表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/1225

第三十九話 置いてけぼりの海竜さん その一

お疲れ様です。本日の投稿になります。


それでは、御覧下さい!!




 生ある者の体を包もうと画策する闇を懸命に払おうとする松明の頼りない橙の光の中。


 どちらの力が上か、まるで競い合う様に二体の強者が互いの力を衝突させている。




 黄金の槍が甲高い音を奏でて空気を切り裂けば、それに呼応するかの様に鎌が迎え撃ち。


 化け物が大地を震わせる烈脚を使用して此方の視界から姿を消せば、彼女も又姿を消す。


 目まぐるしく移り変わる戦闘の光景に思わず息を飲み、只々呆気に取られて見つめていた。




 強い事は知っていましたけども。


 まさか此処までとはね……。己を最強だと自負している者の実力は伊達じゃない、か。




「すげぇな、マイの奴。あの速さについて行っているよ」



 右隣り。


 俺と同じく戦いの行く末を見守り続けているユウが話す。



「遠目だから何んとか目で追えるけど、実際に目の前で移動されると対応するのがやっとだったからな」



 完璧に対応出来ていたかと問われたら、その答えは否。


 傷だらけのこの体が良い証拠ですよ。



 此方は傷だらけ、対し。アイツは無傷。


 俺も一人の男だ。


 己の情けない実力が彼女の力に及ばない事に対し、人知れず嫉妬心を抱いていた。




「対応出来るだけでも十分だって。あたしの場合は多分、無理っ」


「ユウだったら持ち前の頑丈さを生かして……。うおっ!?」




「ずぁああああっ!!!! この野郎!! イイ感じに強いじゃねぇか!!」


「グルル……ッ!!!!」



 通路のド真ん中に突如として現れた二体の超生物が発生させた衝撃波に、ついつい声が出てしまった。



「掛かってこいやぁああああ!! ふんぬぅっ!!!!」



 自身の倍以上ある体躯から恐ろしい速度で振り下ろされた鎌を黄金の槍で受け止め。



「がら空きぃぃいいいい!!!!」



 刹那に生まれた防御の穴を突き、化け物の胴体へ。大木をへし折る勢いの剛脚を叩き込んだ。



「グッ!?」



 化け物の体がくの字に折れ曲がって後方へと吹き飛び、兵舎の壁に激突。


 耳をつんざく轟音と、咽返る程の大量の土埃が舞い上がるのを満足気に見届け。



「うっしっ!! いやぁ――。中々強いわね!!」



 額に浮かんだ大粒の汗を、ふぅっ!! っと。軽快な笑みを浮かべて拭った。



 最近、暴れ回っていなかった所為もあるのか。


 本当、嬉しそうに戦いますよねぇ……。俺の場合、あの化け物相手に大苦戦したんですけど??




「再生能力、移動速度、飛翔能力……。ふむ……。生物単体としては、かなりの力を持っていますね」


「その様ですわね。問題はあの生物が持つ再生の力がいつまでもつのか。その点に付きますわ」



「まさかとは思うけど。無限に再生するって訳じゃないよな??」



 直ぐ後ろ。


 相手の戦力を冷静に分析続ける二人に対して振り返って問う。



「レイド様、それを危惧しているので御座いますわ」


「此方の体力は有限です。無限には対抗出来ません」



 攻撃力、移動速度そして魔法。


 全てで此方が勝っていても無限に再生する力には及ばない、か。


 そうなると対抗策が絞られて来るな。



「全力でブッ叩いてすり潰したらどうなるの??」



 そうそう、それですよ。


 ユウの発言に一つ頷く。




「それを……。今から試してみましょうか。アオイ、行きますよ??」


「えぇ、畏まりましたわ」



 ユウの提案を受けカエデとアオイが。



「グフッ……。グググルルゥ……」



 今も大量に舞う土埃の中から朧に出現した化け物の下へと向かって行った。




「むっ!? 何よ、あんた達!! アイツは私の獲物よ!!」



 強がっちゃってまぁ――……。


 化け物の移動速度に追いつく為に付与魔法を使用し、膂力に対抗する為に継承召喚を行った。


 これで体力が減らない訳が無い。


 現に、肩で呼吸しているのが良い証拠ですよ。



「マイは少し休憩して下さい。息、上がっていますよ??」



 それを容易く看破したカエデとアオイがマイの隣を素通り。



「これは……。そう!! 空気を咀嚼しているのよ!! はぁ――!! うっめぇなぁ!! 空気っ!!」



「グルルルルゥ……」


「さて、化け物さん。次の相手は私達が務めますので。どうか宜しくお願いします」



 血よりも赤く染まり闘争心を剥き出しにした瞳を、普段通りの表情を浮かべつつ真っ直ぐに見つめ。カエデが化け物相手に小さくちょこんとお辞儀を放った。




 化け物相手に気負っていないのは流石の一言に尽きますね。


 あの度胸は見習うべきだな。


 小さな背中、されどそこから放たれる圧は化け物を凌駕。


 ちょっとカッコいいですよ?? カエデさん。




「お――い!! 休憩しろって――!!」


「ちぃっ。カエデ!! トドメは私が刺すんだからね!?」



 ユウの言葉を受け渋々と此方に向かって下がるのだが……。




「五月蠅いまな板ですわねぇ……。邪魔ですからさっさと退散したら如何ですか??」


「んなっ!? ぶ、ぶ、ぶ、ぶちのめ……っ!!!!」



 アオイの放った一言を拾わなくても良いのに拾ってしまい、彼女の美しい背に向かって踵を返してしまうのだが。



「はいっ、休憩――」


「ぐぇっ!! は、放せ!! ユウ!!!!」



 ミノタウロスの娘さんの剛力によって羽交い絞めにされ、此方へと到着したのでした。



「お疲れ、どうだった?? アイツの力は」



 ふぅ、ふぅぅぅ!! っと。敵にではなく、味方の背に憤怒の感情を向ける彼女に問う。



「強い!!」



 いや、もうちょっと伝えるべき言葉があるでしょう??



「具体的に言えよ」



 ユウがマイの頭をコツンと優しく叩いて話す。



「速さ、力は正直慣れた。けども……。厄介なのは再生能力ね。槍で切っても切っても生えやがって。鬱陶しいったらありゃしない」



「あの鎌は切れなかったけど。やっぱり硬かった??」



 切っ先が突き刺さったものの。


 切断までには至らなかったし。



「関節付近が弱いってアンタから聞いたけど。あんにゃろうはそれを理解しているのか。中々弱点を突かせてくれなくてねぇ」


「その程度の思考する力を持っているのかよ。厄介だよなぁ――」



 ユウが腕を組み、しみじみと頷き。


 第二回戦が開催される戦場へと視線を移した。




「グググググゥ……」




 二人の新手に警戒しているのか。


 化け物がカエデとアオイに対して、交互に視線を移す。


 生意気にも二人の出方を窺っているのだろうか??




「カエデ、行きますわよ?? 準備は宜しくて??」


「いつでもどうぞ。アオイの動きに合わせます」


「それでは……。美しく舞いましょうか!!!!」



 アオイが懐から取り出した鋭い切っ先のクナイを化け物の瞳へと投擲。



「ギィッ!?」



 両の目を正確に潰し、視界を塞ぐと同時に化け物の背中側へと移動。


 素早く右手を掲げて詠唱の姿勢を取った。




「遍く炎の力よ。灼熱の業火で敵を焼き尽くせ……」


「悪しき憎悪を穿つ氷点下の力。今こそ、此処に……」




 そして、化け物の正面からカエデが両手で詠唱の体制に入ると美しく青い魔法陣が宙に出現。



 背の赤き魔法陣、正面の青き魔法陣。



 対となる属性の攻撃を受けたら一体どうなるのやら……。




「行きますわよ!?」


「どうぞ」



 さぁ、刮目しましょうかね!!



 二人の体から素晴らしい魔力の鼓動が迸ると同時。




「紅蓮牡丹!!!!」

重氷槍ヘビーアイスジャベリン!!!!」



 アオイの放った火球が化け物の背を焼き焼き尽くし。




「ギヤアアアアアアア!!!!」




 カエデに向かって吹き飛ぶ巨大な体躯に、地上から生え伸びた鋭い氷の槍が三方向から非情の追い打ちを仕掛ける。



「ウ、グググググ……」



 三つの太い氷槍に体を穿たれた化け物は鼻を突く焦げ付く臭いを放ちながら、力無く氷の槍に拘束されてしまった。




 す、すげぇ……。


 これが二人の実力か。



 俺が大苦戦した化け物をたった二手で封殺しちゃったよ。



「ふぅ。アオイ、もう少し威力を弱めて下さい。合わすのに苦労しましたよ」


「これでも威力を抑えた方ですわよ?? どこぞの卑しい豚の様に激しく暴れてしまっては此処に居る方々の迷惑になってしまいますので」



 その卑しい豚さんは誰の事を指すのでしょうか??



「グルルルゥゥウウウ!!!! ガウウゥゥゥ!!!!」



 恐らく。


 俺の隣で、鼻頭に大変恐ろしい皺を寄せている彼女の事だとは思いますけどね。


 端整な顔が台無しですよっと。




「さて!! 後は体の芯まで焼き尽くし……。あらっ??」



 アオイが追撃となる炎を呼び起こそうとするが。




「グググ……。グガァァアアアッ!!!!」



 化け物が俯いていた顔を上げ、大気を揺らす咆哮を放つと共に氷の槍の拘束を解いてしまった。



「ググッ……!!!!」


「まぁまぁ……。本当に呆れる位に……」



 アオイの声に反応したのか。


 恐ろしい圧を放つと共に、彼女の方へと振り返り。突撃の姿勢を取った。



 不味い!!


 あの態勢から素早い突撃を仕掛けるつもりだ!!




「アオイ!! 来るぞ!!!!」




「ガァアアアアア!!!!」



 アオイに向かって突進する化け物。


 潰れた瞳は既に復活し、憎悪を籠めた炎の瞳でアオイを捉え。一筋の線となって襲い掛かった!!




「うふふ……。それ以上進む事はお薦め致しませんわよ??」



 えっ!?


 避けないの!?



 化け物が向かい来るも。



 風に吹かれて嫋やかに揺れる、野に咲く一輪の美しい花の様に立ち。


 背筋がゾクっとする笑みを浮かべていた。




「あっぶねぇ!!」



 ユウが絶叫すると同時。


 我が目を疑う光景を捉えてしまった。





「カッ。カハッ…………」



 そりゃそうだろう。


 化け物の上半身と下半身が綺麗さっぱり、『お別れ』 してしまったのだから。




「いぃっ!? 何が起こったの!?」



 突然の出来事に頭で考えた言葉がそのまま口に出てしまった。




「――――――――。んふっ。驚きましたか?? レイド様」



 女性らしい歩みで此方にやって来たアオイが怪しい瞳で見上げる。



「そりゃ、もう。魔法を使用する素振も見せなかったし」



「仕掛けは簡単ですわよ?? 目に見えぬ頑丈な撚糸を錬成して私の前に張り、それに気付かぬ愚か者が自らの命を絶つ為に突撃しただけですわ」



 彼女がすっと指先を此方に向けると、その先に一本の蜘蛛が風の動きに合わせて揺れていた。




 な、成程。


 相手の突進の速度が裏目に出たのか。




「すっげぇ。アオイ、そんな事も出来るのかよ」


「女は幾つもの引き出しを持つのです。私の秘密を……。徐々にお披露目して行きますわね??」



 戦闘の熱を帯びてぽぅっと桜色に染まってしまった魅力的な体をスルっと近付けて来ましたので。



「あ、うん。もっと色んな技と魔法を見せてね??」



 通常あるべき正常な男女間の距離に身を置いて話してやった。



「んもぅ――。火照った私の体を是非ともご賞味して欲しかったですのにぃ――」


「きっしょ。ってか、蜘蛛。トドメを刺すならしっかり刺せや」




「五月蠅いですわねぇ。体を両断されて……。あらぁ……」



 真正面を睨み警戒を続けるマイの先に視線を送ると、これまた驚愕する光景を捉えてしまいました。



「ググッ……」



 ぷっつり離れた上半身と下半身の断面から幾つものドス黒い触手が生え、互いの体を接合。



「グググ……。ガァアァアアアアアッ!!!!」



 息を飲む間に綺麗見事にくっついて、立ち上がってしまいましたとさ。




 お、おいおい。冗談じゃないって。


 体を両断されて復活する生物が何処にいるんだよ……。




「ふ、む。常軌を逸した再生能力ですね。正直脱帽ものですよ」



 その様子を冷静に捉えていたカエデが相手を褒め称え、藍色の髪を揺らしクルっと此方に振り返った。




「皆さん。敵性対象を消滅させる為に戦場を移動させます」


「移動?? 何処に行くのよ」



 復活を遂げた化け物から視線を外さずにマイが答える。



「これ以上拠点地内で戦うと他の皆様を傷付けてしまう恐れがありますからね。と、言う訳で。ユウ」



「おっしゃあ!! 化け物さんよぉ!!!! あたしと一丁遊ぼうや!!!!」



 ユウがカエデの指示と同時に化け物へ向かって突貫。



「ガァッ!!!!」


「これを待っていましたぁあああ!!」



 彼女の体を拘束しようとする触腕を半身の姿勢で躱し。



「うぇ。触りたくねぇけどぉ……。ふんがぁっ!!!!」



 逞しい両腕で触腕を掴み。



「どっっせぇぇぇぇええええいいっっ!!!!」



 拠点地外へと一本背負いの要領で投げ飛ばし、化け物の姿は瞬く間に闇の中へと消えてしまった。




「おっしゃあああ!! 追撃追撃ぃ!!」


「あ、おい!! あたしにも殴らせろってぇええええ!!」



 その後を追い、颯爽と駆け出す御両人。


 化け物さんも可哀想に……。


 体を両断され、ぶん投げられた後。あの二人の相手を務めなけきゃいけないのだから。




「さて、レイド様っ。私達も向かいましょうか??」


「そうだね。――――。カエデ、ちょっといい??」



 大変横着なお肉の山の中に収めてしまった此方の腕を引っこ抜き。




「あんっ。擦れ具合が……」


「何ですか??」



 甘い声を無視して、ゆるりとした歩調でマイ達の後を追う彼女の小さな背に向かって話しかけた。



「申し訳ないんだけど……。拠点地内の人達の怪我を治してくれないかな?? 中には酷い怪我を負っている人もいるんだ」



 彼等は一般人とは違って常日頃から訓練に身を置いて鍛えているのだが。怪我が祟って最悪、命を落としてしまう恐れもあるし。


 出来ればそれは避けたい。


 彼等を救う術を持つのに使わない手は無いからね。



「えっ?? 私、抜きで。戦うの、ですか??」



 信じられない。


 そんな口調で話すと、只でさえ丸い御目目が更に丸くなって俺を捉えた。




「治療した後で合流してくれればいいからさ。頼むよ」


「――――――――。分かりました。その代わり、念話で逐一状況を報告して下さい。では、早速行動を開始しますねっ」



 あ、あらら??


 ちょっと怒ってる??



 表情はいつも通りだけども、何だか言葉の語尾に怒りが滲んでいる気が……。



「んふっ。置いてけぼりを食らって怒っているのでしょう。ささ、レイド様っ。私達は仲睦まじく二人手を繋いで向かいましょうか」


「あ、あぁ……。うん」



 いつもより大幅に横へと振れる藍色の髪の女性の後ろ姿に、後ろ髪引かれる思いを残しつつ。


 俺の右手に半ば強引に甘く絡めて来た嫋やかな指に引かれ。戦闘による衝突音が激しく鳴り響く闇の中へと進んで行った。




最後まで御覧頂き有難う御座いました。


後半部分については現在執筆中ですので、今暫くお待ち下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ