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第五十二話 海老で愚者を釣りましょう その二

お待たせしました!!


後半部分の投稿なります。


それではどうぞ。




 星の瞬きが夜空を彩り、夏の夜風がふっと通り過ぎて行くとちょっとだけ火照った体を冷ましてくれる。


 上空に浮かぶ星と月、地上にそよぐ風。


 私は素晴らしい舞台上で、此度の話の最高潮を迎えた!!




「そういう訳で私は命辛々、無事に森から生還出来たのよ!!!!」



 さぁ、拍手!!


 喝采を迎える為、勢い良く両手を広げるものの。



 私に拍手を送ってくれたのは矮小な虫達の歌声だけであった。




「――――。あれ?? 寝ちゃった??」



 待ち望んでいた素晴らしい喝采が送られて来ないのでボケナスの方を見ると、倒木の上で腕を組み器用に眠っていた。



 コック、コックと器用に眠るもんだ。



 私は無理かなぁ。


 どちらかと言えば寝相は良くないらしいし?? こんな体勢で眠る位なら龍の姿に変わって寝るわよ。



 しっかし、まぁ…………。良く眠ってる。寧ろ、寝過ぎ??



 野盗が近くにいるかも知れないのに気を抜き過ぎじゃないの?? 


 でも、それを裏返すと。私を信用してくれているって事になるのよね。



 安心して眠る顔はまるで、母親の胸に抱かれて眠る赤子の様に完全無欠の無防備な寝姿であった。


 そう、全身隈なく無防備…………。



 その姿を発見してしまった所為で私の中に眠っていた悪戯心がズババっと覚醒し、この状況をどう扱うか。


 善の心と悪の心が戦いを始めてしまった。





『か、彼は疲れているの。そして貴女の事を信じているからこそ安心して眠れているのよ?? だ、だから。ゆっくり休ませてあげて??』


『勝手に眠る方がわりぃんだよ。私自身の楽しさを優先して何が悪いんだ!?』


『か、か、彼の体を労わるのは友達の務めです!!』


『はっ!! くっだらねぇ!! この御時世、強けりゃ何でもヤっていいのさぁ!!』


『や、止めてぇ!! きゃ――――!!!!』





 善、よっわ!!!! びっくりする位よっわ!!!!



 善の心は地平線の彼方へと飛翔していき、勝負は一瞬で決着。


 地面に落ちている小石を拾い、開きっぱなしのボケナスの口の中にさり気なく入れてやった。



「…………。くぺっ」



 異物を感じたのか、直ぐに小石を吐き出してしまう。



「ぷっ……。くくっ……」



 面白っ!!


 無防備で安らいだ顔だったのに急に顔を顰めちゃってまぁ――。


 腹筋に力を籠め、必死に笑い声を上げるのを堪えてやる。今起こしてはこれからの楽しみがおじゃんになっちゃうからね!!



 よぉし。次は鼻を摘まんでやるか。


 ばれないようにゆっくりと……。確実に鼻を指で摘み呼吸を遮ってやると。



「はふ……。ふがっ」


「ぐっ……。ぷふっ……!!!!」



 予想通りの反応がかえって、私の笑いのツボを刺激してしまう。


 全く、どんくさい奴め。けどこうして隣であほ面下げて寝れるって事は私の事を信用してくれている証拠よね。


 流石に悪いかな??




『ただいまです――!!』


『帰ってくんなぁ!!』


『そうですっ。ゆっくり寝かせてあげるべきのですよ?? 悪い心は去るべきなのですっ!!』


『張り倒すぞ!? おらぁ!!』




 善の心が戻って来て、悪の心と取っ組み合いを開始。


 今度は予想以上の善戦につき、これ以上の悪戯行為を躊躇してしまっていると……。




「んっ……」



 何んと、ボケナスが私の膝の上に倒れて来るではぁありませんかぁぁああ!!



 誠に遺憾ながら膝枕をする形になってしまった。



「ぬっ!? き、貴様。どこに頭を……」



 右の拳に力を籠め、鼻の筋にブッぱなそうとするのだが……。




『駄目ですぅ!! 寝かせてあげなさい!!』



 ちっ、しゃあねぇな。


 善の心ちゃんに拳を止められてしまった。



 まぁ――、でも。この安心しきって寝ている顔を見ていると、起こす気も失せて来るわね。



 このまま寝かせてやっか、私は優しいのだ。


 偶には大目に見てやるべきだな、うん。



「……」



 軽い寝返りを打ち、ボケナスが仰向けになると。見下ろしている私と目が合う。


 正確に言うと、コイツは目を瞑っているのだが……。兎に角、そういう形になってしまったのだ。



 膝に当たる雑魚男の温かい感覚、優しい息遣いを見ていると何故か体温が上昇するのを感じた。



 その姿を何とも無しに眺めていると、無意識の内に彼の頬に手を添えてしまう。




 な、生意気にも温かいじゃないか……。


 温もりを放つって事は生きている証、か。


 あんたはちょっと無理し過ぎ。折角、二度目の人生を与えてあげたんだから適度にサボレっつ――の。


 倒れても知らないわよ??




 自分が何故こういった行為に及んだのか分からなかった。そうするのが当然というか、自然と心が体を動かしたと言えばいいのかな??



 素直に手を添えている自分に恥ずかしさを覚えるのと同時に驚きを覚えてしまう。



「ん……」



 本当、馬鹿面しちゃって。


 今はどんな夢を見ているのだろう。ご飯の夢?? 友達の夢?? 遊んでいる夢??


 それとも……。ううん、これは私の我儘かな。



 もっとアンタの事が知りたい、私の事をもっと知って欲しい。


 幾つかの感情が心の中で渦巻き、複雑に絡み合い私の体温を上昇させる。



 これは……。何?? 


 私はこの感情を持つことに戸惑った。


 どうしていいか分からないからだ。

 


 暖かくて時々痛くて、苦しくて……。でも、それが全然嫌じゃない。こいつと居るとそれが毎日大きくなっていくのを感じていた。



 どうしよう、これからどうすればいい??



 アンタ、私に教えてくれる?? 私には理解出来ないよ。



 気が付くと私は彼に向かって顔を近付けていた。


 抑えきれない感情によって体が無意識の内に強制的に動かされている感覚だ。




『きゃ、きゃぁ!! 破廉恥ですよ!!』


『良いじゃねぇか。ガブッ!! といけ!! ガブッと!!!!』


『彼は食べ物ではありません!!』



 食べ物、か。


 あ、あはは。我ながら陳腐な発想ね。



 抗えぬ行動を続けていると、心臓が張り裂けそうなほど鼓動を早め。


 その音が外に漏れているのでは無いかと心配してしまう程の早さでトクトクと頭の中に鳴り響く。



 彼の温かい吐息が顔に当たる。それが心の中の何かを加速させてしまった。



『イケ!! イケェッ!!』


『だ、駄目……。でもないですけど……。パクっとなら?? 構いません、よ??』



 善の心と悪の心も共に賛成しているし。


 もうどうなってもいいや。



 私は彼との距離を零にする為、突き動かされる衝動に体を完全に預けた。












































「………………。何をしていますの??」


「フォンバラビッダンゴ!?!?」




 蜘蛛の声が突然聞こえて来たので自分でも首を傾げたくなる声を放ち、大きく飛び上がってしまった。


 そして、その反動受け。ボケナスが地面へと落下してしまう。



「な、な、な、何であんたがここにいるのよ!!」



 び、び、びびったぁ!!


 人生でこれまで驚いた事は無いわよ!!


 驚きの余り涙目になってしまい、穴という穴から羞恥の水が溢れ出しまった。



「レイド様が中々戻らないと思って来てみれば。こんな所で……。全く、油断も隙も無いですわ」



 お前には言われたくない。


 そう言いたいのをグッと堪えた。


 今しがた自分が行おうとしていた行為を鑑みると何も言い返せないからね。



「ん――……。寝ちゃったか。あれ?? アオイ??」



 ボケナスが地面から起き上がり、眠気眼を擦る。



「お早うございます、レイド様」


「お早う。といっても……。まだ夜か。 マイ、済まない。話の途中で寝ちまった」



「か、構わないわよ。さ、さて見張り見張りっ!! はぁ――。いっそがしいなぁあ!!」



 自分の焦りを悟られまいとクルっと振り返ってボケナスに背を向け、前方へと歩み始めた。




 今はきっと、焦って漏らしそうになっている鶏みたいな歩き方をしているのだろうさ。




「なぁ。あの歩き方どうしたの??」


「さぁ?? 歩き方を初めて覚えた御猿さんなのでは??」



 危なかった……。


 もう少しでアイツと……。




『皆さん、聞こえますか??』



 むっ。


 カエデの念話だ。



『どうしたの??』



 速攻で返事を返す。



『レイド達が監視している森の反対側から、いくつかの魔力がこちらに向かって来ています』


『数は幾つ!?』



 いやっほぉぉぉぉおおおおいい!! 来た来たぁぁああああああ!!!!


 戦の始まりだぁぁいっ!!



 カエデの作戦通りに釣れたわね!!



 会話を続けながら猛烈な勢いで道沿いへと駆け出した。



『小さい魔力が五つ、それと……』


『それと!?』


『その五つからちょっとだけ離れた位置に大きな魔力を一つ感知出来ます』


『子分と親分のお出ましって訳!? 直ぐに到着するわ!!』




 私が駆け始めると同時。


 ボケナスと蜘蛛も私の直ぐ後ろに付いて走り続けていた。



「ボケナス!! 今の聞いた!?」


「あぁ!! いよいよって訳だな!!」



 少しだけ緊張しているのか、若干表情が硬いわね。


 ここは一つ、カッコイイ私が励ましてやりますかね!!



「大丈夫よ、私に任せなさい!! ど――んっと大船に乗った気持ちでいなさいよ!!」



 口角ニッ!! と上げ。


 ユウばりの快活な笑みを浮かべてやった。



「それを言うなら泥船では??」



 ちっ。


 鬱陶しい蜘蛛め……。一々要らぬ一言を添えやがってぇ。



「はぁ?? 誰に物を言ってんのよ??」


「そこの泥船さんにですが??」



 こ、こいつ!!


 いつかどっちが上か、拳と拳を交えてはっきりさせないといけないわね!!


 ぜってぇ負けねぇし!!


 私が世界最強なんだから!!



 猛った感情を脚力に変え、風をも超える速さで暗き森の中を疾走する。


 待っていなさいよぉ?? 悪い子ちゃん達ぃ。


 本物の大悪党がぁ間も無く登場しますからねぇ!!!!


 ウェッハハハハァ!!!! 人生で味わった事の無い恐怖と痛みを、悪い子ちゃん達の魂に刻み込んでやらぁああ!!





最後まで御覧頂き誠に有難うございます。


この御盆期間中は執筆活動に力を注ぎます。期間中にこの御使いの御話を終えるつもりですので、今暫く御話にお付き合い下さい。


生憎の天候ですが、体調を崩さない様に気を付けて下さいね。

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