第三十話 それぞれの楽園 その一
お疲れ様です!!
本日の投稿になります。
それでは御覧下さい!!
人々が吐き出す闘志の塊、そして肩口から溢れ出る闘気の靄。
それが単体であればたかが人間の物だと鼻で笑い飛ばすのだが……。
数千、いいや。万を越えるであろう数ともなれば話は別だ。
人々が蠢き大地を踏み均す振動と放つ圧が私の心を。そして闘志を発熱させてしまった。
『ただいまぁぁああああ!! 我が楽園よぉおおお!!!! 私は帰って来たっ!!!!』
グルンっと湾曲した街の中央交差の手前で私は諸手を天へ掲げ、道の向こう側の屋台群へ向けて雄叫びを上げた。
さ、さいっこう……。
どれだけこの時を待ち望んだか、渇望したか!!!!
さ、さぁ。早く突入を開始しないとぉおおお!!
「すいませ――ん!! 勝手に横断しちゃ駄目ですよ――!!」
ちぃっ!!
人間めぇ!! 私の侵攻を阻止するというのか!?
えぇい!! 私の猛った心は人間如きの声じゃ御せられぬっ!!
交通整備を続け、馬車の通行を優先させているあんちゃんの言葉を無視し。進み出そうとするのだが……。
『待てっ』
『ぐぇっ!!』
竹馬の友が私の襟を掴み、進行方向とは反対方向に引っ張られた服で喉元が圧迫されてしまった。
『何すんのよ!!!!』
『少し位辛抱しろ。あの兄ちゃんが困っちまうだろ』
ふんっ!!
それは人間の都合よ。私の都合は私が決めるのっ!!
『マイ。ユウの言う通りです、辛抱して下さい』
優等生らしい声を上げ、カエデが私をジロリと睨む。
『ぬ、ぬぅぅ……。こうしている間にも美味しい御飯が売り切れちゃうかも知れないのにぃ』
『品切れなんか早々起こらないって。店主達もそれを見越した量を揃えている訳だし』
むぅ。
ユウの癖に的を射た発言をするわね。
『本当、卑しい豚ですわねぇ。たった数十秒の我慢も出来ないとは』
はいっ!! はぁ――――いっ!!
蜘蛛は無視しまぁっす!!
きしょい蜘蛛め。
私が腹ペコだったらあんたの腹に穴が空いていた所よ。
良かったぁ。
此処に来る前に適当に食べておいて。
屋台群の入り口前の交差点で己の猛った想いを誤魔化す様に右往左往し続けていると……。
「はぁ――い!! 皆さん、進んで下さいね――!!」
交通整理のあんちゃんからやっとお許しの声が出たっ!!
『おっしゃあ!! 者共!! 我に続けぇぇいっ!!』
素敵な楽園へと続く道の前で待つ群衆の中からいの一番で飛び出し、向こう側から歩いて来た人間共の合間を縫い。
私の楽園へと、到達した。
『あ、はぁっ……。匂いだけでも素敵ぃぃ……』
空いた空間が目立つ胃袋を刺激しちゃう食物が焦げた香り。
ほんのり香る女心を擽るあまぁい香りっ。
今日はどんな子が私の胃袋に入ってくれるのかしらねっ。今からワクワクが止まらねぇわ。
『だから!! 置いて行くなっていつも言ってるだろ!!』
『あんた達がノロマなだけよ』
額にじんわりと汗を滲ませ、ユウが私の隣に並ぶ。
『相変わらず……。鬱陶しい人間共ですわねぇ。レイド様の指示が無ければこんな場所に付き合いませんのに』
『ちょっと食べたら直ぐ図書館に行く』
『私もそちらに相伴致しますわ』
直ぐ後方にはカエデと蜘蛛が、辟易感が満載された顔で私に続いていた。
へっ。
軟弱者共め。
此れしきの群衆で辟易している様じゃあ、大魔の名折れよ。
貧弱者共はさて置き。
私が求めている可愛い子を探そうとしますかね。
時計回りに動く集団の中で人知れず、集中力を高め始めた。
『んで?? 今日のお前さんの胃袋は何を求めているんだ??』
『待ちなさい。今、その尻尾を捉えるから』
最強で最高な龍族の鼻をクンクンと作動させ、その尾っぽを探す。
うぅむ……。
どの匂いも概ね、私を満足させてくれるのだろうけども……。
何だか今一、攻撃力に欠けるのよねぇ。
「いらっしゃ――い!! 大蒜たっぷり、塩気たっぷりの串焼き肉は如何ですかぁ!?」
ほぅ!!
肉か!!
「汗を失った体の塩分補給にぴったり!! 肉汁もじゅわぁっと垂れて、美味しいよっ!!」
そうだろう、そうだろう!! その通りだろう!!!!
噛めば肉汁がじゅわぁっと湧いて、大蒜の香りが食欲をぐぅんぐんっと刺激するっ!!
炭火で焼き続けているお肉ちゃんの肉汁弾ける音が私の胃袋をぎゅっと掴むのだが……。
胃袋ちゃんはちょっと待て、と。
私に決断を躊躇させていた。
あっれ??
私的には全然アリなんだけど??
『あれ、牛肉だろ?? あたしは食べられないって』
『いや、それは分かっているんだけどさ。何だかアレ以上に私の胃袋を掴もうとする横着者が居るのよ』
スンスンっと。
鼻をひくつかせながら話す。
あっりぃ??
何だろう、この違和感。
『んおっ。あの焼きおにぎり、美味そうだな……』
あ、分かった。
これはユウの匂いだ。
ちょっと汗の匂いが強いけど、女の子らしい良い匂いが混ざってしまっているから判断がぁぁ…………。
『ガッモン!?!?』
き、き、来たぁぁぁぁああああああ!!!!
突然来た!! いや、来ちゃった!!
『のわっ!? いきなり奇声を出すなっていつも言っているだろ!?』
えへっ。
ごめんね??
でも、この香りを捉えたら誰でも奇声を発しちゃうって。
私を誘う横着な匂いの尻尾を掴み、それを辿って行くとぉ……。
「らっしゃい!!!! トマトソースをたぁっぷり掛けたぁ。当店自慢のソーセージを是非ご賞味あれっ!!」
快活で嬉しい汗を流している店長と、その店先に立て掛けられた木製の看板を私の視界が捉えた。
時計回りで進む人の波から抜け出て。屋台の前に出来ている列の最後尾に加わった。
『ふぅむ。看板には、ほっとどっぐ。と書かれていますね』
ほっとどっぐ??
珍妙な名前の料理ね。
だが、問題は味よ。味っ!!
「炭火でソーセージを焼いてぇ――。着れ目を入れた細長ぁいパンに入れる!! じゅわっとあっふれた肉汁がぁっ!! お客さんのいっぶくろを満たすのさっ!!」
いよっ!!
良い感じよ!? 店長っ!!!!
店長の軽快な声に思わず。
よっ!! あっ、そぉぉれっ!!!! っと。
合いの手を入れそうになってしまう。
「そしてぇ、プツっプツっと肉汁が弾け出したらぁ。パンに挟みぃ……。ソースをたらっとかけて出来上がりっ!!」
きゃ、きゃあああああああああ!!
ぜ、ぜ、絶対美味しい奴じゃん!! あれっ!!!!
焦げ目がちょっと目立つソーセージちゃんをパンに挟んで、真っ赤なトマトのソースを掛ければあら不思議。
単純な料理なのに、最高に美味しい物が出来ちゃっいましたっ!!
やっべ。
あれなら百本は食えるわ……。
列に並ぶ人々が捌け始め、漸く。遂に!! 私達の番となった。
「いらっしゃい!! お嬢ちゃん達は幾つご所望で!?」
私は当然百本!! なんだけども。
悲しいかな。
予算の関係で頼めないのよ……。
悲しみの表情を浮かべながら、五本の指を立ててやった。
「五個だね!! 毎度あり!!」
先程と同じ所作で、私が食べるであろうほっとどっぐを作り上げていく。
あぁ……。もぅっ……。
早く出来ないかなぁ……。
早くぅぅ……。寄越せやぁぁああああああああ!!!!
逸る気持ちを誤魔化す為、直ぐ後ろに居るユウの巨大で馬鹿げて有り得ない胸をブッ叩くと。
『いってぇなぁ!!』
『アゴス!?』
お返しと言わんばかりに激烈な拳が脳天から降り注いできた!!
上顎の歯と、下顎の歯が粉砕されるかと思ったわ……。
「あはは。中々面白い動きをするね??」
それはバルンバルン!! っと揺れ動くユウの胸に対しての言葉なのか。
将又、私の動きなのか。
問いたくても問えないこのジレンマ。何んとかならんのかね。
「はいっ!! お待たせ!! 良い物見せて貰ったから割引してぇ……。八百ゴールドでいいよ!!」
何ですと!?
看板には二百ゴールドと書かれていたからぁ……。一本分割引か!!
偶にはユウのおっぱいも役に立つのね。
今度からユウと並ぶ時は毎回、胸を叩こう。
御釣りが出ない様に現金を渡し。
「毎度ありっ!!」
彼が差し出した五つの内、二つの紙袋を受け取り。颯爽と屋台群を抜け。
「こらぁ!! 勝手に横断しないで下さぁい!!!!」
汗水垂らして交通整理を続ける姉ちゃんの脇を抜けて出て、屋台群の外周沿いに併設されているベンチへと着席した。
さ、さぁっ。
出でよ……。我が供物よ……。
口内から馬鹿みたいに溢れ出る涎を必死に飲み込みつつ、紙袋を開けた。
「あっ…………。ふぁぁぁんっ」
な、何ぃ。これぇ……。
脳が溶けちゃうぅ……。
紙袋を開けると、ほわぁっと馨しい香りが放たれ。私の鼻腔へ侵入。
小麦ちゃんとお肉ちゃんが奏でる香りに、私の頭の中が溶け落ちてしまった。
『こ、この野郎!! 毎度毎度あたし達に世話掛けるんじゃねぇ!!』
『あ、ごめん。一秒でも早くコレ。食べたかったから……』
真っ赤に血走った目の猛牛さんも是非!! お手本にしたいと。
弟子入りを懇願するユウの駆け足を尻目に、紙袋の中からほっとどっぐさんを取り出した。
わぁっ。
好きっ、これっ。
細長いパンからちょっとだけはみ出たソーセージちゃん。
そして、小麦色と赤の配色。
正に完璧な容姿といっても過言では無いだろう。
『なぁ、これ。牛肉入っていないの??』
『――――――――。心配ご無用ですよ、ユウ。ソーセージは豚肉を使用した物ですから』
額に大粒の汗を浮かべ、且。はぁっ、はぁっ。と大きく息を荒げてベンチに腰を掛けたカエデが話す。
ってか。
色っぽいわね、その顔。
現に何名かの野郎がカエデの顔を見つめて、足を止めようとしているし。
『まっ!! 私が食べて確かめてあげるぅ!! 頂きますっ!!』
あ――んっと御口を開け。
龍族に捧げられた供物を口の中に迎え入れてあげた。
『どうよ??』
『お、お、美味しいよぉぉ…………』
先ず、舌に感じたのは程よい小麦の甘さだ。
前哨戦として私の舌に程よい攻撃を与え、続いて咀嚼すると。ソーセージがぷっっつりと裁断され。
じゅわぁぁんと肉汁が溢れ出す。
トマトソースの酸味、肉汁の塩気と小麦の甘さ。
美味さの波状攻撃に思わず地面に両膝を着け、ほっとどっぐ様に対して降参してしまいそうであった。
私は最強と自負しており、早々地面に膝を着ける事は無いのだが……。
よもや、食料に対して両膝を付ける事になろうとは。
良かった。
ベンチに座っていてっ。
『いや、美味いだけじゃなくて。牛肉が入っているかどうかの確認をしたいんだけど??』
あ、あぁ。
そうだったわね。
『豚肉と……。ちょっとの香草。うんっ、大丈夫よ!!』
『ほっ。それなら……。頂きまぁすっ!! はむっ』
左隣でユウが可愛い御口を開けて、ほっとどっぐを迎え入れると。
『ふぁむ……。あむ……。んんっ!! んまいっ!!』
私同様。
途端に目元がとろぉんと溶け落ちてしまった。
『本当、美味しいですね』
『あら、意外ですわ……』
カエデの評価も上々で言う事無しね。
あ、蜘蛛の意見は当然捨てるから。
少し前を歩く人間共の姿を視線のおかずに加え、んぐんぐと顎を動かしていると。
『皆、聞こえる??』
ボケナスの声が頭の中で響きやがった。
『レイド様ぁっ!! 私は聞こえていますぅ!!』
き、きっしょ!!!!
普通に返事をしろや!! ぼけぇ!!!!
『宿は前回と同じ場所を取れたからね。夕方以降にでも来てくれればいいから』
『レイドはどうするの??』
カエデが食べかけのほっとどっぐをお行儀よく両手に持って言葉を返す。
『適当に昼食を摂って、図書館で報告書を仕上げるよ』
『分かりました。私とアオイは此れから図書館へと移動しますので、向こうで落ち合いましょう』
『了解』
報告書、ねぇ。
また馬鹿みたいな紙の山なのだろうか。
でも、声色からしてそんな感じはしなかったしなぁ――……。
直角に曲げた右腕を、御口に向かって引き寄せ。
右手に持ったほっとどっぐさんを迎えて……。
ン゛っ!?!?
『ね、ねぇ!! 消えたわ!?』
おかしい!!
さっきまであったほっとどっぐが……。消失しただとぉ!?
『は??』
『私のほっとどっぐが消えたの!!』
こいつは一体全体何を言っているんだ??
訝し気な表情を浮かべているユウにそう話す。
『さっき食べ終えたじゃん』
はぁっ!?
そ、そんな馬鹿な!! 最後の一口を私が忘れるだとぉ!?
『他事考えて食っていたんだろ』
他事……。
すぅぅ――――…………。うん??
まかり間違ってアイツの事、か??
いやいや。
絶対無いから。
御飯とボケナスを天秤にかけたら絶対、御飯の方に傾くからね??
『まっいっか。お代わりしよう。ユウ!!!! 行くわよ!!』
『止めろ!! まだ食っている途中なんだ!!』
『ウェハハハハ――――!! 私は気にしないねぇ!!!』
大好きな友の手を取り、再び屋台群へと飛び立つ勢いで向かう。
やっぱ気が合う友人との買い食いは最高ね!!!! 待っていなさいよ!?
可愛い子ちゃん達ぃ!!
私がぜぇんぶ食べ尽くしてあげるからぁ!!
目を白黒させ続けているユウの手を取り、本日二度目の突貫を開始した。
最後まで御覧頂き有難うございます。
後半部分は今から執筆させて頂きますので、深夜の投稿になります。
今暫くお待ち下さい。