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第四十二話 太古からの厄災 その一

お疲れ様です。本日の前半部分の投稿になります。


それでは御覧下さい。




 私の喉に巻き付く凶悪な存在が、拙い命を断とうと与える苦痛はいつの間にか多幸感へと変化。


 雲の上に両の足を突き立てた様な。


 足元がフワフワと浮いて定まらない状態が長く続き、私の意識は大変暗い闇の底へと向かって落ちて行った。



 いつか、誰かから聞いた通り。人間は耐えられない苦痛を感じた時、頭の中でその痛みを無理矢理別のモノへと変えてしまうらしい。



 それを自分自身で感じるとは考えていなかったけど……。


 うん、別に苦しくも何とも無い。


 もう一人の私はこの多幸感に身を委ねてしまえとさえ判断しまっているのが良い証拠だ。




 訓練所を出て沢山見て来た、死。


 死とは苦痛の先にある結果だと考えていたんだけどなぁ。


 これなら別に…………。



 高揚感と、陽性な感情を抱きつつ何処までも落ちて行く感覚に身を委ねていると、ふと体がピタッ!! と落下を止めてしまった。



 何で止まったんだろう??


 もうこれ以上落下出来ない底に到着したから止まったのかな。



 体に感じていた多幸感は消失し、代わりに大変な痛みが体を走り抜けて行った。




 痛い……。


 物凄く、痛い。




 喉元が潰れてしまったのか。


 口から空気を吸い込むと強烈な痛みが喉の奥に発生し、体中の骨が軋んで耐えがたい痛みを発生させている。


 死んでも痛みって感じるんだ。


 死人も大変だなぁ――。天国?? 地獄?? に行っても苦しまなきゃいけないなんて。



 痛みを誤魔化す様に体を丸め、生を終えた死者に対して行うべきでは無い凶悪な仕打ちに参りそうになっていると……。




 あ、あれ??


 何か、急に楽になった??



 喉の痛みがすぅっと消え、呼吸するのが大変楽になった。


 新鮮な空気を求め、口をパカっと大きく開いて沢山の空気を取り込むと瞼の裏に柔らかい明かりが差し込んだ。




 その明かりの原因を確かめる為、そっと静かに瞳を開いた。





 お、おぉ??


 此処は何処かしらね??




 目を開き、現在の状況を確認すると。


 私は美しい花々が咲き誇る大地に立っていた。


 さぁっと風が吹けば鼻腔を楽しませてくれる馨し花の香りが届き、花弁が続いて揺れれば視界が幸せになってしまう。



 此処って……。天国、なのかな??



 それにしては陳腐な場所じゃない?? もっと……。そう!! 天使とか神様とかが沢山居て、私に色んな指示を与えてるのよ。



 お前は新人だからやれあそこに行け、やれアイツの仕事を手伝え。



 死人に鞭を打って働かせる神様もどうかと思うけどさ。誰も居ないあの世なんて楽しく無いもん。



 白く美しく咲き誇る一輪の花を指で摘み、花弁の香りをすぅぅっと楽しんでいると……。


 その花弁の向こう側の景色の中から一人の男性が馬に跨ってやって来た。




『白馬に跨り、白銀の甲冑を纏った騎士』




 乙女であれば誰しもが想像しうる姿、なのですが。


 お生憎様。


 私の場合は超現実的な想像に留まってしまったわね。




 白馬では無く、何処にても居る普遍的な栗毛色の毛並のお馬さん。


 スラっと伸びた足とは言い難い形と筋力を御持ちになり、風を切って颯爽と参るのでは無くて。随分とのんびりとした歩みで男性を乗せて私の下へと進んでくる。



 その馬に跨っている彼は……。



 私と同じ服を着用し、優しい顔の上に乗っかった黒髪は戦闘後なのか。若干蓬髪気味に乱れ、笑おうかそれとも此処は真面目な顔を作ろうか。



 その狭間に身を置いた何とも言えない表情で馬の手綱を握り、私の前に到着。





 彼は私を見下ろし、私は彼を見上げていた。





 一体、どれくらい見つめ合っていたのだろう??


 体感では数秒だけど。一生分の時間を費やして彼の瞳の奥を見つめていた気もする。


 優しい瞳の彼が親しい者にしか見せない笑みをフッと浮かべると。



「っ」



 自分でも驚く程に心臓がきゃぁっ!! と五月蠅く鳴いてしまった。



 な、何よ。


 馬鹿レイドのクセに。


 生意気だぞ!! と。嬉しさを誤魔化す為に彼の愛馬のお腹をポコンと殴ってあげると。



『何をする!?』



 彼女の癪に障ったのか。



 真ん丸お目目をジロっと尖らせ、私の睨んでしまった。



 ふふ、ウマ子。ごめんね??



 彼女の横顔をいい子、いい子と撫でてあげると。彼が私に向けて手を伸ばし。


 私は、何の躊躇する事も無く彼の手を掴み。彼の腰に腕を回してウマ子へと跨った。



 彼の背から伝わる人の温かさ。


 風が届けてくれる男の香と、ウマ子から伝わる等間隔に揺れる振動が私の女の部分を刺激してしまった。




 温かいね??





 そう言い、彼の背中に顔を埋めると。



『貴様!!』



 ウマ子が怒っちゃった。


 御主人様を取られたくないんだよね――??



 でも、ごめんね。馬に遠慮をする必要は無いのっ!!



 ウマ子のお尻をピシャリと叩き、驚いた彼女が駆け出し。慌てて手綱を握って私を叱る彼の声。



 ふふっ!!


 このままずぅっと駆けて行こうよ!!



 困惑する彼と、怒りを露わにする彼女の背に跨り。私達は地平線の彼方に浮かぶ光へと向かって駆け出して行った。





「――――――――。お、おい!! 起きろ!!」



 ん……。


 レイド??



「トア二等兵!! 起きろ!!」



 誰よ。


 折角っ!! 私が素敵な夢を見ているってのにぃ!!



「起きろって言っているだろ!?」



 男の声色が弾けると同時、頬に軽快な痛みが二度も発生してしまった。


 その痛みが私の憤怒を多大に刺激してしまったようで??



「――――。な、何すんのよぉおおお!!!!」


「グバビッ!?!?」



 寝起きに相応しい激烈な拳を誰かさんの顔面に捻じ込んでやった。



「んっ……?? ん――……。夢、だったか」



 残念だなぁ。


 あの後、アイツに一杯御飯作って貰って。楽しい遠足を満喫しようかと考えていたのに。



 上体を起こして、今もぼ――っとする頭をフルフルと振って夢見心地の意識を現実の下に戻してやると。



「う……。うぅっ」



 男性伍長が半べそかいて、左頬を抑えて呻いているのを視界に捉えてしまった。



 や、やっば!!!!


 拳の感触は夢じゃなかったんだ!!



「も、申し訳ありません!! 大丈夫ですか!?」


「う、うん……。歯は折れていないと思う」



 それなら大丈夫!! とは言えず。


 彼の腕を掴んで無理矢理起こして、確と頭を下げて謝意を述べた。



「それより!! 拠点地内が大変な事になっているんだよ!!」


「化け物がまだ居るのですか!?」



 あんの野郎……。


 良くも私を殺そうとしてくれたわね!?


 受けた痛みを倍以上にして返してやるんだから!!!!


 通路に落ちていた長剣を拾い、やたら喧しい拠点地内を移動しようとするが伍長に止められてしまった。



「あ、いや。敵はもう居ないんだよ」


「はい??」



 居ない?? あの化け物が??



「俺達を倒して何処に移動しちまったのか……。それすらも分かっていなくて、情報が錯乱しているんだ。此処から南の拠点地に移動したら不味いと考えて、大尉がさっき連絡要員を送ったんだよ」



「では、私は何をすれば宜しいでしょうか??」


「まだ倒れている者も多い。負傷者を兵舎に運搬、重傷者に至っては最優先で治療に当たってくれての指示だ」


「了解しました!!」


「頼んだぞ!! 俺も仕事に戻るからっ!!」



 伍長が元気良く手を上げて、通路の向こう側に横たわるパトリー一等兵の下へと駆けて行った。




 何であの化け物は私達の命を奪わなかったのだろう??


 命を奪う価値もないと決めつけたのだろうか……。


 そうだとしたら……。増々腹が立つわね!!!!


 私の命をこの世に残してしまった事を後悔させてやるんだから!!!!



 いつか、復讐の刃を化け物に突き立てる為。より一層の鍛錬を積む事を決心してやたらと騒がしい兵舎の間に挟まれた通路へと移動を開始。



「おい!! 起きろ!!」


「まだ…………。眠いの!!」


「いってぇ!!」



 あはは。


 あの伍長、女運が悪いとでも呼べばいいのか。私の友達に似てついていない体質の様ね。


 私の耳がびっくりする位の音量を放つ平手打ちを食らってしまい、涙目を浮かべて懸命に彼女を起こそうとする彼に心の中で激励の声を送り。


 救護の任へと向かって駆けて行った。



最後まで御覧頂き、有難う御座いました!!


帰宅後、オリンピックの野球を観戦しつつ編集作業をしていたのですが……。白熱した試合展開に指が御留守になってしまいました。


後半部分の編集はこの後、開始しますので。投稿まで今暫くお待ち下さい。

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