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第十一話 野郎共!! 進撃開始っ!!

何気に初めてのお昼投稿です。

前日の内に投稿が間に合わなくて申し訳ありません。


それでは、御覧下さい!!




 里を出る事、数時間後。

 此処に至るまで珍しい光景は何度か目の当たりにして来たが……。

 ここもかなり珍妙な光景ですなぁ。



「ふぇ――。こりゃあ、確かに無策で突っ込もうとは思わないわね……」



 俺達の前に群生している茨の蔦を眺め、マイが言葉を漏らす。



 黒みがかった緑の太い蔦。

 それが波打ち、地を這い、左右何処までも続いている。



 試しに。

 そう考え、蔦の棘を指で突くと。



「いてっ」



 僅かな力を籠めただけなのに、矮小な赤の点が指先に出現してしまった。



「鋭いだろ?? これが体に絡まった日には……」

「全身血だるま、だな」



 血だるまならまだ可愛い方かも。

 無謀にこの森へと侵入し、脱出を試みて鋭い棘が肉を食み切り裂く。

 肉の合間から滴る血液が大地を穢し……。



 体が頑丈なユウが慄くのも無理はない。


 酷い惨状を想像したら背筋に寒気を感じてしまった。



「さて、と。こいつの出番だな!!」


 ユウが背嚢から深緑の玉を取り出す。



「それが深緑のオーブ??」


 大人の手の平にすっぽりと収まる大きさ。

 美しい湾曲と緑が自然と視線を集める。


「そ。これを、こうして……」


 彼女が空高くオーブを掲げると。


「「おぉっ!!」」



 複雑に絡まっていた蔦が軽快な音を立てて左右へと広がり、道を作ってくれた。



「はぁ――。便利なもんねぇ」

「だろ?? じゃあ行こうか」



 僅かに光る玉を右手に持つユウの後に続き、茨の森へと侵入した。





「この森を抜けたら西へ進むんだったな」



 茨の蔦の壁を見つつ話す。

 急に狭まったりしないよね??



「茨の森はそこまで広くない。歩いて数分で抜けるよ」



 数分、ね。

 その数分が数十分に感じてしまうのですよ。



 不祥の事態を予測し、直ぐにでも駆け出せる姿勢を保持しつつ進んでいると。



「ほい、到着っと」


 周囲を取り囲む森と何ら変わりない景色が目の前に現れ。


「あらら。閉じちゃった……」




 マイの声に振り返ると、茨の蔦が再び複雑に絡み合い堅牢な防御柵を構築してしまった。




「な?? 何て事ないだろ??」

「それも全てそのオーブの御蔭様か」


 背嚢の中へソレを仕舞うユウへ話す。


「さて、さて!! 西へ向けて出発するか!!」


 背嚢を背負い直し、ユウが先頭を歩き始めた。


「以前の偵察の時、周囲に敵影は確認出来たのか??」


 その後を追いつつ問う。



 いきなり木の影から襲われたりしないよね……。

 目的地に到着する前に発見されたら洒落にならん。



「いんや。注意深く進んでいたけど、いなかったよ」


 それなら……。

 いや、でも気を抜くのは了承出来んな。細心の注意を払おう。



 ふぅっと大きく息を吐き。

 気を引き締めるが。



「ユウ――。おにぎり食べようよ!!」

「いいねっ!! 小腹減ったし!!」



 彼女達は俺の願いを虚しく、そして簡単に打ち破り三角のおにぎりを食み出してしまった。



「ふっまぁい!!」

「だろ?? れいふぉ――。たふぇる??」



「結構です」



 差し出された白が眩しい三角の前で首を横に振る。



「腹ふぇってないの??」


 違います。

 気を抜き過ぎだと言いたいのです。



 今現在は作戦行動中なのですから。



「食べないのなら、頂きぃ!!」

「あぁ!! ずりぃぞ!!」

「ふぁむっつ!! あ、はぁっ……。御米……。最高っ……」



 米を咀嚼し、恍惚の表情を浮かべるマイの顔を見ると張り詰めようとした気が削がれてしまう。

 それは不味い。

 そう考え、一つ首を大きく横に振り。雑念を捨て去って西へと進み出した。




   ◇




 ユウ様……。大丈夫であろうか。

 彼女達が出立し、もう間も無く数時間が経過する。

 私達、守備隊は里から向かって西と北西へ。迎撃作戦の為、進行を続けていた。



「レノアちゃん。どうしたの??」



 私の後方からフェリス様の声が届く。



「あ、いえ。真西へと迎撃に向かう部隊の心配をしておりました」



 北の部隊はボー様が、そして我々にはフェリス様が付いていらっしゃる。

 その点に付いて、憂いは無い。

 しかし……。



「向こうは凡そ三百、そして向かった部隊の隊員数は五十。彼我兵力差は六対一。この差を埋めるのは難しくはありませんが。不祥の事態を懸念して……」


「大丈夫ですよ。彼等の力を信じてあげてなさい」



 柔らかい笑みを浮かべ、私の不安を包み込む優しい声色を放ってくれた。



「向こうの部隊より、こっちの方が辛いのよ??」


 それも、そうか。



 フェリスさんを含め、我々は十人。

 たった十人で三百もの相手を務めなければならないのだ。



「承知しております」


「レノアちゃんは心配性だからねぇ……」


「新体制となった守備隊ですからね。旧守備隊の方々がいらっしゃれば、話は変わるのですが」


「あら?? 私だけじゃあ、力不足??」

「め、滅相も御座いません!!!!」



 そう。

 フェリス様は前守備隊の隊長を務めていたのだ。

 その実力は老若男女問わず認めている。




 あの大魔の血を引くボー様にも勝利した逸話も残っているくらいだ。

 認めざるを得ないといった所であろう。




 新体制へと移行し、実戦経験が無い我々が守備隊に就いた。


『血気盛んな若者の集まり』


 それが多大なる杞憂を湧かせているのだ。



「この戦闘は訓練を兼ねていると考えて貰って構わないわ」


 フェリス様が私の横に並び、周囲に聞こえない声量で言葉を漏らす。


「訓練、ですか」



「そう。あなた達は守備隊に就いてまだ日が浅い。そして、何より。実戦を経験していない事を夫は危惧しています。実戦と訓練はまるで別物。一瞬の油断が死に繋がるのです」



 フェリス様の仰る通りだ。

 敵は私達を殺す為に武器を振り翳す。殺気が籠っていない訓練とは真逆だ。



 私達は殺気に恐れを抱かぬ為に日々精進しているが……。



「実戦の空気を感じろ。恐らく、ボー様はそれを伝えたかったのですね」



 それだけは訓練で賄える物では無い。


 敵の殺意と憎悪を体に刻め。


 そして克服しろと、伝えたかったのであろう



「正解ですっ。西の部隊は数で互いを補い、私達の部隊は私が居る事で士気を保てる事が可能です。もっと肩の力を抜きなさい。あなたの緊張が他の隊員にも伝播するのですよ??」


「は、はいっ!!」


 フェリス様の声を受け、背筋を確と伸ばす。

 そうだ。

 私がしっかりしないと皆が……。


「レノアちゃんは真面目ねぇ。それに対し、ユウちゃん達は気を抜き過ぎているところがあるのよねぇ」


「物怖じしない性格ですからね、ユウ様は」





 昔から変わっていません。

 私が夏の小川に入る事に億劫になっていると。


『こうやってはいるんだよっ!!』


 と。

 威勢良く頭から入水し。


『いっでぇえええ!! あたまうった!!』


 快活な笑みを浮かべて己の失敗を笑っていた。

 目を瞑れば今でも思い出せます。





「ふふ、幼馴染のレノアちゃんなら何でもお見通しね」

「そんな所です」



 ユウ様の幼い頃を思い出したのか。

 強張っていた肩の力がすっ、と。抜けていくのを自分自身でも感じ取れた。



「そう。適度な緊張と、適度な弛緩。この二つを体に覚えさせなさい」

「はいっ!!」



 彼女の手が肩に乗せられると、力が漲って来る。

 ユウ様!!

 我々も共に戦いますよ!!



 漲る力を足に伝え、隊の先頭へと躍り出て進行を続けた。




   ◇




 順調に敵本部へと進んでいたのだが、その手前。

 恐らく哨戒の任に就いているであろう敵を発見してしまった。



 喉の奥がひり付く緊張感が秒を追うごとに増し、今に至っては大粒の汗が額から頬へと零れ落ちて行く。


『よぉ、どうするよ??』



 ユウが茂みの影に隠れ。凡そ二十メートル離れた敵の位置を確認しつつ小声を出す。



『どうするも何も、もう直ぐ正午でしょ?? 正面突破しかないじゃん』


 勇猛果敢なマイは突撃を選択するが……。


『少しでも此方の発見を遅らせたい。何んとか、発見されないように倒せないか??』


 発見される虞を懸念した俺は慎重な選択を提案した。


『やれない事も無いけど……。マイ、敵の数は分かるか??』



『――――。左に二体、右に二体。んで、正面に一体ね』



 此処からじゃ左右の敵は見えないが……。

 恐らく臭いで感知したのだろう。

 鼻を引くつかせているのが良い証拠だ。



『よっし。じゃあ隊長命令だ』



 ユウが此方へと振り返る。



『右の二体はあたしが倒す、んで左の二体はマイが倒せ』

『正面は俺か??』



『そう。レイドは正面の敵を矢で穿て。それを合図にあたしとマイが二体を葬る』



 ふ、む。

 悪くない案だな。



『あんた、弓の腕前は??』

『普通、かな』



 ここで。


 訓練所での成績は下の下でしたぁ――。とは流石に言えません。



『怪しいわねぇ――』

『信じてやれよ。あたしは信じるぞ』



 ユウが俺の肩にポンっと手を乗せて話す。



『ありがとう。じゃあ、早速作戦行動に移ろう』


「「了解」」


 二人が静かに、一切の足音を立てずに移動を開始した。






 ふぅぅ……。

 距離二十メートルか。

 正直、かなりの難易度だ。


 何も無い平原ならまだしもここは緑が生い茂る森の中。そして、相手は不動の的では無く。動く的なのだ。



 木の影に隠れ、その姿を窺うと。



『……』



 ほら。

 時折左右に歩いているし。


 自分の腕を信じてやれ。

 己にそう言い聞かせ、背から弓を外し。



「ふぅぅ……」


 矢を構え、力強く弦を引いた。





 そろそろマイ達は配置に就いただろう。

 そして、何より。

 今が絶好の機会だ。




 醜い豚が足を止め、悪戯に剣を一度、二度天から地上へと振り下ろす。

 この隙を逃したら次の好機がいつ訪れるか分からない。




 いくぞ!! 集中しろ!!




 震える弦を右腕の筋力で制し、左手で照準を定め。





 当たれぇえ!!





 渾身の願いを込めた矢を放った。



 弦が矢筈を強烈に押し出し、鏃が空気を切り裂き、対象へと最短距離を進む。

 文句の付けようが無い矢の飛翔は美しい軌道を描き。



「グァッ!?」


 醜い豚の喉を穿った。



「よっしゃあ!!」



 おっと。

 大きな声は駄目ですね。


 己が置かれた状況を忘れる程の一撃だったのですよっと。



 そして、オークが黒灰に還ると同時に。

 強烈な打撃音が……。四つ。

 静かな森の中に響いた。




「――――。お見事っ!!」


 仕事を終えたユウが此方に戻り、背を一度。

 軽快に叩いてくれた。


「流石に緊張したよ」



 異常に肩の力が張っていたのか。

 ユウの笑みを見ると、それが解け落ちて行くのを自分でも感じてしまった。



「まぁまぁじゃん」

「そりゃどうも」


 遅れて此方に到着したマイに言ってやった。

 もうちょっと褒めても宜しいのでは??


「うっし!! このまま進むぞ!!」


「「了解」」


 ユウを先頭に再び前へと進む。


「結構離れていたのに。いやぁ、上手いもんだ。それも訓練所だっけ?? そこで習ったの??」



 此方を振り向かず。

 前を見つめたままユウが話す。



「そうだよ。どちらかと言えば、弓は苦手な部類だね」


 穿つ瞬間が緊張して手元が狂うんですよ。


「苦手な割には正確に穿ったじゃん」

「実力は五割。後の五割は運もあるさ」



 右隣りを歩くマイへと返事を返す。



「まぁ、あんたにしては上出来よ。褒めてつかわす」


 どういたしまして。

 そんな感じで一つ頷いてやった。



 そこから暫く。会話らしい会話は鳴りを潜め。

 只踏み心地の良い大地を噛み締めていた。

 そして、先頭を行くユウの前にポカンと広がる空間を視界に捉えた。






 凡そ、数十メートルの円形の空間。

 その中央に一階建ての平屋程度の高さの天幕が張られていた。




『ユウ、あそこが……??』


 木の影に隠れつつ、様子を窺いながら問う。


『そうだ。あの中に女が入って行ったのを見たんだよ』



 つまり。

 敵の親玉はあの中に居る可能性が強いのか。



『マイ、敵の数は??』


 一本向こう側の木に隠れる彼女へと問う。



『――――。天幕の中に三体。他は無し』



 え??

 三体だけ??



『他の連中は部隊に合流したのか、それとも周囲に散開しているのか。この機を逃す手はねぇなぁ??』



 ユウがニヤリと笑い、俺達の顔を見つめた。


 遅かれ早かれ戦闘を開始したら敵に発見されるのだ。

 今は守備が手薄になっている。

 それが指し示すのは一つ。



「ふぅ、了解。作戦を開始しましょうか。隊長殿??」


 元の声量へと戻し、ちょっとだけ呆れた顔で答えた。


「おっしゃあ!! 行くわよ!! 私に続けぇ!! 者共!!」

「待てぇ!! あたしが先頭なの!!」



 この際、どちらでも構いません。



 木の影から飛び出した二つの背を追い、広い空間へと躍り出て。

 勢いそのまま。

 閉ざされている天幕の幕を左右に開き、謎めいた室内へ突撃した。


続きます。

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