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第三十五話 順調過ぎた到着 その二

お疲れ様です!!


後半の投稿になります!!






 赤き太陽が彼のベッドが存在する西の地平線の彼方へと全力疾走で駆けて行く。


 暗闇に包まれると、進路の確保に大変な労力を割かなければならないので。


 少々理不尽であると考えつつも。もう少し待って下さいと彼に向かって懇願するのですが。



『眠いから寝るんだよ!!!! 何か文句があるのか!? あぁん!?』



 彼の御怒りを買えばこの世に存在した痕跡が一切残らぬ程焼き尽くされてしまいますので、このまま御見送りさせて頂きます。


 おやすみなさいね。また明日お会いしましょう。




 王都を発ち、本日で二十日。


 恐ろしいまでの完璧な行程に自分でも驚いてしまうのですが……。逆に順調過ぎると不気味ではありませんかね??



 悪い方に捉えがちの、悪い癖なのかな。


 この際、良い方に捉えましょう!! ささっと任務を果たし、王都へと帰還すれば賑やかな王誕祭が俺を迎えて……。




「んぅ?? ん――……。あっれぇ?? 私の菓子、何処にしまったっけ……」



 あ、早く帰っちゃ駄目だ。


 アイツが街中の食料を全部食らい尽くしてしまうから……。


 帰りの道中は敢えて、寄り道をしながら帰ろう。




「じゃあ、行って来るよ」



 街道から大分離れた位置。


 何も無い平原に荷物を纏め、ウマ子から荷馬車を切り離し。


 結局、悪い方に物事を捉えてしまい沈んだ気持ちのまま。随分と寛いだ姿勢の四名の女性に束の間の別れの言葉を告げた。



「う――い。いってらっさ――い!!」



 たった数時間程度のお別れなのですが、もう少し真面に見送って頂けませんかね??


 いつも通りにユウのお腹を枕代わりに使用するマイがそう話す。



「拠点は此処から西へ向かって約一時間。私達は此処で待っていますので、気を付けて行ってらっしゃい」



 そうそう、こんな感じですよ


 ウマ子に颯爽と跨った此方に対し、親切丁寧な姿勢で見送りの言葉を送って頂いたカエデに対して一つ頷き。



「指令書を渡して直ぐ帰って来るからね。此処で待機していてくれ」



 ウマ子に出発の合図を伝え。



「んふっ。愛の逃避行の開始ですわねっ!! 私達の幸せはあの夕日の向こう側にあるのですわ!! さぁ、レイド様っ!! 私のお腹に八つの御命を……」


「帰りが遅くなる様だったら先に食事を始めていてもいいから」



 右肩に乗るやんちゃな蜘蛛のお腹を掴んで、カエデの頭の天辺へと向かって放ってやった。



「あぁぁ――んっ。愛が遠退きますわぁ――」


「アオイ。毛が痛い」


「んふふ。ごめんあそばせっ」



 全く油断も隙もありゃしない。


 右肩に大きな蜘蛛を乗っけて拠点地に到着してみろ。


 絶対変な奴だと捉えられちまうって。



「いってらっしゃいまし――――!!」



 カエデの頭の上で二本の前脚を器用に動かして見送ってくれたアオイにささっと片手を上げ、目的地へと足を進めた。




 蹄が大地を踏み均す軽快な音、それに続いてウマ子の背から反動が此方の体に伝わり。体が軽快に上下に動く。



 久々だなぁ。


 荷馬車の御者席から降りて、鞍に跨って乗馬するのは。



「ウマ子、疲れていないか??」



 此処迄二十日間、俺達の荷物を運び続けてくれたのだ。


 疲れていない方が……。



『至極元気だが??』



 おかしい事は無かったですね。




 此方に振り返り様。


 一々、下らない事聞くなと。円らな瞳がキリっと光ってしまった。



「そっか。一応聞いただけだから」


『ふん。所で……。良いのか?? アイツ等を置いて行って』



 残して来たカエデ達が心配なのか、いつもよりちょっとだけ歩みが遅いな。



「言っただろ?? 指令書を渡して直ぐ戻って来るって」


『そうだったな……』


「あはは!! 何だよ――!! 皆が居ないと寂しいって正直に言っちまえよ!!」



 右手で彼女の首元をポンっと叩くと。



『貴様っ!! 私は決して天邪鬼なんかではない!!』



 グゥングン!! っと首を動かし。


 精一杯の憤りを表してしまいました。



「悪かったって。そう怒るなよ」



 今度は優しく体を撫でてあげると……。



『分かればいいのだっ』



 両耳を嬉しそうにフルフルと動かしてくれた。正直な奴め。





 しっかし……。


 俺だけがこうして楽な任務に携わっていいものなのかねぇ。


 勿論?? 前二つの任務は激務でしたよ??


 毎度毎度厳しい任務を与える訳にはいかないと、上層部の粋な計らいなのかな。


 ですが、新人である俺にそんな計らいは不要だろう。


 新人は新人らしく体が燃え尽きるまで任務に携わるべき。


 偶々手の空いている者が居て、白羽の矢が我が本部に立った。そう考えるのが自然ですね。




 皆、元気にしているのかなぁ……。




 何処かの防衛線で齷齪働いているのは知っているけども。正確な場所は教えてくれなかったし……。


 いつか、何処かで会ったのなら肩を叩いて互いの無事を祝おう!!


 そして愚痴を零しつつそれを肴に酒を浴びる迄飲んで……。あ、俺は飲みませんよ??


 酒類は控えていますので。



 旧友達と交わす軽快な会話を想像していると。



『おい、見えて来たぞ』



 ウマ子が前方に注意を促せと、騎手にしか分からない振動を与えてくれた。


 それに従い俯きがちであった顔を上げると。



「ん?? お――!! 見えた!!」



 もう間も無く沈み行く夕日を背に受けた拠点地ティカの姿をこの目が捉えた。



 柵で囲まれた拠点地内には兵士達が忙しなく移動を繰り返し、己に課された責務を続け。


 哨戒の任に就いている男女二人の兵士が俺を捉えると、此方の労を労う様な。明るくも在り且軍人の気概を失わない表情で迎えてくれた。



「失礼します!! 王都レイモンドより、マイルズ大尉宛てに指令書をお届けに参りました!!」



 ウマ子から下馬し。


 男女両名へと気を付けの姿勢を保ち、覇気ある声で此方の任務内容を伝えた。



「おう!! お疲れ!! お前さんの階級と所属部隊。そして名前を教えてくれるか??」


「はっ!! パルチザン独立遊軍補給部隊所属。レイド=ヘンリクセン二等兵であります!! そして、此方が指令書になります」



「聞いた事が無い部隊だなぁ――。パトリー、聞いた事ある??」



 彼が指令書を受け取ると、物珍しそうに表と裏をひっくり返す。



「無いですねぇ。レイド君だっけ?? 遠路はるばるお疲れ様っ」



 男性兵と違い、此方は随分とおっとりした御方だな。


 階級は……。


 っと。俺より一つ上の一等兵さんだ。


 上官には相応しい態度を取らないといけませんね。



「はっ!! 有難うございます!!」


「まぁっ、ふふ。ハキハキした声で答えてくれて有難うね??」


「大尉にこれを届けるんだろ?? 中に入って右手に進んで、突き当りの小屋に居るから。入っていいぞ」



 そして、彼は伍長ですね。


 礼儀正しい姿勢を貫き通しましょう。



「有難うございます!!」



 彼の許しを受けて、指令書を受け取り。



「ウマ子。直ぐ戻って来るから此処で待っていてくれ」


『了解だ』


「では、失礼しますね」



 愛馬の体を優しく一つ撫で、拠点地へとお邪魔させて頂いた。



「あ、おい。厩舎に入れなくて良いのかよ??」


「直ぐに戻って来ますので。それと……。賢い奴ですからね。俺の言う事はキチンと守ってくれるんですよ」



「へぇ――。見掛けによらないもの……。お、おいおい!! 落ち着けって!!」



 あはは。


 見掛けって言葉に反応しちゃったのかな??



『私を見縊るなよ!? 若造が!!』


「お、おいおい。落ち着けよ」



 手綱を持つ伍長の手を振り解こうとして首をグングンと元気良く動かし続けていた。


 彼女の御怒りが炸裂する前に、ちゃちゃっと渡して来ましょうかね。



 左右に建ち並ぶこじんまりとした兵舎の合間を進み、彼から教わった件の小屋へと進む。



「あはは!! おいおい、それ本当かよ??」


「本当だって!! 俺、帰ったら結婚するもん」



 左手側の兵舎の前には玄関脇で寛ぎ、談笑を躱す二人の男性。



 右手側の女性兵用の兵舎の前には俺の姿を物珍し気に見つめている二人の女性が立っていた。




「ねぇ――。あの子、誰??」


「さぁ?? 新任する子じゃない??」


「へぇ――……。可愛い顔しているじゃん」


「顔はそうだけどさぁ。脱いだら凄そうじゃない??」


「あは!! 分かるぅ!!」




 何故分かるのですかね??


 まぁ、御二人共軍人ですから。服の上からでも人の肉付きを看破する能力に長けているのでしょう。


 怪しい視線から逃れる様にそそくさと速足で前へと進み、漸く件の小屋の前に到着した。



 よぉし……。


 呼吸を整え、ちょっとだけ傷が目立つ扉を軽く叩き。



「レイド=ヘンリクセンです!! 王都から指令書を運ぶ任を受け、此処に参りました!!」



 中に聞こえる様且、相手が不快にならない声色と声量で告げた。



「――――。どうぞ」


「はっ!! 失礼します!!」



 室内から入室の許可を頂き、木製の扉を開いて中へと足を踏み入れた。



 左手の壁に併設された棚には情報を取り出し易い様に書類が綺麗に陳列され、正面には優しくもありながらも。


 軍人が纏うべきである厳格な雰囲気を身に纏った中年の女性が俺を静かに見つめていた。



「ようこそ、暇な拠点地のティカへ。御苦労だったね??」


「はっ。此方が……。指令書になります」



 執務机の向こう側に座る大尉へと向かい、素早い所作で指令書を渡した。



「中を確認するから、ちょっと待ってね」


「了解しました」



 彼女が封を切り、中から一枚の紙を取り出し。



「ふぅむ……。はいはい……」



 厳しい瞳を浮かべ、指令書の文字を咀嚼していた。



 何だろう??


 手厳しい指令なのかな??



「――――――――。ふぅ、全く。こぉんな紙切れ一枚を寄越す為に、人一人を使うなんて。労力の無駄だとは思わないかい??」



 指令書を読み終えた大尉がそう仰る。



「指令書の中身を改竄される恐れがありますので。致し方ないと考えております」


「あらまぁ。随分と真面目なのね??」


「此れが上官に示す当然な態度であります」



「あはは。まぁ、うん。そうだね」



 軽快に笑うと、椅子の背もたれに上体を預け。ふぅっと息を漏らした。



「レイド、だっけ。今日は此処に泊まっていくのか??」


「いいえ。次の任務が控えていますので、直ぐにでも移動を開始します」


「えぇ?? 今から出発となると……」



 背後の窓へと視線を送り。



「最寄りの街に到着するのは真夜中になっちゃうよ??」



 此方へ振り返ると同時に、俺の身を案じる言葉を送って頂けた。



「夜営しますので御安心下さい」


「分かった、無理強いはしない。道中気を付けて行くんだよ??」



 大尉が椅子からすっと立ち上がり、此方に向かって右手を差し出す。



「はっ、有難う御座います」



 その手を受け止め。覇気ある声で返した。



「ほぉ――……。こりゃあ、また……。立派な手だ」


「と、言いますと??」


「男の手って意味さ。あんた、中々の腕前だろ??」



 武に身を置く者は交わした手から様々な情報を掴み取る事が出来る。つまり、マイルズ大尉は俺の右手からナニかを掴んだのだろう。



「訓練所の成績は芳しくはありませんでしたので、こうして各地へと飛ばされている次第であります」


「ふっ。あはは!! 冗談も上手いときたか!!」



 冗談では無くて、真実なのですがね。



「腕の立つ者を一人や二人、此処に置いておきたいんだけど……。第三次防衛線。北部。って事もあって。御覧の通り、此処は最前線に比べれば平和なんだよ」



 仰る通りです。


 此処に来る前、所々に存在する風光明媚な姿を窺いましたので。



「この御時世。何が起こるか分からないからねぇ。でも、人員不足もあって上に増援を求める訳にもいかんし。此処は此処で、頑張っているよとお前さんの上官へ伝えてやってくれ」


「了解しました」



 大尉から右手を放し、背後の扉へと向かって機敏な足取りで進み。



「それでは、失礼します」



 上官に向けるべき角度で頭を下げ、扉の外へと躍り出た。




 ふぅっ!!


 緊張した!!



 やっぱ、士官と一対一で対面すると肩が凝っちゃうよなぁ――。


 向こうが優しい人で良かったけども。


 頭ごなしに怒号を浴びせて来る上官だって居るんだ。今回は運が良かったですね。



「んま――い!! 今日の飯、最高!!」


「だな!!」



 あそこは食堂なのかな??


 兵舎と兵舎の間の通路の向こう側にあるちょっと大き目の建物から、食に舌鼓を打つ声が届いた。



 羨ましい限りですよ。



 彼等の声を聴くと同時、腹の虫がぐぐぅっと鳴り響いてしまった。



 俺も早く飯を食おう。アイツに食べ尽くされてしまう前に。



 あの食堂へ進もうとする我儘な足を御し、ウマ子が待つ拠点の入り口へと足を向けると。











 一人の女性が厩舎から夕闇に染まる空の下に現れた。



 夕日に映える明るい茶の髪。端整な顔に浮かぶ瞳は月の湾曲も模倣したいと懇願する程にクルンと弧を描き。


 その上に乗っかる眉はちょっとだけ尖り、相対する角度が瞳の丸みを強調しているのだろう。


 街中で彼女を見掛ければ、誰が軍人だと思うだろうか。そんな出で立ちは数年前から変わらない。



 そして、俺の顔を見付けると。



「ぇっ……?? レ、イド??」



 まるで幽霊を見付けたみたいにぎょっとした顔に変化してしまった。



「嘘だろ!? トアか!!!!」



 我がニ十期生首席卒業の彼女と此処で出会うとは思いもしなかったよ。


 俺の顔も彼女と同じ様に驚愕の境地を極めた顔になっているのだろうさ。



「久し振り――――!!!!」



 懐かしき同期の顔を見付けるやいなや。


 明るい茶の髪を激しく揺らしながら此方へと、猪も思わず道を譲ってしまう突撃を開始してしまった。



 し、しまった。


 これを忘れていた!!



「止めろ!! 飛び掛かって来るな!!」


「良いじゃん!! 私とあんたの仲でしょう!? うりうり――!! トア様の優しい攻撃を食らえっ!!」



 優しいのなら、何故気道を圧迫するのかしらね??


 気絶してしまいますよ??


 そして、もう少し離れてくれると幸いです。背に当たるあの柔らかさが何とも言えない感情を心に与えてしまっていますので。



「ゴフッ!! わ、分かった!! 降参だ、降参!!」


「はは!! 今日も私の勝ちね!!」



 ったく。


 無茶しやがって。



「それで?? 何でこんな所に居るのよ??」



 喉元へ恐ろしい攻撃を加えて来た腕を解除し、背後から真正面へと移動を果たして話す。



「任務で指令書を届けに来たんだよ。そういうトアは??」


「私?? ん――……。何と言いますかぁ」



 歯切れ悪くそう話すと、右の爪先で小石をコツンと蹴り飛ばす。



「歩きながら話そう??」


「あぁ、良いぞ。丁度、入り口にウマ子を待たせてあるんだ」


「ウマ子ちゃん居るんだ!! あはっ!! 御挨拶しちゃお――!!」



 あんまり派手な挨拶は止めろよ??


 お前さんの覇気ある挨拶で、頑丈なウマ子も目を丸くしていたし。



 正に青天の霹靂と呼ぶべきか。


 同期との再会を果たし、互いに肩を並べながら我が愛馬が待つ入り口へと移動を開始した。




最後まで御覧頂き、有難う御座いました。


深夜の投稿になってしまい大変申し訳ありませんでした。

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