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第三十六話 平穏を切り裂く闇 その二

お疲れ様です。後半部分の投稿になります!!


ごゆるりと御覧下さい。




 心臓が嬉しそうにトクン……。トクン……。と、普段のそれとは違う大きさで鳴り響いている。


 この大きさの原因は長い散歩によるものなのか、それともあのボンクラとの再会によるものなのか。



 ん――……。


 まぁ、私的には後者であると考えているけども。前者が要因であると考えられ無い事も無い。


 勿論、嬉しかったよ?? 久々にアイツの顔を見れて。


 元気そうにしていた事が何よりなんだけども。


 数か月見ない間に物凄く強くなってた事に驚きを隠せないでいた。



 アイツの手から伝わる男らしい膂力と、体の芯から放たれる言葉では形容し難い圧。



 大陸各地に移動し続けているって言ってたけど、その道中に鍛えていたのだろうか??


 真面目なボンクラの事もあるし、多分そうだと思うんだけどなぁ。今度会った時に問い詰めてみよう。




 素敵な再会に心が随分と軽くなったのは事実だけども……。


 唯一許せなかったのは貴族の御令嬢の任務ね。


 きっと物凄く可愛い子を救ったのだろう。そして、守られた彼女はアイツにホの字となって……。



 むぅ……。


 何か、腹立って来たわね。任務だから致し方ないとは思いますけれども。


 今から踵を返して一発殴って来ようかな??



 軽快な歩み、されど多大に後ろ髪を引かれる思いで進み続けていると。




「――――――――。カンカンカンッ……。カンカンカンッ……」



 耳にこびりついて離れないあの忌々しい敵襲を告げる鐘の音が聞こえて来た。




 はぁ!? 嘘でしょう!?


 こんな場所で敵襲!?




 鐘の音に急かされ、猛烈な勢いで拠点地へと舞い戻り足を踏み入れると。


 数十分前の朗らかな光景とは真逆の、凄惨な光景が私を迎えた。




「ウ、ウゥ……」


「うぁぁ……」



 打撃、若しくは投撃による負傷なのか。拠点地内に血を流して倒れる多くの兵士達。


 兵舎並びに武器庫の壁には巨大な穴が空き。強烈な何かがそこに与えられた事をまざまざと証明し。


 照明用の松明に照らされた拠点地上には無数の折れた矢が横たわっていた。



 い、一体。何が起こったの??



 左腰から長剣を抜剣。


 荒い呼吸を整え神経を研ぎ澄ませ、注意深く。しんっと静まり返ってしまった拠点地内の左右に広い道を進んで行くと……。



「ギヤァァァァアアア!!!!」


「っ!?」



 左手側。


 食堂へと続く通路の先から一人の男性兵が宙の中を吹き飛び、強烈な勢いで地面に叩きつけられて転げ回って来た。



「だ、大丈夫ですか!?」



 酷い傷だ。


 顔面が血に塗れ、意識が朦朧としているのか。焦点が合っていない。



「あ、あぁ……。は、早く。あの化け物を……」



 化け物??



「この先に化け物が居るのですか!!」



 お願い!! 答えて!!



「そ、そうだ……。の、残りの兵力じゃ。か、叶わない。ぞ、増援を……」



 ちょっと!! しっかりして!!


 額から深紅に染まった液体がポトリと地面に落ちると同時に気を失ってしまった。



 数十分の間にこの拠点地内の全兵力、七十五名を無力化したっていうの!?


 その化け物は!?



 男性兵を優しく地面へと置き、今にも逃げ出しそうになる体に喝を入れ。食堂方向へと向かう。



 逃げるな、私……。


 戦うんだ。



 笑えて来る量の手汗が滲む手で剣の柄を握り締め、硬い生唾を喉の奥へと送り込み。細心の注意を払いながら進んでいると。



「くらぇええええ!!」


「でやぁあああああ!!!!」



 数名の兵士達の戦闘音が聞こえて来た。


 闘志溢れる声だが。



「グルルアァアアアアアアアア!!!!!!」



 それを掻き消す程の恐ろしい声が拠点地内にこだました。



「ぐあぁあああ!!」


「せ、先輩!! ち、ちくしょう!!」



 見つけた!!!!


 食堂前で十名程の兵士達が此方から向かって右手側の死角に向かい、剣を構えている。


 あそこに居るのか!!!!



「すいません!! 遅れました!!」



 食堂前に到着し、先輩兵達が対峙する化け物の存在を確認した。




「グルルルゥゥ……」



 頭はもう見るのも飽きてしまったドス黒い豚の顔なのだが……。



「せ、先輩。あ、あの化け物は……??」



 首から下は形容するのが大変難しい形態であった。






 鋼の剣も跳ね除ける分厚い装甲であると此方に思わせる胴体。


 左肩口からは六本の触腕が生え獲物を求める様に蠢き、右腕の代わりには命を刈り取る死神が持つであろう形の蟷螂の鎌が生え。


 両足は人間の膝関節とは真逆の関節。つまり、あれを言い表すのなら飛蝗の後ろ足だ。




 醜い豚の顔、蛸の触腕、蟷螂の鎌に飛蝗の豪脚。そして、高さニメートル強の体躯。




 こ、こんな化け物。見た事ある訳ないでしょ!!!!


 何なのよ!! コイツ!!


 生物の集合体!?



「分からん!! 突然北の方角から現れやがった!!」


「マイルズ大尉は!?」



 指揮官不在で戦うのは難しいですよ!!



「やられちまったよ!! 何処かの兵舎の壁に叩きつけられちまった!!」


「ほ、他の隊員は!?」


「皆何処かに吹き飛ばされちまったよ!! 後は此処に居る……。十人で対処するぞ!!」



 ろ、六十五名の兵が一瞬で……。



「無策で突撃しても勝ち目はありません。慎重に相手を見極めるのが必要ですよ!!」


「矢も効かねぇ!! 剣も槍も効かねぇんだよ!! 策もクソもあるか!! 突っ込んで倒すしかねぇんだよぉおおおおお!!!!」



 ば、馬鹿!!!!


 何で突っ込んで行くのよ!!



「続けぇ!!」


「「「おおおおう!!!!」」」



 伍長を先頭に五名の兵が彼の後に続き。



「でやぁっ!!」


「ふっ!!!!」



 化け物の胴体、鎌に鋭い剣撃を加えた。



 しかし。



「ググググゥッ。ガァッ!!!!」



「「「うわぁっ!?!?」」」



 左肩口から伸びた触腕が三人の体を薙ぎ払い。



「ぎゃあっ!!」

「おぐっ!!」



 残る三名は蟷螂の鎌によって、軽々と吹き飛ばしてしまった。



 な、なんて破壊力……。


 たった二撃で六名の兵士が先頭不能に陥るなんて。




「ど、ど、どうしよう。トアちゃん……。わ、私。戦うの苦手……」



 奥歯をカチカチと鳴らし、笑う膝を必死に御し。


 目に涙を浮かべて此方を見つめる。



「安心して下さい。パトリー先輩。私が前に出ます」



 あの触腕が厄介ね。


 先ずはあそこに攻撃を加えて切り落とし。次に鎌を……。


 うん、やれる。


 私なら……。やれるっ!!!!



 闘志を燃やすんだ!!!!


 活路は後ろには無い、前にある!!!!



「そこに落ちている弓矢で後方支援して下さい!!!!」


「「「お、おぉ!!!!」」」



 残り数名の兵達に向かって指示を出し、一陣の風となって化け物の懐に侵入。



「はぁぁあああああ!!!!」



 一本の触腕の攻撃を躱し、続け様に襲い掛かって来た二本目の触腕に斬撃を与えた。



「っ……」



 肉を切り裂く鈍い音。


 その直ぐ後、生肉を切り落とした感触が剣を通じて手の平に伝わった。



 ほら!! やっぱり!!


 触腕には攻撃が通用するじゃん!!



 切り落とされた触腕が地面の上で惨たらしくうねり、無意味に蜷局を巻くと黒き灰に還った。




「皆さん!! 今です!! 頭部に集中放射!!!!」


「「了解っ!!!!」」



 出来れば目を穿って視界を奪って!!



 後方から襲い掛かる矢。



 化け物の顔面に突き刺さるも。



「グググググゥ……」



 大した痛みを与える事は叶わなかった。



「それでいいです!! 私が前衛を務めますので、皆さんは頭部に集中して攻撃を加えて下さい!!!!」


「分かった!!」



 さぁ……。


 集中しましょう。



 前衛の私がやられたら隊は総崩れ、全滅しちゃうからね!!!!



「ガァァッ!!」



 襲い掛かる触腕を躱し、地面と平行に襲い掛かる鎌を屈んで避ける。


 風を切り裂く音が闘志を掻き消そうとするが、その風音が更に私の闘志を焚き付けた。




 一瞬の迷いが死に繋がるわよ。


 死にたく無ければもっと精神を研ぎ済ませなさい!!!!



 弱き自分を体の中から追い出し、闘神を体に宿し。私は全身全霊の魂を燃やして上段から鋭い一閃を加えた。



「グッ!?」



 手応えありっ!!


 鋼の体躯に薄皮一枚程度の攻撃を与える事に成功する。



 コイツにも痛みという感覚があるのか。私の攻撃から逃れる様に一歩後退した。



「撃て!! 撃てぇえええええ!!」



「っ!!」



 その隙を見逃すまいと続け様襲い掛かる矢の波。



 此処が勝機!!!!



「はぁああああああ!!!!」


「グルアッ!!」



 矢の援護を受けつつ、左側から襲い掛かる鎌を躱して己の間合いに身を置き。厄介な触腕を切り落としてやった。



「どうだ!! 何度だって切り続けて……。えっ??」



 ど、ど、どういう事!?



「フゥゥゥ……」



 切り落とした筈の触腕が……。



 再生した!?



「う、嘘でしょ!?」



 な、何よ。


 何なのよ!! コイツ!!


 そんなの反則じゃない!!!! 卑怯よ!!!!



 切り落とした筈の肩口から生える触腕は増え、胴体に与えた傷も綺麗に再生しちゃったじゃん!!



「ググゥッ!!!!」



 その様を注意深く観察していたのが不味かった。



「うわっ!! し、しまっ!!」



 再生した一本の触腕が私の胴体を捕らえ。



「うっぐっ!? か、かはっ……」



 残る数本の触腕が喉に絡みつき、気道が塞がれてしまった。



 く、くる、しい……。



「トアちゃん!! やあああ!!!!」



 だ、駄目。


 み、皆逃げて……。



 残る数名が私を救出しようと突撃を開始するのだが。



「うわぁああああああ!!!!」


「きゃあああああ!!」



 二名の兵士が触腕に吹き飛ばされ。



「うぐぅっ!?!?」



 鎌の攻撃によって残り一名の兵士が家屋に叩きつけられ、此の地に立っている兵士が消滅。



 意識を保っているのは私、だけか。


 そ、それも後少し、かな。



「グルルルルゥ……」



 意識が霞む中。


 醜い豚野郎が、私の生が消失するのを満足気に眺めている事が大変癪に障った。



「こ、この。醜い豚野郎……。こ、これでも食らいやがれ……」



 これが、私の最後の攻撃ね。



 右手に持つ長剣の切っ先を醜い豚の胴体に突き刺してやるのだが。




「…………」



 薄皮一枚を裂く事も叶わず。


 勝利へと導く鍵を……。遂に手放してしまった。





 あぁ……。


 こんな事になるんだったら……。


 もっと美味しい御飯食べるんだったな。それと、新しい服も買って。


 アイツと、一緒に……。




 悔しい。


 死にたくない。


 嫌だ、嫌だよ……。



 口から零れる敗北の泡が顔を汚し、目からは大量の悲しみが溢れて来た。



 霞む意識の中、頭の中に浮かんだのは最後に会ったアイツの笑み。



 ごめんね?? レイド……。


 もう会えない。


 私の分まであんたは長生きしてね……。



 宙に浮かされた体は無意識の内に抵抗する気力を失い、だらりと体を弛緩させ。惨たらしい死を受け入れる態勢を整えてしまったのだった。




最後まで御覧頂き有難う御座いました。



そして!!


ブックマークをして頂き、誠に有難うございます!!


第二章なのですが、まだまだ中盤にも届かず。ここ最近の暑さもあってか。執筆活動について少々へこたれ気味だったのですが。


嬉しい励みになりました!! これからも投稿速度を落とさぬ様努めさせて頂きますので、温かく見守って頂ければ幸いです!!

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