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第三十八話 巨悪を越える悪役の増援 その一

お疲れ様です!!


本日の投稿になります!!


それでは、どうぞ!!




 美しい月がプカプカと浮かぶ夜空の下。


 焚き木が放つ淡い橙の色が一人の女性の顔を優しく照らす。


 その顔は真剣そのものであり、全ての意識を目の前の飯盒へと向けていた。



 ジュワジュワ、フツフツと。



 お腹が減る音を鳴らす飯盒ちゃん、薪が燃えて乾いた音を奏で、爽やかな空気に乗って香る煙の香が私の気持ちを逸らせてしまう。



 我慢が大事なのは自明の理なのよ??


 美味しい御米は直ぐには出来ないのだから。




 ここで油断は禁物なので、飯盒の番人である彼女の集中力を試す為。


 さり気なく背後に回り、馬鹿げてふざけた巨大な胸を両手でグワッ!! っと掴み上げると。



「さわんなっ!!!!」



 とんでもねぇ拳を脳天に突き刺して来やがった。


 ピリっとした痛みを残す舌で、もっと集中しなさいよ!! と述べるのだが。



「お前さんが邪魔しなければもっと集中出来るんだよ」



 成程。


 その通りよね。




 ――――。うん??



 私がぁ、邪魔しなければ……??



 いやいや!!


 違うから!!



「もっと集中しなさいよね!! 丁度良い時に火から飯盒を下げなきゃいけないんだから!!」



 彼女の集中力を試した訳であって、決して邪魔した訳じゃないのに。


 しかも、何でぶん殴られなきゃいけないのよ。



「安心しろって。レイドの作り方を何度も見て覚えたからさ」



 素人トーシロがそうやって見様見真似でやるから料理ってのは失敗するのよ??



「ふ――ん。ふふんっ」



 しかも、鼻歌を口ずさむ始末。


 やはり、玄人である私が指南すべきか??



「そろそろ良いんじゃない??」



 飯盒の中から鳴る音がちょいと変化して来たし。



「そうだな。カエデ――、塩と水用意して――」



 ユウがそう話すと。



「分かりました」



 荷物を背もたれ代わりにし、焚き木の明かりを頼りに本を読んでいた彼女が立ち上がりテキパキと用意を始める。



 ふぅむ。


 中々良い所作だ。及第点を上げよう。




「アオイは皿の用意を頼む――」


「あぁ……。レイド様は何処へ……。私、もう……。寂しくて倒れてしまいそうですわぁ」



 アイツは駄目だ。


 及第点処か、落第点の下の下の更に下の態度に憤怒の心が湧いてしまった。



「いや、話聞けって」


「はいはい、皿で御座いますわよね。何処に仕舞ってあるのかしら……」



 真ん丸尻をフリフリと動かして木箱を開ける姿を捉えると、喉の奥から酸っぱい物が込み上げて来やがった。



 きっしょ!!!!


 普通に取れや!!!!



 蜘蛛が皿を運び、カエデが塩と水を用意。


 これでお膳立ては済んだわよ??



「さてと!!!! 此処からがあたしの見せ場ってね!!」



 丁度良い塩梅に煤を纏った飯盒を火から外し。



「とうっ!!」



 クルンっとひっくり返して皿の上にホワホワ蒸気を放つ、白が眩しい御米ちゃんを乗せてあげた。



 あっ……。


 好きぃ、この光景。




 がらぁんと開いて何処までも続く何も無い平原。


 されど、此処には素敵な炊き立ての御米さんが居るの。


 風光明媚な景色をおかずに、おにぎりを食む。何んとも素敵な時間を生んでくれるじゃあないか。



 人間も粋な食文化を作ったわよねぇ。


 この飯盒が良い例だ。



 皿の側に横たわる飯盒をさり気無く持つと……。




「あっちぃぃぃいいいいいい!!」


『私を持とうなんざ、烏滸がましいぞ!!』



 とんでもねぇ熱さを与えて来やがった!!!!



「熱いのは当たり前だろ。火から外したばかりだし」


「はぁ!? じゃあ何でユウは素手で触れたのよ!! 滅茶苦茶熱かったじゃん!!」



 ふぅっ、ふぅぅ――っ!! っと。可愛い御手手ちゃんに息を送りながら話す。



「ちょっと熱い位だったけど……」



 これが……。ちょっと??



「種族差、とでも言いましょうか。ユウの場合は私達のソレとは掛け離れた感覚なのですよ」


「ふぅん。頑丈なのは胸だけじゃないってか」



 カエデの的を射た一言にコクンと頷き、分厚い皮膚の手に塩水を纏わせたユウに視線を戻す。



「うるせっ。さぁ!! 握りましょうかね!!」


「待ってましたぁ!!」



 ホカホカの御米を適量に取り。



「よっ、と」



 両手で美しい三角を形成していく。



「よっ!! あんたが大将!! あ、そ――っれ!!!! よっこらしょっとぉ!!!!」



 ユウの手の中で回り続ける三角に合わせ、合いの手を放つのだが。



「ちょっと静かにしてくんない?? 集中したいから」



 鋭い瞳でヤメロと御されてしまった。



「お、おぉ。ごめん……」



 左様で御座いますか。


 失敗されたら困るし、大人しく待機して……。





「ほっ!! ふっ!!!! ふんがっ!!」



 う、うん??


 おにぎりを握る掛け声じゃないわよ、それ??



 ユウの両腕の筋肉がモキュっと盛り上がり、その先にある御手手で御米さんをぎゅうぎゅうと握る。




 私は、一つ大きな誤算をしていたわね。



「ふんっ!! ふんっ!!」



 そう……。彼女の腕力と握力だ。


 御米さんも可哀想に……。本来なら丁度良い距離感を保って貰える筈なのにねぇ。




 ボケナスの場合は。


 チャッ、チャッ、チャッ!! っと軽快に握り。


 おにぎりの中に空気をふわぁっと入れつつ握るのだが。




 怪力爆乳娘の場合は。



 グチャッ!! ベチャッ!! ゴッチャァッ!!!! っと。



 まるで親の仇を討つかの如く、万力を籠めて握っているし……。



「ふぅっ!! ほら、出来たぞ!!」


「お、おぉ……」



 これがぁ……。おにぎりぃ??


 ボケナスのと比べると三分の一の大きさでぇ。小さな私の手でも余裕を持って握り締められる大きさになってんじゃん……。


 圧縮し過ぎじゃない??



「形は、まぁアレだけど。きっと美味いから!!」



 きっと、ねぇ……。



「そ、そうね。じゃあ頂きます!!」



 御米さんと握ってくれたユウに対して、礼を述べ。


 大地の恵みを受けて育った御米ちゃんを口の中に迎えてあげた。



「ど、どう!?」


「――――――――。うん、全然駄目」



 火から外すのが早かったのか、御米さんの中には一本のド太い芯が残り。


 万力で圧縮されたおにぎりから返って来る歯応えは、とてもじゃないけど。おにぎりを食んでいる気がしない。



 これを例えるのなら……。


 あぁ、アレだ。


 ちょっと硬めに焼いたお肉だ。



「えぇ!? 美味くないの!?」


「食べてみてよ」



 私が食んだ事によって三角形から、台形になったおにぎりを彼女に渡す。



「頂きます!! はむ……」


「どう??」



 口の中でコロコロとおにぎりを転がし。



「――――。うん、不味い……」



 コクンと飲み終えると、げっそりとした表情になってしまいましたとさ。



「あっれ――?? ちゃんと見た通りに作ったんだけどなぁ」



 何処に目ん玉つけてんのよ。


 何処からどう見ても、全然おにぎりじゃないじゃん!!



 おにぎりの形を模した別のナニかだっつ――の!!




「一朝一夕で料理は上手くなりませんよ?? 日々の積み重ねが実を結ぶのです」



 こうなる事を予想していたのか。


 先程と変わらぬ姿勢のままでカエデが話す。



「この御米、どうする??」



 お皿の上で今も蒸気を揺らし、寂しそうに私を見上げている御米さんへとユウが視線を落とす。



「当然食べるわよ。勿体無いもん!!」



 お皿をガッ!! と掴み。


 予め用意しておいたお箸を手にして。



「いただきま――っすぅ!!」



 自慢の咬筋力を生かしつつ、御米さんとの格闘を開始した。


 硬さは残るけども……。


 食べられない事は無いっ!! 




「はぁ――。しっかし、遅いよなぁ。レイド」



 カエデの直ぐ隣に腰掛け、コロンっと横になってユウが話す。



「任務で向っていますからね。何か小難しい会話でも交わしているのでしょう」


「小難しい、か。さり気なく様子見に行く!?」


「それは賛成しかねますね。発見されたら怒られてしまいますよ??」


「ユウの意見に賛成ですわ!! これ以上、此処にいたら寂しくて私、倒れてしまいますからっ!!」



 倒れて、枯れて、屍になって地面の養分になってしまえ。


 気色悪い蜘蛛め。



「御馳走様でした!!」



 可愛くケプっと、食後の吐息が漏れると同時。









 ゾワゾワした感覚が背中を襲った。



 ん――……??


 何だ、コレ。



「「「…………」」」



 私が感じ取ったって事は、当然この三人も感じる訳だ。


 全員が訝し気な表情を浮かべていた。



「よぉ――。カエデ、コレ何??」



 賢い海竜ちゃんなら何となく分かるでしょうね。



「端的に説明しますと、此処から西へ向かった先に相当な力を持った生物が出現しました」


「おいおい。って事は……」



 ユウが上体を起こして西の方へと顔を向ける。



 西って、ボケナスが向かった先じゃんか。



「皆さん、荷物を纏めて向かいましょうか。この距離で力を感じるのは宜しくありません」



 カエデがすっと立ち上がり、可愛いお尻に付着した砂埃を払い。


 抗魔の弓を手に取る。



「レイドに叱られても良いの??」


「その心配は御座いませんわ」



 ユウの言葉に蜘蛛が答える。



「この不気味な力と拮抗するかの様に、もう一つの力が出現しましたので」


「「もう一つ??」」



 あら、奇遇ね??


 ユウと声を合わせ、蜘蛛の言葉に反応してしまった。



「間違いなくレイドの力です」


「ちょい待ち。あたしはレイドの力を感じ無いけど??」



 それが指し示す事は一つね。



「奴さんがボケナスよりも強い力を持っている証拠でしょ??」



 恐らく、こういう事だろうさ。



「正解です。今も流れて来る力は継承召喚を果たした私達と変わらぬ力です。看過は出来ませ……」



 カエデが弓を手に取り、西へと進もうとすると。聞き慣れた蹄の音が聞こえて来た。



「ウマ子!! どうしたの??」



 カエデが荒い息のウマ子を迎えてあげると、彼女はクルンと振り返り。



『早く乗れ!!』



 私達を促す様に背を向けた。



「全員は乗れませんから……。ユウが跨り、私達は魔物姿に変身して騎乗しましょう」


「おうよ!! ふんっ!!!!」



 お腹にググっと力を籠め、龍の姿に変わり。我が親友の頭の天辺に着地してやった。



「ユウ、右肩を借りますわよ??」


「おう。でも、あたし。馬に乗るの上手く無いよ??」


「安心して下さい。ウマ子が勝手に走ってくれますので」



 おっ。


 ウネウネした海竜ちゃんに変わったわね。



「ユウ、弓を持って私を……。んっ!! 乗せて下さいっ」



 頑張って騎乗しようと後ろ足でピョンピョン跳ねてるけども……。残念ながら鐙にも届かないわね。



「へいへい。左肩が良い?? それとも胸の上??」


「左肩でお願いします!!!!」



 でしょうねぇ。


 間違って谷間に落ちたらエライ目に遭うし。


 頭の上に私、右肩に蜘蛛、そして左肩に海竜を乗せて弓を掛ける。


 何だか……。大道芸人みたいよね。



「あたし、乗り物じゃあないんだけどなぁ」


「しゃあないって。ほら、さっさと乗れ」



 龍の爪でユウの頭皮をギュムっと掴むと。



「いってぇ!! 爪、立てんな!!」



 文句を言いつつも鐙に足を乗せ、男らしく馬に跨った。



「へぇ!! ユウ、意外と様になって……。のわっ!!!!」



 ユウが鞍に跨ると同時、ウマ子が指示を出さずとも西へと向かって駈け出してしまった。



「余程急いでいるのねぇ」



 体が風を切り裂き、びゅぅっと強い音が耳に響く。


 脚が遅いこの子が焦って走るって事はそれだけヤバイ奴が居るって訳か。



 不謹慎だけども……。


 ちょっとワクワクするわね。



 おっかなびっくり五割、ワクワク感五割の心模様を胸に抱き。上下に激しき体を揺さぶられながら大地を駆け抜けて行った。





最後まで御覧頂き、有難う御座います!!


暑い夜が続きますが。


体調管理に気を付けて下さいね。

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