第二百五十九話 結集する力 その二
お疲れ様です。
後半部分の投稿になります。
イリシアの瞳に強烈な殺気が宿ると彼女の足元に浮かぶ深紅の魔法陣が激しく明滅。そして、彼女の感情に同調する様に触手が激しく蠢きうねる
動き方、きっしょ!! 餌を求め狂う蛸の触手みたいじゃん!!
「ククク……。食らい尽くせ、我が断罪の鞭よ!!!!」
イリシアが俺と相棒に向かって静かに右手をスッと翳すと。
「いぃっ!?」
とんでもねぇ量の触手が視界一杯に広がり襲い掛かって来やがった!!
な、何ぃ!? これ!! 人の視界を覆い尽くす触手の量とか本気で洒落にならないんだけどぉ!?
「フンッ!!」
相棒は愛用の剣に風の力を宿して襲い掛かる触手の束を切り裂き。
「ヒィヤァッ!?!?」
俺は触手に囲まれた極少の空間の中で懸命に足を、体を動かして俺の肉を食らおうとする複数の触手を躱し。どうしても避け切れない触手に対しては火の力を宿した拳で迎撃する。
拳の先に感じる感覚は……。
細く硬い鉄をぶん殴っている様であり、拳のジンジンとした痛みからして此方の予想通り生身でコイツは触れてイケナイ代物であると断定出来た。
う、うむっ。魔力を付与した攻撃なら弾けるのは理解出来た。
で、でもね?? 例え相手の攻撃を弾けたとしても両腕、両足で対処出来ない物量にはど――抗っても無理なんだよ!?
「キャアアアアッ!? ム、無理ぃぃいい!! 何だよこの呆れた物量攻撃はぁ!!」
俺の正面、左右から襲い来る触手を懸命に弾き回避しつつ叫んでやる。
「口を動かす暇があるのなら手を動かせ!!」
「んな事分かってんだよ!!」
相棒の超格好良い体を捉えようとして襲来する触手は彼の素早い斬撃によって切り落とされ、両断された触手は一旦後方に下がると地面に浮かぶ魔法陣から魔力を供給する。
そして、魔法陣から得た魔力によって長さを取り戻すと再び俺達に襲い掛かって来やがる。
これら一連の動きでこの触手に対して最も有効な防御手段は斬撃であると確定付けられた。
ってな訳で!! 相棒よりも攻撃範囲は狭いですが、短剣二丁で死に抗ってやるぜ!!
「とぅ!! せぁぁああッ!!!!」
左手から抜いた短剣で正面の触手の頭を切り落とし、背後から俺の胴体を捉えようとした横着な触手を蹴り上げ更に!! 頭上高くから急降下して来た触手には右の昇拳で動きを相殺。
空中で一時停止した触手を切り落として更なる攻撃に備えて迎撃態勢を維持した。
き、きっつぅ……。一発でも貰ったら重傷を免れない攻撃の連続が俺の気力と体力を徐々に削って行きやがる。
今は己自身の攻撃を守るだけの行動だが、フウタ達はこれに加えて生徒達を守る行動を取っていた。それがどれだけ大変な事か、辛い事だろうか……。
ったく、死地に身を置いて改めてアイツ等の凄さを実感出来たぜ。
そしてぇぇええ!! 俺の親友達を傷付けたテメェは絶対に許さんぞ!!!!
「食らえぇぇええええ――――ッ!!!!」
俺と相棒の背後で待機しているフィロの口から放たれた大火球が触手の束に直撃すると耳を聾する轟音が清らかな空気が漂う森に轟く。
肌に生え揃う小さな怪我刹那に消失する熱波が体を襲い、着弾点から生じた衝撃波が体を揺らした。
呆れた攻撃力を持つ触手の束を一瞬で後方に弾き飛ばす威力は流石の一言に尽きる。
しかし、龍族の異端児の火球の直撃を許しても尚触手は健在。
「「「「「「…………」」」」」」
後方に弾き飛ばされて態勢を整えると御馳走を目の前にしてお預けを食らっている犬の様に俺と相棒に向かって触手の頭を向けてしまった。
ったく……。斬撃以外には滅法強いな。
だけど!!!! この刹那に出来た隙を見逃す手は無いぜ!!
「相棒ッ!!!!」
「分かっている!!」
ほぼ赤一色に染まっていた視界が大火球の威力によって僅かながらに緑を取り戻し、その先に俺達が倒すべき敵の姿が現れると同時に前へ向かって駆け始めた。
素の状態で殴ってもあの反物理結界だっけ?? あれはブチ破れねぇ。
ならば通常の付与魔法よりも更に強烈な桜花状態で……、ふざけた効果を持つ結界のあの綻びに向かって攻撃を加えて破壊してやる!!
「ずああああああああ――――ッ!!!!」
桜花状態を発動した激烈な拳。
「ハァッ!!!!」
愛用の剣から妖刀、月下美人に変えた相棒の斬撃。
更に。
「ダンさん!!!!」
後方からマリルさんが放った抗魔の弓の矢。
現時点であの結界を破る最良且最高の手段が襲い掛かると、イリシアの目がキュウっと三日月に湾曲した。
「クスッ……。全く以て素晴らしいですよ!! 貴方達の攻撃はぁ!!!!」
「嘘だろ!? こ、これでも破れねぇのかよ!!!!!」
俺の拳は不思議な触感を与える結界によって阻まれ、相棒の斬撃でも切り裂く事は叶わず。唯一の抵抗手段であろう矢だけが結界に突き刺さっていた。
そして、俺達の攻撃を吸収した結界が荒れ狂う海の様に波打ち始めると。
「どわぁっ!?」
「くっ!!!!」
俺の体がふわぁっと宙に浮いてしまう衝撃波が生じ、俺と相棒の体は物理の法則に従い後方へと向かって弾き飛ばされてしまった。
「い、いちち……。見たかよ相棒」
「あぁ。俺とお前の攻撃は通じず、マリル殿の矢だけがあの結界に通じる様だぞ」
相棒が鋭く尖らせた瞳でイリシアを睨み付けながら話す。
「ダンさん!! ハンナさん!! 私があの結界を破壊しますのでその刹那を狙いすまして下さい!!」
まっ、それが今俺達が出来る唯一の抵抗手段でしょうね……。
俺と相棒の攻撃は誰がどう見ようともふつ――の物理属性。
アイツの摩訶不思議な結界は理の枠に収まる物理を吸収して反射するので攻撃が通じないのは自明の理って訳さ。
でも全てを切り裂く相棒の面妖な妖刀ならあの結界を切り裂けるかも知れない。
「その刀……。まさか現代で天下無双八刀が現存しているとは思いませんでしたよ」
ほら、イリシアが月下美人を捉えると瞳の中に素直な驚きの色が現れたのだから。
ちゅまり、さっきの攻撃は月下美人の不発で刀の中に宿る魂の御機嫌を窺い会心の一撃を繰り出せば結界を破れると??
「この刃で貴様の首を狩る」
「なぁ相棒。その刀でアレを何んとか出来る算段があるのかい??」
その辺のゴロツキ程度なら視線一つで失神させられる目力を浮かべつつイリシアに向けて刀の刃先を向けている相棒の横顔へ問うた。
「この刀の震えは恐らくアイツに向けられた憎悪、嫉妬、悔恨。負の力によるものだ。刀の感情に振り回されず、魂自身の想いを汲めば……」
「アイツに一太刀浴びせられると??」
「あぁ、恐らくはな」
「恐らくじゃあ困るんですけど!? 命辛々触手の壁を突破出来ても、切り裂けませんでした――じゃあ洒落にならないだろうが!!!!」
相も変わらずものっすごくこわぁい顔を浮かべている相棒の左肩を取り敢えず一発ぶん殴ってやった。
「あはは!! そちらの男性の言う通りですよ!! 天下無双八刀には製作者の魂が籠められています。女心は山の天気の様に変わり易く空に流れる雲の様に移ろい易い。命のやり取りを行う戦場じゃあ役に立つ代物ではありませんよ??」
俺と同じ考えを持ったイリシアが鼻に付く高笑いを放つ。
「現代で目覚めてこれ程まで笑ったのは初めてですよ」
「そりゃど――も。俺達は大道芸人じゃあないんだけどね。待ってろよ?? その結界をぶち壊してお前さんの体にこの拳を捻じ込んでやるからな」
右の拳をギュっと握り相棒と同じ構えを取ってやる。
「火と光の二属性同時の付与魔法……。見事なまでに練り上げられている魔力の一撃、月下美人による斬撃はさぞ体に堪える事でしょうねぇ」
イリシアが俺の拳と相棒の刀を交互に捉えつつ話すと中々な標高を誇る双丘の頂上にそっと手を置く。
う、うぅむ……。
敵ながらイイ体をしていると声を大にして言ってやりたいがそんな事を口走った日にはとんでもねぇ仕打ちが背中から襲い掛かって来る蓋然性があるので口をンっと閉じておきましょうかね。
「クスっ、此処が気になるのですか??」
俺の視線の意味を完全完璧に理解したイリシアが左手で双丘の片側を淫靡にキュッと持ち上げると。
「も、もちろ……。ドッギビィィイイイイ――――――ッ!?!?!?」
普通の痛みですら憐みの表情を浮かべる超弩級の痛みが尻を穿った。
「マ、マリルさん!? 俺は味方ですよ!?!?」
服と肉が焼ける大変焦げ臭いを放つお尻を物凄い勢いでヨシヨシと撫でつつ振り返る。
「戦いの最中でしかも妻の前でふざけた事を口走ろうとしたのを止めたまでですっ」
貴女の折檻は普通の人の数百倍を超える力なのでもっと抑えて躾けて下さい!!
「ひゃ、ひゃい。ごめんなさい……」
文句を言おうとするものの、マリルさんの相棒を越える目力によってそれは叶わず。それの代わりに情けない声色で謝意を放ってしまった。
「こんな時にふざけた台詞を言おうとするダンが悪いわね」
「その通りじゃなぁ」
「先生、お尻を焦がすだけじゃなくて尻の肉を全部焼いてあげなよ。そうすれば言う事を聞くようになるでしょう」
「エルザードの言う通りですわ」
「シュレン先生の方がひゃくばいかっこいい」
「外野!! うるせぇぞ!! あいちち……」
生徒達から浴びせられる辛辣な声を背に受けて立ち上がるとまだまだ痛みが引かないお尻の御機嫌を取り続けていた。
「笑わせてくれたお礼に……。激しい痛みを与えてあげましょう!!」
淫らな贈り物なら喜んで受け取りますがそんなモノは受け取れません!!
「雷哭召災獄ッ!!!!」
イリシアが右手を天に掲げると視界が激しく明滅する赤と青の稲妻が周囲に迸る。
そして二つの雷が混ざり合い形容し難い色へ変化すると俺と相棒に向かって直進して来やがった!!
触手の攻撃、摩訶不思議な結界、それに付け加えて遠距離魔法とか洒落にならねぇって!!
「や、やべ……っ!!!!」
これは流石に避けられん!! 防御してそれから態勢を整えた後に反撃に出るぞ!!
体の前で咄嗟に腕を組み強固な防御態勢を取ったその刹那。
「雷殺斬!!!!」
相棒の月下美人から強烈な鳴動が起こり、相棒が刀を勢い良く振り下ろすと森と大地が激しく揺れ動き襲い掛かって来た稲妻が霧散した。
い、いやいや……。雷を切るってお前さんはどんだけだよ……。
「た、助かったぜ」
「集中力を切らすな馬鹿者」
そうは言うけどね??
はい、今から行きますね――っと。攻撃の準備を宣言してくれるのならまだしも。初見で音よりも速い雷を避けろという方が無理なんじゃね??
「今のは見事な斬撃でしたよ?? それ程までの美しい太刀筋を見た事は……。あら??」
イリシアが俺達の後方へ視線を向けたので半身の姿勢でそれを追うとこの戦いに光を齎すであろう素敵な光景を捉えた。
「あぁ゛っ、うるせぇ……。んおっ!? ダン!?」
「ミルフレア、すまぬ。某は気を失っていた様だな」
「う、ううん!! 生きてくれただけでうれしいよ!!」
先の戦いで傷付き気を失っていたフウタとシュレンが目覚めると遅々足る速度で大地に両足を突き立てる。
まだ体全身の傷は癒えておらず戦いは困難を極めるかと思われるが……。二人のあの目を見ればそれは杞憂だと判断出来ようさ。
「よっ、お目覚めかい??」
少しだけ足を引きずりながら俺の隣に立ったフウタの横顔へ向かって言う。
「すこぉぉしだけお眠したお陰か随分と調子が良いぜ」
「強がりを言うなって。俺達が前に出るからフウタは助攻に回ってくれ」
「冗談。あのクソ野郎に片目を潰されて俺様は怒り心頭なんだよ!!!! そうだろ!? シューちゃん!!」
「あぁ、某の左手とお主の右目を奪った罪は重い。それを貴様の魂に刻み込んでやるぞ」
地獄の底で燃え盛る漆黒の炎なんてメじゃない熱量を放つ闘志が二人の忍ノ者の瞳に宿る。
小さな体からはとても想像出来ない強き魔力が迸り何か切っ掛けさえあれば直ぐにでもイリシアに突貫して行きそうに殺気立つ。
はは、すっげぇ闘志だ。
頭の天辺に水を入れた鍋を乗せたら直ぐに煮沸してしまいそうな熱量に思わず唸ってしまった。
「ダンさんとハンナさん、そしてフウタさんが前衛を務めて下さい!! シュレンさんは後方支援を!!」
マリルさんの号令が森の中に轟くと俺の闘志にも彼等と劣らない熱量が宿る。
「私の抗魔の弓で結界に綻びを与えますので前衛の人達はそこを集中的に攻撃して下さい!! フィロ達は出来るだけ前に出ず好機を見出したのなら後方から攻撃を加えなさい!!」
「了解!! さぁぁって、暴れるわよぉぉ……」
「フィロ、お主は話を聞いておったのか?? 後方からと言われたじゃろうが」
はは、イスハの言う事は理解出来るけどフィロの気持ちは大いに納得出来るぜ……。
一大戦力が揃った今!! 負ける気が全くしねぇんだからよぉ!!!!
「行くぜ?? 相棒!! 俺達で突破口を開くんだ!!」
「言われずとも分かっている!!!!」
「ククッ……、あはははは!! いいですねぇ!! この危機感!! これこそ私が待ち望んでいた戦いなのです!!!!」
俺達の姿を捉えてタガが外れた笑いを放つ一体の傑物。
それは人に恐怖心を容易に与えるモノであり俺達は刹那に目に見えない鎖に囚われてしまったが……。
俺と相棒は燃え盛る勇気と烈火の闘志を以て鎖を破壊して死しか存在する事を許されていない絶死帯へと向かって突貫を開始した。
お疲れ様でした。
私生活が物凄く忙しい為、普段より投稿が遅れて申し訳ありませんでした。この多忙は十一月中旬まで続きます。読者様達にはご迷惑をお掛けしますが何卒ご了承下さいませ。
さて、此処で読者様達にお知らせがあります。
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疲れた体に本当に……、凄く染み渡りましたよ。本当に嬉しかったです。
それでは皆様、お休みなさいませ。




