第四十一話 これぞ龍の真骨頂!! その二
お疲れ様です!! 漸く作業が終わりましたので投稿させて頂きます!!
それではどうぞ!!
深紅の髪の女性を包んでいた赤き魔力の色が霧散。
霧散した赤が彼女の体の中を通り右手に集約されると、俺達の声に呼応する様に横一文字に閉じていた瞳をそっと開いた。
「おぉう!!!! 我、龍族の名に懸けて……。敵を討つっ!!!!」
右手の先に浮かぶ赤き魔法陣から真っ赤に燃え盛る槍を取り出し。
「はぁぁぁぁっ。ふんっ!!!!」
左手に持つ黄金の槍と合一するとこれまで感じた事の無い圧がマイの体から放たれた。
美しく青く光る細い雷の線が肩口から迸り。
彼女が持つ燃え盛る槍の熱に耐えられぬのか、周囲に生える雑草が白い煙を放ち燃焼し始めた。
凄い……。
この力と圧。ひょっとしたら師匠に匹敵するんじゃないのか??
「さぁ……。これで決めるわよ!?」
右足をすっと引き、燃え盛る黄金の槍を投擲する構えを見せた。
あの常軌を逸した熱量を持った槍を放つ。
彼女の最大攻撃力に期待感を籠め、皆が一挙手一投足を見逃すまいと。固唾を飲んで見守っていたのだが……。
「食らえ!! これが私のぉ……。あ、技名考えてなかった。ん――。どうっすかなぁ??」
投擲の姿勢を止め、この期に及んでどうでもいい名を捻ろうとしてしまった。
「覇龍超絶最強滅殺投擲 って名前にしようかしら。ほら、私最強だし??」
「「なげぇ!!!!」」
ア、アイツは何を考えているんだ!! この機を逃したら不味いんだよ!!
二度と訪れないかも知れない絶好機に対し、長ったらしい技名を考え始めやがった!!
「五月蠅いわね!! 格好良く決めたいじゃん!!」
「そういう問題じゃないんだよ!! ほ、ほら!! 奴さんが回復しちまうだろ!? 早くぶっ放せ!!」
ユウの声を受け、大馬鹿者から化け物に視線を移すと。
「グ、ググ……」
体中に付着していた煤が崩れ落ち、新たなる体が産声を上げるところであった。
「何んとか足止めしろい!! こ、これ。思った以上に制御が難しいのよ!!」
「「はぁっ!?」」
「ググ。グオォォオオオオオッ!!」
やっべぇ!!
再生し終えてしまう!!
慌てて敵に向かって残る体力を振り絞って突貫しようとするが。
「――――――――。水鎖拘束」
「グォッ!?!?」
化け物の足元に水色の魔法陣が浮かび、その中心から水の鎖が出現し。化け物に絡みついてその動きを拘束した。
この声、そして素晴らしい魔力と的確な魔法の使用。
「「カエデ!!!!」」
ユウと同時に拠点地の方へと振り返り、彼女の登場を盛大な声で迎えてあげた。
「大変お待たせしました。さて、マイ。早くその馬鹿げた力を放つ槍を投擲して下さい」
「おっしゃぁああああ!! 肉片一つ残さず……。この地から吹き飛んで行きやがれぇえええええええええ!!!!」
炎を纏う黄金の槍が投擲され、美しい軌道を描いて一直線に敵へと向かって行く。
鋭い切っ先が敵に到達すると目の奥を痛めてしまう強烈な閃光が放たれ、その閃光の中から首を傾げたくなる衝撃波が発生。
その直ぐ後、背の皮膚を焦がしてしまう大熱波が周囲を襲った。
「おわぁあああああああああ!!」
衝撃波によって体が地面から引っこ抜かれて後方へと吹き飛び、地面に何度も打ち付けられ。
転げ、転げ回って漸く体が停止してくれた。
い、いってぇ……。
何て破壊力と熱量だよ。
口の中に侵入した異物を吐き出し、体に付着した埃を払いつつ立ち上がり着弾点に視線を送った。
「お、おぉ――……。凄い爆煙だな」
天まで届けと言わんばかりのキノコ型の黒い煙が立ち上り、今も周囲に残る熱がその威力を物語っている。
馬鹿げた威力になるのなら注意喚起の一つや二つ、言うべきではないのか??
痛む肩関節を抑えつつ、風に流され徐々にその形が変わり行く黒煙の下へと進みその惨状を確認した。
「…………ッ」
お、おいおい。
あの威力の直撃を食らってもまだ生きているよ。
化け物の四肢は全て吹き飛び、消失。
背から生え伸びていた蜘蛛の節足と蝙蝠の翼も失い、僅かに残った胴体と頭部が再生を果たそうと懸命に蠢いていた。
その姿を見ると何だか……。
「――――。可哀想だな」
「ユウか。うん、俺も今そう考えていた所」
右隣りに並ぶ彼女にそう話し、肩に掛けていた抗魔の弓を手に取った。
「楽にしてあげて下さい」
「カエデの意見に賛成ですわ。あの生き物は……。この世に存在してはいけないのです」
遅れてやってきた両名の意見を受け。
「あぁ、分かっているよ」
痛む右手の人差し指に喝を入れ、弦を強く引き。
「ググ……」
「ゆっくり眠ってくれ」
化け物の体に対して矢を放ってやった。
「グッ!? ――――――――…………」
朱の矢が突き刺さり、化け物の抵抗力を奪うと。再生する事を止めた化け物は徐々に形状崩壊を始め。
全ての肉片が灰へと還り。
北から吹く風に乗って何処かへと消え去ってしまった。
「状況終了です。お疲れ様でした」
カエデの言葉を受け、弓を肩に掛け。
「つ、つっかれたぁ!!!!」
人目も憚らずに地面へと座り込み、正直な感想を叫んでやった。
「同感。しっかし、あの化け物は一体何処から湧いて出て来たんだろうなぁ??」
俺と同じ姿勢のユウが、張り詰めた緊張感から漸く解放されて安堵した声色で話す。
「それが分かったら苦労はしません」
でしょうね。
例え知ったとしても、あんな化け物がウヨウヨいる場所に向かって行こうとは考えませんよ。
たった一体倒すだけでこんなにも体力を消耗してしまったのだから。
「ただいま――!!」
この剽軽な声は……。
俯きがちだった顔を上げると、ウマ子の頭の上に乗った深紅の龍を捉えた。
「吹き飛んだ先に偶々居てさ。こっちに向かうもんだから帰るついでに乗って来ちゃった」
自分の技で吹き飛んでしまうのか。何だか様にならないよなぁ……。
もう少し加減を覚えたらどうだい??
まっ、でも。
マイの技が無ければもっと時間が掛っていた恐れもあるし。
良くやり遂げてくれたよ。
「よっと!! はぁ――。つっかれた」
ユウの頭の上で寛ぐずんぐりむっくり太った雀を何とも無しに眺めていると。
『終わったのか??』
ウマ子が疲弊する此方の体に面長の顔を擦り付け、若干甘える声を放った。
「お陰様でね。有難うな?? マイ達を運んで来てくれて」
それに応える様に優しく撫でてあげると。
『ふんっ。今度は一人で勝てる様になるのだなっ!!』
この戦闘の勝利を彩るかの如く。
大きな嘶き声を上げてくれた。
「よしっ!! これで脅威は去った事だし。夜営地に向かって……」
臀部に付着した土埃を払いつつ立ち上がると、左胸にチクンとした疼痛が発生する。
何だ?? この痛み……。
「如何為されましたか??」
「あ、いや。何か左胸が痛くて……」
アオイに向かってそう話すと、少し離れた位置に強烈な光を放つ魔法陣が浮かび上がった。
「な、何!?」
マイが咄嗟に構えるのだが……。
「御安心下さい。この魔力の波動は……」
カエデがマイを制し、魔法陣から放たれる光が止むのを待つ様に指示を出す。
そして、光の中から現れたのは……。
「――――。じゃじゃ――んっ!!!! 私、登場っ!!!!」
天井知らずの美を誇る淫魔の女王エルザードであった。
濃い桜色の髪をフルンっと揺らして登場し、顔に掛かった前髪を耳に掛けるとどうでしょう??
周囲で歌い続けていた夜虫の声がピタリと止むではありませんか。
それはまるで、彼女の姿を目に焼き付ける為に歌うのを止める様にも見えませんかね。
だがまぁ、恐らく。
五臓六腑が辟易してしまう魔力の波動をエルザードが放っているから、静まり返ったのだろうさ。
「あはっ。流石私ねぇ――。一切の誤差無く、私の所有物の下に到着出来ちゃうなんてっ」
何故彼女が此処に来たのか。そして、所有物とは一体誰の事を指すのか。
それを問う前に。
「エルザード、久しぶりだね」
「久し振り――!! 元気にしてた!?」
「お陰様でね。所、で。大変申し訳ないんですけどね??」
「ん?? なぁにぃ??」
「もっと布面積が広い真面な服を着てくれ!!!!」
彼女が見に纏うのは、卑猥な光沢を放つ紫色の一繋ぎの寝間着。
ちょっとした風が吹いたら容易く捲れてしまい、中の下着が御目見えしてしまう長さの寝間着を着用しているものだから。
登場する事よりも、服装について驚いてしまいましたよ!!
全く!! 実にけしからんっ!!!!
「最近暑いからさぁ――。レイドはこういう短い寝間着が好きなんでしょ??」
「そういう問題ではありません」
ペロっと舌を覗かせ、スススっ……と。
スカートをたくし上げて行くので視線をフイっと反らしてやった。
「何か、この辺暑くない??」
袖が無く、大きく胸元が開いた服を摘まんでパタパタと煽り、魅惑的な谷間に風を送りつつ話す。
外出する時はそれに適した服を着用しなさい!! と。
至極真っ当な意見を叫ぼうとしたのだが……。
「「「っ!!!!」」」
何やら拠点地の方が騒がしくなって来た。
「ふむ。目を覚ました方々が騒ぎ始めたようですね」
「あんた達、どっちの方角から来たの??」
エルザードがカエデの顔を見つめながら話す。
「此処から徒歩で凡そ一時間程度東へ移動した場所です」
「ふぅん。じゃあ、そこに荷物も置いてあるんでしょ?? 見つかると面倒だし、移動するわねぇ――」
エルザードが指をパチンと鳴らすと地面に大きな魔法陣が出現し、目の前に強烈な光が発生した後。体全体が白い靄に包まれた。
何故彼女が此処に来たのか。
それは向こうに到着して、俺の上着を彼女に着させてから問いましょう。
そうじゃないと真面に姿を見られませんからね。
拠点地の仲間の心配を他所に、そんな心配を抱く方もどうかと思うけどさ。
何はともあれ、トア。
化け物は退治したからな?? 体を労われよ??
彼等が完全に姿を消失させた後、一際強い風が吹き。何処までも広がる大空へと化け物の残り滓を完全に運び終えた。
彼等の激戦は、幾千幾万年もの人が歩みし歴史の中に埋もれ何人にも語られる事も無く風化してしまうであろう。
しかし、英雄になり損ねた彼の心は心底穏やかであった。
価値の尺度を測る定規。
彼の中の定規では栄えある英雄になり、大手を振って故郷に凱旋するよりも。多くの人を救えた事にその価値を見出していたのだから。
最後まで御覧頂き、有難う御座いました。
深夜の投稿になってしまい申し訳ありません。
寝苦しい夜ですが、体調の管理に気を付けて下さいね。