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第四十六話 的屋のクジには要注意

お疲れ様です。


週末の夜にそっと投稿を添えさせて頂きます。


それでは御覧下さい。




 何処までも奥に続く大通りとは打って変わり、先の先が見当たらぬ狭き裏道を己の勘を頼りに東方向へと進んで行く。


 何度も行き止まりに突き当たっては溜息を吐き、そして何度も道に迷いはしましたが……。大通りに流れ続ける人の波に飲まれるよりかはマシだ。


 自分にそう言い聞かせながら蛇行を続けていると、人が放つ雑踏が建物越しに聞こえて来た。




 おっ。


 北大通の雑踏かな??


 俺の勘も強ち捨てたもんじゃないな。




 自画自賛じゃあないけども、若干高くなってしまった鼻を引っ提げ。雑踏の発生地へと到着した。



 右手のずぅっと奥に見える蠢く点が人で、真正面に見えるのが図書館。


 そしてココナッツは図書館と中央の間にあるから……。



「ちょっとズレちゃったな」



 まぁでも!! 概ね当たったから問題は無い!!


 腰に手を当て今日も満足気にドンと腰を据えて建ち誇る図書館を眺めた後、南方向へと転進した。



 怪我人、若しくは病人に優しくするのは当然だとして。この場合に彼女の容体は当て嵌まるのだろうか??


 物凄く顔色も良くて、看護師さんとの喧嘩を可能にする体力。


 怪我人では無く。


 警察関係者に拘束され、病室に軟禁。身動きの取れない事件の加害者って言葉がしっくり当て嵌まる気がする。



 こんな事を言った日には左の頬に大きな青痣が出来てしまいますので、言いませんが……。


 このお買い物は、病人に贈る物では無く。病み上がりに向けた快気祝いなのです!!


 うん、それなら顎で使われても文句は言いません。


 自分で無理矢理此度のパシリ行為を正当化し、それでも若干納得がいかないままの心情で目的地へと到着した。




「うん。今日もいい匂い」



 激戦の時間帯である昼時から大分経った所為か、お客様の客足も疎らで数名程度の人が扉から出入りしていた。



 人気のあるパンは売り切れちゃうけども、人混みの中で急かされる様に取捨選択を行うより。時間があって吟味を重ねられる方が俺は好きだね。


 今も扉越しに届く小麦の馨しい香りに誘われ、お店の扉を開いた。



「いらっしゃいませ――!!」



 ほぉ――。


 今日も元気で何よりですね。


 爽やかな緑色の三角頭巾を被り、同色の前掛けが良く似合っている。


 万人が認める朗らかな笑みは接客業に携わる者が手本にすべきものだと俺の頭は断定してしまった。



 お店の出入口に積まれている御盆を手に取り御使いの任を開始すると、看板娘さんがパタパタと若干のんびりとした歩調で歩み来た。



「レイドさん。いらっしゃいませ」


「お疲れ様です」



 営業中の笑みを浮かべる彼女に対し、ありふれた言葉で迎えてあげる。



「今日はどういった物をお探しなのですか??」


「ん――。ガッツリ腹に溜まる物を買って来いと御使いの任を受けまして。その品を現在捜索中なのですよ」


「それって……。以前一緒に居た人達ですか??」



 うん??


 何か、急に口調が沈み始めましたね??



「いやいや。実は……」



 横柄な同期が入院し、その御使い中であると告げてやると。



「そ、そうなのですね!!」



 土中に潜っているモグラさんがこの笑みを見たらきっと……。


 眩しいっ!! と。両手でちいちゃい御目目を塞いで土の中にそそくさと帰ってしまうでしょう。



「その同期がまぁ――横柄な奴で。病院の飯が不味いから外で飯を買って来いって命令するんですよ??」


「病院の食事は、ほら。塩分控えめに作っていますので味気なく感じる人が多いんですよ。その男の人は食欲旺盛なのです??」


「男じゃ無くて、女性ですよ」



 男勝り、のね。


 文字通り、数名程度の男ならあっと言う間に無力化出来てしまう実力の持ち主で御座います。



「女性、ですか……」



 また沈んじゃった顔に戻ってしまいましたね。


 狭い室内で遊びまくっている最中。突如として現れた親犬に叱られた子犬みたいな顔浮かべていますもの。



「多分見た事あるんじゃないかな?? アイツ、結構出歩くの好きだから」


「その女性のお名前は??」


「トアって名前ですよ」



 彼女の名を聞くと。



「えぇっ!? トアさん、入院しちゃったんですか!?」



 丸い目が更に丸くなってしまい、疲れませんかと問いたくなってしまった。


 やっぱり知り合いだったか。



「安心して下さい。入院っていっても名目上の入院ですから。本人は早く退院したいらしく、看護師さん相手に暴れ回っていましたからね」


「そ、それなら良かった……」



 容体を聞いてほっと胸を撫で下ろすのですが、良くはありませんよ??


 入院患者が看護師相手に喧嘩を吹っ掛けているのですからね??



「トアとはどういう経緯で知り合ったのです??」



 んっ!!


 クルミパン発見!!


 これは外せないな!!



「何度もお店に足を運んで頂いて……。凄く話し易くて、気が付いたら会話を続ける仲になっていました」


「へぇ――。アイツ、竹を割ったような性格だからなぁ」


「ふふ、そうですね。あ、そのパンお薦めですよ??」


「これ??」



 パンが収められている四角い箱には、商品の説明文が添えられているのですが。その名を確認すると、あんぱんと書かれていた。


 ほんのり甘い小豆が御口に優しく、疲れている時に優しい味わいが体を癒してくれるのが特徴的なのですよね。



「トアさんもそれを買って行くのを見た事があります」


「了解。じゃあ……。こんなものかな」



 俺の遅い昼食分も合わせて、十個以上買えばトアも文句は言うまい。



「お買い上げ有難うございます。えぇっと……。合わせて二千ゴールドになります」


「あ、あはは。それは流石に悪いよ」



 いつも割引して貰うと何だか通い辛くなっちゃうし。



「トアさんの御見舞いの品ですからね。安くするのは当たり前です」


「それなら……」



 安くして貰っているのに渋々お金を払う客もどうかなぁ――っと。今度は割引出来ない時間帯に足を運ぼう。


 御釣りが出ない様に渡し。



「毎度有難うございますっ。では、詰めますね」



 柔らかい笑みを浮かべる彼女に対し、宜しくお願いしますと一つ頷いた。



「ふふ――ん、ふんっ」



 鼻歌を口ずさみ、嬉しそうにパンを紙袋に詰める女性。


 自分の店の商品が売れると嬉しいですものね。お気持ち、分かりますよ。



 素晴らしい手際の良さでパンを詰め終え。



「お受け取り下さいっ」



 心温まる笑みで紙袋を差し出された日には誰だって足げに通おうと考えるだろうさ。



「有難う。またお邪魔するね」


「はいっ!! お待ちしていますね!!」



 さてと、心が温まった所で。悪い意味で俺の心をモヤモヤさせてしまう女性が待つ病院へととんぼ返りしましょうかね。



 太陽が傾き始めた空の下に躍り出て西へと移動を開始しようとするのだが。



「危ない。マイ達に宿の予約を取れたことを伝えていなかったな」


『お――い。聞こえる??』



 人の往来の邪魔にならぬ様、道の脇で歩みを止め。念話を放った。



『レイド様ぁ!! 聞こえていますわぁ!!』



 うん、聞こえているからもうちょっと静かにしようね??



『宿は運よくいつもの宿屋の部屋が取れたから。夕方以降に待ち合わせて行こうか』


『ん?? あんた、宿に居ないの??』


『同期が入院しているからその見舞い中。それが終わり次第向かうよ』


『ん――。了解――』



 のんびりとしたマイにそう話し終え、ふぅっと息を漏らす。


 俺も結構疲れているんだな。


 何気無い移動でちょっと疲れちゃったし。


 今日は早めに……、は無理だな。報告書を仕上げなきゃいかん。



「はぁ――。偶にはゆっくり休みたいよ」



 決して叶わぬ願いを空へと放ち。


 凝り固まった首の筋を解して、先程の道を求め北上を開始した。

























 ◇











 闇という存在は光の対極の位置に存在する。


 それを例えにするのならば。陽性な感情があれば、憂鬱な感情も存在するのです。


 どんな存在にも対となるモノがあり。今現在、俺の感情と対となる陽性な感情が籠められた声色が一枚の壁を越えて鼓膜に届いた。



「ぎゃはは!! 次行くぞ!! 次ぃ!!」


「まだまだ今日は呑むぞぉ!! なにせ、祝い事だからなぁ!!」



 酔っ払いは何かにつけて理由を探し、それを肴に酒を呑むのだろう。



 今も宿の外から侵入して来るのは体中を巡る血液に酒が浸透して正常な思考を失い、支離滅裂な言葉を夜空へと好き勝手に放つ酔っ払い共の声。


 王誕祭の最中なのか、それはいつもより声量が大きく感じます。


 そして、夜が更けても興奮冷めやらぬのは室内に居る彼女達にも当て嵌まる様だ。




「んまぁっい!! やっべぇ、この肉。無限に食えそう……」



 机に対して左方向。


 三つ並んだド真ん中のベッドの上で串焼きのお肉を食む深紅龍がそう叫べば。



「あの店主……。絶対イカサマしただろ。こんな玩具が三百ゴールドなんだぞ!?」



 ユウが紙袋の中から竹とんぼを取り出し、静かに読書を続けるカエデに掲げた。




「――――。あのお店に立ち寄った時点で間違いなのですよ。くじ引きの一等賞狙いはお薦めできません」


「だって当てたかったもん!! 北の街のストース?? だっけ。高級温泉旅館の一泊二日無料券だぞ!?」


「大当たりのクジが入っている事さえ、怪しいのです。看板に書かれていませんでしたよね?? 確実に当たりが入っているって」


「ぐぬぬ……。クジ引き屋には二度と寄らんっ!!」


「ユウは遊べる物だからまだマシよ。私なんか、ビー玉だったんだから!!」




 ユウが憤りを誤魔化す様に竹とんぼをクルっと回すと……。




「あいたっ」



 俺の頭の天辺へと華麗に着地を決めてしまった。



「あはは!! レイド、ごめ――んっ」



 これ位なら構わないよ。



「ついでにこのビー玉をあんたの後頭部目掛けてぶん投げて良い!?」



 それは許しません。



 と、言いますか。ついでって何??



 丁度良いや、気が抜けちゃったし。休憩しよっと。



「もし一等賞が入っているとして。初日から出てしまったらお店は大損害だろ?? 当たりが入って無いクジは売れないんだから。カエデが話す通り、恐らくあの手の屋台のクジ引きにの中に大当たりは入っていなんだよ」



 机の上に落ちた竹とんぼを手に取り、己のベッドへと移動を開始する。



「まっ、勉強と思って。次からは立ち寄らない事をお薦めするよ」



 顔をむっすぅぅっと顰めているユウと対面する形で己のベッドに腰掛け。三百ゴールドの竹とんぼを返してあげた。



「そうする――。んで?? 同期のお見舞いとやらはどうだったの」



 受け取った竹とんぼをベッドの上へ乱雑に放りつつ話す。



「もう元気一杯で困ったよ。カエデの治療の御蔭もあってさ、全員が軽傷で……」



 同期の容体、並びに拠点地内の全兵士が大事に至らなかった事を端的に説明してあげた。



「――――。つまり、俺達の存在は知られていなくて。化け物が何処へ向かったのか、現在も捜索中って事で丸く収まったよ」



「ふむ、そうですか。皆様が御無事で何よりです」



 背後からカエデの陽性な声が届く。



「有難うね、助けてくれて」



 その声に反応し、読書中の彼女に礼を述べてあげた。



「いえ、お気になさらず。所で、次の任務はいつからですか??」



 あ、いっけね。


 言い忘れていたよ。



「次の任務は明後日。つまり、王誕祭が終了した翌日に始まる。明日一日、好きな様に時間を使ってくれ」


「何処へ向かうか分からないの??」



 ベッドの上にコロンと寝転がり、顔の前で竹とんぼを指先で器用にクルクルと回すユウが話す。



「詳細は明後日に聞かされるからね。まだ分からないかな」


「ふぅん……。今度は近場だと良いな」



 近場、ね。


 何でも屋紛いの仕事内容だからそれは余り期待しない方が良いかも。


 期待して裏切られた時の反動が大きいからさ。




「レイド様っ。明日の御予定は??」


「明日?? 引き続き同期の見舞いをして、御使いに行って。空いた時間を利用して病室で報告書を仕上げるつもり」




 病室からの去り際。




『ねぇ、明日の予定は??』


『報告書の作成で一日を終える予定だよ』


『じゃあ此処で書きなよ!! 話し相手が居た方が捗るでしょ!?』


『はいはい、了解』



 と、半ば強引に約束を取り付けられてしまったのです。


 後一週間もあの狭い病室で過ごさなければならないと考えると、手に持って余り余る時間を少しでも埋めてやりたい。


 そんな優しい自分が出て来てしまい、ついつい了承してしまった。


 勿論?? 仕事が優先ですよ??


 公私混同はいけませんからね。




「そう、なのですか。因みにぃ、祝福の鐘が鳴り響く時間帯はいつ頃なのですか??」


「あぁ、あの鐘か。多分……。午後六時だった筈だよ」



 右の首筋にチクチクとした毛を擦り付けて来る蜘蛛の体を指でやんわりと押し返しつつ話す。



「ふぅむ、六時で御座いますね」


「その時間帯の北大通は大混雑しているからね。近寄らない方が賢明だよ。と、言いますか。何で知ってるの??」



 恐らく、王誕祭を堪能するのは初めての事だろうし。


 鐘の音の存在を知っている事にふと疑問が湧いてしまう。



「食事中に隣の女性がその様な会話をしていまして。それで知ったのですわよ」



 ふぅん。


 そうなんだ。



「まっ、遠くからでも聞こえるし。最前線で聞く必要は無いから」



 さて!!


 仕事を再開しますか!!



 景気付けに己の膝をピシャリと強く叩き、部屋の四隅で俺を待ち構え続けている机へと向かった。



「レイド様ぁ。そぉんな紙の相手は放っておいてぇ。私と楽しみましょうよ――」


「俺だって遊びたいのは山々ですけどね?? これを時間内に作成しないと、減給処分になっちゃうから」



 えぇっと。


 活動報告書はこれで……。経費の紙は……。何処だ??



「うふふっ。荒い吐息がまたクセになりますわねっ」



 黒き甲殻を備える蜘蛛の体が顔にへばり付いているから見えないや。



「私の里に来て頂ければ宜しいのですわよ?? 仲睦まじく幸せな夫婦生活を過ごしましょう」


「ユウ、受け取って――」



 細かい毛が生え揃った胴体をむんずっと掴み、ユウが寛ぐベッドの上へと放ってやった。



「あ――んっ。愛が遠退きますわぁ――……。いたっ!!」



 ん??


 アオイが珍しく痛がる声を出したな。



 ちょいと興味が湧いたので、其方の方を向くと。



「へへ、ピッタリの角度で嵌ったな」



 竹とんぼの角でアオイのお尻を受け止めたのか。


 そりゃ痛がる筈だ。



「ユウ!! 貴女という人は!! 私の美しいお尻に傷が付いたらどう責任を取ってくれるのですか!?」


「大丈夫だろ、これ位」


「いいえ!! 大丈夫ではありません!! この体は全てレイド様の物なのですわよ!? レイド様が傷付いたお尻を見て、幻滅したらどうするのですか!?」


「その機会はまず来ないって」



 でしょうねぇ……。


 女性の臀部をマジマジと見て男女の営みを交わす機会なんてこれから先、訪れる事は決して無いだろうさ。






 ――――――――。



 いやいや!!


 いつかは来るかも!!


 近い将来は、という意味なのです!!



 慌てて自分に都合の良い弁解を言い聞かせると、頭の中で卑猥な色が増殖し始めてしまったので。


 頭を少々大袈裟に振って煩悩を退散。


 仕事気分にしっかりと切り替え、後頭部に再びへばり付いて来た横着な蜘蛛を乱雑に後ろの何処かへと放り投げて作業に取りかかった。



最後まで御覧頂き有難う御座いました。


そして。


ブックマークをして頂き有難うございます!!!! 本当に嬉しいです!!


この暑さにやられ、執筆意欲が徐々に萎えていたのですが……。嬉しい励みになりました!!



週末には台風が接近する箇所も御座いますので、気を付けて下さいね。



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