?? 中途半端な存在で。
龍の力を分け与えられた話をすると、長くなってしまうので端折らせて頂きます。
「訳あって話せるんだ。それより君達だろ?? ここの街道を通る物資を強奪している野盗は」
「あぁそうさ!! ここは俺様達の縄張りだ。そこを通るからには荷物は全てコッチの物って訳よ」
さも当然とばかりに無茶な道理を話す。
「この先にある街の人達が、補給物資が届かないって困っているんだよ。強奪行為は止めてくれないかな??」
相手を逆上させないよう、丁寧に優しく話しかけた。
「それは無理な注文だ。何せ、ここを通る物資は俺様達の食い扶持でな。それを取り上げられたら空腹で死んじまうよ」
「いや、それなら狩り若しくは作物を育てればいいじゃないか」
「楽して稼ぐ方が、効率が良いって相場が決まっているんだよ。兎に角、ここを通る荷物は全部こっちの物だ。断れば……。力尽くで奪うぜ??」
駄目だ。
コイツ等、こっちの話を聞く耳すら持たないようですね。
盗人猛々しいとは正にこの事……。さて、どうしたもんか……。
「ちょっと、何下手に出ているのよ」
困り果て、決断に躊躇しているとマイが隣に並び蜥蜴達を一睨みする。
「全くその通りですわ。この蜥蜴さん達は、一度痛い目に合わないと分からないみたいですよ??」
アオイが険しい瞳で蜥蜴達を捉え続けている。
その両手には恐らく、クナイを既に装備しているだろう。
裾の中に両手を仕舞い。正面から見えないように手元が隠されているのが良い証拠だ。
静かにその時を待ち侘びる様にユウは拳を開いては閉じ。
カエデは冷静沈着に各個体の特徴を見定めている。
何か切っ掛けがあれば直ぐにでも激戦の狼煙が放たれてしまいそうだな……。
「おぉ!! 良く見りゃ色っぽい女がいるじゃねぇか!!」
俺とマイの後方。
後ろで待機し続けている三人に向かい、舌なめずりをしながら蜥蜴達が進んで行く。
「あの巨乳の女、アイツは俺が貰った!! うひょ――!! 超特盛じゃねぇかぁ!!」
「あぁ?? あたしに言ってんのか??」
蜥蜴と目が合うとあからさまに不機嫌な表情をユウが浮かべてしまう。
「その強気な態度もいいぜ。服ひん剥いて体中舐めまわしてやるよ!!」
「ヤレるものなら……。な??」
指の骨を二度三度鳴らし、今にも始まりそうな戦いに備えた。
「あの白い髪の女は俺が貰った!! ひゅ――!! 色っぽい体しやがって!!」
縦に割れた瞳でアオイの体を嬉々として舐め回す様に見ている。
「お生憎ですが……。この体は全てレイド様の物。蜥蜴に触らせる訳にはいきませんわ」
今にもクナイを投擲しそうな勢いですね……。
そして、いつから俺の所有物になったのですか?? 所有権は依然としてアオイに権利がありますよ
??
「あの藍色の髪の女!! 白いローブの下はどんな体付きなんだろうなぁ。肌も艶々でぇ、美味そうっ!!!!」
手の甲で口から零れる涎を拭き、厭らしい目を細めながらカエデの細い体を眺めてしまう。
気持ちは分からないでも無いけども、もう少し言い方ってもんがあるでしょうに。
「きっと見たら驚くと思いますよ??」
驚く程余裕な態度で蜥蜴に返事を返した。
「その透き通る声も気に入った!! 待ってろよぉ、今脱がしてやるから……!!」
三体の蜥蜴が意気揚々と進む中、取り残された一体の蜥蜴が彼等の背に向かい。
「お、おいおい。お前らちょっと待ってくれよ」
若干焦った声色で話し掛けた。
「は?? 何??」
「こちとら今から最高な夜を満喫するんだよ。邪魔すんな」
「はぁ……。はぁ……。藍色の髪の女ぁ……」
楽しみを不意にされた二体の蜥蜴が怪訝な顔を浮かべて立ち止まるものの。
カエデに狙いを定めた一体は今も足を止めずにいる。
下品な態度は海竜様を怒らせるだけですので、控え目にした方が賢明ですよっと。
「えっと…………。俺はこの女??」
深紅の髪の女性の頭頂部を指差して話す。
「まぁ……。うん、流れ的にそうなるな。アイツは男の相手をするとして……」
アイツと呼ばれるのは俺の正面に立つ、マントを身に着けている蜥蜴の事かな??
蜥蜴の言葉を聞き、マントの蜥蜴を見上げると俺の気持ちを察してくれたのか。
「……っ」
注意して見てみないと分からない位に小さく頷いてくれた。
あ、宜しくお願いしますね。
此方もそれに倣って小さく頷く。
「ふふん?? 私が良い女だからって手加減はしないわよ??」
片眉をクイっと上げ、さぁいつでも掛かって来いと挑発を続けているのですが。
どういう訳か。
マイの相手を務める蜥蜴は余り乗る気じゃないみたいであった。
「げぇ……、俺だけ外れかよぉ。こんな小さい女、相手にしてもつまらないぜ。誰か変わってくれよぉ。頼むってぇ」
こんな物、食えるか!! そんな感じでうぇぇっと長い舌を出してそっぽを向く。
おっと。
これは不味い、ちょいと離れますか……。
巻き添えを食らわない様に彼女から二歩後退した。
「いいじゃねぇか、我慢しろよ。俺達はこっちの相手をするからな」
あからさまに嫌がる一体を無視して、三体は彼女達の方へと進み始めた。
「ちぇっ。こぉぉんな!! 小さい女じゃ楽しめないっつ――の!! 胸も小さいし、背もちっこいし。尻も小せぇし……。 はぁぁぁぁ……。どこ見ても小さいしよぉ!!」
大きな溜息を付きあからさまに残念そうな態度を表してしまった。
し、し――らないっと!!
「あ、いや。胸は小さいじゃねぇな。全く無い!!!! だな!! ぎゃはは!! 俺が揉んでおっきくしてやろうかぁ?? あぁ??」
「全く、その通りですわぁ」
そして、アオイさん!!
便乗しないの!!
「おい…………」
わなわなと肩を震わせ、その振動がぎゅぅうっと握った拳にも伝わる。今にも天をも脅かす大噴火が始まりそうな勢いだ。
こ、これは不味い。更に今の位置から三歩離れた。
「あぁ?? 何だよ、小さい女」
無警戒でマイに近付き横柄な態度で見下ろしている。
わ、悪い事は言わない。
それ以上龍を刺激しない事をお勧めしますよ?? 命が惜しければね。
「八回……」
「はぁぁぁぁぁ?? 聞こえねぇよ?? チビ助」
ポツリと言葉を漏らす彼女に対し。
頭頂部の脇に生える尖った耳を傾けた。
「今ので……。九回……」
「何が九回なんだ?? はっきり言えよ、胸が真っ平らで残念無念の女」
「私を……。小さいって言った数だぁぁああああ!!!!!!!!」
「どぅぶぇぇぇぇぇ!!!!」
マイの右正拳突きが蜥蜴の腹部に直撃し、肉をブッ叩く鈍い音が破裂した。
蜥蜴が体をくの字に曲げ、森の奥へと目を疑う速さで吹き飛んで行く。
ど、どうやら龍の怒りを買ってしまったようですね??
「マ、マイ??」
彼女の逆鱗に触れない様、大変優しい声色で話しかけた。
「あ゛ぁっ!?」
怒りで我を忘れた顔の目には炎が宿り、吐息は怒気を含んで白く揺らぎ、口から覗かせた鋭い牙で相手を噛み殺す勢いに思わずひゅっと息を飲み込んでしまった。
仲間でも尻窄むこの表情……。
相当怒り心頭なのでしょう。
「殺しちゃだめだよ?? ほ、ほら、まだ聞きたい事があるからさ」
「それはあっちに聞いて。私の腹の虫が収まるまで殴り続けてやる……」
吹き飛んで行った蜥蜴を追い、大地を震わす様に歩いて行ってしまった。
こうなったら仕方が無い。穏便に解決する筈だったのに……!!
「皆!! くれぐれも命を奪う真似はするなよ!!」
正面の蜥蜴に対し戦闘態勢を整えた。
さぁ、開戦だ!!
「分かっていますわ。ほら、こちらですわよ?? 蜥蜴さん??」
「うひょ――!! 誘う仕草も堪らねぇ!!」
「仕方ない。ほら、さっさと来いよ」
「その胸、朝まで舐め続けてやらぁ!!」
「手加減……?? 分かりました」
「お嬢ちゃん!! 今から服を脱がせてあげるからね!! 痛くしないからぁ!!」
マイの攻撃が戦闘開始の狼煙となり、各々が一体の蜥蜴と対峙する。
俺の相手はマントを羽織った個体か。
一体どんな攻撃方法で仕掛けて来るんだろう??
「よう人間!! 俺様はなぁこの中でも一番の使い手なんだ!!」
自分の大きな鉈をこれ見よがしに、出鱈目に振り回す。
ふぅむ、一番ね。
相手の攻撃に備えて腰から短剣を抜剣し、腰を落として構える。
先ずは様子を見ようか。
「ほぉら!! 行くぞぉ!!」
右腕を大きく振り上げ距離を詰め、此方の体目掛けて鉈を振り下ろして来る。
予想通りの軌道を描き、それを半身で躱す。
鉈が目の前の空気を鋭く裂き、鼓膜に鋭い一撃音が届いた。
成程……。
右利きで重心の位置はあそこ……。
腕の振りの速さと腕の長さ、そして足の速さを加味すると相手の間合いはかなり広いな。
「ほぉ?? 良く避けたな。褒めてやる」
「そいつはどうも」
間合いを測り、相手の攻撃がぎりぎり届かない位置に足を置く。
コイツは攻撃が大好きな性格なのだろう。
今にも此方の間合いに飛び込んで来そうだし。次に合わせるか。
「まだまだ行くぞ!!」
そら来た!!
左足を大きく踏み込み右手で鉈を斜に振り下ろして来る。
それはさっき見たよ!!
右手の短剣で鉈を払い相手の懐へと、一気に飛び込み距離を消失。
「この……!!」
体が大きい分、俺と比べると小回りが効かない。
超接近戦を仕掛けられ、次に予想出来る攻撃は……。
「食らいやがれ!!」
武器を装備していない左の拳が此方の横面目掛けて放たれた。
当然、そう来るよな!!
「でやぁっ!!」
襲い掛かる巨大な拳を屈んで躱し、下半身の伸びあがる力と腕力の合力。
二つの力を加算させ、がら空きの脇腹に拳をお見舞いしてあげた。
「ぐぇっ!!」
手応えあり!!!!
拳に確かな硬い感触を掴み取る。その証拠に蜥蜴が苦しそうに脇腹を抑え、地面に片膝を着いてしまいましたからね。
今のは中々の動きだったな。
自画自賛じゃあないけども、師匠に見せたかったよ。
まぁ、見せたとしても絶対褒めては下さらないよね……。
「くっ……。膝を着くなんて、何年ぶりだ??」
「お、まだまだやる気だな」
「当り前だ!! 負けて堪るかよ!!」
脇腹を抑えて、苦悶の表情を浮かべて立ち上がる。
しかし、威勢とは裏腹にかなり息が上がっている。
これだけの体格を有しているのに勿体無いな。
「なぁ、もう少し走り込みしたらどうだ?? それだけの体付き、体力を付けないと無駄になるぞ」
「え??」
こちらの提案に驚いているようだ。
数度瞬きをすると警戒を解き、話を聞く姿勢になってくれる。
「今の攻防で色々分かったんだけどさ」
「うん??」
「先ずいきなり自分の武器を振り下ろすのは良くないと思うよ。俺が見の姿勢を取っていたのは分かっただろ??」
「あぁ。俺様にびびったんだと思ってさ」
両手を腰に当てて、ムンっ!! と胸を張って話す。
「はは、違う違う。君との間合いを測ったんだよ。腕の長さと鉈の長さ、そして足運び。最初の一撃で大体の間合いを掴んで」
「ふんふん」
興味津々といった感じでコクコクと頷いている。
「それで二撃目で飛び込んだんだけど……。どうしてか分かる??」
「ん――。殴る為??」
「正解に限りなく近いよ?? お互いの得物の差、間合いの差。 それらを加味した結果、近付かなきゃ話にならない答えに至ったんだ。 小回りが効く分、俺は超接近戦に勝るからね。その為に隙を伺い、間合いを測っていたんだ」
あ、不殺を心掛けているって事伝え忘れちゃった。
拳では無く、短剣を突き刺せばもう既に命を奪えていますからね。
「へぇ。色々考えて戦っているんだな」
「君達とは違って俺は地力で劣るからね」
腕を満足気に組んでしみじみと頷く蜥蜴にそう言ってやった。
こっちの話を真剣に聞いてくれるので、案外良い奴なのかもしれない。
悪党なのに良い奴ってのは矛盾しますけども。
「そうかぁ。じゃあ距離を取れば俺様の勝ちだな!!」
すると、接近戦を諦めたのか。随分と離れた距離を取る。
「ふふふ。こうして待てばお前は俺様の下へと飛び込んでくるしかあるまい。そこを迎え打ってやる!!」
「そう!! 良く考えたな」
指南を受け直ぐに実行。
やっぱり素直な性格で良い奴じゃないか。
「や、やかましい!! さぁ……。来い!!」
う――ん。龍の力を解放して愚直に攻撃を掻い潜って、もう一発ぶち込んでやってもいいけど。時間も惜しいし。
ちょっと可哀想だけどけりを付けるか。
「よっこいしょっと」
背から弓を取り、蜥蜴に向けて構えた。
「お、おい!! ずるいぞ!!」
弦を引き、慌てふためく蜥蜴の足へと照準を定める。
「ごめんね??」
弦を放つと同時。朱の矢は地面と水平に美しい軌道を描き、蜥蜴の右太ももへと着弾した。
「いってぇ!! 何だこれ??」
「抗魔の弓って奴でさ。安心して。変な毒とか塗ってないから」
「ち、力が抜け……」
そう言うと膝から地面に崩れ落ち、そのまま意識を失ってしまった。
ふぅ、馬鹿正直な奴で助かった。
さて!! 皆の戦況はどうなったかな!?
大勝利の様子を期待して、皆の方へと振り返った。
「レイド様。この蜥蜴の処遇如何いたしましょう??」
「ん――っ!! んん――っ!!!!」
アオイの足元にはドデカイ蚕の繭がビッタンビッタンと上下に激しく揺れ動き。
「なぁ――。頭から埋めるのは不味かったか??」
「…………」
ユウの背後には上半身だけ地面に埋まり、見るも無残な姿に変わり果てた葱が細かく痙攣し続け。
「手加減して半生にしておいた」
「…………。クポッ」
カエデの足元には失敗した料理の具材の様な煤に塗れた塊が口を開き、体内で温められた白い息をポフっと吐き出した。
あ、あはは。
酷い有様ですね……。
もう少し手加減してあげなさいよ。
さて、残るは狂暴な龍か。
「マイの奴はどうなった??」
静まり返った闇の奥へじぃっと目を凝らしていると……。
「…………。呼んだ??」
随分とスッキリ!! とした面持ちで。
蜥蜴の尻尾を引きずりながらこちらへ向かって歩いて来た。
蜥蜴の顔を恐る恐る伺うと……。
「う、うわぁ……」
元の顔が分からない位腫れ上がり、それはまるで顔面に葡萄の房が生えたみたいになってしまっていた。
「お、おい。殺してないよな??」
矮小な呼吸音は捉える事は出来るけど、万が一って事があるし。
「安心しなさい。生まれてこの方体感した事のない恐怖を顔面と魂に刻み込んでやっただけだから」
勝利を彩るかの如く、蜥蜴の尻尾を乱雑に放り投げた。
こいつが一番の被害者だな。
これで懲りたでしょう?? この龍を怒らせたら本当に大変な目に遭うんですから。
「ふぅっ。もうちょっと暴れたい気分ね」
額にちょっとだけ浮かんだ汗を拭う恐ろしい龍を見続けていると、闇の中から女性の声色が此方に届いた。
「――――。良くもやってくれたねぇ」
柔らかい黄緑色の髪を肩まで伸ばし、歩く度にそれが左右に揺れ動いている。
切れ長の目にすっと流線を描く眉。
少しだけ冷たい印象を与える顔立ちだが、どこか気品を感じさせる雰囲気でもあった。
胸元大きくを開いた黒色のシャツに、女性らしく細くてしなやかな両足であるが……。
その実、大地をしっかりと捉え重心が一切ブレていない。歩く所作だけでも武に通ずる者であると此方に警戒を抱かせた。
恐らく、カエデの言っていた大きな魔力を持つ魔物はこの人の事であろう。
向こうは数で劣るというのに、余裕な態度と意味深な笑みを浮かべている女性に対し。警戒心を持ったまま対峙した。
最後まで御覧頂き、有難う御座いました。
本日も生憎の雨。荒天の地域もありますので気を付けて連休を過ごして下さいね。