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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第二百五十四話 我が子の行く末を憂う指導者

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 空には灰色の厚い雲が一杯に広がり人々は恨めしそうな表情を浮かべて灰色一色を睨む。彼等が睨んだその最たる理由は冷たい空気が漂うこの季節に求められている青では無いから。


 ある人は肩を窄めて道を歩き、ある人は巨大な溜息を吐きつつ家路へと急ぎ、またある人は親の仇を見付けた時の様に眉を鋭角に尖らせて己が進むべき道へと進んで行く。


 空が青では無く灰色なだけで人々は不機嫌な様子を醸し出すのは天然自然の摂理にどう抗おうとも人間は無力だと確知しているからだ。


 少しでも己の負の感情を紛らわせようとして心の空模様を外に排出しようと懸命で無駄な努力を続けている人間達が行き交う街の片隅。


 そこの薄汚れた家屋の中には三名の男女が存在していた。



「ふぅ――……。今日も冷えますね」


 一人は中肉中背の大人の男性であり、彼は窓の外に映る不機嫌な人間達を眺めつつ言葉を漏らし。


「人の体の場合はそう感じるでしょうね」


 一人は黒みがかった翡翠の長髪の大人の女性であり、彼女は特に表情を変えずに古ぼけた本の文字の波に視線を送り続け。


「……」


 そしてもう一人の人は頑是ない子供であり、彼女は温かな羽毛布団の中で心地良さそうに睡眠を享受していた。



 暖炉から送られる暖気が部屋中に籠り、外の空気とは真逆の温かな空気が流転する室内には妙に硬い沈黙が存在している。


 薪がパチッと爆ぜる音でさえも耳障りに聞こえてしまう静謐な環境が暫く続いていると、この状況を刹那に終わらせる騒音が扉から鳴り響いた。



「し、失礼します!! フロポロス様!! 古文書が見付かりました!!!!」


 一人の男性が血相を変えて静謐な室内に持ち込んだのは誰も手に取ろうとは思えない程に汚れた一冊の本であった。


「漸く見付けてくれましたか。この一冊を見付けるのにどれだけ無駄な時間を有した事か……」


「では失礼します!!」


 長髪の髪の女性が溜息混じりにその本を受け取ると男性が慌ただしく退出。


 それを見届けると本を静かに開き長い指先で紙を一枚、また一枚と捲って行く。


 全てを読み終えるのに十分程度要し、そして満足気な息を漏らすと本を閉じて微かに口角を上げた。



「ふふっ、現在判明している神器の大まかな位置とそれらを守り因果に囚われている出来損ないの滅魔の所在が判明しましたよ」


「本当か!?」


 女性の声を受け取るとフロポロスと呼ばれる男性が喜々とした表情を浮かべる。


「貴方が古文書を解読した者を逃さなければ無駄な時間を過ごす必要も無かったのですよ??」


「あれは仕方が無かったんだ。私の部下が奴から目を離した隙に地図を持って脱出されてしまったからな。それに……。奴はこの事を予期していたのか、その古文書は人の手から人の手に渡り隠蔽されてしまったのだ」


「それを驕りと言うのです」


「その様な負の感情の塊から生まれた貴女から言われると皮肉に感じるのは気の所為ですかね」


「……っ」


 男が皮肉を込めた台詞を吐くと女性の細い眉が微かに揺れ動く。


「冗談ですよ。さて、それでは聞かせて貰いましょうか。我が祖先である亜人を封印している神器の位置を」


「南部のリーネン大陸、東のマルケトル大陸に。そして此処アイリス大陸の北西部。しかし、最後の一つはまだ不明ですね」


「一つはそんな近くに!? それなら直ぐにでも行動に移らないと!!」


「功を焦って墓穴を掘りますよ?? 私一人では九祖の血を受け継ぐ傑物を制圧するのは骨が折れますので……。先ずは安全にこの大陸南西部に住んでいるあの子の片割れを抑えましょう」



 彼女が話すと今も静かに眠り続けている女児へと視線を送る。


 その目の色は子供に向けるべき色では無く、寧ろ憐れな大人に向けるべきモノであった。



「私の祖先である亜人は残る九祖から発見されるのを危惧して善の心持つ人の子孫と、悪の心を持つ魔物の子孫を残した。私とあの子は善の心を継承し、もう一つは…………」



「その通りです。我々の創造主である亜人様を封じ込めた憎き神器を破壊するのが我々の使命。そして神と等しき力を持つ創造主様を現世に降誕させるのがその子の宿命なのです」


 女が静かに女児の下へと歩み寄り、安らかに眠る彼女の髪を撫でる。



「片割れが同性だった場合はどうするのだ」


「異性が現れるまで待つのみ。運命を仕組まれた二人の子、その役割は何よりも最優先されるべきなのです。亜人様をその身に宿す器となるこの子は誰よりも大切な命なのですよ」


「それは分かっていますよ。私は我が子が運命を果たし、そして魔なる者共が絶滅するのを見届けるだけですから」


「我々の宿願達成まで後僅か……。それまで心静かに過ごすとしましょう」


 女が女児から離れて行くと逢魔が時に差し掛かった街の通りへと視線を送る。


 通りを行き交う人々の顔は皆一様に負の感情に覆われているものの、女の表情は彼等とは一線を画し陽性な感情が含まれていた。


 口角を上げて眉の角度を滑らかに。


 木枯らし吹く街にその表情は違和感を覚えるものの彼女はその表情を一切崩す事無く、終始無言のまま己の道へと進んで行く人間達をいつまでも静かに眺めて居たのだった。




























 ◇




 お鍋のお水がコトコトと煮える柔らかく温かな音が慣れ親しんだ部屋の中に響く。丁度真冬の季節に誂えた様に似合う音を捉えると心が自然と笑みを浮かべてしまう。


 指導者足る者、様々な感情を矢面に出して指導に臨むのは可能な限り抑えるべきという私の信念に従い顔の筋肉を稼働させて口角を抑え付けてあげる。


 しかし、私はどちらかと言えば心の空模様を隠す事に不慣れだ。


 お腹を空かせた者達の胃袋を満足させる為に台所に立ちつつ柔らかく陽性な感情を抑えていると直ぐ隣から龍族の生徒から辛辣な言葉が放たれてしまった。



「先生どした?? ニヤニヤしながら料理している姿ってすっごく怖いんだけど」


 私の懸命に隠そうとしている表情をフィロが捉えると怪訝な顔を浮かべる。


「あ、いえ。真冬に誂えた様な音だなぁって考えていたんですよ」


 彼女の脇にある竃台の上のお鍋に視線を送りつつ話す。


「あぁ、そういう事。私達が知らない間に料理に毒物でも入れようかと考えているのかと思ったわ」


 例え毒物を摂取したとしても体が頑丈な貴女を筆頭に数名は生き残りそうですよね。


「確実に殺そうとするのならそんな回りくどい事はせず直接体に注入しますよ」


 そうすれば致死率も上昇しますでしょうからねっ。


「いやいや、さらっと恐ろしい事言わないでよ。ねぇ――、レイド。貴女のお母さんは今日もニッコニコしながら生徒達をしばこうと画策しているわよ――」


 フィロが私の左肩を軽快に叩くと食堂の一画でフォレインに抱かれたまま静かに眠る我が子へと向かって行く。



 その寝顔と言えば……。


 まるで天使の寝顔に匹敵するような優しさを醸し出しているではありませんか。


 レイドの顔はどちらかと言えば私に似ているので恐らく私の隠しきれない優しさを継承したのであぁした柔らかい表情を浮かべているのでしょう。


 ダンさんの不躾では無く私の四角四面を継承してくれた事に感謝しましょうか。


 しかし、これはまだ予想の範疇を越えない。


 何故なら彼はこれから幾らでも横着に、不躾に、そして悪に染まりようがあるのだから。


 我が子がイケナイ方向に足を向けたのなら速攻で修正作業に取り掛かりましょうかねっ。



「フィロ、彼はまだ眠ったばかりなので起こすのは止めて頂けます??」


「いいじゃん別に。うりうりぃ――、フィロお姉さんがモチモチほっぺを突いちゃうぞ――」


 彼女がフォレインの忠告を無視すると右手の人差し指をピンっと立てて我が子の真ん丸頬を優しく突く。


 その感覚が気に障ったのか、それともフィロの魔力に辟易したのか。


「ウゥッ……」


 レイドは眠りながらも彼女から顔を背け、フォレインの胸の方へと寝返りを打ってしまった。


「むっ、そっちに向いちゃったか」


「ふふっ、嫌われてしまいましたね。この子は貴女の様な男勝りの女性では無く私の様な聡明な女性を好むのでしょう」


「いやいや!! 絶対私みたいなカッコイイ女の子を好きになるって!! 先生はどっちだと思う??」



 物事を鑑みず行動する豪快且快活な女性か……、将又先の先を見据えて慎重に行動する聡明な女性ですか……。



「そうですねぇ……。ダンさんの血を色濃く継承したのなら女性全般を好み、私の血を色濃く継承したのならちゃあんと物事を考えて行動する女性を好むでしょうね」


 料理の手を一旦止めて、右手の指先を顎先に添えて答えてあげた。



 まだ先の将来は分かりませんが恐らくレイドは生徒や私達に囲まれながら青春時代を過ごす。


 その中でフウタさんやダンさんのお馬鹿な行動に惑わされぬ様、しっかりと監視の目を向けるのが私に与えられた母親としての責務なのです。



『よぉレイド!! あの姉ちゃんの尻を見てみろよ!! すんげぇ真ん丸だろ!?』


『フウタ、お前の目は節穴か?? あっちのカワイ子ちゃんのたわわぁんと揺れる双丘の方が美味しそうに決まってんだろうが!!』


『おぉ!! 確かに美味そうだぜ!! ってな訳でレイド。今から俺様達と一緒にお姉さん達をナンパするぞ!! 安心しろって、俺様が女の子の扱い方のアレコレを教えてやるからさっ!!』



 あぁ、今から考えるだけでも頭の中に頭痛の種が芽を咲かせてしまいますよ……。


 昼の街中を歩くだけで彼等は私の子の教育に良くない事を教え続け、夜は夜で私の目を盗んで深夜の街に出掛けようと画策するのが目に見えています。


 女性のそういった所に目を向ける事自体は悪い事では無い。しかし、世の中には程度というモノが存在する。


 彼等は社会通念上と大分違った尺度の程度を持ち合わせているので、私が正確な程度を教えなければなりませんよね。


 あ、でも……。


 日中から深夜まで四角四面な授業を受け続けていると嫌気が差してそっち方面へと向かって顔を背けてしまいそうですよね??


 先も考えた通り何事も程度というのが大切なので我が子には分相応な授業を受けて貰いましょう。そうすれば世に顔向けが出来る立派な男の子に成長してくれる筈だから……。



「と、いう事はレイドの顔は先生似だから聡明な女の子を好む様になるのですよね??」


「はぁ?? そんなのまだ分かんないじゃん。成長過程によって好みが変わるのは当然の事でしょう??」


「それならば貴女は彼の成長に悪影響ばかりを及ぼしますのでどうかあちらへ向かって下さいまし」


 フォレインがそう話すと我が子を抱いたままフィロに背を向けてしまう。



「あぁ!! 触らないからもっとよく見せてよ!! レイドの寝顔ってめちゃ可愛いんだからさぁ!!」


「私の周りをブンブン蝿の様に飛び回って……。鬱陶しい事この上ないですわよ!!」


「あはは!! そうそう、い――い感じにあんたの素が出てきたじゃん。レイドちゃぁん?? 女の子の外見に惑わされる事無く内面を見つめるんでちゅよ――??」


「クスっ……。成程そういう事ですか。貴女の様な胸の薄い女性は外見では我々、ふくよかな胸を持つ女性には逆立ちしても勝てませんからねぇ……」


「だ、だ、誰が残念無念絶壁娘だごらぁぁああああ――――ッ!!!!」


 フォレインの揶揄いを真面に受け取ったフィロが激昂すると素敵な冬の音色が瞬く間に掻き消されてしまった。



 ちょっと目を離した隙にこれですもの……。元気過ぎる子鳥の世話に四苦八苦する親鳥の気持ちが今なら理解出来そうですよ。


 我が子はこうした喧噪に囲まれながら青春時代を過ごして行くのだと自覚すると共に、いつまでもこの喧しさが続いて欲しいと願う自分もまた存在する。


 二つの対の気持ちを抱く二人の自分なのですが、こういった場合はいつも負の感情を抱く自分が勝ってしまう。


「ふぅ――……。さてと、下拵えは終えましたし。貴女達にはちょっとだけキツイ御話を聞いて貰いましょうかね」


 私がドスを効かせた声を放ち、例の顔を浮かべてゆぅぅっくりと振り返ると。


「「ッ!?!?」」


 二人の顔は刹那に恐怖に染まり病人もあっと驚く程に青ざめてしまった。


 ふふっ、私に注意されてから漸く己の醜態に気付くなんてまだまだ勉強が足りない証拠ですよ??


 昼ご飯まで大分時間がありますので貴女達には真夏の怪談よりも肝が冷えてしまう説教を与えてあげましょう。


「さぁって、ちょぉぉっとだけ私の御話にお付き合いを願いましょうか」


 歴戦の勇士をも慄かせる笑みを浮かべる私に対して後ろ足加重になる生徒達を確と両目で捉えると、私はお気に入りの前掛けを外してこの世の恐怖が一杯閉じ込められている呪いの箱の厳重な封印を解いたのだった。




お疲れ様でした!!


さて、過去編の終盤が始まり今回の投稿はいつもよりもちょっとだけ緊張しちゃいました。


まだ終盤の入り口に足を踏み入れたばかりなのでそこまで気を張る必要は無いのですけどね……。



この三連休は如何お過ごしでしたか??


私の場合はいろんな場所に出掛けて買い物を済まし、家ではプロットを執筆していたという感じですかね。普段通りに過ごしていたので特筆すべき出来事が起きていないのでちょっとだけ寂しい日常を過ごしていましたよ。


まぁでも美味しいラーメンを何杯か食べたので結構満足出来ちゃいました。




沢山の応援をして頂き有難う御座いました!!


過去編のフィナーレに向かっての執筆活動の嬉しい励みとなりましたよ!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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