第十二話 こんにちはぁ。カチコミに来ましたぁ
お昼に続き、夜の投稿です。
足を崩し、ごゆるりと御覧下さい。
勢いそのまま。天幕の中へと突入に成功したのは良いが……
森の中の清涼な空気とは真逆の重苦しい空気に顔を思わず顰めてしまった。その原因は恐らく。
俺達の正面に存在する奴等が放つ圧が多大に影響しているのであろう。
正面に巨大なベッドが置かれ、その上に一人の女性が足を組み気怠そうな顔を浮かべている。
俺達を見付けても薄紫の長髪を指で弄り、退屈そうな表情は不変であった。
天幕の中央に置かれた大きな燭台が放つ怪しい橙の光が彼女の気怠さをより怪しく照らし続けている。
その左右、奥。
以前。マイを射殺そうとした巨躯のオークが片方は戦斧を右手に持ち。片方は大剣を地面に突き刺し。
憎悪を籠めた鋭い瞳で此方を睨みつけていた。
アイツが敵の大将か。
白を基調とした長いスカート、春の季節に似合った肌色の上着を着用。
何も知らない人から見れば、背筋をゾクリと泡立たせる妖艶な雰囲気を持つ女性だと考えるであろう。
だが、倒すべき俺達の敵なんだ。
見た目に騙されるなよ?? 集中だ、集中!!
固唾を飲み様子を窺っていると。
「こんにちはぁ……。あんたらをぶん殴りに来ましたぁ……」
殺気全開のマイが第一声を放った。
もう少し真面な台詞。
見つからなかったのかな??
「はぁ……。全く。周囲に展開している奴らは何をしているのかしらねぇ……」
敵の大将さんが気怠さを保ったまま。
これまた気怠い声を出す。
俺達と対峙しても態度が変わらないと言う事は、それだけの実力を持っているのか??
気が抜けないな。
「あたし達がぶっ潰して来たんだよ。即刻この地から出て行きやがれ!!」
「出て行かないと、どうなるのかしら??」
薄い口元を歪に歪め。挑発紛いの表情で話す。
「喉の奥から胃袋を引きずり出す!!」
「顔の形が変わるまで殴り続ける!!」
御二人共??
お口が悪いですよ??
「あっそ。女二人は馬鹿そうで……。あ、ごめん。馬鹿だったわね」
「「あぁっ!?」」
直ぐそうやって挑発に乗らない。
「後ろの男の人。あなたは話が通じそうね」
少なくとも、口から殺意の蒸気を放つ二人よりかは冷静です。
「初めまして。レイドと申します」
先ずは挨拶と簡易的な自己紹介。
基本中の基本です。
「何呑気に挨拶してんだ!!」
「そこの絶壁残念女。ちょっと黙ってなさい」
「はぁああ!? こ、こ、こ、殺す……!!」
「わぁっ!! ちょ、ちょっと待てよ!!」
猪突猛進を開始しようとする頭空っぽの彼女を羽交い絞めにして抑え込んだ。
「何すんのよ!!」
『良く聞けって。あそこにオークが居るのに手を出してこないだろ?? それに、ほら。アイツらが統制を取れている理由を知りたい。此処は一つ、先ず会話から情報を得るべきなんだ』
何でもかんでも暴力で解決しようと思ったら大間違いですよ。
「ふんっ!!」
俺の意図を汲んでくれたのか。
体の前で腕を組み、戦闘保留の姿勢を取ってくれた。
頼むよ、全く。
この作戦には原因解明も含まれているのだからさ。
「えっと。あなた達はどうして此処に足を運んだのですか?? 何か目的でも??」
取り敢えず。軽い質問から。
そう考えて相手に警戒心を抱かせない声量で話す。
「秘密」
まぁ、そうですよね。
いきなりペラペラと目的を話す訳ないですよね……。
「じゃ、じゃあ。この先に控えている彼等は徹底抗戦の構えを取っています。今、退却すればそちらの被害も最小限に収まるかと」
「ふぅん」
これも駄目ですか……。
「どうしても退却しない場合。そちらの被害は甚大かと……」
「何?? 私の事を心配してくれるの??」
あ、いや。違います。
警告なのですけども……。
「じゃあぁ、一つだけ情報をあげる」
おぉ!!
それは有難い!!
「私の名前はクレヴィスよ」
「――――。それだけ??」
彼女の名の後に有意義な情報が出て来ると思いきや……。
待てど暮らせど、これっぽっちも出て来なかった。
「そう、それだけ。名乗ってくれたお礼っ。黒髪で優しそうな顔……。結構好みなのよねぇ……。此処に来なさい。私が相手、してあげるから」
淫靡な口元を浮かべ。柔らかそうなベッドをポンポンっと叩く。
「あのぉ――。申し訳無いのですが。他人の領土に土足で踏み入り、しかも。敵意剥き出しなのは如何なものかと……」
此方の容姿、彼女の好み、そして卑猥な言動云々を無視して質問を続ける。
「じゃあもう一つだけ情報をあげる」
今度は真面な情報であってくれよ??
「此処へ来たのは、魔物を皆殺しにする為よ。包囲している事を見れば分かるでしょ?? 」
はい。
不味いです。
彼女が明確な殺意を肯定した結果。
「「…………」」
両隣の彼女達の様子が豹変してしまった。
な、何!?
この冷たい空気は!?
「さっきから黙って聞いていれば……」
ユウが力強く握った拳を体の前で勢い良く合わせると。
「好き勝手に言ってくれちゃってまぁ……」
それに呼応する形でマイが一歩前に出る。
「これから楽しい、楽しい殺戮が幕を上げるってのに。邪魔な女達ねぇ」
そして、クレヴィスさん……。
いや、敵だから呼び捨てで構わないか。
クレヴィスも挑発を続けた。
「も、もう限界」
「同感だ。あたしも堪忍袋の緒が切れる寸前だよ……」
「ちょ、ちょっと!! 落ち着けって!! 二人共!!」
せめて、統率が取れる情報でも入手しないと!!
「「引っ込んでろ!!!!」」
「はい、ごめんなさい!!」
怒り狂った二人を御す。簡単そうに見えてその実大変に困難。
俺じゃあ無理でした。
ボーさん。申し訳ありません……。
怒り狂ったこの二人は俺の手には負えません。
「ふふふ……。じゃあ、ちょっとだけ。遊んであげるわ」
殺気全開の二人の背中から正面を覗くとクレヴィスが懐から何かを取り出した。
何だ?? アレ。
目を凝らして謎の物体を確認すると。
どうやら結晶体の様だ。
クレヴィスの髪と同じ薄紫色の結晶体を右手に持ち、彼女が人の神経を逆撫でる笑みを浮かべると。右手に持つそれが刹那に発光した。
その光に呼応する形で巨躯のオークの胸元に矮小な光が灯り……。
「「ググゥゥアアアア!!!!」」
突如として二体が此方に襲い掛かって来た!!
何だよ!! 急に!!
「レイドぉ!! そっちは任せた!!」
「了解だ!!」
戦斧を持った個体はユウへ。
対し。
此方には巨躯のオークが大剣を両手に構え、襲い来る。
「来いっ!!!!」
突如と開始された戦闘に対処すべく素早く抜剣。真正面から向かい討つ。
「ガァァァッ!! アァァァッ!!」
速さは並み!!
だが、膂力はどうだ!?
正面から襲い掛かる大剣に対し。真っ向勝負を挑んだ。
「どわぁっ!?!?」
受け止めた結果。
俺の体は面白い様に後方へと吹き飛び。
「いでっ!!」
一度だけ地面を跳ね、眩い太陽の下に躍り出てしまった。
いてて……。
何て馬鹿力。
馬に撥ねられたみたいだよ……。
「レイド!! 大丈夫か!?」
巨躯の攻撃を躱しつつユウが天幕から出て来る。
「あぁ!! 異常無しだ!!」
頑丈な体に感謝しましょう。
「グルル……」
大剣を手に持つ個体が俺の後を追い、日の下に姿を現す。
身の丈約三メートル。筋骨隆々な姿が先程の威力を物語っていた。
俺の力じゃ受け止められない、か。
全く。
情けない。
何の為に鍛えてきたのやら……。
「ふぅぅ。よしっ!! 行くぞ!!」
出し惜しみをして負けるよりも、出し切って潔く負ける!!
…………。
負けちゃ駄目だろ。
兎に角!!
全力で倒すんだ!!
精神を集中させ、力の欠片を右腕にかき集めた。
「すぅぅ……。はぁぁっ!!!!」
龍の力を解放し右手に剣を持つ。
よし!! 良いぞ!!
思い通りに動きそうだ!!
「ガァァ!!」
俺の体を両断しようと巨躯が大剣を空高く振り下ろす。
「ふっ!!」
上空からの雷撃を見事受け止め。
「だぁっ!!」
がら空きの胴体へと烈脚を放つ。
「グッ!?」
おぉ!!
よろめいたぞ!!
俺の力も満更じゃないな!!
「ユウ!! そっちはどう……」
刹那に出来た隙を生かし、彼女の様子を窺うが。
「おっ?? おぉっ!? あっぶねぇな!!」
ここの騒ぎを聞きつけたのか。
数体のオークが増援として登場。
ユウの周囲には五体のオークと、巨躯のオークが群がっていた。
「ユウ!! 加勢するか!?」
「大丈夫――!!」
あの声色、そして余裕持って躱す様からして心配は無用かな。
流石、大魔の血を受け継ぐ傑物さんですね。
「ウウゥゥ……」
増援へと駆けつける前に、お前さんとの勝負を付けようか。
憎しみに塗れた顔のまま俺の前へと進み来る。
「ガァァァアアッ!!」
一片の迷いも無く。
只々、俺の体を切断する為に大剣を振り下ろす。
正々堂々たる姿は敵ながら天晴だ。
「掛かって来い!!!!」
それに応えるのが男ってもんだろ!!
柄を力一杯握り。筋力を解放しつつ剣を振り上げ……。
力と力。
鉄と鉄の塊が衝突した。
「えっ!?」
嘘でしょ!?
何で剣が折れちゃうの!?
相手の攻撃を後方へと弾き返したのは良いが。
此方の得物が剣身の中央からポッキリと折れてしまった。
だが!!
剣は折れようとも、燃え滾る闘志は折れない!!!!
「はぁっ!!!!」
腰から素早く短剣を抜き。
「ググ……。アァァァッ!!!!」
俺の突撃を止めようとする鋭い一閃を掻い潜り。
「ふっ!! せぇいっ!!」
厚い装甲を誇る胴体の真ん中へと鋭い切っ先を突き刺してやった。
「これで。決着だ!!」
今日一番の膂力を右手に籠め、短剣を更に奥へと沈める。
「アァ……。ウグゥゥ……」
耳障りな声を残し、巨躯のオークが黒灰へと還り。此方の勝利を決定付けた。
良し!! 一体撃破!!
後は……。
「ユウ!! 助太刀する……」
彼女の下へ駆けつけようとすると。
進み出した足が止まってしまった。
「ふぅぅ……。面倒だ。一気に片を付けてやる!!!!」
周囲から襲い掛かる攻撃の隙を見つけた彼女が右手を体の前に翳すと、美しい緑の円が現れた。
円が強く光り輝き、その円の中には解読不可能な文字の羅列が並ぶ。
えっと。
何だろう、あれは。
綺麗な緑の円が宙に浮かんでいるのは分かりますけども……。
「大地よ!! 我に力を!! そしてぇ……。これがぁ。大地の憤怒だぁああああああ!! 来い!! タイタン!!」
ユウが円の中に手を突っ込むと。
「えぇ!?」
右腕が円の中に消失。
そして、勢い良く引き抜くと。
「でぁああああ!! だぁっ!!」
超巨大な戦斧を手に取り、消失した右手が戻って来た。
美しい銀の長い柄の先には、大人の男性とほぼ変わらない大きさの刃が備えられている。あの大きな刃を振り下ろせば。
人、いいや。
馬の胴体程度なら容易く両断出来てしまうであろう。
防御云々をかなぐり捨てて、威力に特化した武器の形状に思わず声を失ってしまった。
「さぁ……。掛かって来やがれぇ!!」
「「ギィィ!!」」
左右のオークが形の悪い剣を構え、ユウの真正面から襲い掛かるが。
「だぁぁああ!!」
「「っ!?」」
大戦斧の横断で胴体が上下に綺麗に別れ。
自分の足を驚愕の目で見つめた後、黒灰へと還った。
す、すっげぇ。
相手の武器ごと横一文字で切り裂いたよ。
「グオオオオオ!!!!」
巨躯が己の戦斧をユウに向けて振り翳す。
しかし。
「あたしに喧嘩を売ったことを……。後悔しやがれぇええ!!」
素早く構えた大戦斧の刃を下から振り上げ、相手の武器を粉々に破壊。
そして、返す力で正中線へ。非情の刃を切り落とした。
「ギィヤアアアア!!!!」
「はっ!! ちょいと武器の大きさが足りなかったようだな!!」
黒灰へと変わった巨躯を見下ろし、右肩に堂々と大戦斧を担いで勝利を告げた。
えっと。
勝利を祝う前に、色々聞きたい事があるのですよ。
「ユウ」
「お――!! そっちも終わった??」
「まぁね。所、で。その化け物級の大戦斧は一体何です??」
今も太陽の光を反射させ、物言わずともその威力を知らしめている化け物さんを見上げつつ話す。
「これ?? 継承召喚」
出ました。
また新しい単語です。
君達にとっては常識なんだろうけど。
数日前まで人間だった俺には非常識なのです。
「説明。お願いします」
「魔物の中には大魔って存在がいるよな??」
えぇ。
ボーさんと、その血を引くユウの事ですよね。
「その大魔だけがこうやって特別な武器を召喚出来るんだよ」
「じゃあ、普通の魔物さんには出来ない、と??」
恐らくそういう事でしょう。
「正解っ。どういう原理で召喚出来るか分かんないんだけど……。父上に方法を教えて貰ったら出来る様になった!!」
まぁ、ユウが分からないのなら俺も理解出来ないでしょう。
俺は大魔じゃないし……。
「とっておきの武器って奴か」
「そうそう!! 試しに持ってみる??」
右手に持つ大戦斧を軽々と此方に差し出す。
「いいの?? じゃあ……」
何気無く両手で受け取るが。
「おっっもっ!! 何、これ!?」
銀の柄を持っただけで両手が悲鳴を上げた。
大人数人分の重さは優に超えているだろう。
だが、次の瞬間。
再び驚愕の事象を目の当たりにする事となった。
「はれ?? えっ!? 消えたぞ!?」
大戦斧が美しく光り輝く光の鱗粉へと形状崩壊し、ユウの体の中へと吸い込まれて行った。
「あはは!! 持ち主以外が触れるとそうやって消えちゃうんだよ。勿論、あたしが任意で消す事も出来るけどね!!」
「そうなんだ……」
特別な魔物と呼ばれる所以は恐らく、今みたいなとっておきの武器があるからだろう。
あんな馬鹿げた武器をあちらこちらで呼び出されたらたまったもんじゃあないし。
「さて!! マイの奴はどうなったかな!?」
今も激しい炸裂音が響く天幕へと視線を向けてユウが話す。
「アイツの事だ。ギャアギャアと喚きながら戦ってるだろうさ」
耳を澄ますと。
『死ねぇええ!! 尻デカ女ぁあああ!!』
ほら、当たった。
「どうする?? こっちは片付いたし。加勢に向かうか??」
「いんや。女の喧嘩はタイマンって決まってんだ。マイが途中で諦めたら、あたしが出る!!」
男の喧嘩ならまだしも。
女の喧嘩でタイマンって言葉、使うのかしらね??
周囲の大気を震わせる衝突音を叩き出す彼女達の戦いによって、悲鳴を上げ続けている天幕の様子をユウと肩を並べて窺い続けていた。
最後まで御覧頂き有難う御座いました。
続きます。




