第二百四十七話 神が与えし普遍的な行為
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己の吐息さえも凍り付いてしまう様な氷の世界には漆黒の闇が跋扈する。
上下左右という簡単な方向さえも見失う虚無が漂い、魂をも凍てつかせる冷酷な世界の中で俺はたった一人。自分というちっぽけな存在を守る為に蹲っていた。
さ、寒い……。何だよこのふざけた寒さは……。
自己防衛機能が働きこれ以上の体温低下を防ぐ為、更に体を丸めるものの闇の世界に漂う冷気は無慈悲に俺の体温を奪い続けている。
このままでは確実に死ぬ。
そう考えた俺は誰かを探す為に目を開くが、視界が捉えるのは虚無の中に存在する漆黒のみ。
あぁ畜生俺は誰にも頼れず、助けを呼べず、一人静かにこのクソッタレな世界で死んでしまうのか。
憤りと悲しみが入り混じる不の感情が心を侵食し始めると背に強烈な痛みが生じた。
魔物を弾圧、排斥するというイカレタ宗教の教えに従い彼等は無抵抗の俺に暴力の雨を与え続けた。
別に宗教自体を悪く言う訳では無い。
大切な人を失い塞ぎがちな時、己の進むべき道を失い茫然自失となった時、全てを失い絶望の淵に立たされてしまった時等々。
人は誰だって何かに縋りたい時があるからな。
金で買えるのは食料や家や土地等の言わば現世的利益って奴だ。何かに縋りたい奴はそれでは無く、心の救済を求めているのだ。
しかし、かの宗教はどうだい??
無抵抗の俺を魔物だって理由で好き勝手に痛めつけ、止めてくれと叫んでもその手を止める事は無かった。寧ろ俺の悲鳴を力に変えて暴力を振り翳す始末。
それらは宗教が持つ心の救済では無く只々自分達の考えを人に押し付ける糞にも劣る暴挙だ。
このまま死んじまえば俺は彼等の教えが正しいと証明する事になってしまうのではなかろうか??
魔なる者を排斥して勝鬨を放つ野郎共を想像すると吐き気がしやがる。
この怒りを力に変えて闇の世界から脱出を試みるものの……。
闇の世界の拘束力は俺の想像以上でありその場から一歩も動く事は叶わなかった。
あぁ、寒い……。このまま俺は生が蔓延る世界からその存在を消してしまうのか。
本当に静かに目を閉じ、音と生が消失した闇の世界で己の存在を守る為に体を丸め続けていると……。
ふと背に温かな感触が広がって行った。
それは秒を追う毎に背全体に広がって行き俺の周囲に蔓延る強力な冷気を払拭。
凍てつく冬の空気は瞬き一つの間に消え失せ、その代わりに生命の息吹きを感じられる本当に温かな春の空気が俺を包み込んだ。
あったけぇ……。まるで女神に抱擁されているみたいだぜ。
女神ちゃんの抱擁はどの程度の効用或いは温かさを与えてくれるか、それは未経験なので伺い知れぬがそんな下らない妄想を掻き立てる程にこの温かさは不思議な力を俺に与えてくれる。
誰か、そこに居るのか??
母親の胸の中で目覚めた幼子の瞳の様に遅々足る速度で目を開けて頭上を見上げるとそこには俺に向かって降り注ぐ一筋の光が見えた。
あの光が俺の体温を温め闇が跋扈する世界を照らしてくれるのか。
あそこに行けば生が広がる世界に帰れる。
何故その考えに至ったのか理解出来ないが、この光には説明不能な力が含まれており俺はその力に導かれる様に光へと向かって上昇して行った。
もう間も無くとても大きな光に触れる事が出来る。
右手に強烈な力を籠めてその光を掴もうとすると、これまで全く機能していなかった嗅覚が大変落ち着く香りを捉えてくれた。
心安らぐ木の温もり、ちょっとだけ汗臭い生活の香。そして……、一生嗅いでいても飽きないであろう優しい女性の香り。
複雑に絡み合った複数の香を捉えた俺はその元を確かめようとして二日酔いの日にも劣る速度で目を開けた。
「…………」
先ず視界が捉えたのはイイ感じに汚い木の床だ。
誰かが招いた枯れ葉の切れ端、口に咥えて使用していただろうと容易く推測出来る爪楊枝、背嚢の入り口から半分零れている衣服。
木の床の上には生活感が溢れ過ぎている物が散らばっており、口煩い母親ならこの状況を打破すべく掃除をしろと声高らかに放つであろう。
あっれ……。何で俺は帰って来たんだ??
生活感溢れ出る素敵な空間の中で自意識を取り戻すと混濁している記憶の海から正確な記憶を取り出そうとして躍起になった。
えぇっと、確かマリルさんから傷薬を預かってそれを街で売っていてそれで……。
思い出した!! それから住民達に襲われて意識を失ったんだ!!
まだまだ微妙に痛む背の傷が数時間以上前の記憶を思い出させ、濁っていた記憶の海が本来の透明度を取り戻すと同時に説明のしようの無い怒りが込み上げて来る。
あの野郎共……。俺の体を一体何だと思っていやがるんだ。幾ら頑丈だといっても限度ってもんがあるだろうに。
「ったく。今日はツイていなかったぜ」
筋肉痛に至る二歩手前の重い腕を動かして俯せの状態を解除。
後頭部を男らしい所作でガシガシと掻きつつ何気なく反対方向に視線を送ると、数秒前に放った言葉を訂正したくなる素敵な光景が視界に飛び込んで来た。
「すぅ……。すぅ……」
今朝と変わらぬ姿のマリルさんが壁に背を預けて本当に穏やかな寝息を立てて眠っている。
微妙に乱れた前髪は恐らく俺の治療に専念していたからでしょう。等間隔に上下する胸元に女性らしい丸みを帯びた肩が起きたての俺の心に潜む大変わるぅい性欲ちゃんを悪戯に刺激してしまう。
これ以上刺激的な光景を視界に収める訳にはいかぬと考え視線を落とすと、上半身裸の俺の体には清潔な包帯がキチンと巻かれている事に初めて気付く。
マリルさんが俺を助けて此処まで運んでくれたのか……。
責任感の強い彼女の事だ。俺が良い様に痛めつけられている姿を捉えて胸が締め付けられる様に痛かったのだろう。
「有難うね。助けてくれて」
彼女の眠りを妨げぬ様、本当にゆっくりとした所作で頭を撫でてあげる。すると……。
「んっ……」
普通の性欲を持つ野郎なら十中十興奮してしまうあまぁい吐息が大変美味しそうな御口ちゃんから零れて来やがった。
ほ、ほぉ……。今の吐息はヤバかったな。
マリルさんが吐いた息が俺の肺にぬるりと侵入すると真面な思考が淫靡なモノへと数舜で変化。
「だ、誰も居ないし?? マリルさんも眠っているし?? そ、そう!! これは頑張った彼女のへのお礼なのですっ」
そんなに早く首を動かすと筋を痛めるぞと言われる速度で周囲の状況を確認すると誰も存在しない事を良い事に彼女のとの距離を徐々に縮めていく。
「ン――……」
ほ、ほぉら。早く起きないとその美味しそうな唇ちゃんを頂かれちゃいますよ――??
マリルさんの唇に確と狙いを定め蟻の歩行速度よりも遅い速さで距離を縮めて行くが、どういう訳か常軌を逸した痛みを与えて来る横槍は入って来なかった。
あ、あ、有難う!! 幸運の女神様!!!! 俺の苦労を労う為にこのすんばらしい状況を御作りになられたのですね!!
今まで駄女神とか役に立たねぇとか貴女様を罵って御免なさい!! 今日だけは感謝しつつ実りに実った果実をちゃんを頂きますね!!
目に見えぬ超越者に感謝の言葉を述べるとこの機会を逃して堪るものかと接近速度を速め、そして遂にお互いの鼻息が届く距離にまで近付いた。
「……っ」
は、はぁぁ――……。やわらけぇ!!!!
何これ!? 俺ってフカフカの羽毛と接吻してんの!?
マリルさんの唇が俺の唇に触れると本当に温かな感情が胸に灯る。
彼女の鼻息が人中の産毛を柔らかく撫でる感触が接吻の効用を増し、ちょっと大胆に攻めようと考え上唇と下唇を駆使して彼女の下唇をハムっと食むと更にイケナイ感情が膨れ上がってしまった。
「っと……。これ以上は流石に不味いな」
眠っている女性に邪な悪戯を仕掛けるのは男としてちょっと卑怯ですものね。
で、でもぉ……。もう少し、そう!! もう少しだけならつまみ食いしてもいいよね!?
だって今日頑張ったんだもん!!!!
「で、では二口目を……」
マリルさんが熟睡している事を良い事に二度目の口付けを交わすと先と変わらぬ効用が俺の唇と心に生まれる。
はぁぁ、優しくて柔らかくて甘くて……。時間という概念を取っ払っていつまでも享受していたい感じだぜ。
息苦しさを覚えるその時まで彼女の唇を堪能すると再び距離を取り、改めてマリルさんの状態を確認した。
「…………」
ね、寝ているよね?? 寝姿はちょっとだけ息苦しそうになったけどもまだまだ起きる気配は無さそうだし。
三口目に突入するのも有りっちゃ有りだよね!!!!
幸運の女神様が与えてくれた幸せな時間を今一度と考え三度目の突撃の姿勢に入った刹那。
「ん、ん――。ふ、ふぅっ。よ、良く眠りましたねっ」
「ッ!?!?」
森の女神様が周囲の違和感を捉えたのか、頬を朱に染めたまま起床してしまった。
あ、あぁ。畜生……。折角三口目に突入しようとしたってのにぃ!!!!
そりゃないぜ、幸運の女神様よ。もうちょっとだけご褒美をくれたっていいじゃん。
だが今の贈り物だけでも満足すべきでしょう。アレ以上の行為は僥倖を越える僥倖がなければ享受出来ないのだから。
「お早う御座います」
夜虫も眠りに就く真夜中にはちょっと不釣り合いな言葉を起きたてホヤホヤのマリルさんへと掛けてあげる。
「ダンさん!! 起きたのですね!!」
ちょっとだけ頬が赤いのは恐らく寝起きだからでしょう。ほら、昼寝から起きた子供もそんな感じだし??
「えぇ、今し方。先に礼を言わせて下さい。治療をしてくれて有難う御座いました」
膝をキチンと折り畳み、治療のお礼と先程の無礼を詫びる為に静々と頭を下げた。
「私は当然の事をしたまでですよ。私も聞きたい事があるのですけど宜しいですか??」
「聞きたい事??」
何だろう?? 取り敢えず上半身の服を着ろとかかな。
「ダンさんは……、何故彼等の暴力に抗わず私の傷薬を守っていたのですか」
全然違いましたね。
「何故、ですか。ん――……」
暫しの思考の後、驚きの表情から真面目一辺倒の表情に変わったマリルさんの瞳を直視して自分の心の素直な言葉を伝えてあげた。
「彼等はイカレタ言葉を羅列的に並べると俺に向かって何の遠慮も無しに暴力を揮って来ました。様々な人の口から放たれる言葉は一字一句違わず、その様子からしてイカレタ教え若しくは宗教に傾倒していると判断出来た。彼等がその教えに則り暴力を揮って来たのは明白でしたのでそれに抗うべきじゃあないと思ったのですよ」
「その言葉を思い出せる範囲で良いので教えてくれます??」
「えぇっとぉ、確か……。汝魔物を恐れよ、とか 汝魔を滅せよとかでしたね。魔物達と決別するという強力な意思を持った瞳の数々から放たれる言葉は、それはもう恐ろしかったですね」
思い出すだけで肝が冷えやがる。
下手な肝試しなんかよりもアイツ等が唱える教えの方が怖かったもの。
「暴力で住民達を制圧するのは容易い。でも、俺が彼等に暴力を揮ったのなら住民達は増々魔物達に恐れを抱いてしまうでしょう。だから自分は彼等に抗わなかった。それと……。マリルさんが心血を注いで傷薬を壊されるのが何よりも許せなかったなんですよ」
ふぅっ、取り敢えず諸事情の説明と自分なりの考えを伝える事が出来ましたねっ。
舌が乾く前に言い終えられた事に安堵していると。
「ダンさん……。貴方は本当に……」
マリルさんの大きな右目から一粒の雫がハラリと頬を伝って落ちて行く様を捉えてしまった。
ヘッ!? 何で泣いてるの!? 俺、何か不味い事言っちゃったっけ!?
「あんな物なんか捨て置いて直ぐにでも逃げ出せばそんな酷い傷を負う事も無かったのに……」
「俺もそうしようかと思ったんですけどね、傷薬がマリルさんの想いに見えたんですよ。これだけは絶対に破壊されちゃ駄目だ。壊されたら俺達の負けだと思いましてね」
「本当に馬鹿なんですから……。傷薬は幾らでも作れるのに、ダンさんが壊れてしまってはもう二度と帰って来られないんですよ??」
マリルさんが温かな雫を右手の人差し指でサっと拭き終えると此方に向かって右手を差し出す。
「俺はどうしようも無い馬鹿なんですよ。だから……、この馬鹿者に聡明な指導を施して下さい」
彼女の右手を左手で受け取ると宙で両者の手が甘く絡み合う。
「「……」」
俺とマリルさんは特に何を言う事も無く只々相手の瞳を直視していた。
すると彼女が俺との距離をたどたどしく徐々に縮め空いている左手を上半身に巻かれている包帯の上にそっと静かに置く。
「ダンさんが馬鹿をしたらいつでも私が治してあげます……」
「そうなりますとマリルさんは一生俺の傷を治し続けなきゃいけなくなりますよ??」
「それでも構いません。どうか……、私の前では一生お馬鹿さんのままで居て下さいね??」
マリルさんが震える唇でそう話すと互いの息の掛かる距離に顔を置き、そして真っ赤に染まった御顔ちゃんにある両目を静かに瞑った。
な、な、成程ッ!!!! これはどう考えてもそういう兆ですよねっ!!!!
沈む瀬あれば浮かぶ瀬ありって言いますし!! あの暴力の雨はこの時の為にあったのでしょう!!!!
そ、それでは……。大変美味しそうな果実を何の遠慮も無しに頂きますッ!!!!
「勿論、そのつもりですよ……」
「んっ……」
男らしい勇気を待ち望んでいた彼女の想いに応え、本日三度目の実食を開始すると本当に柔らかい唇から甘い声が漏れて来た。
その吐息の破壊力は正に天井知らず。
俺は彼女の細い体を抱き締めて己の性欲のまま貪り続けていた。
「マリルさん……」
「やっ……。ちょ、ちょっと待ってくださ……。ンンッ!!」
快楽に圧し潰されそうになっている正常な思考を必死に保とうとする彼女の意思を完全に断とうとして丁度良い塩梅の双丘を右手で優しく包み込む。
右手が喜ぶ張りと柔らかさを両立する双丘は俺の意思を淫靡なモノに塗り替える余りある力を備えていた。
「はっ……。んっ……。そ、そのこういった行為はは、初めてですので……。手加減してくれると幸いです」
此方の意思に対して必死に応えようとして細い両腕を懸命に駆使してしがみ付くマリルさんの行動が俺を完全完璧な性の野獣へと変化させてしまった。
「勿論です。天井の染みを数えている内に終わりますからね」
「ふふっ、真新しい材木で建てられた天井に染みはまだ出来ませんよ??」
「御尤もで。では、そろそろ本番に入りますね」
「は、はいっ……。ッ!!」
次の世代に命を紡ぐ行為の序章を奏でると彼女は痛みを堪える小さな吐息を刹那に漏らす。
その様は愛苦しく映り女性の想いを知らぬ男は己の性欲を晴らす為だけの行動に移るであろう。
だが俺は彼女の体を、心を破壊してはならぬとして野獣に至ろうとする己の心を戒めそこから動こうとはしなかった。
「どうですか?? 痛みます??」
「え、えぇ。想像していたよりも痛くはありませんが、それ相応の痛みを感じていますね」
直ぐ目の前にある快楽と痛みが入り混じった表情を浮かべているマリルさんの小さな口から素直な言葉が出て来る。
「こうして暫くの間体を重ねていればその痛みも徐々に治まりますからね」
「どうしてそれを知っているのかと聞けば野暮になりますので、今だけはダンさんの教えに従いましょう」
柔らかく口角を上げて俺を揶揄って来る。
「はは、日常生活では完全に尻に敷かれていますけども。こっちの生活では主導権を握るのは俺ですからね?? 先ずはそれを……。証明しましょうか」
「ちょ、ちょっと待って……。んぁっ!!」
完全に隙だらけであった彼女の首元に唇を当てると一度だけ、そうたった一度だけの往復行為をする。
傍から見ればたかが数センチの動きだろうが、どうやら彼女を襲った快楽は想像を越えていた様だ。
「はぁっ……。はぁっ……。い、一体これを何度享受すれば終わるのですか??」
体全体から細かな汗が吹き出し、今にも卒倒してしまいそうな表情の彼女が問うたのだから。
「ん――……。少なくとも百、とか??」
「ひゃ、ひゃ、百!? そんな数の攻撃を受けたら失神してしまいますよ!?」
「あはは、大袈裟ですって。慣れれば百じゃ足りないって感じて来ますからね。さっ、夜は始まったばかりです。こっちの生活の先輩である自分が右も左も知らぬマリルさんにアレコレ指南させて頂きましょう……」
「ちょ、ちょっと休憩させて……。ひゃぁっ!?」
今度は一度だけでは無く二度、三度の腰の動きを見せてあげた。
襲い掛かる快楽と微かな痛み。
それから逃れようとして俺の背に、必死に爪を突き立てる行動と雄と雌が放つ匂いが混ざり合った淫靡な匂いが通常程度の火力であった俺の性欲の火を大炎に昇華。
それから俺は燃え上がった性欲に駆られる様、次世代に命を繋ぐ行為を徐々に激しいモノへと移行させて行ったのだった。
お疲れ様でした。
この後、読者様達へ普段のお礼も兼ねておまけの執筆と編集作業に取り掛かります。
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