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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第二百四十一話 相も変わらず手の掛かる生徒達 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




 んぉ!! シューちゃんも結構エグイ指導を与えているなぁ。


 俺様の肌がピリっとざわつく感覚を捉えると随分離れた位置でガキンチョ共に指導を与えている同郷の者へ視線を送る。


 どうやら向こうも此方側と同じ位苦戦している様で??


「むっ、ミルフレア。もう少し距離を取れ。指導がし難いぞ」


「やっ。今日はもうおしまい」


 無意味にじゃれ合って来るラミアの子の対応に四苦八苦していた。


 女耐性の無い童貞らしい反応を見せつつも何とか指導者っぽい立ち姿を振る舞って稽古を続けているけど、それでも厳しさは俺様の足元にも及ばねぇだろうさ!!



「お――い、いつまで砂浜の上でお寝んねしているつもりだ――??」


「う、うぐぅぅ!!」


 俺様の拳をモロにみぞおちにブチ食らい砂浜の上で悶え打つド貧乳龍に向かって憐れみの声を放ってやった。


 無意味に両手両足をワチャワチャと動かす様がまぁ――似合う事でっ。



「くっそぉ……。後少しでその横っ面に気持ち良い攻撃を当てられそうだったんだけどなぁ」


 あぁ、さっきのやり取りの話か。


「あのなぁ。それはテメェの主観だろうが。俺様はちょ――余裕を持って躱してやったぜ??」


 俺様が敢えて見せた隙に食らい付いて来たその一瞬を迎え撃ち、まぁまぁの力を籠めた拳を腹にキュポっと与えてやった。


 予想していなかった反撃はとても堪えたのだろう。


 防御も攻撃も忘れて腹を抑えて蹲ったのが良い証拠さ。



「嘘付け!! 私の攻撃を捉え瞬間にびっくりした表情していたじゃん!!」


「あれは予想通り過ぎてびっくりした顔だ」


 ハンナやシューちゃん、そしてダン。


 武に精通した野郎なら俺様が見せた隙に食い付いて来ないだろう。寧ろ更に隙を醸し出して俺様から攻撃を誘い出して来る筈さ。


「絶対嘘だし!! 私の攻撃にビビらない相手はいない!!」


「言い訳か?? だっさぁ――。そんな事だからいつまで経っても胸の標高が成長しねぇんだよ」


 巨大な溜息を吐き今も蹲っている深紅の髪の貧乳を揶揄った刹那。



「し、し、し、死ねぇぇええええ――――ッ!!!! このドチビがぁぁああああ!!」


 どうやら彼女の逆鱗に触れた様で??


 怒り心頭のフィロが猛炎を瞳に宿すと己の影をその場に置く速度で俺様に向かって来やがった。


 普通の野郎ならフィロの踏み込みの速さに面食らうだろうが、生憎俺様はテメェよりも数段速い奴等と死闘を繰り広げて来たからなぁ!!


 俺様の経験値を嘗めんじゃねぇ!!!!



「誰が豆粒超ドチビだごらぁぁああ――ッ!! テメェの五臓六腑を砂浜にぶちまけてやんぞ!!!!」


 さぁ来るぞ!! 猪突猛進を心掛ける猪がドン引く突貫がなぁ!!


「デリャアアアアアアア――――ッ!!!!」


 体力、気力に任せた拳と蹴りの連撃が俺様の体に襲い掛かる。



 拳のキレ、脚撃の圧、そして体全体に纏う覇気。


 その全ては歴戦の勇士をもたじろがせる力を持つが何処からど――見ても攻撃の合間に隙が目立つ。


「ゼァッ!!」


 右の拳を愚直に繰り出し、続け様に放った左の昇拳の間隔。


「ドリャアアッ!!!!」


 当たらぬ事に痺れを切らし、戦場を制圧しようとして放った右上段蹴り。


 攻撃の威力自体は及第点を優に超えるモノを持つけども、当たらなきゃ意味がねぇんだよ!!!!


「だからあめぇって言ってんだろうが!!!!」


 体を微かに後方へと逸らし、フィロの右上段蹴りを最小限の動きで回避。


 奴の防御態勢が整う前にテメェの動きは散漫、無駄、無意味であると言わんばかりに俺様の上段蹴りを彼女の顎先にブチ当ててやろうとしたのだが……。


「オッブスッ!!!!」


「っ!?」


 コイツ!!!! 直撃の瞬間、僅かに顔を逸らして威力を減少させやがった!!


「ぜぇっ……。ぜぇっ……。くっそぉ――。後少しで当てられそうなんだけどなぁ」


 最低限の回避をしても頭を大きく揺らされてかなり堪えたのだろう。砂浜の上で力無く胡坐を掻いて座りつつ呼吸を整えている。



 何処が後少しで当てられそうだと判断したのだろう??


 武に精通している者なら大馬鹿野郎だと口を揃えて言い放つ攻防だったのによ。


 俺様の余裕を持った攻撃を目の当たりにしてもそう判断したって事は……。こいつは俺様と同じで頭じゃ無くて、体と心で敵の行動を察する型だな。



「なぁ、フィロ。お前さんどうして今の俺様の動きを見切れたんだ??」


「ん――、何んと言うかぁ。私はさ、ほら!! エルザードやフォレインみたいに戦いの先の先まで考えて行動するのが苦手じゃん?? その場のノリというかぁ、あんたがどう行動するのか見てから考えるんじゃなくて。目の動きとか、体の流れとか……。こう、グワァって!! 押し寄せて来る感情を基に動いているって感じ??」



 意味不明な擬音が混ざっていて理解し辛いけども口に言い表せない表現は痛い程理解出来るぜ。



「お前さんは俺様と同じ直感型だな。一々考えて行動するよりも相手がこっちの動きにどう反応するかで次の行動を決めている感じだろう??」


「まぁそれに似ているわね。難しい事を考えるのは後衛の役目。せっまい突破口を開くのは前衛である私と……。あそこでギャアギャア文句を叫んでいる狐ちゃんの役目なのよ」


 フィロがクイっと顎を差した方向に視線を送ると。



「ぬぁぁああああああ――――ッ!!!! むずかし過ぎるじゃろうが!! なんじゃこれは!? ぜっっんぜん魔力がとどまらぬ!!!!」


「だから激昂すんなって言ってんだろうが!! 俺が親切丁寧に説明してやってんのに少しは聞く素振を見せやがれ!!!!」



「ギャハハ!! 何だよ、ダンの奴……。頭で考えるよりも先に体で行動する奴に理で説明しても無理があるだろうが」


 はぁ――、笑わさせて貰ったぜ。


「まぁ一度は説明するのは間違っていないんじゃない?? さっ!! 大分足の動きも戻って来たし。もう一丁お願いするわ!!」


 い、いやいや。顎先に上段蹴りを真面に食らって三十秒も経っていないのにテメェは立って戦うっていうのかい??


「丈夫なのも大概にしろよ」


「それはフウタも一緒でしょ?? お互い馬鹿同士、仲良く強くなりましょう!!」


「誰が馬鹿だごらぁぁああああ――!! 本物の馬鹿に言われる筋合いはねぇぞ!?」


「頭の中のほぼ大半を卑猥が占めている奴に馬鹿って言われてたくないわよ!!!!」


 こ、この阿保ド貧乳め!!


 俺様の怒りの鉄拳を体の髄まで叩き込んで二、三日立てなくしてやるから覚悟しておけや!!!!


 憤怒、激昂、義憤。


 負の感情をこれでもかと籠めたフィロの拳をこちらもまぁまぁな力を籠めた拳で迎え撃ってやった。
















 ◇




「――――。はぁぁ……、あの馬鹿が。少しは静かに戦えないのか」


 少しだけ離れた位置で無駄な馬鹿騒ぎをしつつ稽古に臨んでいるフウタとフィロの姿を捉えると口から大きな溜息が漏れてしまう。



 足場の悪い砂浜の上で体を鍛えるのは普段の訓練よりも効率が良いというのに、それを理解せず違う方向に体力を割くのは正に愚の骨頂だ。


 その点に付いてフォレインは誰よりも深く理解しているらしい。



「ハンナ様……。コホン、ハンナ先生。引き続き指導をお願いしますわ」


 激しい稽古に臨んでいる証拠である砂を体中に纏い必要最低限に会話を留めているのだから。


「フォレイン。お前は何故強くなろうと考えているのだ」


 砂浜の上に片膝を着いていた状態から静かな所作で立ち上がり、両手で木剣を構えた彼女に対して問う。



「私にはよく出来た姉が居ます。いつかは蜘蛛一族の女王の座に就く姉を側で支えてあげたい。その一心で強くなろうと考えていますの」


 ほぅ、姉が居るのか。それは初耳だな。


「家族を想い強くなりたいと願うのは殊勝な考え方だ。しかし、それだけでは強くなれん」


「と、言いますと??」


「己の前に立ち塞がる壁を乗り越える、誰が為に力を揮う、誰かを守るために死力を尽くす。高みを目指す者達は自ずと確固足る強き想いを胸に秘めている。只、家族の為に強くなるという漠然とした想いでは無く強烈な想いを胸に宿して訓練に臨め」


 早くから両親が他界して誰にも頼れず広い世界に一人残された俺はそうして育って来たからな。


 いいや、誰にも頼れなかったと言うのは些か語弊がある。



 俺が気付かなかっただけでクルリだけは俺の側にいつもいてくれた。



 彼女が俺に与えてくれた心の温もりがなければ今頃修羅の道に堕ちてしまい、マルケトル大陸に蔓延る野生生物や五つ首に殺されていたであろう。


 当時は全く理解に及ばなかったが誰が為に揮う剣は不敗の力を心と体に与えてくれる。


 生徒達にはそれを少しでも理解して欲しいものだな。



「ふふっ、ハンナ先生の御言葉。確とこの胸に刻みました」


 フォレインが微かに口角を上げて話す。


「そうか。では、引き続き高みへと昇る事にしよう」


 まだ両腕に力が戻らず、大分頼りない構えを取る彼女に向かって木剣を中段に構えてやった。


「えぇ、ハンナ先生と共にでしたら蒼天では無く。空を突き抜けた先にある天界にまで届く事でしょう」


 それは少々大袈裟だが……。彼女の想いはそれだけ強いという事であろう。


「さぁ行くぞ!! 俺の剣技を受けてみろ!!!!」


「はいッ!!!! 宜しくお願いします!!!!」


 フォレインが覇気のある声を放ち、両腕に力を籠めた姿を捉えると一秒にも満たない速度で彼女の体を己の間合いに収めてやる。


 足場の悪い砂浜でこれ程の踏み込みの速度は想定していなかったのだろう。


「ッ!?」


 己の間合いに突如として出現した俺の姿を捉えると大きな目が更に大きく上下に見開かれたのだから。


 その数舜の間が本物の戦場では命取りになる。


 それをお前の体に刻み込んでやるぞ!!!!


「ハァッ!!!!」


 フォレインの木剣に狙いを定めると己が木剣の柄を強烈に握り締めて下段から強烈に引き上げてやる。


「くっ!!」


 俺の木剣が彼女の木剣に触れると鼓膜が強烈に震える炸裂音が響き渡り、苛烈に伸び上がって来る力を抑え込めない彼女の木剣は物理の法則に従い上段に跳ね上げられてしまった。



 さぁ、己の腹部に巨大な死の隙が出来てしまったぞ??


 己の間合いが濃密に触れ合うこの距離では咄嗟に後方に飛び退いても俺の剣は届き、振り上げられた剣を振り下ろしても俺の剣の方が早く届くのは自明の理。


 お前に与えられている死を防ぐ選択肢は限られている。頭で考える時間の猶予が消失した死の間際で武の輝きを見せてみろ!!!!



「ゼァァアア――――ッ!!!!」


 がら空きになったフォレインの胴体に向かって一閃を放つ所作を取ると。


「ハァァアアアアッ!!!!」


 彼女は跳ね上げられた両腕を懸命に振り下ろして迎撃する姿勢を取った。



 その速度と来たら……。武に精通する者が思わず惚れ惚れしてしまうモノであった。



 ふっ、俺の気持ちを少しでも汲んでくれたのは実に喜ばしい事だ。


 だが貴様の取った選択肢は織り込み済みであり、予想の範疇を越えない反撃だぞ!!



「はぁっ!!」


 フォレインの木剣が俺の木剣に着弾するよりも早く砂浜に突き立てた左足を支点にして体を半回転。


「えっ!? きゃあっ!?!?」


 相手に背を見せる形で超接近戦に持ち込み、木剣の切っ先でフォレインの右手の甲を穿ってやった。



「これが実戦ならお前の右手は使い物にならないだろう」


 刹那にでも俺に焦りを生じさせ咄嗟に行動を変えざるを得なかったお前の行動は賞賛してやる。


「え、えぇ。その様ですわね」


 フォレインが敗北の赤き跡が残る右手を抑えつつ此方を見上げる。


「俺の攻撃に食らい付いて来る目の良さ、次の行動に素早く移行出来る膂力は及第点をくれてやる。しかし、戦いはそれだけでは勝てぬ。相手の行動を良く見て先の先を見据えて行動に至れ」


 種族特有の差と呼ぶべきなのか、生徒達の中でフォレインは相手の動きを見抜ける能力が突出している。


 俺の動きに食らい付いて来たのが良い証拠だ。


 目の良さは戦いの場に置いて戦略的優位性を見出せるが問題はそれを生かせるかどうか。


 フィロやイスハやエルザードはどちらかと言えば思考よりも感情が矢面に出て戦う直情型であり、ミルフレアは優し過ぎる性格が戦いの場に置いて邪魔になるであろう。


 流転する戦況の中で冷静さを持つ者の存在は貴重であり、戦場を俯瞰して捉えられる広い目は重宝する。


 単独、複数の敵に対して多角的に対応出来る様に己の腕と状況判断を磨くのがフォレインに与えられた使命なのだ。



「はいっ、有難う御座います」


 フォレインが微かに頬を染めて此方を見上げる。


「うむっ、では続きと行く……」


 右手に持っていた木剣を中段に構えようとした刹那。


「どわぁぁああああああああ――――ッ!?!?」


 後方から耳障りな雄叫びを放ちつつ此方に向かって来る物体の存在を確知してしまった。



 木剣で叩き落としてやっても良いが俺の剣は優しさの欠片も乱せない修羅の剣。


 生徒に対して不要な怪我を負わせるのは指導者として失格なので此処は一つ、回避行動を取るか。


「はぁぁ」


 双肩の力を抜いて半身の姿勢になるとそこにあったであろう俺の体の残像の中をフィロの体が通過して行き。



「ちょ、ちょっと退いてぇぇええええええ――――ッ!!!!」


「う、嘘!? キャアアアアアアッ!?!?」


 全く身構えていなかったフォレインが突如として飛来したフィロを体の真正面で真面に受け止めてしまった。



 はぁ……、馬鹿者め。


 相対する俺だけでは無く他にも注意を払うべきだと何度も伝えただろう……。



「い、いたた……。あ、あはっ!! フォレイン有難うね!! 私を受け止めてくれて!!」


「あ、貴女を受け止めた訳ではありませんわ!!」


「またまたぁ――。あんたのこの膨らみが無ければ今頃私はあそこの森の中に吹き飛んで行ったんだしっ」


「ど、ど、何処に触れているのですか!!!!」


 砂浜の上でじゃれ合う二人の乙女。



「だぁぁああ――!! シュレン先生!!!! もう少し威力を抑えてよね!! こっちばっかりじゃなくてミルフレアにも攻撃を与えなさいよ!!!!」


「わたしもがんばっているよ??」


 シュレンが放つ火球に対し結界を展開して必死に耐えている魔力に特化した二人の女児。


 そして。



「ダン!!!! み、見たか!? 今少しだけ出来たぞ!!!!」


「あ?? あ――、わりっ。自分の新技開発で手一杯だったから気付かなかったわ」


「こ、こ、この堕落指導者がぁぁああああ――――ッ!!!! 生徒がはげむ姿を常に捉えるべきじゃろうが!!!!」


「止めろ!! 狐の牙で頭に噛みつくんじゃねぇ!!!!」


 一頭の狐に頭を食い付かれて砂浜の上を転げ回る一人の男を捉えると何故だから知らぬが強烈な疲労感が双肩にドっと圧し掛かって来た。


 この喧噪が収まる頃にマリル殿から頼まれた空中散布の練習に取り掛かろう。


 熱射が降り注ぐ砂浜の上で軽い柔軟運動を終えて巨大な溜息を吐くと、静寂と静謐が跋扈する森の影へと向かって一人静かに歩んで行ったのだった。





お疲れ様でした。


二話連続の投稿で少々疲れたのかそれとも夏バテの所為か。ここ最近は物凄く体調が悪いですね。


一区切り付ける為にどうしても二話連続投稿が必要だったのですよ……。


次の投稿は少しだけ遅れてしまうかも知れませんがどうか御了承下さいませ。




ブックマークをして頂き誠に有難う御座いました!!


皆様の温かな応援が執筆活動の嬉しい励みとなりますよ!!!!


それでは皆様、お休みなさいませ。

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