第四十二話 太古からの厄災 その二
お待たせしました!! 後半部分の投稿になります!!
深夜の投稿になっていまい、申し訳ありませんでした。
薪が乾いた弾ける音を奏でると、矮小な火の粉が風に乗って美しい星達が手を取り躍り続けている夜空へと舞い上がって行く。
深夜に相応しい音と景色。
火を囲む者達はこの静寂を堪能しながら翌日に備えて就寝すべきなのですが……。
「む、むぅぅぅぅ……。ユウ、そろそろ良いんじゃない??」
「まだ駄目だ。前回はそれで失敗したからな」
ずんぐりむっくり太った雀を頭の上に乗せた深緑の髪の女性は、焚き木の前にちょこんとしゃがみ。火にかけた二つの飯盒を鋭い視線で注視していた。
そんなに睨むと瞼が筋肉痛を起こしますよ??
「ねぇ――。毛布は何処よ――」
「その荷物の後ろに置いてあります」
俺の茶の上着を羽織った淫らな服装の女性に対し。
「えぇ――。見つからなぁい」
そんな短いスカートを履いているのに四つん這いになるんじゃありません!! と。
年頃の娘さんを御持ちになる父親の台詞を吐こうとしたのだが……。
「……」
大変賢い海竜さんが、それ以上凝視するなと鋭い視線を浴びせて来たので。
フリフリと揺れる地上の月から、本日も怪しく光る上空の月へと視線を動かした。
「ん――……。あったぁ。これを敷いて……。よいしょっと」
エルザードが俯せの姿勢で毛布の上に横たわり。
「そんな所に突っ立っていないでぇ。こっちに来なさいよっ」
両腕を毛布の上に立たせ、その上に端整な御顔をちょこんと乗せると。パタパタと足を揺らしながら笑みを浮かべる。
大変お美しい笑みなのですが、貴女は一応一族を代表する御方なのですよ??
も――っちょっと姿勢と言動に気を付けましょうか。
「この位置でいいよ。飯盒の様子も見なきゃいけないし」
姿勢より、言動よりもエルザードが着用する服に気を付けなきゃいけませんね。
俯せになった姿勢。
そして、胸元が大きく開いている服装ですので。体と毛布の間からお肉が零れているし……。
「え――。つまんなぁい。御米なんか食べないで……。私の果実を食べて……??」
肘でググっと己の体を浮かせ、俯せの状態を徐々に解除すると。
大きく開いた服からはみ出ていたお肉が重力に引かれ。
男の性を途轍もなく、多大に、豪快に刺激してしまう果実の実へと変化してしまう。
あの禁断の果実を手に取ればきっと夢にまでみた柔らかさを堪能出来るだろう。
しかし。
禁断の果実をもぎ取るのは禁忌とされているのです。
「「「「……」」」」
火を囲む四名の女性が無言の圧力を視線に含ませて俺の体に突き刺しているのが良い証拠だ。
指先一本でも触れてみろ。
体を貫かれ、焼かれ、引き裂かれ……。
想像するのも億劫になる拷問が俺を待ち構えているのだよ。
「結構です!!」
大変美味しそうな果実から顔全部を反らし、明後日の方へと向いてやった。
何度も方向転換しているから首の筋を痛めてしまいそうですよっと。
「もぉ――。据え膳よ?? 食べなきゃ男の子らしく無いゾ??」
「エルザードさん。そんな事よりも、此処に来た理由を聞かせて下さい」
カエデが俺とエルザードの間にさり気なく体を置いて話す。
流石です、カエデさん。
そういう何気無い行動が本当に助かりますよ。
「理由――?? 話すと長くなるから面倒ぉ――」
海竜さんを怒らせると大変厄介ですので、その態度はどうかと思われます。
「時間は有限で、貴重なのは理解出来ますが。今現在、私達はその時間を有意義に使える状況下に身を置いて居ますので」
ほら、ちょっと怒った口調になっちゃったし。
「はいはい……。説明すれば良いんでしょ、説明すればぁ」
「宜しくお願いします」
カエデがちょこんと頭を下げると、エルザードがやれやれと。大変大きな溜息を漏らした後。
あの化け物の詳細について説明を開始……。
「レイド!! た、炊けそうだぞ!!」
あ――!! もう!!
今から良い所なのに!!
ユウの声を受け、焚き木の側へと速攻で移動し。
「火から飯盒を外して!! それから木の皿の上に御米を乗せたら、そこの木のしゃもじで炊きあがった米をひっくり返してくれ。その時、しゃもじで御米の中を切らない様にする事!!」
「「了解!!!!」」
二人に的確な指示を与え、颯爽と元の位置へと舞い戻った。
「お帰り――。話していいかしら??」
「宜しく頼むよ」
「じゃあ、先ず。私が此処に来た理由はぁ、子宮がギュンギュン刺激される強い力を感じたのよ」
お願いします。
ど――か普通の姿勢で仰って下さい。
俯せの姿勢から体操座りの姿勢に変化し、己が禁断の果実をもぎゅっと掴みながら話す。
「レイド様?? 視線が宜しく無い場所に向かっていますわよ??」
「あ、うん。ごめん……」
美味しそう……。基!!!!
大変ケシカラン果実から視線を外し、地面に伸びた小さな草を見つめた。
ふふ、小さな御花を咲かせて……。
綺麗じゃあないか。
「私達淫魔が住んでいるのは此処からずぅっと東に向かった場所にあってね?? 離れた位置でも感じちゃう力を放っているのは誰かなぁ――って気になったのよ。そしたら!!」
そうしたら??
「私の男の力も感じちゃったからね?? これは受胎する絶好機と考えて空間転移で移動したのよ」
「その空間転移はレイドの力を感知し、辿る形で移動を果たしたのですか??」
前半部分を一切合切無視してカエデが質問を続ける。
「辿るというかぁ。ほら、レイドに私の魔力を埋め込んであるからね。それを感知して飛んで来たのよ」
エルザードが俺の左胸を指すと、ぽぅっと怪しい光が左胸の上に浮かんだ。
「えっ!? これって……」
「そ。私の物よ――って以前刻んだじゃない?? レイドの力を感知したと言うよりかは、私の力を辿って空間転移した感じかしらね」
おいおい。
これって消えたんじゃないのかよ。
ハート形に浮かぶ印に何だか辟易した気分になってしまう。
まさかとは思いますけど、あの馬鹿げた痛みも与える事も出来るのかしらね??
「ふむ。素晴らしい魔法に正直脱帽ものです。続きまして、あの化け物は何処から湧いて来たのですか?? あの力と再生能力……。正直、この世の者とは考え難いのですけど」
この話の根幹はやっぱりそこだよな。
俺もカエデが話した通り、あの化け物はこの世の理から外れた場所から登場したって感じだと考えているから。
「あ――。やっぱり、そうだったんだ」
やっぱり??
何か思う事があるのか??
「何の前触れも無く、突如として出現するのよ。あんた達が倒したあの化け物は」
「何処からですか??」
「何処から?? それが特定出来たら苦労はしないわよ。あの化け物が出現する不特定の場所、私達はその場所を……。奈落の遺産と呼んでいるわ」
『奈落の遺産』 か。
当たり前だけど初耳だな。
「この大陸とその近辺で突如と発生する異変。私が所有している古い文献によると数千年以上前から確認出来ているわ。 刹那に消えてしまうものもあれば、今回の場合の様にそこから化け物が出現する場合もあるの。長く留まる様に出現すれば異常なマナの濃度を発生させるから探知するのは容易いんだけどねっ」
「――――。つまり、今現在その奈落の遺産は消失したと??」
細い顎先に指を当てつつカエデが話す。
「そっ。綺麗さっぱり消失しちゃったっ。古代から続く厄災……。私達の御先祖様も化け物と戦った記録が残っているし。良い経験になったんじゃない??」
「貴重な経験を積みたかったのですが……。生憎、私は途中参加でしたからねっ」
ごめんなさい。
睨まないで……。
カエデの冷たい視線を受け、先程の小さな御花を咲かせる草さんに再び視線を落としてしまった。
「エルザードさんはあのような化け物と会敵した経験が御有りで??」
アオイが静かな口調で話す。
「…………。ん――ん。無いわよ??」
何、今の間は。
「ま、何はともあれ。全員が無事で済んで良かったじゃん」
「もしも、エルザードさんがあの化け物と対峙した場合。苦戦する可能性はありましたか??」
お、それはちょっと気になるな。
カエデの良い質問に興味が湧き、エルザードを注視……。
「――。おほんっ。レイド様??」
出来ないので。
彼女の頭上のずぅっと上を見つめた。
「あの程度の力だったら瞬殺よ、瞬殺。あ、でもぉ――。私の眠りを妨げた罰としてぇ。敢えて徐々に苦しみを与えながら滅却するのも面白いかもね!?」
きゃはっと可愛い笑みを浮かべ、恐ろしい事をさらっと口に出しますよね。
まぁ、それを可能としてしまう事が恐ろしいです。
「相手の再生能力を上回る魔法……。参考程度に教えて頂けます??」
「いいわよ――。あのね??」
彼女が口を開こうとした刹那。
「レイド――!! 御米、ひっくり返したぞ――!!」
再びユウからの指示を請う声が届いてしまった。
此処からは魔法の講座だし……。
俺にはほぼ無関係ですからね。彼女の達の胃袋を満足させましょうか。
「満遍なくひっくり返したのなら、お次は……。手の平に収まる程度の量を掴んでみて??」
「分かった!!」
木の皿の前でキラキラとした目で此方を見つめるユウに指示を出す。
焚火を注視していた所為もあるのか、健康的に焼けた頬がぽぅっと桜色に染まっている。
ちょっとだけ汗ばんだ額にその笑みは大変良く似合っていた。
そんなに楽しいかな?? おにぎりを握るのって。
「これ位??」
俺が指示した通りの量の御米を掴んでくれる。
「良いね。後は、御米を三角に握るだけなんだけど」
「おっしゃ!! 任せろ!!」
「御待ちなさい!!」
何故、あなたは柔らかい御米さん相手に全力を出そうとするのでしょうか??
モキャッと盛り上がった筋肉に大変嫌な予感がしたので、速攻で止めてやった。
「何だよ――。折角気合入れて握ろうと思ったのに」
「あんたねぇ。馬鹿力籠めて失敗したのもう忘れたの??」
深紅の龍が眉擬きをクイっと上げて話す。
「美味しいおにぎりは炊き方に注意を払うのが大切なんだけども。握り方にもコツがあるんだ」
「見本みせてあげなよ」
「見せたいのは山々だけどさ。ほら」
抗魔の弓の弦で負傷し、包帯をグルっと巻いた指を見せてやる。
さっき漸く治療が終わったのですよ。
「あぁ、怪我してたのか」
えぇ、そうですよ??
もう少しで骨まで見えちゃう位に肉が引き裂かれてたのに、お忘れで??
「おにぎりを握るコツはね?? 余り力を籠めて握らない事と。三回、若しくは三の倍数の回数握る事なんだ」
「前者は何んとなく分かるけど。後半は何で??」
「一回とか、偶数回だと三角形の角に力を与える回数が崩れちゃって、歪な形になっちゃうからね」
俺がそう話すと。
「「なるほどぉ――!!!!」」
二人が同時にコクコクと頷いてくれた。
「おっし。じゃあ、ふわっと優しく……。三回握るぞ!!」
ユウがふぅっと息を整え。
「んっ……。ほっ……。よいしょ!!!!」
その剛腕からは想像出来ない繊細な動きを見せ、御米を回転させ始める。
「どうだ!?」
「うん!! 美味そうだぞ!!」
彼女がそっと手を開くと、角が美しい三角のおにぎりが出現した。
言った通りに直ぐ出来る辺り、ユウって料理の才能があるのかも。フェリスさんも料理が上手だったし。
「へへ、どれ。味見してみようかなっ」
ユウがあ――んと御口を開くものの。
それを黙って見過ごす御方ではありませんよね?? 貴女は。
「私のっ!! はむぅ!!!!」
ユウの右手にしがみ付き、三角の一角を御口に迎えてしまいましたとさ。
「あぁ!! あたしのおにぎり!!」
「はむっ……。ふぉむ……。んっ!! まい!!!!」
その証拠に。モグモグと咀嚼した後、トロォンと目元が蕩け落ちてしまいましたね。
「ユウ、良かったじゃないか。マイが美味いって言ってくれたぞ??」
「まぁ――。御米はまだあるし。もうちょっと練習しようかな」
そうそう。
料理は一朝一夕で上達する訳じゃないからね。良い心掛けだよ。
「おう!! じゃんじゃん握って私に捧げよ!!」
「あたしの分もあるんだよ!! 偶には自分の分を作れ!!!!」
「いいや、御断りだね!!」
炊き立て御飯が放つホカホカの蒸気の前で燥ぐ御二人。
対し。
「ふ、む……。大変参考になりますわね」
「えぇ。ここの術式は使えます」
「ねぇ――。私、疲れているんだけど??」
背後の御二人は淫魔の女王様に魔法の指示を静かに請うている。
皆さん??
明るい内なら大歓迎な光景ですが……。残念ながら現在時刻は大変遅い時間帯なのです。
夜空に浮かぶお月様も皆の姿を見下ろして顔を顰めていますよ??
『いい加減に眠りなさい』 と。
全ての御米が消え、淫魔の女王がもういい加減に休ませてくれと懇願する声を上げる頃になると。漸く夜営地に静寂が訪れてくれた。
任務を無事達成、そして奈落の遺産から出現してしまった化け物も撃退出来たが。
拠点地の皆の容体が気になるな。トアの頑丈さなら大丈夫だとは思うけども……。
王都に帰還後、レフ准尉にさり気なく問うてみよう。
毛布の上にコロンと寝転び、月と星々の明かりをおかずにして夢の世界へと旅立とうとしたのだが。
これを良しとしない横着で、魅力的な禁断の果実が足元からぬるりと襲来。
誰かさんの大絶叫が響き渡り、俺の体が華麗に地面の上を転がり続け。
ぼやけて歪んだ視界の先、朧に映る睡魔さんの足元で綺麗に停止。
『お、お疲れ様……』 と。
若干震える声で労いの言葉を掛けて頂いた後。彼?? 若しくは彼女?? と仲良く手を繋ぎ。晴れて夢の世界へと旅立って行ったのだった。
最後まで御覧頂き有難うございます!!
そして。
ブックマークをして頂き有難うございます!!
もう間も無く、二章中盤に突入する為。執筆活動の嬉しい励みになりました!!
本当に嬉しいです!!
依然として暑い日々が続いていますので、体調管理に気を付けて下さいね。




