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第三十八話 巨悪を越える悪役の増援 その二

お疲れ様です!!


本日の投稿になります。


冷たい飲み物片手に御覧下さい。




 西へと向かうにつれ、強力な力が確固たる輪郭を形成し始めた。


 それは、二つ。


 一つはドス黒く淀み醜悪な圧を放ち。


 もう一つは……。


 うん、春の訪れを感じさせる温かい圧だ。



 二つの異なる色の圧が衝突すると、腹の奥にズンっと響く衝撃波が迸り。衝突現場からかなり離れているというのに感知出来てしまう。




 あのボケナスはたった一人で対峙しているのだろうか??


 たかが人間風情にこれだけの力を放つ化け物を御せる筈は無いだろうし。ボケナスが龍の力を解放しているのが何よりの証拠かしらね。


 私達と共に汗を流して鍛えた、頑丈さがウリなんだけども……。


 一人で戦うのは荷が重くない?? 野郎にとって、とっておきの抗魔の弓はこっちにあるんだし。




「ねぇ、不味くない?? すんげぇ強い力なんだけど」



 体の真正面に力強く流れて来る風を受けつつ、誰とも無しに話す。 



「魔物なのか、それとも違うナニかなのか。それすらも分からんからなぁ。カエデ、何となく分かる??」



 意外と様になった姿勢で手綱をぎゅっと握り続けているユウが左肩に留まるカエデを見つめる。



「オークに近似した力ですが、魔物ではありません。言うなれば……。新種とでも申しましょうかね」



 ほぉん。


 って事は。新種って奴とボケナスは対峙してんのか。


 不運よねぇ。


 任務で訪れた土地に偶々新種が襲い掛かって来たのだから。此処まで何事も無く到着した事が仇となったわね。




「見えましたわ!!」



 蜘蛛が気色悪い一本の前脚で、漸く見えて来た拠点地の篝火を指す。




「外観は普通じゃん」


「遠目ではそう見えますけど、相当な被害を被っている筈です」



 あれこれ想像していても、所詮は机上の空論。


 現実を目の当たりにしないと真実は見えて来ないってね。


 さぁって……。


 化け物退治と称して、大暴れしますかぁあ!!!!




 馬の脚から伝わる上下の激しい運動が徐々に収まり。拠点地の柵と柵の合間を抜けると、ウマ子が騎手を労わる速度で歩みを止め。


 私が想像した以上の残酷な光景が私達を出迎えた。





「お、おいおい。全員やられたのか??」



 ユウが下馬し、一人の男性の下へと駆け寄りその状態を確認する。



「――――。息はしているけど、傷が酷いな」


「それだけの傷を負っても命は落とさない。流石は軍属の者達とでも言いましょうか。それより……」



 カエデが人の姿に変わると、建物に挟まれた通路の奥へと無警戒でスタスタと歩み出す。



「レイド様が戦っていますわね」



 それに続く蜘蛛は当然無視するとして。



「ウマ子!! 外で待っていなさい!! あんたの御主人様を引っ張って来るから!!」


『あぁ、了解だ』



 人の姿に戻ると同時。


 彼女のお尻をピシャリと叩き、力強い足取りで拠点地の出口へと向かって行ったウマ子を見送り。


 長い藍色の髪を揺らして堂々と歩み続けるカエデの背に続いた。




 普段と然程変わらぬ速度で歩きつつ周囲の様子を窺うのだが……。


 視界が捉えるのは惨たらしい光景ばかりね。




 建物の壁にぽっかりと開いて中の様子がバッチリ見えてしまう程の巨大な穴。


 血を流して地面に横たわる兵士達と、無残に折れ曲がった矢。


 松明が照らすこの光景は夜の闇もあってか、若干恐ろしくも映ってしまう。




 たった一体の生物の侵入を許しただけで、こんな惨状が訪れるとはこの人達も思わなかったのだろう。


 とんだ災難に見舞われたわねぇ。心情察しますよ――っと。


 傷だらけで横たわる兵士達に軽く同情しながら、慎重な歩みに変えて進んで行くと……。


 遂に!! 力と力が衝突する現場に到着した。





「でやぁあああああああ!!」


「グルルルァアアアアアア!!!!」



 二階建ての大きな兵舎、なのだろうか?? 兎に角。


 その建物の中から空気を震わせる人間の雄叫びと、大地を揺らす化け物の咆哮が聞こえて来た。




 純粋な力と禍々しい黒き力。


 二つが激しく衝突するとその余波によって建物が苦い顔を浮かべ。



『外でやれぇええ!!!!』 と。


 

 恐ろしい怒気を含ませた声を咆哮している様にも見えてしまう。




 私もこの建物さんに同感するのだが……。



「――――。いやいや。何で広い通路で戦わなくて、狭い建物の中で戦っているのよ」



 ぱっと思いついた素朴な疑問を口に出した。



「そうせざるを得ない状況に追い込まれたのが妥当な考えでしょうね」



 一体どういう状況よ、それ。


 いや、どうなったら建物内で戦う破目になるのかが問題なのか……??




 まっ!! 何はともあれ。


 色々考えるのは面倒だし、中の様子を見てみましょうかね!!!!


 警戒心を抱きつつ、建物の正面の扉をそっ――と開けて中の様子を恐る恐る窺ってみた。





「この野郎!!!! いい加減にしやがれ!!」


「ギィィィヤアアアアアアアアアアアアア!!!!」



 お、おおぅ……。


 何とまぁ……。



 開いた扉をそっっと閉じ、私の後ろで。



『どうだった!?』 と。



 ワクワク感満載の顔を浮かべて、此方の感想を待つ者共へと振り返った。



「中、どうだった!?」



 今から始まろうとする楽しい遊びに期待を寄せ、ぱぁっと明るくなった面持ちのユウが私に問う。


 ってか、すっげぇ可愛いわね。その顔。


 男に向かって見せちゃ駄目な奴よ?? それ。




「ん――。アレを言い表すのならぁ……。だだっ広い市場の中で安い食材を必死に買い集めて、後先考えずごちゃごちゃに混ぜちゃった鍋料理って感じね」



 蛸みたいなウネウネに、シュッ!! と空気を切り裂く蟷螂の鎌に、夜の闇の中を自由に飛行する蝙蝠の翼と飛蝗擬きの脚。



 混ぜ過ぎて逆にどれをどう強調して良いか分かんないもん。 




「「「はぁ????」」」



 おぉ!?


 珍しい三人が声を揃えたわね。



「いや、本当にそうなんだって!!」



 完全完璧にあの化け物を言い表したのに、コイツ等と来たら……。


 全く、度し難いわね。



「お前さんの意見は当てに出来ん。あたしが見て上手く伝えてやるよ」



 ユウが私の肩をポンっと叩き、そぉぉっと扉を開いて中の様子を窺う。




「ふ、ふざけんなぁ!! 何で増えるんだよ!!」


「ググググガアァアアアアア!!!!」





「――――――――。ん――……。鍋、っていうか。生き物の強いとこ集めちゃいました――って感じ??」


「はいはい!! 分かる分かるぅ!!」



 流石ユウね。


 私の説明の欠けた穴を埋めてくれる発言に、激しくウンウンと頷いてしまった。



「また理解し辛い答えですね。私が必ずやもっと分かり易い例えを出してみせましょう」



 カエデがふんすっ!! っと荒い鼻息を放ち。


 ちょっとだけ扉を開き、その隙間からぬぅぅっと中を覗き込んだ。




「かった!!!! もっと踏み込まなきゃ駄目か!?」


「ググググゥゥ…………」




「――――――――。そう、ですね。加算し過ぎて逆に、特筆すべき特徴が霧散してしまった感じですね」



「「あぁ――!! そうそう!!!!」」



 カエデも中々良い線を突いて来るわね!!



「全く……。全然理解出来ませんわよ」



 蜘蛛がカエデとすれ違う形で扉をそっと開けると。



「あっ、はぁぁぁぁ……。レイド様ぁ。何んと凛々しい御顔なのでしょうか……」



 アイツは全然駄目だ。


 敵なんか眼中に入ってねぇや。



 光り輝く宝石をトロォンと蕩けた目で眺める卑しい女みたいな顔になってるし。


 きっしょ。




「皆さん、作戦会議を始めましょうか」


「「いやいやいやいや」」



 建物内に突っ込まないの??




「止めろ!! そんな物、俺に向けるな!!」


「ガァアアアアアア!!!!」




 アイツ、必死になって戦ってんだけど。



 ユウと声を合わせ、通路上にちょこんと屈んだカエデに対して手を横に振ってやった。



「レイドが苦戦する程の相手ですからね、作戦は大事です」



 仕方がない。


 今直ぐに突っ込んで行きたいけども、此処はグッと堪えますか。



 カエデの右隣りに屈み。



「ほれ、作戦会議――」


「ちょ、ユウ!! レイド様の御顔を目に焼き付けている最中なのですわよ!?」



 ユウが蜘蛛を強制的に連行して、怪しい青い光を放つ月の下で作戦会議が始まった。




「敵の形態は御覧になられた様に多種多様です」



『ふんふんっ!!』



 ユウと一緒に首を立てに振って肯定を伝える。



「彼が苦戦していたのは……」



「おわぁぁぁぁっ!!!!」



 ボケナスの大絶叫と共に触腕が壁を突き抜け、私達の頭上へと出現した。



 きっもっ!! 何、コレ!!


 黒光りした蛸の触腕が獲物を求めるかの如くウネウネと蠢き、粘度の高い液体をベッチャァっと地面に垂らす。


 蛸は食えるけども、流石の私でもこれは食えない……。



「――――。コレです」



 そして、頭上のそれを冷静に指す海竜さん。



 相変わらず肝が据わっているわね。



「触腕の攻撃に細心の注意を払いつつ……」



 引っ込んで行った触腕を視線で見送ると……。



「どわぁっ!?」



 ボケナスの慄いた声の後、今度は蟷螂の鎌が壁を突き抜け私達の眼前へと迫った。



 い、意外と伸びるのね。この鎌……。


 戦う時は気を付けよう。



「右手側の鎌の攻撃にも注意が必要です。化け物さんの両足の形態から察するに恐ろしい程の突撃力を備え、背に生えた蝙蝠擬きの翼で宙を舞う。 恐らく、彼は空からこの建物へと叩きつけられ。広い空間で戦うのは不利だと考え、敢えて狭い室内で戦闘を行っているのでしょう。天井に見えた穴が何よりの証拠です」



 そんな所まで見ていたのか。


 状況把握能力に長けているカエデらしいわね。



「空に飛ばれたらあたしでもキツイからなぁ――」



 ユウが腕を組み、一つ頷く。



「そこで!!」



 っと。


 急に明るい声色になったわね。



「この状況を使わない手はありません。四手で敵性対象を無力化します」


「カエデ。五手ではありませんの??」


「いえ、四手で十分です。先ず、マイ」


「ん――??」



「建物の屋根から一階部分に続く穴から飛び降りて、化け物に向かって攻撃を加えて下さい」


「私が初手ね?? そういうのは得意よ!!」



 腕が鳴るわね!!


 やっぱ戦いは初手が肝心だもの!! 突撃隊長の力、思う存分発揮してみせよう!!!!



「続いて、ユウが正面扉から突入。化け物へ攻撃を与えて下さい」


「攻撃方法は??」


「建物から出さなければ何でもいいです」


「おう!! 分かった!! 一発かましてやろう!!」


「うむっ!!」

 


 ユウとパチンと手を合わせ、軽快な音を奏で。




「そして、私が糸で相手の動きを封殺しますわ」



 蜘蛛の言葉は当然の如く無視してやった。



「最後は私の魔法と、皆さんの最大戦力で敵を殲滅。それで状況終了です」



 ふっむ!!


 悪くない案ね。



 でも……。



「何でアオイは五手って言ったんだ??」



 ユウが私の気持ちを代弁してくれた。



「初手を外した場合に備えての、余分な一手ですわ」



 う、う、う、うっざぁ!!!!


 コイツ!!


 私が外すと考えていたのかぁ!?



「マイ、抑えて下さい。彼の体力は常軌を逸していますが……」



 膝を抱えてちょこんと屈んでいた体を伸ばし。



「か、勘弁してくれよ。何回生えるんだよ!! それはぁ!!」



 若干、泣き言にも聞こえる声を放つ野郎の方へと顔を向けた。




「そろそろ限界が近いですからね。私達が解放してあげましょう」


「おっしゃあ!! 真正面からの攻撃は任せておけ!!」



 ユウが拳をぎゅっと握り、扉の前へと身を置く。



「では、皆さん。行動開始しま…………」



 カエデが意気揚々と作戦開始を告げようとしたのだが……。


 残念ながらネチャネチャと練った作戦はおじゃんになってしまいました。








「ギィィィィヤアアアアア!!!!」


「う、嘘だろ!? ドボグっ!?!?」



 化け物の咆哮と共に、黒い何かが扉を突き破って出現。



「はっ?? うわぁっ!?!?」



 ユウの胸元へと黒い何かが衝突し。二人は大変仲良く、絡みつく様に地面を転げ回り。


 道の向こう側に到着してやっとその動きを止めたとさ。



「カエデ、残念でしたわねぇ。折角練った作戦がパァになってしまって」


「本当ですよ。彼にはお仕置きが必要です……」



 それには大賛成よ。


 よりにもよって、私の親友の胸を緩衝材代わりにするなんてぇ……。



「ムッ……。ムグッ!? ユゥフか!?!?」



 何で真っ暗な状態で分かんのよ。



「いてて。へへ、正解。待たせたな??」



 魔境の間に挟まって、ちょっとだけ飛び出た頭をユウが優しく撫でる。


 優しい手元と同調する様に顔も優しくなっちゃってまぁ――――……。腹立たしい!!!!




「よぉ――。ボケナス」


「ファイか!?」


「……、んっ」



 お――い、ユウさんや――い。


 いろっぺぇ声、出しちゃ駄目よ――。


 きっとボケナスの声による空気の振動と男くせぇ吐息が彼女の……。まぁ、皆迄言うまいて。



「レイド様ぁ!! は、早くそのふざけた胸から顔を上げて下さいまし!!」


「ンググ……。ぷはっ!!!! いや、助かったよ!!!!」



 お――お――。


 コイツ、もう助かった気でいやがるな??


 それはちょいと時期尚早だって教えてやっか。



「安心すんのはまだ早いわ!!!!」


「ぶふっ!?」



 情けなくフラフラと立ち上がったボケナスの横っ面に向け、すんばらしい拳をぶち込んでやった。



「な、何すんだよ!!」


「別に、気晴らし。それよりもぉ……」



「――――――――。グルルル……」




 うそぶく声に反応し、振り返ると。


 建物の壁を突き破り、化け物が夜空の下へとその全貌を現した。



 左肩口に蠢く触腕は先程よりもちょいと増え、醜い豚の口からは鋭い牙が生え揃い。その合間からきったねぇ唾液をダラダラと零す。


 こんな化け物相手に、たった一人で戦っていたのか……。



 ちょっとだけ見直したわよ?? ボケナス。



 後は私達に任せて、あんたはぁ……。




「ちゃっちゃと片付けて!!!! 美味い晩御飯を作りなさい!!!!」



 さぁ、戦だぁあああああ!!!!



「風よ!! 我と共に吹き荒べ!!!! 覇龍滅槍!! ヴァルゼルク!!!!」



 全ての者を魅了する黄金の槍を召喚し。



「はっは――!!!! あんたの相手は……。この私だぁあああああああ!!!!」



 猛り猛った感情のまま、化け物目掛けて突撃を開始してやった。





最後まで御覧頂き、有難う御座いました。


今日も暑かったですね……。


夏は始まったばかり。皆さん、夏バテには気を付けて下さいね??

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