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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第二百五十一話 華燭の典 その三

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




 これから何かが始まるのを待つという気持ちから湧く出何処不明の高揚感と準主役を上手く演じられるだろうかという強烈な緊張感。


 相対する位置に存在する二つの感情が心の中で犇めき合うと自分でも言い表せない謎で摩訶不思議な感情が生まれてしまう。


 その感情はどうやら体に多大なる影響を及ぼしてしまう様で??


 無意味にその場で四肢を微かに動かしたり、立ち位置を変えたり、その果てとして。



「ねぇ、私物凄く緊張しちゃってる……。ほら、胸のドキドキって音が聞こえない??」


 感情の制御が効かぬまま本日の主役を迎えてはいけないとして、直ぐ近くの相棒の背中にヒシと抱き付いて謎の感情から湧き起こる体の衝動を誤魔化してあげた。



 ん――む……。この背中は冒険に出てから何度も嗅いできましたけども、相変わらず咽返る様な雄臭と汗臭が強烈ですわねっ。


 彼のお腹側に両手を回して清潔感溢れる礼服越しに滲み出て来る相棒の背の匂いを感じていると。


「止めろ!! 気色悪い!!!!」


「うぐぇっ!?」


 彼が瞬き一つの間に俺の拘束を解き、可愛い誤魔化しを咎める為に子供の頭蓋程度の装甲なら容易くぶち抜ける威力の拳を脳天に突き刺して来やがった。



「い、いってぇなあ!! 俺が緊張感を誤魔化しているってのになんでテメェはぶん殴ってくるんだよ!!」


 ジンジンと痛む頭頂部を抑え、両目から染み出て来る涙を拭き取らずに叫ぶ。


「緊張感を誤魔化すのなら他に幾らでも方法があるだろう」


 そりゃ御尤もですけどね?? 此処は冒険の相棒である俺の気持ちを汲んで横着を見逃す場面ですぜ??


「ったく……。いつものお茶目をしただけで両目からお星様が飛び出る攻撃が襲い掛かって来るとは思わなかったぜ」


「ふんっ」


 微かに頬を朱に染めた相棒がそっぽを向いてしまった様を捉えると方々で会話を続けている来客へと視線を送る。



「どれも美味そうじゃのう!!」


「さり気なくつまみ食いすればバレないかも!?」


「そこの阿保狐と暴食龍。あんた達が横着しない様に監視しているからね」


「いいじゃん少し位なら!! エルザードだって気が付かない内にそこの焼き菓子に近付いているわよ??」


「こ、これは阿保な二人から料理を守る為の行動なのよ!!」


「二人の気持ちは痛い程理解出来ますわね。私達も早起きしてこの料理を作るのに必死でしたので」


「ちょっとねむい。シュレン先生、ん……」


「某は人のままで過ごすが故、我慢しろ」


「やっ」


「ギャハハ!! んだよ、シューちゃん!! 頑是ない子にたじろいでぇ!!」


 生徒達は普段着から少しだけおめかしした服装に着替え、シュレンとフウタは忍装束のまま料理の前で談笑を続けており。



「早く始まらないかしらね……」


「レオーネ様、もう少しの辛抱ですよ。そ、それと御体の事を考えてお酒は控えた方が宜しいかと」


「今日は私の友人の挙式という特別な日です!! ですから特別な行動も許されるのですよ!!」


「は、はぁ……」


 来客の一人の女性が若干狼狽えながらもハーピーの女王様のわんぱくを必死に宥めようとしていた。



 式場のあちこちで湧く明るい声と笑い声が挙式という特別な出来事を装飾し、陽性な雰囲気がそれに拍車を掛ける。


 この雰囲気が良い方向に流れてくれる事を願うばかりだな……。



「すぅ――……。ふぅっ」


 いつまでも感じていたい素敵な雰囲気の中で着慣れない礼服のごわつきを誤魔化す様に右肩をグルっと回すと相棒が静かに話し掛けて来る。


「死を感じさせる幾多の戦場を乗り越えて来た貴様でも緊張するのか」


「まぁ――ね。ってか、沢山の戦の場数を踏んでもこの緊張感は拭えねぇよ。お前さんもクルリちゃんと式を挙げたら分かるって」


「いや、まぁ……。それはそうだな」


 幼馴染兼恋人である彼女の姿を想像したのだろう。


 相棒が端整な御顔の中央をスっと流れる鼻頭をポリポリと掻く。



「挙式で新郎ってのあくまでも準主役であり、主役である新婦の脇を飾る役割を果たさなきゃならん。準主役がこれだけ緊張しているんだ。新婦の緊張感は図り知れねぇよ」


 母屋の扉の向こう側で待機しつつ緊張感でどうにかなってしまいそうな本日の主役の姿を想像すると幾分か己の緊張感が和らぐ。


 マリルさんが鉄よりも硬く鋼よりも強いガッチガチの表情で出て来たのならそれを少しでも和らげてあげる様に努力しましょうかね。



「参考になったのは確かだ。いつか、そういつか……。俺とクルリがその日を迎えるのなら貴様に見届けて貰うぞ」


 ハンナが珍しく柔らかい表情を浮かべると俺の両目を確と捉える。



「喜んで承諾するぜ?? お前さんが緊張感で慌てふためく姿を捉えたのなら指を差して大笑いしてやるから覚悟しておけ」


「ふっ、そうだな……」


 お互いに柔和な笑みを浮かべるともう間も無く開かれるであろう母屋の扉へと視線を送る。


 そして会場内の方々で今も鳴り続く会話の音を楽しんでいると遂に……、挙式の始まりを告げる音が鳴り響いた。



「皆様!! お待たせしました!! 花嫁の登場で御座います!!!! 素敵な拍手でお迎え下さい!!!!」


 母屋の扉が静かに開かれそこから現れた清楚な服で身を包むランドルトさんが軽快な口調で花嫁の登場を告げると。


「「「「ワァァアアアアアアッ!!!!」」」」


 森の木々処か大地さえも揺れ動かしてしまうのでは無いかという有り得ない妄想を抱かせる祝いの音が鳴り響いた。


 式場のあちらこちらから奏でられる拍手の音に誘われる様に主役が恐る恐る登場すると俺は……、いいや。俺達全員は思わずハッと息を飲み込んでしまう。


「「「「ッ!!!!」」」」


「……っ」



 純白のベールで顔全体はうっすらと覆われているので表情全ては窺えぬが恐らく体に纏う雰囲気からして鉄よりも硬い硬度の表情であると推測出来る。


 ちょっとだけ大胆に開かれたドレスから覗く胸元から両肩までの肌は絹の様に滑らかであり、薄い桜色のドレスは肩から腰回りまでの女性らしい滑らかな曲線を描き上半身を敢えて強調して作られている。


 本日の主役であるマリルさんが一歩、また一歩式場に近付いてい来ると数十妙前まで渦巻いていた喧噪が嘘の様にピタリと止み。まるで時が止まったかの様な錯覚が式場内に漂う。



 その内の一人である俺もこの世に舞い降りたたった一人の麗しき女神に目を奪われ続けていた。



「ダンさん。お待たせしました」


「へっ?? あ、あぁ。大丈夫ですよ。そこまで時間は押して居ませんので」


 手の届く距離に到着したマリルさんに対してそう話すと己の羞恥を誤魔化す様に鼻頭をポリポリと掻く。



 こうして間近で見るともっと綺麗に見えるな……。


 純白の薄いベール越しに映るマリルさんの笑みは春風を想像させる様に温かく、薄い桜色のドレスを着熟す嫋やかな体からほんのりと漂う花の香りが彼女の美しさをより際立たせていた。


 この姿を捉えたのなら美の女神様もキィッ!! とハンカチを食みつつ嫉妬するだろうさ。



「よ、よし!! 取り敢えず誓いの儀式を終えましょうか!! 腹ペコで困っている人達も居る事だし!?」


「そ、そうですね。ハンナさん、宜しくお願いします」


「畏まりました。それではハンナさん、これより誓いの儀式を行いますので両者の見届け人の役を果たして下さい」


「あ、あぁ。分かった……」


 互いに羞恥の色に染まる両者とガッチガチに固まっているランドルトさんに相棒が呼ばれると彼もまた凶悪な敵と相対した時の様な、超強力な緊張の色を身に纏って俺達の前にやって来てくれた。



 全員が全員緊張感という名の鎖に拘束されたまま挙式を始めても大丈夫なのかしらね??


 事戦闘に関しては卓越した能力を発揮する四名ですが、こういった事に関してはちょいと不器用ですものね。




「そう緊張するなって。昨日相棒が考えた通りに誓いの言葉を俺達の前で述べてくれればいいからさ」


「貴様はそうかも知れぬがこういう事に不慣れな俺の立場を少しでも鑑みろ」


「へへ、わりっ。じゃあ宜しく頼むわ!!」


「う、うむ……。コホンッ」


 相棒が静かに瞳を閉じて己の鼓動を抑え、そして一つ咳払いをすると共に肩を並べて立つ俺達に向かって誓いの言葉を掛けてくれた。




「二人は健康な時も、強敵に相対して酷く傷付いた時も、己の弱さに嘆き挫く時も、筋力鍛錬に励めず悲しむ時も……。これらを愛し、敬い、互いに助け合う。長きに亘る人生の中でその命が存在し続ける限り誠心誠意、忠を尽くす事を誓うか??」


 な、何か途中の言葉で不穏な箇所がありましたけども……。



「あぁ、誓うぜ」

「誓います」


 俺はマリルさんの右手を手に取り静かに頷き、彼女は俺の左手をちょっとだけ強く握ると力強い声で誓いを立てた。




「異議のある者は不義を断つこの剣に怯えず一歩前に出て俺と勝負しろ。それに恐れ慄くのなら今後一切口を開くな」


 例え俺達の結婚に異議がある者が居たとしてもお前さんと一戦交えようとは思わないだろうね。


「「「「……っ」」」」


 ほら、案の定式場内は地面に落ちた針の音を聞き取れる程にシンッと静まり返っているし。


「では二人共、指輪の交換を」


「「……」」


 マリルさんの左手を恐る恐る手に取るとちょっとだけ震える手で彼女の薬指に指輪を嵌める。


 そして俺の番が終わると彼女もまた震える両手で俺の左手の薬指に指輪を嵌めてくれた。



「よし、これにて誓いの儀を終える。最後に……、両者誓いの口付けを交わせ」


「それじゃ失礼しますね」


「は、はいっ」


「「……っ」」


 相棒の声に従いマリルさんの純白のベールを静かに捲り二人の唇が静かに抱擁を交わすと。




「「「「「「ワァアアアアアアアアア――――ッ!!!!」」」」」」


 今日一番の喝采が静かなる森の中に轟き、式場内の者達の両手から放たれた花びらの祝福の雨が俺達に降り注いだ。




 うぅっ……、カワイ子ちゃんとチュってするのは大好きですけども。これだけ大勢の目に晒された場所でするのは流石に恥ずかしいぜ……。



「よう!! ご両人!! 結婚おめでとう!!」


「今日は真にめでたい日だな」


 フウタとシュレンが軽快な声で俺達を祝うと。



「先生!! やったわね!!」


「貴重な睡眠時間を削っただけの甲斐があるわ」


「おめでとうなのじゃ!!」


「先生、おめでとう。つぎはわたしのばんだね」


「あらあら……。貴女はその気かも知れませんがシュレン先生のお気持ちをまだ伺っていないでしょう??」


 生徒達も周りの拍手の音に負けない声量で俺達を祝ってくれた。



 はは、これだけの人に祝ってくれたんだ。この人を幸せにしないと運命を司る神様に呪われちまうよ。


「マリルさん!! 本当におめでとう御座います!!」


「まぁっ、ふふ。有難う御座いますね」


 レオーネさんに両手を握られ上下にブンブンと激しく揺られながら祝福の言葉を受け取っているマリルさんの幸せそうな横顔を見つつ誰にも悟られない様に強く決心した。


「おっしゃあ!! 俺様達が盛大に祝う為に胴上げしてやらぁ!! 者共!! 俺様に続けぇ!!!!」


「「「「おおぅ!!」」」」


「のわぁっ!?」


 フウタが強烈な声を上げるとむさ苦しい野郎共を引き連れて俺の体を拘束。


「せ――のっ!!」


「「わぁぁ――っしょい!! わぁぁ――っしょい!!」」


 阿保鼠の音頭に合わせて数十の腕が俺の体を何の遠慮も無しに宙へと放った。


「お、おい!! 胴上げするのは別に構わないけどもう少し程度ってもんを考えろ!!」


 式場内の陽性な雰囲気に同調する様、俺の体は徐々に高度を上げて行き今となっては森の木々の天辺がチラっと見える程の高さにまで膨れ上がっている。


 何度も上下に乱高下する感覚に目を白黒させているとマリルさんが俺の様子を見かねて制止の声を出してくれた。



「皆様、そろそろ主人を解放してあげて下さい。上下運動で目を回していますので」


「あいよう!!」


 ある物体を掴んで勢い良く高く放り投げるとその物体は暫くの間は美しい放物線を描いて進んで行く。


 しかし与えられた力が消失したのならこの星が持つ重力に引かれて徐々に地上へと近付き最終最後は大地へと着地。


 この天然自然の法則に従い俺の体は星の重力に囚われグングンと高度を下げて行きお尻ちゃんが地面と熱い抱擁を交わしてしまった。


「いでぇっ!?」


 臀部から腰に駆け抜けて行く痛みにより口から素直な感想が飛び出て来る。



「あ、あのなぁ!! せめて受け止めてよね!!!!」


 そして両目にうっすらと痛みの涙を浮かべながら俺の体を受け止めようとはしなかった大馬鹿野郎共へと叫んでやった。


「わりぃわりぃ!! 微乳姉ちゃんが止めろって言うからさ!!」


「大体、受け身の一つや二つ取れば痛みを受け取る事もなかっだろう」


 フウタのケラケラと笑う姿、そして美味そうに鶏肉を頬張る相棒の姿を捉えると頭の中で何かがプチっと切れ飛ぶ音を捉えた。


「こ、こ、この野郎が!! 今日位は労ってくれてもいいんじゃねぇのか!?」


 左手に取り皿、右手に箸を持つ相棒の胴体にポスンっと顔を埋め両手で拘束してやると。


「止めろ!!!! 気色悪い!!!!」


「うげぶっ!?」


 本日一番の痛みが胴体を穿ち俺の体は面白い角度で森の中へと転がり続けて行ってしまった。



 な、何で祝いの席でこんな痛みを受けなきゃならんのだ。


 俺は今日の挙式の準主役なんだぜ?? 横着を見逃して笑いの種に変えるんじゃあないのかい!?



「んっ!! この鶏肉、味付けがしっかりして美味しい!!」


「私はこの焼き菓子かな?? ほらっ、蜂蜜に合わせたらも――手が止まらないもん!!」


「皆様!! まだまだ料理は残っていますので盛大に祝福の酒を楽しんで下さいませ!!」


「ランドルト、偶には私もお酒を飲みたいと考えているのですが……」


「レオーネ様は御体に障りますので酒類は控えて下さ……、って!! まさかもう飲んでいるんですか!?」


「ふふっ、マリルさんに勧められてつい」


「つい!? そのついで体調不良に陥る可能性が……」


「もう!! いっつも小言ばかりで飽きました!! ランドルトが許可をしないのなら私一人で飲みます!!」


「あぁ――!! 駄目です!! 落ち着いて下さい!!!!」


 まっ、でも皆が楽しそうだから相棒の横着を見逃してやりますかね。


 式場からちょっとだけ離れた位置にある木の幹に体を預け、天高い位置から降り注いで来る陽光を全身で浴びながらそう考えていた。


「「「「あはははは!!!!」」」」



 式場全体から湧き起こる軽快な笑い声や会話の数々が良く晴れた空に立ち昇って行く。


 もう何度目か分からない程の騒音を受けた太陽は地上から顔を背けようと努めたのだが、地上で暮らす者達が起こす騒音の元を確かめようとして砂粒大の大きさの生命体へと視線を送る。



「んひょう!! うんめぇぇええええ―――――!!!!」


「これなら無限に食えるぞ」


「ハンナ、それは無理な話だ。後ミルフレア……。食事がし難いからいい加減某の袖から手を離せ」


「やっ」



 砂粒大程度の大きさの生命体達は大きな星の中でその生命を光り輝かせようとして懸命に生きている。


 太陽が少し手を伸ばしただけで消滅してしまう矮小な存在なのにそれらが放つ光は太陽自身が放つ光を何ら遜色がない。


 この世界には太陽と変わらぬ光を放つ生命体が存在する。


 それを確認すると太陽は相も変わらず放たれ続けている喧噪から顔を顰めつつ顔を背け、耳障りな騒音が早く鳴り止めという体の大きさに不釣り合いなとても小さな願いを心の中で唱えていたのだった。




お疲れ様でした。


次話からは話の都合上一気に季節が進みますので予めご了承下さいませ。


パソコンの調子が悪くてスマホからこの後書きを記入しているのですが、本格的にパソコンを買い替える時期がやって来たのだと自覚しております。


使い慣れたパソコンから離れるのは寂しいですが、これも運命だとして受け止めますよ……。



ブックマークをして頂き本当に有難う御座いました!!


読者様の温かな応援のお陰様で連載を続けられています!! これからもどうか温かな目で見守って頂ければ幸いです。


それでは皆様、体調管理に気をつけてお休み下さい。

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