第二百四十七話 神が与えし普遍的な行為 おまけ
お疲れ様です。
読者様達へ感謝を込めておまけの投稿です。
~おまけ~
とても小さな針が地面に落ちた矮小な音さえもよゆ――で拾える静謐が私達の部屋に漂う。
深夜という時刻もあってか静謐は鼓膜が痛くなる程の威力を備えているが、それは寝相の悪い友人達によって瞬く間に掻き消されてしまった。
「ふゆんっ……」
私の二段ベッドの下のクソ狐が妙に甘い声を出せば。
「んんっ……」
それに呼応するかの如く部屋の反対側のベッドでミルが先生に街でおねだりして買って貰った大きな鼠の人形をぎゅっと抱き締め。更に質が悪い事に。
「ンガバラピィ……」
寝相がクソ悪い阿保龍が一体どうしたらそんな寝言を放てるのかと問いたくなる鼾を掻き始めてしまう。
「――――。ったく。あんたらに囲まれて眠るこっちの気持ちも考えて欲しいものだわ」
眠りを司る神って奴がいれば恐らく声を大にして咎めるであろう鼾と寝相を呈す唐紅の髪の女性の方向へ寝返りを打って呟いてやった。
この中で真面な寝相なのはフォレインか。
「すぅ……」
純白のシーツをキチンと被り誰しもが手本にしたくなる寝相のまま素敵な睡眠を享受していた。
あぁ、くっそう。変な時間に起きちゃったから眠れなくなっちゃったじゃん。
誰かを起こして深夜の素敵な会話に興じようとしても私の友人達はふかぁい眠りに堕ちている為にそれは叶わない。
つい数分前までに私の体にしがみ付いていた睡眠を取り戻そうとして無意味に寝返りを打つものの、私が求めている睡眠は訪れようとしなかった。
「ふぁん……」
「デヘヘ……。先生ぇ、ダンぅ。そんなデカイ芋虫を食べたらお腹を壊すわよぉ……」
「あんたらは一体どんな夢を見てんのよ」
クソ狐のうざったい寝言と意味不明な言葉を並べたフィロに思わず突っ込んでしまう。
眠っている奴に問うても返って来るのは虚しい労力だけだし……。気分転換に御花を摘みに行きましょうかね。
そうすれば眠気も訪れるでしょう。
「よっと」
二段ベッドの上段から床に軽やかに降り立ち、友人達の眠りを妨げぬ様に扉を静かに開閉。
そして盗人も満場一致で合格点を叩き出す歩法で一階に到着すると裏口から清らかな森の空気が漂う外に出た。
はぁ――……。今日はツイていないわねぇ。
いつもなら朝までぐっすり眠れるってのにあの馬鹿二人の所為で私の貴重な睡眠時間が削られる結果となってしまった。
広い世界で五指に入る頭脳を持つ私を疲れさせるという事は世界の損失に繋がると理解しているのかしらね。甚だ疑問が残るばかりだわ。
「――――。ふぅっ、今日も星が綺麗ね」
用を足し終えてさり気なく森の木々の上部へと視線を送ると厚い雲は何処かへと消え、その代わりに満点の星空が私の気持ちも知らないで眩い笑みを浮かべている。
今日だけはあんた達の笑みが腹立たしく見えるわ。
私がそう愚痴を言っても星達の輝きは陰る事無く寧ろ私の言葉を力に変えて更に輝きを増してしまう。
「ふわぁぁ――……。愚痴を零しても疲れは取れないし。さっさと眠って明日に備えよう」
気怠さが残る双肩のコリをほぐす為、空に向かってグンっと背伸びをすると……。
「……ッ」
正面入り口の扉が開くカチャリという音を捉えた。
「ん?? 誰かが扉を開けた??」
今日はハンナ先生達が食堂兼雑談室で寝泊まりしているし、その内の誰かが外に出た音でしょう。
でも……。こんな深夜に一体何の用があって外に出たのかしらね。
厠があるこっちに向かって来る気配は無いし……。あ、でも男連中ならその辺りで用を足す事もあるか。
「丁度良いや。適当に挨拶を交わしてから眠ろうっと」
家屋の中で素敵な睡眠を享受している人達の眠りを妨げぬ様、抜き足差し足で家の正面い出るとどうやら扉を開けたのは馬鹿フウタの様だ。
「……っ」
何やら本当にゆっくりとした所作でダン達が建築した簡易家屋へと向かっている背を捉えた。
は?? 何で慎重な足取りで自分達の家に向かっているのよ。
それに今日はマリル先生がダンの治療をしているってのに……。
フウタが描いた軌跡を追う様に此方も無音歩法で彼の後に付いて行くと。
「んんっ……」
「ッ!?」
簡易家屋の小さな隙間から女性のくぐもった甘い声が私の鼓膜を刺激した。
うっそ!?!? え、え、えぇっ!? もしかして先生とダンってヤっちゃっているの!?
まだ年端も行かない私だが淫魔という種族もあってか、そっち方面には興味津々なので先生には悪いけども覗かせて貰いましょう!!
『ぐへへ。ダンの野郎め……。一体どんな姿形でヤっているのかなぁっと』
恐らくフウタはあの淫靡な雰囲気を捉えたので簡易家屋に忍び足で向っているのでしょう。
『ね、私も覗いていい??』
『ッ!?!?!?』
ワクワク感全開の背に向かって蚊の羽音よりも小さな声を掛けるとフウタが双肩をビクッ!! と上下に揺らして厭らしい歩みを止めた。
『び、びびったぁ……。んだよ、エルザードかよ』
『驚き過ぎじゃない?? 仮にも忍ノ者なんだから私に背を取られるとかクソださくない??』
『うっせぇなぁ……。だがまぁ、アイツ等の夜の営みを覗く許可を与えよう!!』
そうこなくっちゃ!!!!
真面目なマリル先生やハンナ先生やシュレン先生と違ってフウタやダンは私の横着を見逃してくれるもんね!!
そういう所に好感を覚えると同時にこうして様々な経験を経て大人になって行くのだなぁっと自覚しているのよ。
『にしし!! フウタ、わっるぅい顔を浮かべているわよ??』
『そういうテメェもな。よ、よし。目標まで残り約十メートルだ。あそこの窓枠からそ――っと覗くぞ……』
『……っ』
フウタに向かって静かに頷くと再び歩き始めた彼の小さな背に続く。
ふ、ふふっ!! 此処に来て初めてかも知れないわね!!
こぉんなにワクワクするのって!!
マリル先生から受け賜った魔法の指導で新たなる魔法を会得した効用を余裕で越えるワクワク感を引っ提げて進軍を続け、そして遂に淫魔垂涎の淫靡な雰囲気を醸し出す家屋の脇に到着した。
『準備は良いか??』
フウタが高揚感を抑えられないのか、これでもかと口角を上げて私に問う。
恐らく私も彼と同じ位の笑みを浮かべているのでしょう。
『もちっ。気配を悟られちゃいけないからゆっくり行きましょう』
いつもよりもやたらと元気な口角筋を必死に御しつつ、爪先を精一杯伸ばして家屋内の現状を確認した。
「あっ……。んっ……」
「「ッ!!!!!!」」
街で大安売りしていた硝子越しに見えたのはダンと体を一つに合わせているマリル先生の姿だ。
先生の顔は襲い掛かる快楽と高揚で朱に染まり、ダンが本当にゆっくりとした静かな所作で腰を動かすと彼女の顔の赤みが更に増す。
快楽によって自我が崩壊せぬ様にダンの背に回す指先を必死に突き立てる様は私の良く知るマリル先生では無く。
一人の女としてのマリル先生であった。
そして普段隠していた女の部分を曝け出すマリル先生の下腹部へと視線を移すとこれまた驚愕の事象が目に飛び込んで来た。
う、うっそぉ……。へ、へっ!?
男の人のアレってあんなに深く突き刺さっちゃうの!?
ダンがゆぅぅくりアレを上下に動かすとマリル先生の体が細かく震え、彼は相手を労わる様に優しく抱き締めて唇を重ねると彼女の腰へと己の腰を深く刺す。
二人が放つ淫靡な空気が室内に漂いそれはもう視認出来てしまいそうな淡い桜色にも見えてしまう。
男と女が次世代に命を紡ぐ行為とはこうも生々しくそして滅茶苦茶素敵に映るのねぇ……。
『ほ、ほほぅ。ダンの奴め……。滅茶苦茶手加減しているな』
『い、いやいや。アレが普通の奴じゃないの』
ハァハァと厭らしい鼻息を漏らすフウタに問う。
『ば――か。百戦錬磨の俺様達があぁんなちゃちな動きで満足出来るか。多分、微乳姉ちゃんは初めての行為だから優しく扱っているんだよ』
ほ、ほぉ……。そっち方面は横着そうなダンは女性の扱いが意外と上手いのね。
将来の参考、じゃあないけども!! 彼の動きとマリル先生の表情を確と脳裏に焼き付けないとね!!!!
「ダンさん……」
「マリルさん……」
太古の時代から現代まで紡がれ、行われ続けている二つの体と魂が一つに混ざり合う行為を舐める様な視線で見つめていると。
『――――。帰るぞ』
「「ッ!?!?!?!?」」
ハンナ先生の本当に小さな声が私とフウタの双肩を激しく上下させた。
び、び、びっくりしたぁ!! 音も気配もそして魔力も察知させないで私達の背後をいきなり取らないでよね!!
さっき厠に行っていなかったら絶対チビっていたわ……。
『な、なんだよ、ハンナ。お前も興味津々って感じなんだろ??』
本当に静かな声で怒り心頭のハンナ先生を見つめる。
『二人の貴重な時間を奪うな馬鹿者が。貴様等がそこを動かぬ様ならこの剣で動かすぞ……』
ハンナ先生が右手に持つ愛用の剣を静かに中段に構えると私とフウタは素直に降参した。
『へっ、わ――ったよ。大人しく帰りますよ――っと』
『も、もうちょっと見たかったけど……。流石にこれ以上は悪いわよね』
『ふん、馬鹿共が……』
構えを解き、ヤレヤレといった感じで肩を竦めて母屋に帰って行くハンナ先生の背に大人しくトボトボと続く。
普段はだっさい格好で私達に熱血指導を施す四角四面のマリル先生だけれどもしっかりと女の部分を持っていた。
真面目と淫靡は相対する性格であるが、彼女にもそういった一面がある事に安堵する一方で心には羨ましいという感情が生まれていた。
いつか私もあぁいった行為をするのだろうか?? その相手は一体どんな人なのだろう??
白馬に跨った王子様、じゃあないけども。私にとって素敵な人が現れる事を願いましょう。
少なくとも。
『ぐぬぬぬぅぅうう!! 最後まで見たいけども見れられないこの悔しさ!! どう誤魔化してやろうか!!』
馬鹿と阿保と厭らしさを醸し出すこの馬鹿鼠みたいな野郎は御断りしましょう。
私の体を好きにして良いのは優しくて、私の事を最優先で考えてくれて、そして私が横着をしても柔らかい笑みを浮かべてくれる人にすべき。
『あぁ――……。どんどん遠ざかって行くぅ……』
後ろ髪惹かれる想いで簡易家屋の真っ黒な影をいつまでも振り返っている大馬鹿野郎の姿を見つつそう確信したのだった。
お疲れ様でした。
もう間も無くやって来るお盆休み。ワクワク感が溢れ出ると共にこの夏バテ気味の体で休みを迎えても良いのかという何とも言えない葛藤が心の中で渦巻いております。
食事に出掛け、買い物に出掛け、疲れを取る為に足を伸ばせるスーパー銭湯に出掛ける。
近場で済まそうとすると凡そこう言った行動になってしまうのですが、遠出もする体力も無いのでこの様な行動になってしまいそうですね。
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夏バテ気味の体に嬉しい知らせとなり執筆活動の嬉しい励みとなりました!!!! 本当に嬉しいです!!
それでは皆様、お休みなさいませ。




