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第四十七話 誰が為に祝福の音は贈られる その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります!!


それでは御覧下さい。




 空の色が青から朱色に変わると、何だか猛烈な寂しさが心を襲う。


 右手に持つパンをぎゅむっと嚙み千切り、モグモグと咀嚼。


 コクンと飲み終えて寂しい色の空を見上げて私はこう呟いた。



『さようなら、また一年後……』



 この祭りは毎年行われていると聞いた。


 来年こそは初日から通しで最終日まで食らい続けよう。私は寂しい空に向かって来年の自分に向かって誓いを立てたのだ。



『何だよ、急に。気持ち悪いなぁ』



 私の右側。


 ベンチにちょこんと腰かけ、長いあんよを組みつつ訝し気な表情で私の顔を見つめているユウが話す。



『だってさ。たった二日しか満喫出来なかったんだもん。寂しいのは当然でしょ??』


『まぁ――。分からないでも無いけど。あたしは二日でもう音を上げているよ』



 すぐ前。


 東から西へと蠢く人の流れを辟易した瞳で見つめる。




『その通りです。しかも、今日に限って図書館が休みなのですよ?? 有り得ません』



 ユウの右側に座るカエデがプンスカと怒りを露わにする。


 怒るのならもうちょっと怖い顔を浮かべて怒りなさい。


 全然怖く無いし、寧ろ。可愛いし!!



『借りて来た奴、どうすんの??』



 ユウが、そう怒るなよ。そんな感じでカエデの頭に手をポンっと乗せる。



『明日の朝一番に返却します』



 そしてそれをブンッ!! と払う海竜ちゃん。


 カエデも徐々に地を出す様になって来たわね。良い傾向だわ。



『はぁぁぁぁ。もう半日以上もレイド様の御顔を見ていませんわぁ』



 アイツは無視っ!!



『同期の見舞いと言っていましたからね。仕方がありませんよ』



『その見舞い、についてなのですが。もしや、女性の方では御座いませんでしょうね?? お優しいレイド様の事ですから、無理矢理見舞いを要求され……。剰え!!!! 体を求められたらっ!! それは由々しき事態ですわよ!?』



 おめぇは一生地を出すんじゃねぇ。


 喧しい口を縫って閉ざすぞこんちくしょう。



『それは無いなぁ――』


『ユウの言う通りです』



『何故それが分かるのですか!?』




『何でって……。朝、出て行く前に顔見たもん』



 むっ!?


 ユウさんやい。お主、ボケナスの顔色一つで色々理解出来る様になっちまったのかい!?



『後ろめたい行動をする時、直ぐに顔に出ますからね』



 あぁ、そう言う事。


 海竜ちゃんの言う通りかもなぁ。アイツ、嘘付けない性格だし。


 嘘を付いたら付いたで分かり易い視線の動きを見せるもん。



『そ――そ――。まっ、気になる様だったら部屋に帰って来た時に聞けばいいんじゃね??』


『待てませんわ!!!! ――――――――。レイド様っ!! 今、どちらにいらっしゃいますかぁ!?』



 うるさっ!!!!


 てめぇの気色悪い声は私の頭の中にも響くんだよ!!



『お疲れ様。今、病院を出た所だよ。これから宿に帰って報告書の仕上げ作業に取り掛かる次第であります』



 ふぅん……。



 ――――――。



 真面目か!!!!


 折角、一年に一回の祭りが開かれているってのに!! 遊ぶ素振すら見せないじゃん!!


 仕事だってのは分かっているけども、数分程度だったら気を抜いても良いんじゃないのか??



 どうやらそう考えているのは私だけでは無いようで??



『レイド――。あたし達とちょっと祭り回ろうよ――』


『夕食を摂るついでに回るのも一考ですよ』



 ユウとカエデが誘いの一声を放った。



『夕食、ね。了解。今、何処に居るの??』



 おっ、乗って来たわね。



『東大通りの中間点です』


『遠っ!! え――……。この人通りの中を進むのはちょっと億劫だな』



 それを乗り越えてこそ得る物があるってのに!!


 全く……。度し難い男ね。




『少しだけ!! な!? 少しだけだからっ!!』


『はいはい。じゃあ東大通りへと向かうよ』



 ユウの溌剌とした声を受けると、致し方ない……。そんな感じの声を上げて此方に合流する意志を見せてくれた。



『ヘタレ過ぎんだろ。あのボケナス』


『まぁ、しょうがないって。さて!! あたしも西に向かおうかなっ!!』



 うだるような暑さの中、先程までの水分を失い萎れていた花が水を得て蘇る様に。


 ユウの御顔にぱぁぁっと満開の花が咲き誇ってしまった。



 わっかりやすっ。



『祝福の鐘が鳴る前に合流しようと考えている様だけどさ――。多分間に合わないわよ??』



 周囲の状況、並びに北大通からの溢れ出る人の壁の厚さを加味した残酷な結果をユウに伝えてやる。



『やらなきゃ分かんないだろ?? それともなぁにぃ?? マイちゃんは時間内に合流する自信がぬわぁいのかなぁ――??』



 こ、この野郎……!!


 私の素早さと、身のこなしを嘗めてんのか!? あぁん!?




『誰に物言ってんのよ??』



 片眉をクイっと上げて睨んでやる。



『色々チンマリとした小娘に対して』



 かっち――んっ!!



『やってやろうじゃんか!!』



 人の感情を逆撫でするニヤニヤとした笑みを浮かべるユウの聳える双山をブッ叩いてやった。



『私がユウより早く合流出来たら御飯驕りなさいよ!?』



 そ、そう!!


 これは御飯の為、だからっ!!


 決して祝福の云々じゃあないんだから!! ねっ!?



『おうっ!! カエデとアオイはどうする――??』


『面白そうですね』


『勿論参加しますわっ!! レイド様は私と鐘の音を聞くべきなのですから!!』



 蜘蛛は兎も角、カエデが乗る気なんて珍しいわね。



『では、レイドと合流する為に取り決めを決めておきましょう。魔法の使用は禁止、己の身体能力のみで移動、進路は別々にする事。以上です』



『人目に付かない事を条件に魔物の姿に変わるのは??』




 裏通りに抜けて、龍の姿へと変わり上空へと舞い上がり。


 鷲も腰を抜かしてしまう飛翔を描けば、ボケナスの下へとものの数秒で到着出来る。


 私の独壇場じゃあないか!!




『駄目です。マイは空を飛び、アオイは糸を使用して家屋の屋根を伝って移動出来ますので』



 ちっ。


 やっぱりそう来たか。



『身体能力差を加味し、私が最初に出発。五分後にアオイ、更にその五分後にマイとユウが同時に出発して下さい。宜しいですか??』



 カエデがそう話すと、私とユウがコクコクと頷く。



『結構です。それでは、行って来ますね』



 お上品にベンチから立ち上がると南区画の建物が立ち並ぶ細い路地へと姿を消してしまった。



 ほぉん。


 目の前の濁流を回避して、クネクネした裏道を使用するのか。


 カエデらしい選択ね。




『よぉ、マイ。作戦決まった??』


『モチっ!! あんたをぎゃふんと言わせるとっておきの作戦があるんだからね??』


『へへ、そいつは楽しみだっ』



 私のすんばらしい作戦内容はこうだ。


 先ず、目の前の濁流を突破。


 店先に出来た行列と、濁流の間に出来た僅かな隙間をこの小さな体を利用して移動するのだよ!!


 ちょこまかと移動し続ければ少なくとも、濁流に乗って移動するよりかは速いだろうて。




『では、行って参りますわぁ。レイド様っ!! 今から愛をお届けに参りますわね!!』



 そのまま地平線の彼方へでも向かって行きやがれ。そして、二度と帰ってくんな!!



 蜘蛛がうふふと、気色悪い笑みを残し。カエデとは正反対の北区画へと向かって行った。



 濁流をすり抜けて北区画へ突入、静かな道を進んで行くつもりか。


 カエデとほぼ同じ作戦を実行する気ね。人の真似事なんて、嫌味ったらしいったらありゃしない!!



『アオイも人混みを避ける選択かぁ――。賢い二人らしいな』


『そうね。うっし!! 私達も行くわよ!!』



 ユウの肩をパチンと叩き颯爽とベンチから立ち上がった。



『負けねぇぞ??』


『最強なのは龍族であると証明してやるわよ!!』



 突き出された拳に己の拳をトンっと合わせ。



『『ふんがぁぁあああ!!』』



 魑魅魍魎も勘弁して下さい!! と。許しを懇願してしまう恐ろしい顔を浮かべ、濁流へと突入した。



『すいやせ――ん。通りますね――』



 ちぃっ!!


 ユウの奴め!! 持ち前の馬鹿力を利用して濁流を掻き分けて向かう作戦かっ!!


 だが、私は更にその上を行く作戦なのよ!?



『ほっ、ふんっ。よぉっと!!』



 濁流の合間に出来た隙間を縫い、屋台と行列の間に出来た拙い空間へと到達。


 西へと向けて描かれた細い一筋の道筋を辿る様に颯爽と移動を開始した。



 へへっ。


 やっぱり私の思った通りだ!!


 伊達に戦場の様子を見守り続けていた訳じゃないのよ??



 スイスイと順調に進み、ユウの圧がどんどん遠ざかって行くと……。




『あらふぁぁぁん……っ』



 大変馨しい香りに後ろ襟を掴まれて、進行を妨げられてしまった。


 な、何よ。


 わ、わ、私は急いでいるの。だから、お願い!! 襟を放してっ!!



 横着な匂いにそう懇願するものの。



『ほら、あの鈍亀爆乳娘はまだまだ後方だし?? ちょっと位の寄り道なら大丈夫よっ』



 と。甘ぁい言葉を耳元で囁いて来た。



 そ、そうかなぁ。


 出来るだけ先行して距離を稼ぎたいのだけども……。



『貴女の足は稲妻よりも速くて天下無敵の存在なのっ。だから、ほら。休憩しましょう??』



 だ、だよねぇ!!!!!!



 襟を掴んだあまぁい香りに誘われる様に、屋台の前に出来た列に加わり。その正体を確認してやった。



 お饅頭、か。


 初めて聞く名前ね。


 三人程度しか並んでいないし、これなら……。



「いらっしゃい!! 御幾つお求めですか??」



 白の割烹着を身に纏う店主に対し、私は三本の指を立ててやった。



「毎度ありっ!! お嬢ちゃん可愛いから少しおまけして、百ゴールドになります!!」



 あはっ!!


 大将、有難う!!


 颯爽と現金を渡し、小さな紙袋を受け取り列から離れた。



 これが、お饅頭か。


 小さな私の手に丁度良い大きさ。白い皮の中には匂いから察するに小豆が入っているのだろう。



『で、では。頂きます……』



 じゅわぁっと湧いた唾液をゴクンっと飲み終え、柔らかぁい皮を前歯で寸断してあげた。



『あみゃみゃぁ――ん……』



 な、何ぃ。コレぇ……。


 皮が柔らかくてぇ、小豆のふんわりとした甘さが凄いよぉ……。



 噛む必要が無い位柔らかい皮を裂くと同時、素敵な甘味が御口の中一杯に広がる。


 舌で皮と小豆をコロコロと転がせばあっと言う間に消えちゃうじゃあありませんか。


 可愛い形をして、あざとい攻撃を加えて来るわね。


 合格点を上げましょう。



 お饅頭を食みつつ、トコトコと歩いていると……。



『はっは――!! 邪魔するねぇっ!!』



 ちょっと前からユウの念話が聞こえて来た。



 ぬぅっ!?


 いつの間に!!



 負けるのが大っっ嫌いな私はお饅頭が入った袋を右手にぎゅっと掴み、鷹よりも速く。そして野ネズミよりも低い姿勢で直進を開始……。




















『あはっ。だ――めっ』



 アンギャラズッタン!?



 だ、誰よ!!


 また私の襟を掴んだのは!!



 先程はあまぁい香り、そして此度はピリっとした香辛料が含まれている香りが私の進行を妨げてしまった。



 しまって、しまった……。


 店先の前を突っ走るのは本当に大失敗かも……。



 我慢に我慢を重ね、前へと進もうとするのだが。正直な私の体は。



 甘味のお次は辛みっしょ!!!!



 等と、至極当然の考えに至ってしまい。大変すんばらしい香りを放つ店へと爪先を向けてしまったのだった。




最後まで御覧頂き有難う御座います。


深夜の投稿になってしまい大変申し訳ありませんでした。

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