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第三十九話 置いてけぼりの海竜さん その二

お疲れ様です!! 後半部分の投稿になります。


深夜の投稿になってしまい、大変申し訳ありませんでした。


それでは御覧下さい。




 彼等から離れ、シンっと静まり返った拠点地内の中央に到着すると。


 遠くの闇の中から聞こえて来る激しい戦闘音がちょっとだけ私の心に憤怒の火を灯してしまう。


 彼が私にしか出来ないと考えて頼んでくれた責務。それは十分に理解しています。けれど……。



「私だけが置いてけぼりなのは如何な事だと思いますよ!!」



 指揮監督の役目を担う私が居なければ、彼等が苦戦する事は火を見るよりも明らか。


 それなのにっ!!



 足元に転がる小石を爪先で蹴り飛ばし、石が美しい放物線を描いて建物の壁に衝突すると同時。



「文句を言い続けていも仕事が片付く訳ではありませんからね。さっさと片付けてしまいましょうか」



 我儘な私から、仕事真面目な私に切り替え。


 魔力を解放した。




「美しく咲き誇る生命の花。私に向かって馨しい香りを届けなさい……」



 さてっ、行きますっ!!



生命反応感知バイタルチェック!!」



 範囲は……。


 拠点地内で構わないでしょう。



 範囲内のある程度の力を持った生物のみに反応する魔力の余波を流し、そこから返って来る命の鼓動を確認すると。




 ふむ……。


 七十五名の人が居ますね。


 その内、六十五名がまずまずの傷を負い。十名が重傷、か。



 あの化け物相手に重傷は負うものの、命を落とさないのは流石。軍属の者であると褒め称えるべきなのですけども。


 七十五名もの兵士さん達の治療を開始しなければならないという責務に少しだけ辟易してしまった。




 重傷患者さんから始めましょう……。




 兵舎と兵舎の合間の通路を日常のソレと変わらぬ速度で歩いて行くと。



『カエデ!! 強力な力で相手を……。うわぁっ!!』



 レイドからの念話が届いた。



『どうかしましたかっ??』



 わっ。


 自分でも怒っていますよって分かる声出しちゃった。


 いけませんね。


 子供っぽく見られてしまいます。



『危なかった……。攻撃を与え続ける事で、再生能力が徐々に陰りを見せ始めているんだけど。一気苛烈に攻撃を加えた方が良いのかな!?』



 勝手にすれば??



 悪い私はそう伝えろと言うのですが。



『それも一つの手段です。小手先の技、魔法はかえって此方の体力を消耗させてしまいますからねっ』



 善い私は、悪い私の真逆の言葉を伝えてあげた。


 でも。


 語尾に悪い私が出てしまいましたよ。



『有難う!! そっちの状況は!?』


『六十五名が生焼け。十名が程よく焼き上がっていますよっ』



『えっ!?』



 分かり辛かったかな??




『はっは――!! カエデ――!! 怪我の具合を料理の焼き具合に例えるなんてぇ、やるじゃない!!』



 マイには伝わりましたね。



『あ、あぁ。そういう事か。程よく焼き上がっている人達を治療したらこっちに来てくれ!!』



『全員じゃなくてもいいんですかっ??』



 あぁ、もう。


 悪い私よ、何処かに消えて下さい。



『襲撃されたのに、全員無傷だと逆におかしいと思われるだろ??』



 成程。



『レイドにしては頭がよく回りましたねっ』


『あ、有難う??』



 褒めたのではなく、皮肉ですよ。



『それでは料理を開始しますから。料理長が到着するまで、横着なお客様の相手を務めていて下さいねっ』


『う、うん。了解しました……』



 ほら、彼が怖がっちゃった。


 念話が途切れると同時に、チクンとした痛みが胸を刺してしまった。



「はぁ――。ちょっと自己嫌悪ですね」



 我儘なのは分かっているけども、彼等と共に肩を並べて戦いたかったのは本音ですから。


 私だけが仲間外れにされるのは寂しいじゃないですか。


 


 正確言えば……。




 皆さんの記憶の中に私が居ない事に寂しさを覚える、かな。


 苦労を共に分かち合うのが友人足る姿なのに。そこに私が居ないのは辛いのです。



 それを彼は分かっていないっ!!



 ふんすっ!! っと。今日一番の鼻息を漏らすと。



「……」



 一人目の程よく焼けた人の姿を捉えた。



 ふぅむ……。


 鎖骨が折れ曲がり、脇腹の骨が数本程よくひび割れ。


 額のお肉がスパッ!! と綺麗に横一文字に切り裂かれて顔面が驚く程に真っ赤ですね。



「ふぅ――。古から流れし、癒しの水よ。雄大なる力を与え賜え……」



 力無く倒れている彼の体に治癒魔法を掛け。


 じっくり調理を開始する。



 すると……。



「う、ん……」



 何と、起き上がろうとするではありませんか。


 私の存在を確知される訳にはいきませんので……。



「御免なさい。ちょっと眠って貰いますね??」




 調理を一旦中止。




「安らぎの心を想い抱き、水面に浮かべる猛り猛った嵐の波を静ませなさい……」


羊達のお散歩(シープストロール)



 催眠効果のある魔法を男性兵に詠唱すると。



「すぅ……」



 瞬く間に深い眠りへと就いてしまった。



 うん。


 良いですね。



 力の弱い者にしか効果を与えられない事が悔やまれます。


 それは何故か??


 常日頃から、口喧しく暴れ回る御方達には一切の効果を望めませんからねっ。


  

「よし。一人目、終了です」



 適度な傷口を残して彼の治療を終えると、二人目の重傷患者の下へと歩みを進める。



 その道中。


 食堂なのかな??


 ちょっとだけいい匂いが残る建物の前を通過して、さり気なく通路脇の建物の入り口へと視線を送ると。


 一人の女性兵が静かに吐息を立てて眠っていた。



 わっ。


 この人、結構強いですね。



 拠点地内で一番強い生命反応を放つ者に興味を覚え、彼女の下へと進む。



「…………」



 首回りの青痣が酷いな。


 折角可愛い顔をしているのに、首の痣が一生残ったら可哀想だよね??




「女性は綺麗にしなくちゃいけないのですよ??」




 うっすらと青痣が残る程度に治癒を施し、改めて彼女の顔をじぃっと観察した。



 明るい茶の髪にちょっとだけ尖った眉。


 服の上からでも分かる良い肉付きのお胸さんに、整った体と長い四肢。


 身体的能力は私よりも恐らく上。つまり、強くてかっこよくて可愛い女性兵士さんだ。



 う――むっ……。


 残念ながら私が勝っている部分はありませんね。


 女性は体付きだけが全てでは無いですけども、私も一人の女性なのです。やはり、そういう所が気になってしまうのですよ。




 顔から察するに、レイドと同年代だろう。



 彼の友人だろうか??


 時間があれば問うてみようかな??



 でも、その前に!!!!


 今日の件についての説教が必要ですよね!! 私を怒らせると恐ろしいのですよ!!



「ふぅっ。早く仕事を終わらせようかな」



 悪い私さん、いい加減に出て行って下さい。


 猛る心を落ち着かせると、今も遠くで激しい戦闘が繰り広げられているのを感知出来てしまった。




 あそこに加わる為には彼の仲間を救う必要があるのです。


 これは大きな貸しになりますよね??


 いつか、この貸しを盾に彼を自由自在に操ってやろう。



『えぇ!? 勘弁して下さいよ!!』



 ふふ、そうそう。


 そうやって慌てふためいて私の命令に従うのです。



 彼の驚いた顔と言動を想像すると、悪い私の考えも悪く無いなぁっと思えてしまう。



 意地悪なのは女性だから。



 暴力的な答えを導き出すと、その理由を自分の中で無理矢理そうこじ付け。次なる患者の下へと進んで行ったのだった。

 




最後まで御覧頂き有難う御座いました。


連日の暑さにやられ、若干夏バテ気味ですが……。皆様も暑さ対策には万全を期して下さいね。

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