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第四十五話 祭りという名の戦場

お疲れ様です!! 本日の投稿になります。


それでは御覧下さい。




 広大な大地を踏み均す音が巨大な波となって鼓膜を襲い、常軌を逸した人口密度が夏の暑さをガンガン上昇させ私の魂をグングゥンと燃え上がらせる。


 ふわぁっと鼻腔に届く炭火に焼かれたお肉ちゃんの香り。


 一人でも多くの客を集めようと威勢の良い声を放つ店主達の熱き戦い。


ここはそう……。





戦場よっ!!!!!!





 それも一寸の隙を見せれば命を落としてしまう、大変恐ろしい戦場なのだ。


 私は細心の注意を払い周囲の様子を窺いつつ行軍を続けていた。


 左右の死角に気を付けて……。ふぅむ……。


 今の所、戦線に異常は見られ無いわね!!


 何時、何処で、誰が私のおなかを狙って来るか分からないからね。気を付けましょう。



 私がこれだけ注意しているってのに、無防備な海竜ちゃんは既に戦場の熱気やられてしまっているようだ。




『あ、暑くて死んじゃいそうです……』



 貧弱で虚弱な体のカエデは額に大粒の汗を浮かべて、ふぅふぅと息切れ起こし救護を求めていた。


 申し訳無い。


 衛生兵は只今本部へと帰還中なので、自力で解決してくれっ。



『その白いローブ、脱いだら??』



 我が分隊の突撃怪力爆乳娘は若干の汗を浮かべるものの、トノサマガエルばりにケロっとした顔付きでそう話す。


 流石はユウね。


 恐ろしい戦場に耐え抜ける頑丈で豊満な体に太鼓判を押してやろう。



『そうですね。地肌を出すのは苦手ですが、死んじゃうよりかはマシです』



 人々が作りし流れに乗りつつ、カエデが白のローブを脱ぐと。




「「「「…………」」」」




 周囲の男共の視線を一気に集めてしまった。



 そりゃあそうだ。


 白磁の陶器にも匹敵する滑らかな白き肌には淫靡に映る汗が薄っすらと滲み。



『少しは楽になりましたね』



 水色のシャツの胸元をパタパタと指で摘まんで扇げばどうだい。


 こんもりと盛り上がったお肉ちゃんが見えちゃいそうになるではありませんか。


 その様子をじぃっと窺っていた一人の野郎が。



「ねぇ!! 早く行くよ!!」


「あ、あぁ。ごめん……」



 連れの女に引っ張られて何処かへと行っちまった。



 あの男の気持ちが分からないでもない。


 なんせ女でさえじぃっと見つめちゃうもの。



『なぁ、カエデ』


『何ですか??』


『最近、胸おっきくなった??』



 ユウの衝撃発言を受けると。



『それは分かりませんけど……。下着が少々キツク感じる時もありますね』



 特に表情を変える訳でも無く、サラリと成長期宣言を放ってしまった。



 ちぃぃぃぃっ!!!!


 腹立たしい!!


 何でカエデだけ大きくなって、私は小山のままなのよ!!!!



『あぁ――。はいはい。あたしと一緒だな』


『あんたはそれ以上大きなる必要ないじゃん!!!!』



 右隣りを歩く我が親友の胸に向けて拳を捻じ込んでやった。



『いてっ。仕方が無いだろ、成長期なんだから』



 コイツもせ、成長期だと??


 も、もしかしてだよ?? ユウの胸って無限に大きくなるのか!?




『大魔王よ!! 貴様、世界を滅ぼす気か!?』




 世の全ての男性が悪魔的で大魔王的なユウの胸に魅了され、残された女性達はキィキィとハンカチを食みながら。将来産まれて来る筈であった子に対して悔し涙を流すのだろうさ。



 あぁ、恐ろしや……。恐ろしや……。



『何言ってんだよ、お前さんは』



 変な奴め。


 ちょっとだけ私を冷めた目で見下ろし、依然変わらぬ速度で歩き続けた。




 別に胸の大きさに拘る訳では無いのだけれども……。


 私も女の端くれ。


 やっぱりちょっとだけ気になっちゃうのよねぇ。


 ボケナスに力を譲渡してからチンマリした体になっちゃって。それと比例する様に私のお胸さんも……。



 兎に角!!!!



 元の体に戻る為!! 毎日慎ましい量の御飯を食べているけど。一向に、元に戻る気配を見せてくれないの。



 ん――……。


 元の体の大きさってどれ位だったっけ??




『んおっ!? 何だ、あの行列は!?』



 背はユウより少し小さくて。



『店先の看板には水着と書かれていますわね』



 多分、蜘蛛よりかは大きかった筈。



『泳ぐ為の服とも書いてありますよ??』



 んでもって、胸はカエデよりも大きかった筈!! これはぜぇぇったい!!


 絶対嘘じゃないもん!!



『へぇ――。夏だし、泳ぐ機会も増えるからなぁ。でも、何で女ばっか並んでんの??』


『恐らく、女性専用なのですわ』


『ふぅん。よぉ、マイ。後であの店見に行く??』


『はっ?? 却下に決まってんじゃん。御飯が食べられない店に行く理由が無いし』



 全く……。


 これだからド素人は……。



 一体何の為に祭りに参加していると思ってんのよ。ほら、見て御覧なさい??


 たぁくさんの美味しい物がそこかしこで……。










『ンダラバッタンタン!?!?』



 な、何!? 今の香りは!?


 びっくりして変な声が出ちゃったじゃん!!




『急に奇声を発するなよ。驚くだろ』


『あ、いや。気になる香りを捉えちゃってさ……』



 テヘヘっと笑みを浮かべ、私の鼻腔をぶん殴った横着者の捜索を開始した。



 う――む。


 何かを焼く匂いね、これは。しかも、炭火で。



 炭火は素晴らしいのよ?? 炭火でお肉を焼けば余分な脂を落としてくれるし、炭の程よい香りも付けてくれる。


 そして、何よりあの音だ。


 パチッ!! パチッ!! と弾ける音を聞けばどうでしょう。お腹が減るではありませんか。


 食に必要なのは味もあるけども、香りと視覚も必要なのだよ。



 大好物を求める犬が如く、クンクンと鼻を動かし続けていると。遂に横着者を捉えてしまった。



『焼きとうもろこし、か』



 ふぅぅむ……。


 焼いたとうもろこし。超絶普遍的な名前よね。


 これだけ美味しい香りを放っているのだから、もっと捻ればいいのに。


 例えばぁ……。例えば??



『ユウ、焼きとうもろこしって名前じゃつまんないからもっと捻った名前の料理名ってある??』



 中々妙案が浮かんでこないので、屋台の前に出来た列の最後方に並びつつ。



『うはっ!! 美味そう!!』



 珍しく前のめりになって焼きとうもろこしを見つめる親友に問うてみた。



『捻った名前ぇ?? ん――。美味しいモロコシちゃんってのは??』



 はっ!! 何とあさましい。これだから素人トーシロは……。



『全然駄目っ。玄人は美味しいって安易な言葉は使わないのよ』


『あっそ』



 つめたっ!!!! 冬の木枯らしより冷たっ!!!!


 親友に向ける態度と言葉かね!?


 冷た過ぎる瞳を食らって思わず鼻水が凍っちゃいそうだったわよ。




『じゃあマイは何て付けるんだよ』


『ちょっと待ってね?? 今、捻りまくっているから……』



 焼く、とうもろこし、美味、夏……。


 これらを加味した結果、導き出された名前は。




『夏の便り、よ』



 ピッカァ!! と光輝く太陽の下。


 一人の女性が麦わら帽子を被り。一繋ぎの白き服を身に纏い、もぎたてのとうもろこしを胸に抱くの。


 彼女は満面の笑みで今年は豊作だよ?? と、嬉しい笑みを浮かべて彼にそう伝える。


 彼は、きゃわいい彼女に対しての笑みなのか、それとも豊作に対する笑みなのか……。


 どちらとも受け取れる満更でも無い表情で彼女からとうもころしを受け取り、大地の恵みに感謝して頂くのだ。




 フッ、我ながら完璧な名付けだ。


 惚れ惚れしてしまうわね。



『それだと様々な意味が含まれてしまいますよ?? 例えば、夏の風物詩でもある蝉の声もそうですし。突然の大雨もそうです』



 ちぃっ。賢しい海竜め。



『じゃあカエデは何て付けるのよ』


『ふ、む……。実に迷いますね……』



 ほっせえぇ顎に指をあてがい、考える姿勢を取る。



『……。黄色の宝玉、は如何でしょうか?? 丸々と太った粒を宝石に見立てたのですが』



 的を射貫き過ぎている気がするけども……。



『悪くは無いわね!!』



 腕を組み、ウンウンと頷いてやった。



『何様だよ。ほれ、あたし達の出番だぞ??』



 何ッ!?



「いらっしゃい!! お嬢ちゃん達、何本買う!?」



 それはぁ、勿論!!



「――。五本だね!! 毎度あり!!」



 ふふ。


 私は二本で、他の者は一本で満足しちゃうからね。此れで良いのだっ。



 額に汗を浮かべ、頬に煤を付着させる店主が今も炭火で焼いているとうもろこしさんに醤油をたらぁぁっと掛けると。



『くぁぁ……』



 ジュワッ!! っと醤油が焦げる香りが漂うではありませんか。


 先の香りの正体は此れだったのよ。



「おまたせ!! 五百ゴールドになります!!」



 やっっっっす!!!!


 一本百ゴールド!?


 ボケナスからお小遣いとして五万ゴールド貰ったから、それ全部を此れに捧げたら……。


 五百本も食えるじゃない!!



 参った!! 大将!! 



 御釣りが出ない様に現金を渡し、二本の夏の便りを手に取り。


 大通り沿いに、特別に併設されたであろうベンチに颯爽と移動を果たした。



『わぁぁ……。美味しそう――』



 所々に敢えて焦げ目を入れ、黄色の粒をより際立たせている。


 ふわぁっと香る醤油の香りと、焼いた野菜が放つ特有の柔らかい香。


 視覚、嗅覚は既に合格点を叩き出していた。




 あの店主、ヤルわね。


 一通り視覚で楽しみ、あ――んと御口を開くと。




『置いて行くなよな!!』



 ユウ達が血相を変えて人の流れから飛び出て来た。



『いつも言っているでしょ。あんた達がノロマだって』


『置いて行かれる身にもなってみろよ』



 えへっ、ごめ――んね??


 ニッ!! と軽快な笑みを浮かべた後。



 とうもろこしさんにパクっと齧り付いた。



『――――――――。んみゃい!!!!』



 黄色くて大粒の実を歯で寸断すると、ほぉぉんのりとした甘みが口の中で広がる。


 咀嚼をすればシャキっ、と。歯と顎に嬉しい噛み応えが広がり、きつ過ぎない醤油の塩気が汗を失った体に。


 頑張れっ!! っと。


 声援を送ってくれていた。



 いや、凄いわね。とうもころしを焼いて、醤油を掛けただけなのに。立派な料理として成立しているもん。



『へへ、んまっ』



 右隣りで腰かけるユウもとうもろこしの味に満足しているのか。


 きゅっと、柔らかく口角を上げてしまっていた。



 ちっ、可愛い笑みだこと。


 私もユウみたいに可愛く笑えたらなぁ――。


 とうもろこしにハムハムっと噛り付いていると、左ベンチから何だか妙に耳に残る戯言が此方に届いた。





「ねぇ――。知ってる??」


「何ぃ――??」


「明日さ。祝福の鐘が鳴るじゃん」


「そうみたいだね」



 祝福の鐘?? 何だそりゃ。


 まだ彼女達は会話を継続中なので、食事もそこそこに手を止め……ぬぁい!!!!



 ガッツリとうもろこしを食み、食事を継続しつつ耳を傾けた。




「その鐘の音を好きな人と聞くと、ずぅぅっと幸せになれるんだって!!」


「うっそ――。絶対嘘だよ、それ――」


「私のお母さんとお父さんも一緒に鐘の音を聞いて結婚したって言ってたもん!!」


「ふぅん。そうなんだ」



 ふ、む……。


 相分かった。



 恋人、若しくはそれに近似した関係の異性と聞くと幸せに結ばれる事になるのかしらね。



 有り得ないでしょ、それは。


 偶々だっつ――の。



 私は迷信よりも、自分の心を信じる!!



 だが……。


 私の右側に座る三名はどうやら迷信に気を取られている様で??




「「「……」」」



 とうもろこしを食べる手を止め、三者三様。都合の良い想像に耽っていた。



『――――。迷信だからね??』



 私がポツリとそう漏らすと。



『お、おぉっ。勿論、そうさ!!』


『根拠のない話は信じません』



 二人共、ハッとした感じで食事を再開させた。


 そして。



『うふふ……。レイド様と手を繋ぎ、必ずや最前列でその鐘の音を聞きましょう』



 蜘蛛はぽぅっと桜色に染まった頬に手を当て、イヤイヤと顔を横に振りながら更に自分の妄想の中へと突入を開始してしまった。



 きっしょっ。


 一生やってろや。



 何だか妙な雰囲気が漂うものの、それは祭りの熱気によって刹那に霧散。


 あっと言う間に二本のとうもろこしを平らげた私はベンチ脇に併設されている塵箱に芯をポイっと放り捨て。



『ユウ!! 次なる獲物を求めて、戦場を駆け抜けるわよ!?』


『馬鹿!! まだ食ってるっつ――のっ!!!!』



 小さい御口をアムアムと。


 とうもろこしに柔らかく当て続けている親友の手を半ば強引に引き上げ、熱気渦巻く戦場の波の中へと再突入を開始したのだった。




最後まで御覧頂き有難うございます。


蒸し暑い夜が続きますが、暑さに負けない様に適度な睡眠を取って下さいね。

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