第二百五十九話 結集する力 その一
お疲れ様です。
本日の前半部分の投稿になります。
青く澄み渡った空には本当に少しだけの雲が存在しており俺達の進行を妨げぬ様、空の端っこで大人しくお座りを続けている。
大空を統べる白頭鷲ちゃんも空の青々しさが占める割合に大変御機嫌の様で??
「……っ」
嘴の端っこのお肉ちゃんが微かに、本当に微かに上向き。風を捉える両翼はいつもよりも上下の振れ幅が広く更に!! お尻の先にある白羽の尾がふっっわぁぁああっと左右に広く広がっている。
不愛想、不躾、不愛嬌、冷淡等々。
余り宜しく無い意味を身に纏い、人が持つ普遍的な機能の一つである会話という機能が人よりも大分劣る彼は心の空模様を言葉では無く大変分かり易い態度で示していた。
相棒の奴、今日は滅茶苦茶機嫌が良いな。
恐らく彼の機嫌が良い一つの理由は先の街で好物でもあるお肉ちゃんをたらふく食べたおかげでしょう。
言う事を聞かない生徒達の世話と指導から離れ、自由気ままに空を飛び、大都会とまではいかないが中々の寂れ具合と混み具合が混ざり合う街で大好物を食らえば機嫌も良くなるか。
「よっ、相棒。随分と機嫌が良いじゃねぇか」
大変座り心地の良い羽の上でだらしなく胡坐を掻き、本当に美しい空を見上げつつ話す。
お――、今日も嫌に青が眩しいぜ。
「普段通りだ」
「あっそう。じゃあなぁんで尾っぽが左右に広がって頭の毛がふわぁってなってんの??」
だらしない姿のまま後方へ振り返りつつそう話すと。
「……ッ」
頭の毛が瞬時に通常時に戻り白き羽の尾がシュっと閉じてしまった。
「まぁお前さんの気持ちは痛い程分かるぜ?? 偶には自分の為に時間を使いたいもんな」
独身時代は何処へ行こうが、誰と遊ぼうが、女性を沢山抱こうが文句の一つも受け取らなかったが……。結婚を通して新たなる家族を持つとそうはいかぬ。
仕事場以外の場所に気の合う友人達と出掛けようものなら。
『家族を置いて友人達と馬鹿騒ぎですか。良いんじゃないんですか?? 人生は一度切りですので自分の時間を大切にするのはとても有意義な事だと思いますよ』
言葉は優しくも大変棘のある奥様の言葉が背をチクチクと指し。
家族を置いて美味しい物を食べに出掛けようものなら。
『ご自分一人で御馳走を食べに行くのです?? レイド、しっかり見ておくのよ?? 私達を置いて御馳走に舌鼓を打ちに行くお父さんのりぃっぱな背中を』
母親の腕の中で静かに眠る我が子を敢えて起こして此方の罪悪感を捻り出し。
美女と内緒のお出掛けを画策しようものなら。
『他所行きの格好、微妙に踵が弾む歩法、無意味に鼻から出て来る耳障りな明るい鼻歌。私が忙しい思いをしているのに貴方は私の知らない女性とお出掛けするみたいですねっ』
『ギィィイイイイイイアアアアアアアア――――――ッ!?!?!?』
泣こうが喚こうが容赦の無い超強烈な稲妻が体に襲い掛かり真っ黒こげの変死体が玄関口に転がる。
結婚をしてみて分かったのだが。
家族を持つと独身時代の根無し草の様な動きは決して許されず、何をするのにも家族を優先させるべきという概念を奥様から頭の中枢に植え込まれてしまうのだ。
その例に倣い俺はマリルさんから御使いを受け賜り、早朝からこうして相棒と共に買い出しに出掛けて来たのである。
『そんな早朝からですか?? 朝食をゆっくり食べてからでも……』
『お願いしますねっ??』
少しでも反論したら……、分かっていますよね??
生気が宿っていない目は多くを語らなくても俺の心にそう直接語り掛けてきたのだ。
あの目、本気で怖かったな……。少しでも歯向かおうものなら体の隅々まで痛めつけられてしまう寒気が襲い掛かって来ましたもの。
フィロ達が馬鹿みたいに燥いでいた所為もあると思うけど俺は一応、貴女の旦那さんなのでもう少し手加減してくれると幸いです。
「貴様の言う事も一理ある。口喧しい者共の指導ばかりで最近は自由に過ごせなかったからな」
「鍛える事が趣味の相棒にはちょぉぉおおっと辛いよなぁ。お前さんは今独身だけどよ。クルリちゃんといつか結婚すると今の俺みたいに自分に割く時間が取れなくなっちまうぞ??」
俺が世の道理をサラっと話してやると。
「何だと!?」
彼は俺の顔を親の仇を見付けた時の様に睨み付けてしまった。
あ、いや。何でコッチを睨み付けてんの??
それにその目力……。地獄の底で亡者に拷問を与え続けている悪魔でも恐れをなして逃げ帰る眼力じゃん。
「睨むなって。クルリちゃんと一つ屋根の下で過ごすと相棒のだらしない私生活を咎められ、一日の楽しみの時間でもある食事中でも里の皆から寄せられる苦情の数々をグチグチと聞かされ。更に!! シェファとか、里の女性と楽しく御話をしている姿を捉えられたらもう目も当てられない愚痴を受け取る筈さ」
「くっ……。結婚という出来事は一種の拘束具か!? 何故好きな様に体を、技を鍛える事が出来ぬのだ!!」
「家族ってのは出来るだけ長く同じ時間を共有したいのさ。それを無下に扱うと神の逆鱗に触れる様に奥様からこわぁぁいお叱りを受け取る訳」
お分かり?? そんな感じで肩を竦めて言ってやった。
相棒が言った通り受け取り方によって結婚というものは私生活や行動範囲を拘束される枷に映るかも知れない。でも、俺は重く硬い鎖でガッチガチに拘束されていても今の生活を気に入っている。
これまでたった一人で生きて来た人生だがマリルさんとレイド。結婚を通して新しい家族が出来たのだから。
だから多少の苦労は受け流し、ちょいとやり過ぎじゃね?? と首を傾げてしまう艱難辛苦を素直に受け止めるべきなのですよ。
今日もマリルさんの御使いのお陰でひでぇ目に遭ったしなぁ……。
安く上質な食材を購入しに食材屋さんへ足を運んだまでは良かった。
『さぁいらっしゃい!! 今日は特売日だよ――!!!! 全品二割引きは当たり前!!!! 中には四割、五割引きの品もありますよ!! 在庫限りの早い者勝ちですので御購入の際はお早めに――――ッ!!!!』
『あのぉ――。そこの白菜と豚肉を……』
『退きな!!!! 店の入り口にぼぉ――っと突っ立ってんじゃないよ!!!!』
『キャァアアッ!?!?』
幾百もの大安売りという激戦場を渡り歩いて来た主婦達のとんでもねぇ体当たりをブチ食らい店の出入口から弾き飛ばされ。
『それは私が取った奴だよ!!』
『はぁっ!? 私が先に手を取ったし!! 何処に目を付けてんのよ!!』
『じゃ、じゃあこれは自分が買いま……』
『『させるかぁぁああああああ!!!!』』
『ウグベッ!?』
まだまだ新米兵である若奥様達から強烈な肘打ちを頬に受け取り、折角手に入れた白菜が半分に割れてしまったのだ。
歴戦の主婦達が鎬を削る戦場は正に地獄絵図。
俺はその中で戦々恐々しながら何んとか頼まれた品を入手する事が出来たのです。
ってか、あの人達の少しでも安い物を買おうとする漲る力は一体何処から湧き出て来るのだろう?? 甚だ疑問が残るばかりだ。
「どれだけ強くなろうが家庭を守る主婦には逆らえぬ、か。ふむっ、一つ勉強になったぞ」
「あ、いや。そんな事で褒められても嬉しくないんだけど?? まぁでもお前さんとこうして暫くの間は一緒に馬鹿騒ぎが出来るから嬉しい限りさ。レイドが大きくなって手が掛からなくなったら二人でまた楽しい冒険に出掛けよ――ねっ」
再び機嫌が良くなりつつある相棒の白い後頭部に向かって普段通りの口調で話し、彼の背に恋人同士が行う様な抱擁の仕方でギュっと抱き着いてやる。
んっ!! 今日も微妙に獣くせぇな!!
「止めろ!! 気色悪い!!」
「ちょっ!! お、おい!! いきなり体を左右に揺らすんじゃねぇ!! 荷物と俺が地面に向かってスっと――んて落下しちまう所だったじゃねぇか!!」
「そのまま落下して骨の一つや二つでも折れば貴様の頭の中も真面になるのではないか??」
「その前に落下の衝撃で死んじまうよ」
青が美しい空の中でいつもの調子で相棒とくだらないやり取りを行っていると……。
「「ッ!?!?」」
五臓六腑が目に見えぬ巨人の手によって握り潰されてしまう様な錯覚を与える強烈な魔力の鼓動が俺達の間を駆け抜けて行きやがった。
「お、おい。相棒。感じたか??」
「あぁ……。何だ、今の禍々しい魔力の鼓動は」
「どうして発生したというよりも……。発生した方向を気にした方が良くね??」
東西に広がる森のずぅっと先から放射線状に迸った魔力の発生源は恐らく、俺達が住みかとしている禁忌の森付近から生じた筈なのだから。
「分かった。では急いで……」
「ハンナ先生――――ッ!! ダンぅぅうう――――ッ!!!!」
相棒が力を籠めて両翼を動かそうとすると真正面からド貧乳龍が血相を変えて飛翔して来る様を捉えた。
「フィロ!? 血相を変えてどうした!?」
正面から向かい来た深紅の龍鱗を身に纏う龍が大きな翼を左右一杯にガバっと開いて速度を相殺。
「き、聞いて!! 実はさ!!」
「わしからも説明しよう!!!!」
一頭の龍が巨大な牙が生え揃う口を大きく開け、そして我が子を胸に抱く三本の尻尾を持つ狐ちゃん達に俺達を迎えに来た理由を聞くと。
「お、おい。本気かよ!!」
「シュレンとフウタが!?」
俺と相棒の口から素直な驚きの声が零れてしまった。
フィロ達曰く。
フウタ達がいつもと変わらぬ日常を謳歌していると突如としてイリシアと呼ばれる化け物が現れ、彼等は生徒を守る為に死が蔓延る戦場に残った。
呆れた身体能力と魔力を有する巨龍一族とも張り合える実力者が一方的に……。
いや、話を聞いた分にはイスハ達を守る為に負傷してしまいこのままでは確実に殺されると判断して生徒達を戦場から逃したのだ。
それからイスハ達はマリルさんと合流し、彼女は隊を分けて俺達に増援を求めた。
もしも、武の道を進む者達からそして相棒からも認められる実力を有する忍ノ者達が倒れていたのなら。常軌を逸した魔力と叡智をその体に宿すマリルさんと言えども重傷を負った二人を庇いながらの戦闘は困難を極める筈。
賢いマリルさんなら無理はしないと思うけど……。誰かを守りながらの戦いは困難を極めるし……。
「ハンナ!! こうしちゃいられねぇ!! 早く助けに行こうぜ!!」
心にドス黒い負の感情が刹那に湧き起こりそれに駆られる様に相棒の後頭部へと向かって叫んでやった。
「あぁ!! 分かった!! フィロ!! 貴様は俺の後に続け!!」
「うん!! 可能な限りぶっ飛ばすから!!」
「イスハ!! レイドをしっかりと抱いておけよ!?」
「分かったのじゃ!! こっちの事は心配せんで良い!! ダン達は一刻も早くマリル先生の下へと急ぐのじゃ!!」
「シュレン先生があぶないから早くね!!!!」
「おうよ!! さぁ!! 相棒!! 空を統べるその翼の力を俺に見せてくれ!!」
彼の背に生える羽の根っこを力の限り掴み、奥歯をギュっと噛み締めてその時に備えた。
「任せろ!! 此処から訓練場まで数分以内に到達してみせる!!」
い、いやいや……。此処から禁忌の森まで一体どれだけ離れていると思うんだい??
お前さんの通常飛行速度でも余裕で数十分は掛かる距離ですぜい??
「行くぞ……。我が翼よ!! 神々をも恐れ戦かせる風を纏い音よりも速く!! そして空に勝利の軌跡を描くのだ!!!!」
相棒の魔力の源から強烈な鼓動が迸ると翼に、体全体に強烈な風が渦巻き周囲に浮かんでいた雲が霧散。
鋭い猛禽類の瞳が一際強く光り輝くとほぼ同時に俺の体は強制的に地面と平行に浮かされてしまった。
「ギィィィアアアアアアアア―――――ッ!?!?!?」
ちょ、ちょっと何これぇっ!? は、速過ぎて目が開けられないんだけど!?
目に見えぬ風が、空気がまるで実体を持ったかの様に俺の顔面に襲い掛かり顔の皮が荒れ狂う海の様にグワングワンと波打ち。
頑張って呼吸をしようとしても実体を持ってしまった空気は喉の手前で踏み止まり小指の先の爪程度の空気さえも肺に入って来ない。
「あ、相棒――――ッ!! こ、コヒュッ!! ちょ、ちょっと飛ばし過ぎじゃねぇのかぁ!?」
主婦達が跋扈する戦場で命辛々得た戦利品は常軌を逸した速度によって瞬き一つの間に地上へと落下し、波打つ風が俺の体を上下に揺らす。
少しでも気を抜けば俺も地上に落下した荷物の様に地面へと真っ逆さまに落ちて行く事だろうさ。
「友の危機を救う為だ!! 我慢しろ!!」
が、我慢ぅっ!? テメェは俺の状態を見て言ってんのか!?
軒先に干されている魚の干物が強い風で煽られて揺れているよりもひでぇ角度で浮いてんだぞ!?
「で、出来るだけ我慢するけどよぉぉおお――――!!!! そ、そう長くもたないぜ!?」
呼吸が阻害されている所為か、羽の根元を掴む手を放すよりも先に意識が飛ぶ可能性がありますからね!!
「安心しろ!! もう見えて来たぞ!!」
「それは何よりだぜ!!」
ふぅっと一安心したのも束の間の出来事だ。
「むっ!? ダン!! マリル殿を救助するぞ!!!!」
「はあっ!? どうやって救助……。と言うよりも!! 全然地上が見えないから現状を話しやがれ!!」
「喧しい!! 地上へ向かって急降下する!!!!」
「わ、分かっ……。ギョェェエエエエエエエエ――――ッ!?!?」
これまでの相棒の飛翔が可愛く見える程の殺人的加速度に変化すると目玉が頭蓋の後方へと引っ張られて行く。
肺に残る微かな空気を振り絞って大絶叫を放ちつつ、降下というよりも惨たらしい拷問の方がしっくりくる速度で森へと向かって急降下を続けそして沢山の木々の枝から熱烈な歓迎の往復ビンタを頂戴して俺と相棒は戦場に降り立った。
「ハァッ!!!!」
相棒は土埃舞う視界が悪い中で朱の怪しい光を放つ線を愛用の剣で両断。
「いでぇっ!!」
それに対し、俺はかたぁい地面にしこたまお尻ちゃんを打ち付けて大変格好悪い姿で着地を決めてしまった。
え、えっと!! 取り敢えず立って現状を把握しないと!!!!
「……ッ」
まだまだ痛むお尻ちゃんをヨシヨシと撫でて周囲を窺うと俺の真正面に何やら大量の光る触手の存在が確認出来た。
あ、あれがフウタ達を傷付け圧倒した触手か……。
砂塵のカーテンで敵の姿が見えないが怪しく光り蠢く触手の存在を捉えると肝がヒェェっと弱気な声を出し、姿の見えない敵から放たれる魔力の圧が足を後方へと向けさせてしまった。
此処で臆病風に吹かれてしまえばあっと言う間に己の命の灯火が消えてしまいますのでね。
それに俺の奥さんを守る為にも俺は……、いいや。俺達はこの戦場を制するしか生き残る術は無いのだ。
「ふぅっ。全く……。俺の奥さんに手を上げるとは良い度胸をしてんじゃん」
俺の直ぐ後ろで地面に伏せているマリルさんの姿を確と捉えた後、姿の見えない敵へと向かって啖呵を切ってやった。
んふふっ、着地はちょ――かっこ悪かったけども!!
大量に舞う砂塵のお陰で誤魔化せたぜ!!
「よっ、マリルさん。大丈夫かい??」
「はいっ、大丈夫です」
ほらっ、俺の姿を捉えて可愛い瞳ちゃんがキッラキラに光り輝いていますもの!!
「そうですか、それなら良かった」
マリルさんに対して一つ小さく頷き強烈な警戒心を胸に抱きその時に備えていると。
「おっしゃああああ――――ッ!! 龍族の問題児の登場よ!!」
「わしもおる事をわすれるな!!」
「エルザード!! シュレン先生はぶじ!?」
俺達よりも大分遅れてフィロ達が戦地に降り立った。
「安心しなさい。出血は完璧に止まっているから」
「よ、良かった!! ほ、本当によかったよぉ……」
ミルフレアのちいちゃなお目目さんから矮小な雫がポロポロと零れ落ちて背の低い草が生え揃う大地に小さな染みを形成した。
「「……」」
今もエルザードの治療を受け続けている二人の体には大量の出血が確認出来、その中でもフィロの報告のあった怪我の箇所に否応なし視線が向いてしまう。
シュレンは左手を、フウタは右目を……。
自分の体よりも生徒達を守る為に体の一部を犠牲にした二人に対して素直な尊敬の念が湧くが、それは瞬く間に消失してしまった。
クソ野郎が……。俺の親友を傷付けやがって……。
例え神々がお前の罪を許したとしても俺は決して許さん!!!!
「げぇっ!? な、何よ!! あのふざけた魔力の圧は!? マリル先生がちょ――可愛く見える程なんだけど!?」
「だから言ったじゃろうが!! 本物の化け物であると!!」
夏の山間部で突如と発生した濃霧と同程度の視界の悪さが徐々に鮮明になって行くと俺達が倒すべき敵の姿が音も無く、本当に静かに出現した。
「……」
黒みがかった翡翠の長髪の女性の足元には赤き魔法陣が浮かび上がり、そこから朱の触手が現れ獲物を求める様に怪しく蠢いている。
背は遠目だと分からぬが成人女性よりも高く街で注目を浴びるであろう端整な顔は俺と相棒を捉えても無表情を貫く。
だが俺は顔立ちや背丈よりも奴が身に纏う不思議な淡い七色を放つ薄い膜と魔力の高さに素直な驚きを覚えてしまった。
な、何だよアイツ……。
体中から滲み出るドス黒い潜在魔力によって本体が薄っすらとしか見えねぇじゃねぇか……。
怪物、傑物、化け物。
アイツの姿を現す言葉を探そうとして幾ら頭を捻っても酷くしっくりくる単語が出て来なかった。
強いて言い表すのなら……。理の埒外に身を置く生物、か。
俺達が住む場所に存在してはいけない生物に強烈な警戒心を抱いているとどうやら相棒も俺と同じ考えを抱いている様であり。
「気を付けろ。奴の触手はかなりの威力を有しているぞ」
愛用の剣を体の正面で構えたまま鋭い視線で奴の動きの一挙手一投足を見逃すまいとしていた。
ってか、あの触手を切っただけで刃こぼれしてんじゃん。
風の力若しくは火の力を宿さず素のままで切った結果がアレか。どうやら素手であの触手に触れるのは不味そうだな。
「お前さんの剣を見れば一目瞭然さ。さてさてぇ?? テメェが何処の誰かは知らねぇが俺の奥さんを傷付けたお礼はさせて貰うからな!? 覚悟しろよ!!!!」
「クスッ、手練れの増援ですか。そして態々運命の子を連れて来て下さって有難う御座います。探す手間が省けて嬉しい限りですよ……」
アイツが俺の後方でイスハの腕の中で眠るレイドに視線を向けると超強烈な魔力が更に跳ね上がり森全体が彼女の力に怯える様に震え始めてしまった。
や、やっべぇ……。何だよ、あの力……。それにレイドが運命の子って一体どういう意味だ??
後でその事に付いてマリルさんから聞くとして、今は只敵の動きだけに集中しよう。そうしないとアッという間に御先祖様達が暮らす世界に旅立っちまいそうだからな。
「ちっ、これまで相手にして来た奴等が可愛く見える程だぜ」
五つ首、巨大砂虫、大蜥蜴のジャルガン、そして巨龍一族。
この冒険に出てから会敵して来た強敵達を圧倒する魔力の鼓動に思わず一歩下がってしまいそうになるがそれを勇気で、強力な意思で踏み留めてやった。
「あぁ……。だが俺達の闘志は命尽きるその時まで消えぬぞ」
その通りさ。
それに?? 此処で下がる様ならフウタやシュレンにブチ切れられちまうよ。
「良いですね……。良いですねぇぇええええ!! 腐った平和が蔓延る現代の戦闘でこんなにも心が高揚するとは思いもしませんでしたよ!? さぁ、もっと私を楽しませて下さい!! 忌まわしき血を受け継ぐ者達よ!!!!」
さぁ来るぞ!?
ぜぇぇええええったいに気を切るなよ!? 油断したら即刻死んじまうからな!?
お疲れ様でした。
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