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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第二百六十話 漆黒の闇か煌々と輝く光か その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 イリシアの足元に展開されている巨大な深紅の魔法陣から首を擡げて生え伸びる触手の群の攻撃は苛烈を極めており刹那の油断が即刻死に直結する。


 死が隣り合う死地には瞬き一つすらも許されない怒涛の攻撃の波が渦巻き、俺達はその荒れ狂う波の中で奥歯を噛み砕く勢いで食いしばり死に抗っていた。



 地面から体を捉えようとして伸び上がって来る触手の攻撃を躱し、左右から首を刎ねようと甲高い音を奏でて襲い来る攻撃に対しては上体を屈め。


 そして頭蓋をカチ割ろうとして美しい直線の軌道を描く触手の頭部には短剣の斬撃で対処する。


 ほぼ初見の攻撃に対して第三者の目から見れば完璧に対処出来ていると判断出来るだろうが……。それはあくまでも他人からの判断の話である。


 人体には体力という限りある概念が存在するのでこのままこれら一連の行動を続けていれば自ずと死という終着点に到達してしまうであろう。



 死の終着点よりも輝かしい生が待ち構えている終わりなき道へと向かって。



 視界を覆い尽くす赤一色の世界で生を勝ち取る為、限りある体力を消費しつつ懸命に前へと向かって進んでいるのですが。


「クソッタレが!! 何だよ!! この攻撃の波は!!」


 俺と相棒の二人から口の悪い忍ノ者を加えた三名に攻撃対象が増えたのにも関わらず、触手の攻撃は衰える処かより攻撃の手数を増やして俺達に襲い掛かりその場に留め続けていた。


「口を動かすよりも手数を増やせ!!」


 右方向に居るハンナが俺の声に反応して檄を飛ばす。


「うるせぇ!! そんな事言われなくても……。ドッヒィインッ!?!?」



 あっぶねぇ!!!!


 触手の壁に阻まれて見にくいけども、相棒の端整な横顔に向かって悪態を付こうとしたら右上方から数本の触手が飛び付いて来やがった。



 何?? チミ達はたった数秒の会話も許してくれないの!?


 一言、二言の会話程度なら許容範囲じゃあないのかい!?



「馬鹿野郎!! 視線を切るんじゃねぇ!!」


 俺の左手側に居るフウタが巧みな体捌きを披露しつつ叫ぶ。


 うぉっ、すっげな。今の体捌き……。



 足元に這い寄る触手を宙へ飛んで躱し、空中で体を捻って左右からの攻撃を回避。


 それだけで終わらず背後から彼の背を穿とうとした一本の触手を火の力を宿した足で蹴り落したもの。


 体が小さい利点を生かした素早い動きと体捌きに思わず唸ってしまいそうになるが、フウタの右目は既に喪失しており俺は彼の死角を埋める為にさり気なぁくこの位置に留まっているのですよ??


 そこを汲んでも――少し優しい言葉を掛けてくれれば幸いで御座いますっ。


「うるせぇ!! 誰だってこぉぉんな馬鹿げた攻撃の海に放り出されたら愚痴の一つや二つ……。ンニィッ!?!?」


 フウタの体をすり抜けて俺の脇腹に体当たりを画策した深紅の触手を命辛々回避。


「い、いい加減にしやがれ!! このウネウネ野郎共が!!」


 丁度良い位置に伸びて来た触手を短剣で切り落としてやった。



 も、もう嫌!!!!


 俺達は並みの奴等よりも体力がありますけども!! それでも限界があるんだよ!!


 このままじゃ、触手の餌食になっちまうよ!!



「ぜぇ……。ぜぇ……。よ、よぉフウタ。あの野郎は俺の息子に用があるって言っていたんだけどよ。何か知っているか??」


 絶死帯から微かに下がり、限界を迎えようとしている肺ちゃんに新鮮な空気を送りつつ問う。



 は、はぁっ!! 空気がうめぇ!!!!


 死の腐敗臭が漂う絶死帯の空気からピチピチ新鮮の森の空気を吸い込むと限界を迎えようとしていた肺ちゃんがニッコリと笑みを浮かべてくれた。



「それを聞く前に気絶させられたから知らねぇよ」


 あら?? そうなの??


「今は戦闘中で見えませんがイリシアの後方には女児と一人の男性が待機しています。彼女達は九祖である亜人の割れた血筋を掛け合わせて現代に亜人を復活させようと画策しているんですよ」


 息も絶え絶えのフウタの代わりに後方で一人気を吐いているマリルさんが説明してくれた。



「は、はぁ!? 何でそんな事が可能になるの!? 確か亜人ってのは……、アレだろ?? この星の生命を生み出した一人ですよね!?」


「私の祖先は残る八祖に子孫を発見され難くする様に血筋を二つに分けました。一つは魔力と悪しき心を持つ魔物の血筋、もう一つは魔力を持たぬ善の心を継承した人間の血筋。イリシア達は別れた二つの血筋を一つにして……」


 じゃあ何?? レイドが成長して善の心を持つ亜人の末裔と子作りしちゃうと化け物が生まれちゃうって訳かい!?



「亜人の魂は強烈過ぎた為に神器に封印されています。彼女は亜人の魂が封印されている神器を破壊して現代に亜人の魂を解き放ちそして、その器となるのは悪しき心と善の心を混ぜ合わせた一つの命……。善の心を持つ腹の中の赤子に亜人の魂が受肉したのなら恐らく考え得る最悪な結末が訪れる事でしょうね」



 マリルさんの緊張感ある台詞を聞くとリーネン大陸の古代遺跡内部で見た壁画が脳裏を過って行く。


 確証の得られない眉唾ものの話であるとして自分を納得させようとしていたが、どうやらマリルさんの話の内容からそして俺達をブチ殺そうとしているイリシアの様子からしてあの内容は真実であると証拠付けられた訳だ……。



 憎悪、義憤、激怒。


 戦いに敗れた亜人は目に見えぬ魂の世界で今も胸に激しい怒りを抱いて眠り続けている。


 現代には激戦の勝利者である九祖の末裔達が輝かしい生の鼓動を鳴らして暮らしており、もしも亜人が生を受けて目覚めたのなら……。


 平和が蔓延る街には火の海が広がり、温かな笑みは悲壮に塗れ、幸せは絶望に取って代わる。


 世界を覆う光は漆黒の闇に堕ちてしまいその被害は筆舌にし尽くし難い



 マ、マジかよ。俺の息子ともう一人の女の子がそんな重たい運命を背負っているのか……。


 まだ生まれて一年にも満たない赤子にはちょいと、いいや。十二分に過酷過ぎる運命だぜ。



 武を極めた大人でも過酷過ぎる運命だが何も息子が進んで行くべき道が閉ざされている訳では無い。



 問題の元凶となるクソ野郎共をブチのめして脅威を排除、若しくは善の心を継承する家系の女の子とアァンな事やンゥな事をしなければ良いだけの話さ。



 と、言いますか……。俺の息子は生まれただけなのにもう既に一人の女性とイヤァンな事をする運命を背負っているんだよね??


 しかも、それだけじゃ無くてイスハやエルザードとも許嫁みたいな感じになっているしっ。


 そう考えると何かずるく無い?? 俺は女性と一夜を過ごす為に地面に頭を擦り続けてその許しを請うて来たのですよ??



 だがまぁ背負わされる運命は本人が決められないんだし……。レイドが幸せな家庭を持つ為にも立ち塞がる巨大過ぎる壁を破壊し尽くし、美しい花達が咲き誇る花道にお父さん達が導いてあげましょうかね!!!!



「ぜぇぇ……。ぜぇぇ……!! 俺達はま、まだまだやる気十分だぜ?? さぁどうした!! 掛かって来やがれ!!」


 水の中で窒息に陥る寸前まで潜り、水面に出て新鮮な空気を肺一杯に取り込む様な激しい呼吸を続けつつ俺達の輝かしい道を閉ざそうとしている巨大過ぎる壁に向かって啖呵を切ってやった。



「クク……。良い声で鳴いてくれますねぇ……。死に抗う悲壮感漂う声が私の心を潤してくれます」


 触手の壁の向こう側からイリシアの悦に入った声が耳に届くものの、その耳障りな声は触手達が奏でる重低音によって瞬く間に掻き消されてしまった。



 ち、畜生……。随分と余裕綽々な声で挑発してくれちゃって!!


 この大量の触手を避け続けるだけも体力と気力が奪われ続けちまうって!! 俺の体力は無限じゃあねぇんだぞ!?



「ま、待っていろよ!? も、もう直ぐ俺が直々に……キャアッ!? その美味しそうなお尻を思いっきり引っぱたいてやるからな!!」


「フフッ、私の攻撃を掻い潜って来たのなら喜んで叩かれましょう」


「エ゛ッ!? 本気マジで!? じゃ、じゃあ発奮材料としてモチモチのお尻に……。ッ!?」


「……っ」



 戦いを司る戦神もドン引くこ、この殺気はぁ!?!?


 背の肌が一斉に泡立つ殺気を背後に感じると間髪入れず、馬に踏まれてペチャンコになった蛙ばりに地面に伏せた。



「とぅっ!! マ、マリルさん!!!! 此処には自分が居ますよ――!!!!」


 俺の腰辺りになぁんの遠慮も無しに飛来して、数十本の触手を無慈悲に切り裂いて行った極厚の風の刃をギリギリ回避して後方へと向かって叫ぶ。


 あ、あっぶねぇ!! 今の角度と高さからして確実に当てるつもりだったじゃん!!



「えぇ、分かっていますよっ」


 じゃあ何で俺に向かって放射したの!? まかり間違えば上半身と下半身がお別れを告げる所でしたよ!?


「戦いの最中にふざけた雰囲気を放つダンさんが悪いんですっ」


「その通りっ!! おっしゃああああ!!!! 魔力が溜まったからもう一発撃つわよ――――ッ!!!!」


 そして阿保のド貧乳龍!! 俺達が前衛で戦っている事を忘れるなよ!?


 お前さんの火球はマリルさんと違って精度が滅茶苦茶悪いんだからな!!!!



「コォォ……。アァァアアアアアアアア――――――ッ!!!!」


 深紅の龍鱗を身に纏う龍が口の前に魔力を大集結させて強大な火球を形成すると、なぁんの遠慮も無しに俺達の方へと向かって放射してしまった。



「「どわぁぁああああっ!?!?」」


 触手の束に火球が着弾すると鼓膜を通り抜け脳味噌が真横に揺れる振動が発生。


 その地点から僅かばかりに外側に居たフウタと共に衝撃の余波を真面に受け取ってしまった。



「あっつ!! あっつぅぅうううう!!」


「フ、フウタ!! 動くな!! 俺が尻の火を消してやる!!」


 彼の真っ赤な忍び装束のお尻に擽る火を苛烈な勢いで消火してやった。


「直角ド貧乳龍!! テメェ後で覚えていろよ――――ッ!!!!」


「五月蠅い変態鼠!! 私とマリル先生で突破口を開いたんだから進んで行きなさいよ!!」


 何ですと!?


「せぁぁああっ!!!!」


 深紅の龍の言葉を受けて真正面に視線を戻すと、何んとそこには既に攻撃する事が三度の飯よりも大好きな腹ペコ白頭鷲ちゃんが突貫を試みているではありませんか!!



「「あぁぁああ――――ッ!! 乗り遅れたぁ!!!!」」



 俺達よりもちょっと離れた位置に居たからフィロの火球の余波を受けなかったのか!!


 い、今から突っ込んでも触手の壁が再び形成されてしまって間に合いそうに無いし……。でも、相棒一人じゃあ荷が重いのは目に見えて居る。


 一歩前に進む事を躊躇していると俺達の背をグングンと押してくれる力強い援護が放たれた。



「万象を切り裂け、我が刃……。風切鎌ッ!!!!」


「シュレン!!」

「シューちゃん!!」


 く、くぅっ!! 相変わらず絶妙な機会タイミングで打ってくれるぜ!!!!



「馬鹿者共が。さっさと前に出るがよい」


「おうよ!!」


「シューちゃん有難うなぁ――――ッ!!!!」


 再び開いた触手の壁に向かって今度は一切の躊躇なく踏み出し、そして相棒よりも数秒程遅れて漸くイリシアを攻撃範囲に収めてやった。



 この野郎……。よくもまぁいけしゃあしゃあと好き勝手に攻撃してくれたな!?


 今度は俺達の番だぜ!! 訳の分からん結界をぶっ壊したらその美しい曲線を描くお尻を舐め……、ンンッ!! 基。


 思いっきりぺんぺん叩いてあげますからねッ!!!!


「ククク……。貴方達じゃあ私の結界を破壊出来ませんよ??」



 はい、嘘――!!


 相棒の斬撃にだけ注意を払っているのがバレバレだぜ!!


 俺達はマリルさんの矢とハンナの斬撃の後に続けば良い!! 結界が破壊され、本体が露出した刹那を穿つ!!!!


「ハァッ!!!!」


 相棒が上段から苛烈な勢いで妖刀月下美人を振り下ろすと不思議な七色の結界にほんの僅かな切れ目が生まれ。


「運命を切り開く一撃を……ッ!!!!」


 マリルさんが放った矢が切れ目の直上に着弾すると物理の法則を無視する結界が遂に乾いた音と共に崩壊した。



 しょ、勝機到来!! いいか!? これで決めなきゃ俺達に勝ちの目は二度と訪れないぞ!?


「食らぇぇええええ――――ッ!!!!」


 自分に此処が正念場であると強烈に言い聞かせてやると右の拳に猛火を宿し、勝利という名の終着点に向かう道を阻む巨大な壁に向かって力を解き放ってやった。


「ダン!! 続くぜ!!」


「俺達の勝利だッ!!!!」


 猛火の拳がイリシアの腹部に向かいフウタの小太刀が首元へ。更に相棒の恐ろしいまでの殺気が籠った刃が彼女の細い首に差し掛かった刹那。




「ふふっ、私に死を予感させたのは敵ながら天晴ですよ」


「「「ッ!?」」」


 俺達の攻撃を間近で捉えても決して動じなかったイリシアの目が朱に染まると細い体からこれまで以上に強烈な魔力が天蓋状に迸り、その余波を真面に受け取った俺達の攻撃が背後に弾かれてしまった。



 くっ!! この化け物が!!


 後一歩の所で確実に殺せたのに!! 魔力を開放しただけで俺達の攻撃を防ぎやがった!!



お疲れ様でした。


現在、後半部分の執筆作業中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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