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第五十話 試行錯誤は慎重に

お疲れ様です。


本日の投稿になります。ごゆるりと御覧下さい。




 乾いた地面の上を車輪が通り小さな轍を作る。


 己の足で土を踏み固め、永遠に続くかと思われるこの作業を繰り返し北へとひた進む。


 いい加減見飽きた地面から視線を移すと。西の地平線には俺達を眺めながら太陽が大欠伸を放ち、もうそろそろ休んでは如何ですか?? と。


 此方を労う柔らかい風がさぁっと吹き、草々が揺れて夏の青臭い香りを鼻腔に届けてくれる。



 一日の終わりに相応しい光景に酷く落ち着いた気分を抱いてしまった。



「ふわぁ――。あ゛ぁ……。疲れた」



 ユウの頭の上。


 顎が外れん勢いで口を開き、むにゃむにゃと唇を波打たせる深紅の龍がポツリと愚痴を漏らす。



 ほぼ同じ光景と作業の繰り返しに飽きてしまった彼女の意見に至極同意しかけるのですが……。



「飯の時以外はサボっている奴がよく言うよ」



 速攻でユウの意見に鞍替えし。



「そうだぞ。少しは荷物を背負って皆の負担を軽減しろ」



 彼女の意見を全面的に支援してあげた。



「嫌よ!!」



 左様で御座いますか……。


 これ以上意見を進呈したら余計な痛みを受ける恐れがありますので、不必要な言葉を投げ掛けるのは止そう。




「出発して二日、か。最終補給地点までは残り……。カエデ、凡その距離は分かる??」



 少し前を行く荷馬車の御者席に着く彼女に問うた。



「この調子ですと……。後八日といった所でしょうか」



 右手で手綱を取り、膝元に広げた地図を確認した後に現在位置を告げてくれる。


 カエデも随分と馬を操るのが板について来たな。良い傾向ですよ。



「八日かぁ。まだかなり距離を残しているなぁ……」



 少しばかりの溜息を吐き、ユウが寂し気な顔を浮かべている太陽へと顔を動かした。


 深緑の髪が風に揺られ、目に掛かった前髪を右指でそっと払う。


 少しばかり気怠く映るその表情は憂いを帯びており。



「ふぅ……」



 小さく吐息を漏らす様は女性特有の嫋やかさを醸し出していた。



 健康的な肌とは対照的な表情についつい見惚れてしまいますよ――っと。



「ん?? どうした??」



 俺の視線に気付いたのか。


 此方に顔を動かし、いつもの快活な笑みを浮かべて問う。



「四日の行程を二日で踏破出来たんだ。そこまで長く感じる事は無いって」



 何気無く浮かべた表情に思わず驚き、そして魅入っていたとは言えまい。


 彼女の顔の感想とは真逆の答えを話してあげた。



「レイド、そろそろ夜営の準備を」



 カエデが御者席から、街道のずぅっと奥に生える一本の木を見つめて話す。



 夜営の設営って思ったより時間が掛るし、日が暮れると更に時間が掛るからねぇ……。


 いつも良い時間を見計らって教えて頂き、非常に助かります。



「おっしゃぁ!! 夜御飯よ!!!!」



 賢い海竜さんの一言を受け、愚かな龍が木の麓へと飛翔して行く。



「こういう時だけは行動が早いんだから……」



 多くの者達が踏み均した茶の街道から、雑草が生える緑の大地へと足を乗せ誰とも無しに愚痴を漏らす。



「レイド様?? 食料を無駄に減らしてしまう愚か者は捨て置いて、私と二人で進みません事??」



 右肩にピョンっと留まった蜘蛛さんが複眼で此方の顔を捉えて言う。



「捨てるにも放棄する場所が見当たらないからね」



 朝早くに起床し、此の地に置いて行っても。数時間後には追い付かれ、下顎と上顎が仲良く抱擁を交わす羽目に遭うからなぁ。


 それならまだしも。


 黄金の槍で体を貫かれるやも知れぬ。


 人生で二回も槍で体を穿たれたくはありませんから……。


 ちっとも嬉しくない稀有な経験は是非とも一度きりで、そう願いたいのが本音です。



「ちょっと!! 何、チンタラ歩いているのよ!! 走って来いやぁぁああ!!」


「お前さんが速過ぎるんだよ」



 木の麓に到着し、ずっしりと重い背嚢を地面に下ろしつつ話す。



「龍は力強く、そして速いからね!! そう褒めなくても良いのよ??」



 褒めているのは無くて、どちらかと言えば皮肉です。



「んで?? 今日のご飯は何!?」



 ご主人様から餌を待つ子犬の様に。


 己が今現在どういった感情を抱いているのかを他者に対して、左右に激しく揺れ動く尻尾で非常に分かり易く表現してくれる。



 尻尾、取れちゃうよ??



「野菜のスープとパンかな??」



 カエデの魔法の力で長期間の保存を可能にしているとはいえ、腐り易い物から早く消化しないとね。



「え――。野菜じゃ力が出ない」



 また文句を言って。



「いいか?? 俺は皆の体の事を思って出来るだけ栄養が偏らないよう。食事には気を付けているんだ」



 遅れて到着した荷馬車から木箱を下ろして開け。


 現れた氷の棺の中から野菜を取り出して話してやった。



 外は夏なのに木箱の中は真冬ときたもんだ。


 本当、便利だよなぁ。



「まぁ、レイド様。私の体をそれ程に強く想っているのですね……。お好きなようにして下さっても構いませんわよ……??」


「アオイ、毛が痛い」



 大分慣れては来ましたが、むず痒いのは我慢出来ない。


 今もチクチクした毛が首筋に当たり皮膚を悪戯に刺激しているので、やんわりと押し退けて話す。




「んふっ。慣れれば快感に変わりますのよ??」


「きっしょ。おら、さっさと飯を作れや」


「レイド様っ!? お聞きになられましたか!? だ、断崖絶壁が嘆いていますわよ!?」


「あぁっ!? きったねぇ毛を燃やすぞごらぁ!!!!」



 またこの流れ、か。


 下らない喧嘩が始まる前に指示を与えましょう。



「マイとユウは天幕の設置、それが終わったら火を起こしてくれ。カエデはウマ子の世話。アオイは俺と夕食の準備。皆さん!! 疲れているかと思いますが、滞りなく作業を進めましょう!!」



 覇気ある声で指示を与えると。



「「はぁ――――いっ」」



 深緑の髪の女性と、ずんぐりむっくり太った雀が随分と間延びした声で答えた。


 お嬢さん達?? もうちょっと、元気良く答えましょう??



「レイド様、宜しくお願いしますわね??」


「此方こそ」



 人の姿に変わったアオイに対し、一つ頷き。


 今晩の夕食の準備を開始した。



 人参、キャベツ、ジャガイモ……。


 ふぅむ。冷たい空気で保存していたお陰もあってか、保存状態は思ったよりも良いね。


 一口大に刻んで鍋に投入。醤油と塩でスープにすれば満遍なく栄養が摂れるな。



「レイド様、こんな感じで宜しいですか??」


「うん、上手。アオイも包丁の扱い方が様になって来たよね」



 作業を続ける此方の隣。


 見様見真似で野菜を切り分けて行く彼女の姿を視界に捉えて話す。



 元々刃物の扱いに長けているアオイだ。


 持ち前の器用さを生かし、少し指南するだけで直ぐに覚えてくれるのは大変有難いですよ。



「うふふ。レイド様の指導の賜物ですわ」


「俺は何もしていないよ。アオイが器用なだけだって。料理は習わなかったの??」



 蜘蛛の里を統べる女王様の娘。


 一族をより良き方向に導く為に厳しい指導を受けていたと以前伺ったが……。流石に料理までは習っていないだろう。



「習う必要がありませんでしたので、料理は習っていませんわ。恥ずかしながら、簡単な物しか作れませんわね」



 やっぱりそうだったんだ。



「まぁ、それが上に立つ者として当然なんだろうさ」



 俺みたいな超庶民には理解し辛い感覚ですけども。



「ですが、花嫁修業修行の一環として習うのも悪くは無いと考えに至り。レイド様の料理方法を見て勉強させて頂いております。 そして!! いつかはレイド様の舌を蕩けさせてみせますわ!!」



「はは。その道は長く険しいぞ」



 料理は一朝一夕で上達する訳ではない。


 心と体を鍛えるのと同じで、毎日の積み重ねが大事なのですよ。



「んふ。精進致しますわね」



 作業を止め、澄んだ黒き瞳で此方を捉えると。


 右手をスススっと伸ばし、此方の左手に甘く絡めてしまった。



「危ないから止めて」



 刃物を扱っているので指先を切ってしまう恐れ。



「おらぁ!! 天幕の設置は終わったから早く飯を持って来やがれっ!!」



 恐ろしい龍からの攻撃による負傷。



 この二つの結果を加味した声を放つ。



 やんわりと複雑に絡み合った指を解き、作業を続けていると。



「もう少し待てよ。今下拵えを……いつっ!!」



 左手の人差し指を包丁でざっくりと切りつけてしまった。


 久々だな。包丁で指を切るなんて。



「いって――……」



 結構深く切っちゃた……。


 真っ赤な液体が重力に引かれて零れ落ち地面の緑に一つ、二つ。僅かな雫の後を残す。



「レイド様、お見せください」



 アオイが、心配そうな声を上げて俺の手を取る。


 その手は少しだけひんやりと冷たく、そして綿雲のように白くて柔らかい感触が指先に感じた。



「ん……」



 何を思ったか、俺の指を取ると……。


 そのまま己が口へと運んでしまうではありませんか!!



「ちょっと!!」




 慌てて横着な口の中から指を引き抜く。



 び、びっくりしたぁ……。



 生温かい唾液と舌が一瞬だけ、指に絡みついて気が気じゃ無かったよ。




「はぁっ。ご馳走様でした」


「食べ物じゃないって」



 冷静且端的に的確な言葉を送るものの、まだ心臓の音が五月蠅いや。



「消毒ですわ。蜘蛛の唾液には消毒作用もありますので……」



 そ、そうなんだ。


 此方を見つめる潤んだ瞳から逃れ、己が羞恥を誤魔化す様にそっぽを向く。



「そんな訳無いでしょ。あんたは何でもかんでも直ぐ信用するな」


「いや、でも魔法とか使えるし。それくらい出来ても不思議じゃないかと……」



 チラリと指先を確認すると、まだ出血が止まっていないので。


 何気なく、そしていつもの通り。


 指先を負傷した時に行う民間療法を実践した。



「あっ!!」


「どふぃた??」



 マイが俺の民間療法を見て目を丸くしていた。


 口に指を入れたまま話したものですから、変な言葉になってしまいましたよ。



「べ、別に!! 出血が止まったら早く御飯を作りなさい!!」



 悪魔も尻窄む恐ろしい瞳で俺の顔を睨みつけそのまま火の元へ行ってしまった。一体なんだったんだ??



「レイド様と私の唾液がぁ、淫らに絡み合ってぇ……」




「何か言った??」


「いいえ?? 御気になさらず」




 よし、出血も止まったし。調理を再開しますかね!!


 煩悩を振り払い真面な気合を注入。


 まな板の上で待機を続ける野菜達と熾烈な格闘戦を再開した。


























 ◇







 薪が乾いた音を奏でると、蛍の光よりも小さな朱の点が宙を漂い満点の星空へと昇って行く。


 燻ぶる煙が放つ体を弛緩させる香り。


 炎の揺らめきが心を潤し、夜風が昼の疲れを拭い去ろうと優しく流れ、何処からともなく聞こえて来る虫達の細やかな歌声が酷くこの雰囲気に合っていた。



 食事を終えた各々はこの素敵な静寂を満喫し、思い思いの姿勢で享受しているのですが……。



「ガッホッ!! ボッフゥゥ!!!!」



 若干一名だけは素敵な雰囲気よりも、目先の食を取ってしまった様ですね。



 木のお椀にこれでもかと盛られたスープにガっつき。



「はむぐっ!! フンフンッ!!!!」



 若干硬めのパンを噛み千切り、御自慢の咬筋力を生かし。バラバラに噛み砕いてゴクンと飲み終え。


 そして、再び木のお椀に小さな唇をくっ付け食を再開させてしまった。



 もう少しお行儀良く食べなさい。




「良く食うなぁ……」



 その様子を寝っ転がって眺めていたユウが呆れた顔で話す。



「こんなの食った内に入らないわよ??」



 でしょうねぇ……。


 アイツが本気を出したら俺達の食料は数日の内に龍の胃袋の中へ綺麗見事に収まってしまうだろうから……。



「ご馳走様でした!! あんたの料理も中々上達して来たじゃん」



 ケプっと。


 可愛い吐息を漏らした後に龍の姿に変わり、こんもり盛り上がった腹を抑え満足気に寝転がっていた。


 腹を満たし、尚且つ味にも満足が行った時にする構えだ。


 喜んで頂き光栄です、しかし……。



 コイツの舌と腹を満たして満足する様じゃあ俺もまだまだだな。


 更なる精進の為に気を引き締めましょう。



「そいつはどうも」



 緩みそうな表情を堪え、冷静を努めた顔と声でそう言ってやった。



「その腕前ならいつでも嫁入り出来るぞ」



 ユウの揶揄う声が焚火越しに聞こえて来る。



 俺はいつの間に性転換を果たしたのだろうか??


 それを言うなれば、婿入りです。



「レイド様?? 私はいつでもお待ちしていますわよ??」



 大変柔らかいお肉の山に右腕を埋めてしまいましたので。



「左様で御座いますか……。っと!!」


「んぅっ。擦れ具合がっ……」



 少々乱雑に引き抜き、皆の食器を片付けながら言ってやった。


 と、言いますか。擦れ具合って何。




 しかし……。


 我ながら今日の料理は上手く出来たと思う。野菜の甘味を生かし、塩気で味を引き締める。


 野菜の栄養もスープにしてしまえば全て体に吸収出来るので。偏った栄養を補う為にはもってこいだ。


 ユウの母親、フェリスさんが提供してくれたあのスープの味には足元にも及びませんけどね。



 カエデが満たしてくれた水を利用し、食器洗いに専念していると。どうやらいつもの自主練習が開催されそうな雰囲気へと変わり始めた。




「ユウ!! 食後の運動に行くわよ!!」


「ん――」



「アオイ、魔法の練習に付き合って」


「畏まりましたわぁ」



 切磋琢磨して高みへと昇る。


 実に仲間とは素晴らしき存在ですよねぇ……。



 強烈な打撃音と、魔力による閃光が迸る中。しみじみと頷きつつ、食器を洗い終えてフォレインさんから頂戴した抗魔の弓を手に取った。




「今日は弓の練習といきますか」



 毎日拳ばかり鍛えていると、偏っちゃうし。


 でも、師匠がこの姿を見たら怒るんだろうなぁ。



『こ、この馬鹿弟子め!! 弓に頼るなど、言語道断!! 極光無双流の名を名乗るなら、弓は捨て置けい!!』



 そうそう。


 背後に生え揃った八本の尻尾がピンっとそそり立って怒るんだよ。


 その時の圧と来たら……。五臓六腑が悲鳴を上げて体内から逃げ遂せようとする位ですからねぇ。


 ですが、師匠。


 俺はこれに頼らざるを得ない時がありますので、御勘弁して下さい。



 弛まぬ努力こそ高みへと昇る近道。



 本日も頂へと繋がる険しい道に己の歩みを刻む為、何も存在しない空間へと矢を穿つ。



「ふんっ!!」



 力を込め、雑念を払い、呼吸を整え、遠くへと矢を射る。


 矢は美しい軌道を描き、空気を切り裂く音を奏でながら闇の中へと消失した。



 う――ん……。



 扱い始めた頃よりかは、放てる数。並びに威力も上昇したと考えているのだけど。


 激しい戦闘下で相手は此方の思い通りに立ち止まってはくれない。


 素早さを得意とする敵が出現した場合。


 弓を構えたまま接近戦になると後手に回ってしまうのが課題なんだよなぁ。











 ――――――。



 この矢、弦から手で引き抜けないか??


 超接近戦を制する為。咄嗟に弦から矢を外して相手に突き刺し、制圧する。悪くはない案だ。



 今まで浮かんで来なかった発想がぬるりと首を擡げて出現。


 それに従い、物は試しじゃあないけど。


 力一杯引いた後、徐々に弦を緩め。人差し指と中指を器用に扱って弦から矢を取り外すと……。



「おぉっ!!!! 残ったままだ!!」



 指に感じる熱さはそのまま。


 朱に染まった矢が消失せずに俺の指の間に存在し続けてくれた。



 これは良いぞ。


 後は効果を確認するだけだな。




「レイド、どうしたの??」



 カエデが額に浮かんだ汗を拭いつつ、こちらにやって来る。



「この矢を弦から引き抜いてさ。接近戦になった時、相手に突き刺せないか考えていたんだ」



「その矢はレイドの力を魔力に変換した物ですからね。消失しないのは当然ですよ」


「そうなんだ。でも、俺の腕から相手に直接突き刺す場合。弓の効果が消えちゃう恐れもあるよね??」



 抗魔と呼ばれるからには相手の魔力に抗う力を持つ。


 結界を打ち砕いた事がそれを証明しているけど、その効果が消失してしまったら余り意味が無いし。



 賢い海竜さんに素朴な疑問を投げ掛けてみた。



「それは実際に見て見ない事には分かりませんね」


「そっか……」




 何でも知っている訳ではありませんでしたか。




「何でも知っていると思ったら大間違いですよ」



 俺の心を完璧に読み。きゅうっと眉を顰めて叱られてしまいました。



 ごめんなさい。以後、言葉には気を付けますので睨むのを止めて頂けますか??




 さて、どうやって効果を試そうかと考えていると。



「親ネズミの御馳走を奪って叱られた子ネズミみたいなシケタ面して、どうしたのよ??」



 マイがこちらの様子を窺いにやって来た。



「新しい戦い方の練習中。引き抜いた矢を相手に刺したらどうなるかなって思ってさ」



 前半部分を全て無視して答える。



「ふうん。試してみる?? 手ぐらいなら貸すわよ??」



 何気なくこちらに汗ばんだ左腕を差し出す。



「いやいや。怪我するだろ」


「平気よ。私の体は頑丈に出来ているから、へなちょこ矢じゃ倒れはしないって」



 自慢気に無い胸……。



 コホン!!



 自慢げに、誇らしく!! 格好良く!! 気高く!! 素晴らしい胸を張ってそう話した。



 しかし……。良いのか?? 仲間に矢を突き立てて負傷させるのは流石に……。



「ほら、さっさとやる!! 私が良いって言ってんだから!!」



 俺が躊躇していると、マイが俺の右腕を掴み。己の手の平へと鏃部分を誘導した。



「分かった。けど激しい痛みを感じたら直ぐ止めるからな」


「おっしゃあ!! 掛かってこいやぁ!!」



 気合十分のマイの手の平へ、ちょんっと鏃をあてがう。



「……。どう??」



 先端が少しだけ刺さった所で一旦止めて問う。



「ん――。針が刺さったみたい。チクリとするわね」



 それならもう少しだけ行けるかな??


 矢を持つ手に少しだけ力を込めて肉の奥へと刺し込み、鏃の中程まで刺すと矢から手を離す。



 矢は、手を放しても朱色の輝きを失わずにいた。



「何だ、ちょっと痛い程度じゃん。こけおどしもいいとこ……」



 そこまで話すと唐突に言葉を切り、余裕綽々の表情に陰りを見せる。



「お、おい。どうした!?」


「ち、力が抜ける……。な、何よ。コレ……」



 頑丈な足がカクンと折れ、片膝を地面に着けてしまった。



 額には大粒の汗が浮かび、形容し難い力に対抗すべく歯を食いしばって立ち上がろうとするがそれは叶う事は無く。


 刻一刻と表情が険しくなる一方なので、慌てて彼女の手の平から矢を引き抜いた。



 引き抜いた矢を乱雑に地面に放り捨て暫くすると、朱の矢は光の粒となって霧散してしまった。




「大丈夫か??」


「な、何とか」



 額に浮かんだ汗を拭い、いつもの笑みを浮かべ。凛々しく立ち上がって話す。



 良かった、大事には至らなかったようだ。



「マイ、どんな感じだった??」



 一部始終を注視していたカエデが興味津々といった感じで彼女に尋ねた。



「何だろう。矢に力を吸われる感じかな?? 足元がふわふわして立っていられなくなったわね」


「ふむ。参考になる」



「痛みは無かったのか??」


「チクっとした痛みはあったわよ?? それ以外に特別いってぇ!! って感じは無かったかな」



 狂暴龍を抑え込むほどの力か、これは使えるな。


 接近戦での活路として見いだせそうだ。



「ありがとう。助かったよ」


「別に構わないわよ。足を引っ張って貰っても困るし」


「そこまで言わなくてもいいだろ??」



 大魔の血を受け継ぐマイ達は継承召喚という、特別な力があるのに対し。


 こちとら、特筆すべき力は持ち合わせていないのだから。



 いや、まぁ……。龍の力はありますけども。


 何も無い空間から武器を召喚出来る訳じゃないからね。



「私にアレコレ言われたく無いのなら、万人に認められる実力を身に付けろ。最低限私達の相手を務める位には成長して貰わないと」



 マイ達の相手、か。


 そこまでの実力を身に付けるまでに、こちらの命がもつかどうか。それが大問題ですよ。



「善処致します」


「うむ、宜しい」



 何様ですか?? 貴女は。



「さて、そろそろ休もうか。明日も早いし」



 弓を背負い、篝火が小さくなった夜営地の方へと向かう。



「あ――。お腹空いた。夜食作ってよ」


「さっき食べたばかりだろ??」


「運動の後はお腹が減るの!! それにもっと食べて体を大きくしないと」



 そういうものか??


 俺は微塵も減っていないのだが……。



「ユウ!! 夜食食べるわよ!!」


「あいよ!!」



 二人の食欲に呆れもするが、それと同時に尊敬もしてしまう。


 体の強い奴は必ずと言っていい程良く食べる。師匠の所でもコイツは初日からずぅっと食らい続けていたし。



 体に栄養を取り込み、それを力に変える。



 この簡単な式は人と魔物、いや全ての生命に共通した事象である事に間違いない。彼女達はそれを実行し日々力を蓄えている。


 只……。



「おらぁ!! 早く来いやぁ!!」


「レイド、あたしは軽めでもいいからね――」



 こちらの財布事情も理解して貰いたいものだ。


 毎日常軌を逸した料理を提供していたら破産しかねない。そして、それを作る身にもなって考えてくれ。


 半ば諦めつつも。



「や――しょくっ!! 夜食!! ホッカホカ御米で出来たお――にぎりっ!!」


「小腹が空いたから助かるよな!!」



 あれだけ楽しみな顔を浮かべられたら作らない訳にもいくまいて。


 ずんぐりむっくり太った雀の音程がズレまくった歌の中にさり気なく彼女が所望する料理が登場したので、それに渋々従い。


 美しい夜空の下で夜食作りに励むのであった。




最後まで御覧頂き有難う御座います。


本日も暑い一日でしたね……。


体調管理だけは怠らぬ様、細心の注意を払って下さいね。

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