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第三十七話 孤軍劣戦

お疲れ様です!! 本日の投稿になります!!


それでは御覧下さい。




 リンっと鳴る夜虫の歌声が心を潤し、夜空に浮かぶ星々の煌めきが視界を楽しませ。頬を撫でて行く柔らかい風が体の疲労を拭い去ってくれる。



 正に風光明媚な景色の中に身を置いているのですが……。



 頭の中では。苦き思いが山の如く積もり重なる訓練生時代の中から、素敵な良き記憶を思い出そうと。


 各部署に務める方々が必死になってその書類を探し、額に大粒の汗を浮かべていた。




『これなんか如何ですか!?』



 食堂で馬鹿みたいな量の飯を平らげた記憶、か。


 この後。夜中に何度ももどしそうになって起きたから却下かな。



『では、これは!?』



 剣術ぅ??


 駄目駄目。トアにボコボコにされた記憶しかないもん。



『じゃ、じゃあ!! これは!?』



 ウマ子との出会い、か。


 ふぅむ……。



 慣れない馬術に辟易し、体中に傷を負う中。ウマ子と出会って自分でも驚く程に馬術が上達したのだけれども。


 妥協過ぎてあまり面白くないかも。



 苦い記憶の中に眠る明るい記憶を探して一人でウンウン唸っていると。



『いい加減に行くぞ』



 我が相棒が右肩口を食み此方を急かしてきた。



「あ、いや。それは分かっているんだけどさ。中々良い記憶が出て来なくてね??」



『良い記憶??』



 大きな鼻をブルルっと鳴らす。



「そうそう。ほら、トアと会っただろ?? だから訓練生時代の良い記憶を探しているんだけどさぁ――。思い出すのは苦い記憶ばかりで……」



『私との出会いは苦い記憶だというのか!?』



 心外だぞ!?


 首をグゥンっと動かし、抗議の姿勢を見せた。



「あはは。ウマ子との出会いは素敵な思い出だよ」


『それなら良いっ』



「後は……。うん、同期の連中と下らない会話も良いし。トアと一緒に仕事をさぼった記憶も楽しい。こうして思い返すのも偶には必要なんだなぁって」




 俺の場合は失敗だらけだったからさ。その失敗を繰り返さない様にする為に、苦い記憶が強烈に残っているのでしょう。


 自分が描いて来た軌跡を思い返し、そこから何かを得る。


 最近は忙し過ぎて振り返る余裕さえ無かったから、同期との再会……。いや、友人との再会か。



 この再会は丁度良い機会だと考え、様々な記憶を掘り返していたのさ。



『郷愁を感じる歳でもなかろう??』


「時には必要な行為なの!! よし!! 帰るぞ!!」




 腰掛けていた岩から跳ねる様に立ち上がり、彼女のお腹をポンっと叩く。



『やっとか……。奴等を待たせ過ぎだぞ??』


「あはは……。待たせ過ぎて怒られるかもな」



 怒られるならまだしも。


 強烈な拳を横っ面に叩きつけられるやも知れぬ。


 適当な理由を考えておこう。殴られる前に話せば大丈夫!!



 希望的観測を胸に抱き、鐙に足を掛けるのだが……。









「――――――――。うん?? 何だ、この感覚……」



 背筋がゾクリと泡立ち、見えない巨大な手が常軌を逸した万力で胃袋を掴む。


 そんな違和感を覚える気色悪い感覚が全身を襲った。



『どうした?? 乗らないのか??』



 俺の異変を察知したウマ子が円らな瞳で見つめる。



「何か……。感じないか??」



 この感覚を例えるのなら、強力な力を放つマイ達と対峙した感覚によく似ている。


 それだけの力を放つ生物は近くに存在しない筈なんだけど……。



 どこから流れて来る??



「すぅ――――。ふぅ――……」



 瞳を静かに閉じ、集中力を高め。



 此方へと流れて来る気味の悪い圧の下へと向けて、神経を研ぎ済ませた。






 ――――――っ!!



 北……。いいや、西か!!!!



「ウマ子!! 拠点地へ戻るぞ!!」



 鐙に足を乗せ、鞍に跨ると同時に指示を与える。



『それは構わんが……』


「早く!! 行くぞ!! はぁっ!!!!」



 強力な圧なのはマイ達と変わらないのだが……。


 その力の色が違うとでも言えばいいのか。今も感じる圧は黒く濁っている。


 悪しき塊の圧だ。



 それが、拠点地の方角から流れて来てしまっている!!!!


 オーク単体で此処までの力は放たれない、つまり……。それを越える力を持つ者が拠点地に居るんだ!!



 早く、早く着け!!!!



 祈る想いで手綱を強く握り、ウマ子に懸命に走る様に指示を与える。





「――――。見えた!!!!」



 篝火に照らされる拠点地の外観は遠目では変わりないけど。


 近付くにつれて俺の悪い予感が徐々に輪郭を帯びて来てしまった。





「い、一体。何があったんだ……」



 拠点地の入り口を通過し、兵舎に挟まれた通路に出ると。無数の兵士達が血を流して無残に倒れていた。



「だ、大丈夫ですか!?」



 ウマ子から下馬し、力無く倒れている男性の下へと駆け寄り状態を確認するのだが。



「……。気を失っている、か」



 矮小な呼吸音が確認出来た事に一先ず安堵するが、まだまだ倒れている兵は多い。


 全員の安否確認をする前に、諸悪の根源を叩くのが最優先だ!!


 この近くに居るぞ。化け物級の圧を放つ悪が……。



「ウマ子!! 頼みがある!!」


『どうした??』


「マイ達の下へ駆けて行ってくれ!! そして、彼女達を連れて此処へ戻って来てくれ!!」


『いや、しかし……』



 俺の身を案じてか。


 中々側から離れようとしない。



「俺の事は心配するな。頑丈なのは知っているだろ??」



 ウマ子の額に己の額を合わせ、彼女を説き伏せる口調で話す。



「だから、俺を信じてくれ」


『分かった!! 直ぐ戻って来る!!』



 力強く嘶き声を上げ、入口へと駆けて行ってくれた。




「頼むぞ――!!!! ――――――――。よしっ!! こっちはこっちで集中するぞ!!」



 両手で頬を叩き、地面に落ちている長剣を拾い。今も強烈な力を放ち続けている圧の下へと移動を開始した。




 こっち……か。


 兵舎の間の道を進み、馨しい香りを放っていた食堂へと続く道に向かって左折。


 食堂付近に到着すると同時。




 俺は、自分の目を疑った。































「グルルルルゥ……」



 頭頂部はあのクソ忌々しい豚の顔、見上げんばかりの体躯の左肩口には黒き触腕が蠢き。


 右腕には蟷螂の鎌を模倣した腕。


 両足の逆関節の形態にも驚きを隠せないでいたのだが……。


 そんな事はどうでもよくなる光景が目の前に広がっていた。




「……」



 複数の触腕でトアの体を捕らえ、その内の一本が彼女の命の光を掻き消そうと喉元へと絡みつき。


 彼女は……。あろうことか、無抵抗でその攻撃を受け続けていた。



「てめぇえええええええええええ!!!!」




 その光景を捉えた刹那。


 感情が思考を凌駕した。




「あぁぁぁああああああ!!!!」



 龍の力を解放した右手で長剣を掴み、両足が折れて砕けても構わない勢いで化け物に向かって突貫。



「くらえぇえええええええええ!!」



 トアの体を拘束する全ての触腕に長剣を叩き込み、彼女を奪還。


 反撃を食らう前に化け物の間合いから素早く離れ、左手に抱く彼女の容体を確認した。



「トア!!!! トア!!!! 大丈夫か!?」



 前方に意識を置きつつ、彼女の首筋にそっと指を当てると。






 トクッ……。トクッ……。と。



 指先が嬉しい命の鼓動を捉えてくれた。



 よ、良かった!!!!


 生きてる!!


 弱いけど脈も、呼吸もあるぞ!!



「はぁぁぁ――……。流石、だよ」



 友人の輝かしい生に目の奥がじわりと熱を帯び、安堵の息を漏らす。



 首回りの青痣が痛々しいけど、うん。


 お前なら大丈夫だ。




「此処で休んでいてくれ。アイツは……。俺が倒す」



 彼女の体を抱き抱え、身近な家屋の入り口脇に横たわらせ。



「ググググゥ……」



 切り落とされて消失した己の触腕を不思議そうにじぃっと眺めている化け物と対峙した。




「この野郎……。俺の仲間を、友人を!!!! よくも傷付けてくれたな!!!!」



 絶対に許さん!!


 この世に肉片一つ残さず消滅させてやる!!!!



「グルル……」



 俺の声に反応し、体の真正面を此方に向け。



「グォォォォォオオオオオオ!!!!」



 広大な大地が慄く雄叫びを上げた。



「もうお前さんには勝ちの目は無いんだよ」



 己を鼓舞しても無駄だ。


 片手に生える鎌だけで俺に勝とうなんざ烏滸がましいんだよ!!



 先ずはあの鎌を胴体から引き千切ってやる。


 そして、首に短剣を押し当て。切り口から指を捻じ込んで頭をもぎ取り。俺の友人に手を掛けた事を後悔させ……。



 頭の中で戦闘方法を思い描いていると、再び化け物が咆哮した。



「ギギィィィヤァアアアアアア!!!!」


「いぃっ!?」



 う、嘘だろ!?


 何で生えてくんだよ!!!



「ググッ……。フゥ、フゥゥゥウ!!!!」



 切り落とした触腕から、新たなる触腕が生え。


 まるで俺の体を求める様に怪しく蠢き始めてしまった。



「あぁ、そうかよ。そっちがその気なら……。全部叩き切ってやる!!!!」



 何度でも掛かって来やがれ!!


 俺は絶対に、一歩も退かないぞ!!!!



「グアァァッ!!!!」



 真正面から何の工夫も無く突っ込んで来やがった!!



「来い!!!!」



 襲い掛かる多数の触腕を長剣で切り落とし。



「ふぅっ!! ぜぁっ!!!!」



 左上方。


 袈裟切りの要領で振り落とされた鎌を受け止めてやった。



「ググッ……」



 振り落とされた一撃の力の波が肩を通り体の芯を駆け抜け、大地へと突き立てられ。


 本の僅か、足元が大地に沈んでしまった。



 何て馬鹿力してんだよ、コイツ!!


 ユウの力に慣れていなかったらやばかったな!!



 切り落とされた触腕の再生には時間が掛るのか、短いままで在る事を確認すると同時に。



「ふんがぁっ!!!!」



 全身全霊の力で鎌を押し戻し。



「くたばりやがれぇえええええええ!!」



 がら空きの胴体へ、長剣の切っ先を力の限りに突き刺してやった。



「ゴフッ!?」



 手応えはあったぞ!?


 一歩、二歩下がった化け物の胴体を確認すると。確かな手応えに呼応するかの如く。


 粘度の高い緑色の液体が滲み出ていた。



 血が出る……。


 それなら、勝てる!!!!



「お前さんは不死身かも知れないけどな?? 俺には負けられない理由があるんだよ」



 切っ先が潰れ、武器の役割を終えた長剣を大地に捨てて話す。



「俺を倒したら此処に居る全員の命を刈り取るつもりなんだろうさ。そんな事は絶対にさせない!!」



 師匠!! 今こそ、極光無双流の力。見せてやりますよ!!!!



 龍の黒き甲殻が包む右手で拳を作り、体を斜に構え。



「ふぅ……。ふぅっ!!!!」



 心は澄み渡った水面。


 集中しろ、敵の動きを己の水面に映せ……。



 化け物を殲滅する為、師匠の教え通りの構えを取った。




「ギギィィィヤァアアア!!!!」



 無意味な咆哮を放つと共に、深く腰を落とす。


 またさっきの突撃か??


 お前の速さは一度見たぞ。マイの速さに比べれば、いいや。比べるのも失礼な程にノロマ……。



「ガァッ!!!!」


「っ!?」



 嘘だろ!?


 き、消えた!?



 飛蝗擬きの脚が激しい音を立てると同時に、あの体躯を見失ってしまった!!



 直線的な動きだけじゃなくて、多角的な動きにも対応出来るの……。



「ガァッ!!」



 消失した化け物が左側の空間から突如として出現し。



「し、しま……。ごぶふっ!?!?」



 首が捻じ切れんばかりの激烈な攻撃を頬に受け、家屋の壁に叩きつけられてしまった。



「て、てめぇ。ずるいぞ……。そんなとっておきを残しておくなんて……」



 骨に異常は……。無い。


 まだまだやれる!!



 鉄の味が滲む口内の奥歯を噛み締め大地へと足を突き立て、再び化け物と対峙した。




 あの速さ、そして膂力に対抗する為にはもう一段階龍の力を引き上げる必要があるな。


 俺の体……。もってくれよ!?




「すぅぅぅ。ふんっ!!!!」



 体の芯から力を寄せ集め、右腕に集結。



「ふぅぅぅ……。はぁっ!!!!」



 燃え盛る炎の力を右腕に宿し、構えを取った。



 いつもは右手首付近まで龍の甲殻が包んでいるんだけど。


 今は肘辺りまでか。


 その所為か、体が燃え盛る様に熱い。長時間の戦闘は後に響く恐れがある。



 此処は一つ、短期決戦に持ち込むぞ!!!!



「ずあぁっ!!!!」



 丹田、そして両足に力を籠め化け物の懐に侵入。



「グアッ!!」



 俺の間合いを嫌う様に再生した触腕で薙ぎ払う。



「んっ!!!!」



 それを屈んで躱し。



「吹き飛びやがれぇええええ!!」



 熱き魂を籠めた拳を化け物の胴体へぶち込み。



「っ!?!?」



 後方へと吹き飛んだ化け物を追撃。



 これで終わりだと思うなよ!!!!




 着地と同時に体制を崩したままの醜い豚の顔面へと向け、想いを籠めた必殺の一撃を見舞ってやった。



「グブバッ!!!!」


「おっしゃああ!! 一本!!!!」



 硬い大地を一度、二度跳ねて後方へと吹き飛ぶ化け物に向け。堂々と拳を突き出し己を鼓舞した。



 つ、疲れたぁ!!


 たった二撃で体力の殆ど持っていかれちまった。



「はぁ……。はぁ……」



 深く大きな呼吸を続け、短い痙攣を続けながら横たわる化け物を観察。


 頼むから、そのまま立って来るなよ??



 腰から短剣を抜剣。


 命を刈り取ろうと接近しようとした刹那。



「ググッ……。ハァアアアア!!!!!!」


「だ、だろうな。お前さんはそんな玉じゃないってか」



 震える体を御し、大地に立ち上がると真っ赤に血走った恐ろしい瞳で俺を見下ろした。



「さて、と。二本目、開始します…………。はい??」



 恐ろしい圧を纏ったまま飛び掛かって来ると思いきや。


 高い腰の位置から腰を深く下ろし、何やら力を溜める姿勢を取る。


 そして……。



「グゥゥアッ!!!!」



 腰の位置を元に戻すと、何んと背中から蝙蝠の翼に似た翼が生えるではありませんか!!



「お、おいおい。勘弁してくれよ……」



 まだ上があるのかよ。


 こ、こちとら食らいついていくのに必死だってのに。



「フンッ!!!!」


「ちぃっ!! 速過ぎるんだよ!! お前さんは!!」



 襲い掛かる体躯を両手で受け止め突撃の勢いを相殺。


 反撃に転じようと右の拳を振り上げようとしたのだが。



「ゴガァッ!!」


「いってぇ!!」



 蟷螂の鎌に体を捕らえられてしまった!!



 何て……。膂力だ!!



「うぎぎぎっ!!!!」



 両腕で鎌の拘束を解こうにもびくともしない!!



「こ、このっ!!!!」



 相手の胴体に足を密着させ、足の力と腕力の合力でこじ開けようとするが。



「フゥッ!!!!」


「どわぁっ!!」



 蝙蝠の翼をはためかせ、宙に浮かび上がるではありませんか!!



 こ、こいつ!! まさか……。空から叩き落とすつもりか!?



「やっべぇ!! 放せぇええええ!!!!」



 間近に存在する胴体に拳を、蹴りを放つが。腰が入っていない攻撃では大した痛みを与える事は叶わず。


 火照った体を一瞬で冷ましてしまう空気が漂う遥か上空へと運ばれてしまった。



 た、たっか!!!! そして、こっわ!!!!


 地上の建物が小指の先程度の小ささに変化しちまっているよ。




「おい!! 冗談じゃないぞ!! こんな高さから叩き落とされたら……」



 うん??


 何でこんな所に矢が突き刺さっているんだ??



 焦って気付かなかったけど、鎌の関節付近に一本の矢が突き刺さっている事に気付く。


 打ち付けた拳の感覚からして。そこら中分厚い装甲だってのに、何で??



 ひょっとしたら……。関節付近は弱い、のか??


 だとしたら。


 短剣で鎌の関節を集中的に狙って、切り落とし。相手の再生速度に勝る攻撃を与え続ければ勝てる!!!!



 絶望の中に僅かな光を掴み取ると同時。




「グググ……」



 化け物が左の触腕を一塊にして、拳擬きを形成。



「お、おいおい。それを俺にぶち込むのか??」


『あぁ、そうだよ!!!!』




 頭が勝手に想像してしまった、最悪の予想通り。


 鎌の拘束を解き、自由落下する体へ非情なる追撃を叩き込んで来た。




「ガアアアアアアアアアアア!!!!」


「う、うぉぉおおおおおおおお!!!! ぐぁっ!!!!」



 両腕の防御を突き破り、胴体に雷撃が放たれ。


 地面に引かれる重力と馬鹿げた攻撃により発生してしまった破滅的な加速度で地上へと落下。





 こ、この速さはヤバイ!!!!


 襲い掛かる衝撃に備え、後頭部を抱えて受け身の態勢を……!!




「うぐっ!!!!」



 どこかの家屋の屋根に体が突き刺さり。



「あぎゃっ!!!!」



 二階部分かな?? 兎に角、視界が廊下らしき光景を刹那に捉え。



「ごっふぅ!!!!」



 一階部分に体が激突し、大変御硬い床が俺を優しく受け止めてくれた。



「――――――――。ゴホッ!!!! ゴフッ!! こ、殺されるかと思った……」



 美しい角度で折れ曲がったベッド様に対し、良く受け止めてくれたね?? と。


 愛しむ様にヨシヨシと撫でてあげた。




「ここは……。兵舎、か」



 額から零れ落ちて来る深紅の液体を拭い、視界を確保して周囲を確認した。




 広い空間で戦うのは不利だ。恐らく、負ける。


 だが!!


 この中ならあの化け物も速く動けないだろうし、ある程度の速さ迄なら対応出来る。それにアイツの弱点も看破出来たんだ。


 兵舎の外へ吹き飛ばされない様に、そして超接近戦で攻撃を与え続ければ勝機は訪れる!!!!



 何とかして、此処へと誘い込まなきゃな!!



「よし!! 作戦は決ま……。っ!!!!」



 仰向けの姿勢のまま俺が降って来た穴を見上げていると、化け物が俺の体を狙いすました様に降って来やがった!!!!



「甘いっ!!!!」



 両腕を頭の後ろに置き、頭跳ね飛びの要領で跳ね起きつつ。


 強力な脚撃で迎撃してやろうかと思ったが。



「ガァッ!!!!」


「あぶっ!!!!」



 相手の突撃が僅かに勝り、今も埃が大きく舞う木の床に叩きつけられてしまった。



 も、もう慣れたよ。叩きつけられるのは。



「――――。おいおい、こっちが立ち上がるのを待ってくれていたのか??」



 もういい加減に休めと命令を放つ足に喝を入れ立ち上がり、俺の様子をじぃぃっと観察している化け物にそう言ってやった。



「随分と優しいじゃないか。えぇ?? 化け物さんよ!!!!」



 腰から短剣を抜剣。



「ギィィィィィヤアアアアアア!!!!!!!」



 今日一番の雄叫びを放った化け物と対峙した。


 さぁ、三回戦の開幕だ。



 二戦連続は絶対に落とさないぞ!!!!



「行くぞぉぉおおおお!!!! 化け物ぉぉおおおお!!」


「グルルルアァアアアア!!!!」



 魂を鼓舞する雄叫びを互いに放ち空気を震わせ、己が闘志を奮い立たせる。


 不退転の姿勢で突貫を開始したのだった。




最後まで御覧頂き、有難う御座います。


投稿時間が深夜になってしまい、申し訳ありませんでした。


帰宅後にオリンピック女子ソフトボールの白熱した戦いを観戦していたらつい……。

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