第二百三十九話 森の中の穏やかな日々
お疲れ様です。
後半部分の投稿になります。
六ノ月上旬に相応しい眩い太陽の光が森の木々の間を縫って地面に届く。
森の奥に視線を送ると木々の合間を縫って差す光はまるで微風に揺れるカーテンの様に映り、ほぼ緑一色の世界に煌びやかな装飾を施していた。
本当に遠い場所からサァっと風が吹けば肌がにこやかな笑みを浮かべ、森の木々に生える葉と葉が擦れ合う音が少々お疲れ気味の心を癒し、森の微かな隙間から覗く青き空の断片が視覚を喜ばせてくれる。
緑に囲まれた森の中でも平原に居る時と変わらぬ様に本日の天候を捉えると、作業の手を一時中断して心に浮かぶ言葉を一切の装飾を加えないで呟いた。
「ふぅむ……。本日も晴天で何よりですねっ」
相棒の無駄にデカイシャツをキチンと折り畳み、やたらと目立つ赤色と漆黒の闇夜を彷彿させる二つの忍装束を物干し竿に掛け終える。
むっ、もうちょっとこっちに寄せた方が日に当たるな……。
「よいしょっと。ふぅっ!! うんっ!! これなら午前中に乾きそうっ!!」
新婚ホヤホヤの若妻の五割、六割程度が口に出した事があるであろう台詞を放つと腰に手を当てて新鮮な陽光に当てられている忍ノ者達の衣服を見つめた。
此処で生活をするようになってかなりの日数が経過しましたけども、何の不自由も無く生活出来ているのは恐らく俺の環境適応能力の高さのお陰でしょう。
簡易家屋の建築、やんちゃ坊主達の服の洗濯の世話や掃除等々。
俺が担当している家事は枚挙に暇が無いがこのどれかが欠如してしまったのなら、彼等は森の賢者様の顰蹙を買ってしまい此処で生活出来無い。
たかが家事の一つや二つで大袈裟だと世の主婦の大変さを知らぬ夫共は口を揃えて言うでしょうが、貴方達が想像するよりも家事は大変なのよ??
この労力が森の賢者様に若しくは生徒達に及んでしまえば彼女達は本来使用すべきであった自分達の時間を家事に割いてしまい、それに怒りを覚えてしまった森の賢者様から大変痛いお返しが降りかかる可能性があるのです。
毎日の家事は軽視する事が出来ない。
口をすっぱぁくして世の主婦様達の苦労を相棒達に説いても所詮彼等は馬耳東風。
俺の小言を駄目な夫の様に右から左へ流しやがるし……。
「たまにはワンパクだけじゃなくて家事の手伝いをして欲しいものですねっ」
ちょいと離れた位置でフィロ達に実戦形式で指導を施している三名の野郎共に視線を向けてそう言ってやった。
お――、相変わらず今日も激しくヤり合っていますなぁ。
「貰ったぁぁああああ――――ッ!!!!」
フィロが体の全弱点を敢えて晒して立っている相棒に向かって突撃を開始すると。
「ふっ、激昂するだけは得意の様だな」
相棒はその突撃が始まる前から彼女の心を見透かしていたのだろう。
余裕を越える余裕を持って己の顔面に向かって放たれた愚直な右の拳を回避した。
「躱されるのは織り込み済みよ!! これでぇぇええ、決める!!!!」
相棒の体を通過しようとする己の体を左足一本で停止させると、右足に炎の力を宿して相棒の胴体に目掛けて打つ。
おぉ!! すっげぇ!!
あれだけの速度を左足一本で相殺しちゃったよ!!
戦いのアレコレを知らぬ素人さん達は加速によって自重を増した体を停止させる苦労は知らないし、あの動作がどれだけ辛く体に負担が掛かるのを重々承知している俺は彼女の所作に思わず唸ってしまった。
フィロの足撃が間も無く相棒の胴体に衝突する。
誰しもがそう考えたのですが、彼は俺が想像するよりもちょいと上の武の世界に足を踏み入れていますのでね。
「ほぅ!! 毎日の走り込みは無駄では無かった様だな!!」
彼女が奥歯を噛み締めて放った足撃をいとも容易く回避。
「はぁっ!? い、今ので避けられ……。うぐっ!?」
大技を放って出来た胴体の隙に向かって筋力任せの掌底をブチ当ててしまった。
「完全に攻撃が当たるまで油断をするな馬鹿者。一度放った攻撃の次の次、更なる次を想定して戦闘に臨め」
「うきゅぅぅ……」
い、いやいや。お前さんは鬼か悪魔かい??
本物の戦士の掌底を真面に食らって後方に吹き飛び、痛むお腹を抑えて蹲る生徒に向かって説教を垂れるなっつ――の。
「ぎゃはは!! フィロ!! お前さんはそうやって蹲る姿が似合うぜ!?」
フウタが地面の上で悶え苦しむ龍の子を捉えるとケラケラと笑う。
「う、うっざぁぁああ!! 御飯を食べた後、お腹に掌底を食らったら誰だってお腹を抑えるでしょうが!!!!」
「それなら攻撃を受けなければ良い話だろう。お主の攻撃力は目を見張る成長速度だが、事防御に関しては落第点だ」
「シュレン先生まで……。ぐ、ぐぬぬぅぅ!! そこで白い前掛けをして洗濯を終えた新妻!!!! 私の攻撃は悪くなかったわよね!?!?」
あのぉ――……。私は家事に専念しており、先の攻撃に至るまでの経緯を知らないのですよ??
「そぉねぇ……。フィロちゃんはシュレンちゃんが言った通り攻撃は良いのよ?? でもね?? それだけじゃあ相棒達に攻撃を当てる事は出来ないのよ」
右頬に右手を添え、左腕に洗濯籠をぶら下げつつ話す。
「気持ち悪い所作と言い方をするな!!!!」
まぁっ!! あの子ったら!!
お父さんが居ないとすぅぐに私に歯向かうんだからっ!!
「今の言葉、決して軽く無いわよ?? お父さん(マリルさん)が帰って来たら絶対言いつけてやるもんっ」
「ぎぃぇっ!? 無し!! 今の言葉は無効だからねっ!!!!」
それは無理な話さ。君は責任を持って言葉を放つという事を覚えた方が良いからね。
「しっかし本当に気色悪い動きよねぇ……」
「エルザード、もう少し言葉を選んでは如何ですか?? あれは踏み潰されそうになった芋虫の動きを模倣しているのですよ」
「おらぁぁああああ――――ッ!!!! そこの阿保淫魔と根暗蜘蛛!! 今言った事忘れんじゃないわよ!?!?」
「シュレン先生、次のじゅぎょうまでじかんがあるからねずみのすがたにかわって」
「断る。某は今現在、マリル殿に代わってお主らを鍛えているのだ。指導と私生活の分別は付けるべきだぞ」
「やっ」
まぁまぁ、朝から本当に元気で御座いますねぇ……。
先日の狸一族とのやり取りが無かったかの様に元気一杯に動き回っている彼等を見つめていると鼻から長々と長閑な鼻息が漏れてしまった。
元気過ぎるのも大概にしろよと言いたいが、静かな森で暮らしていた彼女達は外から来た相棒達が与える指導全てが真新しく映るのだろう。
特にフィロやイスハはマリルさんの魔法を主とする指導よりも、相棒達が施す激烈な実戦形式の組手の指導を好んで受けているもの。
只、組手も程々にしておかないと貴女達が本来受けるべきである森の賢者様の指導に付いていけないぞ??
まぁ声を大にしてそう言っても龍と狐は聞きやしない……。
って、あれ?? イスハの奴は何処に行った??
あの手の指導が飯と同じ位に好きなワンパク狐ちゃんの姿が見えない事に違和感を覚えて周囲に視線を送り続けていると。
「のぉ!! ダン!! この翡翠の勾玉は何じゃ!?!?」
一頭の若狐が細い口に記憶の勾玉を咥え、四つ足を忙しなく動かして俺の足元へとやって来た。
「あぁ、それ?? 記憶の勾玉って呼ばれる珍しい代物さ」
「ほぅ!! 初耳じゃな!!」
初めて聞く単語を捉えると頭頂部の御耳ちゃんと三本のフワモコの尻尾がピンっと立つ。
「どんな力が秘められているのじゃ!! さっさと教えろ!!」
全く……。マリルさんが苦労するのも無理は無い。
この子達はちょ――っと目上の人に対する態度がアレだものね。
「それを教える前に……。どうしてお前さんは俺の荷物の中を漁ったのかな??」
鉱石百足を討伐した記念に手に入れた勾玉はいつかその機能を最大に活用しようとして、背嚢の最奥に仕舞ってあったのに。
「ワクワクした匂いをとらえたのじゃ!!」
あ、うん。それは尻尾の振り幅からして分かるんだけどね??
お母さんは人の荷物を勝手に持ち出したら駄目だと言いたいんだぞ??
「はぁっ、まぁいいや。この勾玉は周囲の光景を記憶する力を持っているんだよ。試しに今からそれを見せてやる」
狐の涎が付着した勾玉を己が手の平の上に乗せて矮小な魔力を籠めると、勾玉が蛍の様な淡い明滅を彷彿させる光を放ち周囲の記憶を開始。
「これ位で良いだろう。んで、記憶した周囲の光景はこうして手を握り締めて魔力を籠めれば今まで記憶した光景が映し出されるのさ」
そして記憶の勾玉を握り締めて小さな魔力を籠めるとほぼ透明に近い流れる絵が周囲に映し出された。
『ン゛!? お、おい。勾玉が光ってんぞ!?』
『フウタ、お前さんが覗き込むから俺達が見えねぇだろうが』
鉱石百足を討伐した際に記憶した光景に。
『ギャハハ!! 誰が相棒の鼻に箸を突っ込んだんだよ――!!!!』
『ふっ、龍一族との激戦の連続で余程疲れているのだろう。静かに寝させてやれ』
『ブギャハハ!! だ、だっせ――!! 鼻に箸を突っ込まれればどんな美男子でも超絶不細工に見えるよなぁ!!』
ガイノス大陸を発つ前、どうにかして相棒のクソ格好悪い顔を記憶してやろうとして天幕の中で記憶した光景と今し方記憶した景色等々。
半透明に映る動く絵が俺を中心として映し出された。
「何じゃそれは!! す、すごすぎるぞ!?」
「ふふん、だろう?? 俺達が死に物狂いで鉱石百足を……」
記憶の再生を止めて鉱石百足の恐ろしさを説いてやろうとしたのですが。
「アァァアアアアアア!! そ、それって記憶の勾玉じゃないの!?」
「あいだっ!?」
俺達のやり取りを遠目で見つめていたフィロに勾玉を奪取されてしまいそれは叶わなかった。
と、言いますか。
猪突猛進を心掛ける猪さんもドン引く勢いで体当たりをする必要はありましたか??
「いてて……。ガイノス大陸出身のお前さんは知っていたか」
「知るも知らないも……。これって鉱石百足から採れる超珍しい勾玉よね!? もしかして誰かから譲って貰ったの??」
「まさか。東のフォートナス家、つまりグシフォスちゃんからの依頼を受けてブチ倒して来たのよ」
「いやいや!! 絶対有り得ないし!! 鉱石百足を倒そうとして何人もの龍一族が死んじゃったのよ!? し、しかも!! 能無しって揶揄されているあのグシフォスがあんた達に依頼をする訳ないじゃない!!」
能無しって……。酷い言い方だな。
「へぇ、良く知っているな。お前さんは何処の方角の出身だい??」
お尻ちゃんに頑張ってしがみ続けている横着な砂粒ちゃんをパパっと払いつつ問う。
「私は西のマルメドラよ」
「――――。もしかして、お前さん……。バドルズの娘??」
フィロの赤い髪の色を見つめていると覇王継承戦の一回戦に登場した飄々とした彼の姿が脳裏に浮かぶ。
「えっ!? どうして父さんの事を知っているの!?」
あらまぁ、記憶の勾玉だけじゃなくてこっちの御話にも驚いている御様子ですわね。
「知っているも何も。お前さんの親父さんは覇王継承戦の一回戦で南龍の奴等と戦って負けちゃったからな」
「えぇぇええええ!?!? 私が留守の間に覇王継承戦が行われたの!?!?」
もう五月蠅いなぁ……。森に住む野生動物が驚くからもう少し静かに驚きなさいよね。
「だ、誰が勝ったの!? それとうちの馬鹿親父の成績は!?!?」
「お、落ち着け!! 胸倉を掴まれたら話すのも話せねぇだろうが!!!!」
「あ、あぁ。ごめん……」
ったく……。息が詰まって窒息寸前になっちまったぜ。
「じゃあ説明してやるよ。俺達は冒険の途中でガイノス大陸に寄ったって事は前に説明したよな?? 紆余曲折あってグシフォスと知り合い、んで釣りしか頭に無い野郎の代わりに鉱石百足を退治。それから俺達は東龍の代表として覇王継承戦に臨みぃ……」
「ダン達が覇王継承戦にぃ!? 嘘でしょう!?」
「手を離しなさい!!!!」
もう嫌!! 誰かコイツの体を拘束してやってくれ!!!!
二度目の絞殺技をギュウギュウと食らっていると俺の様子を見かねたシュレンが静かな足取りでやって来てくれた。
「フィロ、ダンが言っている事は真実だ。某達は東龍の代表として覇王継承戦に臨み一回戦で北龍を撃破、決勝戦では南龍を撃破してグシフォスは見事覇王の座を継承したぞ」
「シュレン先生達が化け物揃いの戦いに参戦した事も驚きだけど、あのグシフォスが覇王の座を受け継いだのも信じられない……。それに!! 巨龍一族に勝てたって話もね!!」
「あぁ、取り分けビビヴァンガはやばかったな。アイツ、遠慮なしに俺の体をぶん殴ってきたもん」
「ダ、ダンが凶獣ビビヴァンガと対峙したの!? ねぇ!! どんな戦いをしたか教えて!!!!」
「教えてやるから先ずはこの手を離せって言ってんだろうが!!!!」
「わ、わしにもその戦いを教えろ!!!!」
一度手を離した両手を再び俺の首元に当ててギュウギュウと締め付け、更に戦いの様子を強請るイスハの横着な手が腰に絡みつく事に目を白黒させていると……。
「――――。ふぅぅ……、只今戻りました」
静かな森に眩い光を放つ魔法陣が浮かび上がり、その光量が収まると大変お疲れな御様子のマリルさんが現れた。
目元は若干青ざめ、双肩は重たい何かを乗せたかの様にずっしりと重く輝きを失う瞳。
その姿はまるで歴戦の主婦達が蔓延る大安売りという名の戦場から帰って来た新米妻そのものであった。
「あら?? 随分と楽しそうな事をしていますけど何かあったので??」
マリルさんが俺の様子を捉えると端整な御顔に陽性な感情を籠めて話す。
「全然楽しくありませんよ!?」
俺は首を絞められて喜ぶ変態じゃあありませんのでね!!
「ふふ、冗談ですっ。フィロ、直ぐにその手を離しなさい。さもなければキツイ指導を与えますからね」
「わ、分かったわ……」
すっげ、横着で不躾な生徒をたった一睨みで抑えちゃったよ。
「ケホっ……。はぁ、苦しかった。マリルさん、お帰りなさい。どうでしたか?? 狸一族との交渉は」
閉塞感を覚える首を解し、森の新鮮な空気を肺に取り込むとそう問うた。
あの事件の後、マリルさんは率先してウォルの住民達と狸一族との交渉代理の役を買って出た。
各住民が受けた被害の賠償額を決定したのならそれを伝えにスイギョクさんの下へと移動し、支払うべき賠償額の細かい調整へと入る。又、彼女が請け負う依頼はそれだけでは無くウォルの街に残った魔物達の営業許可並びに汚染された田畑の浄化も請け負っているのだ。
賠償額の細かい計算、長距離の空間転移、そして薬の調合。
彼女が担当する仕事量は俺達が想像するよりも遥かに重労働であり、ここ数日の間は俺達が生徒達の面倒と家事を請け負っているのです。
勿論?? 不器用な相棒達に家事を任せたのなら生徒達はおろかマリルさんの疲労度に拍車を掛けてしまう蓋然性があるのでそっち方面は主に俺が担当しているのですっ。
「概ね良好といった感じでしょうか。住民の方々に支払うべき賠償額は七割から八割方決定したのですが……。汚染された田畑の浄化に苦戦していまして」
でしょうねぇ。昨日は深夜まで薬の調合に汗を流していましたもの。
「ぶっ倒れたら洒落にならないですし……。明日は休んだら如何です??」
「御心配有難う御座います。私はこう見えても結構体力があるんですよ??」
マリルさんが可愛い拳をムンっと握って胸を張る。
「まぁそう仰るのなら止めませんけども……」
「では私はこれから薬剤の調合に取り掛かりますね」
帰って来て早々生徒達の様子をざっと確認すると休む間もなく仕事、ね。
俺が心配している以上にマリルさんに疲労が蓄積されているのは目に見えて居る。でも、彼女が大丈夫だと言ったのだから余計な言葉を掛ける必要は無いのか??
「お疲れ様です。でも……、本当に無理は駄目ですからね?? 此処に居る全員がマリルさんの体の事を自分の事の様に心配していますので」
家屋に向かって行く大変形の良いお尻ちゃんを確と視界に捉えつつ話す。
うんっ!! 体はお疲れですけども今日の形も大変宜しいですね!!
「万の言葉よりも今の言葉の方が励みになりましたよ」
「そりゃ良かった。それじゃあっしは引き続き洗濯作業に取り掛かります!!」
青みがかった黒き髪をフルっと揺らして此方に振り向いてくれた彼女に対して上空に輝く太陽よりも眩い笑みを浮かべてそう言ってあげた。
「ダンさんも頑張って下さいね。あ、そうそう……。詳しい日程は分かりませんが、交渉の仕事が一段落したら傷薬を街に売りに行くのですが付いて来てくれます??」
「へい!! そりゃ勿論!!」
「ふふっ、有難う御座います。それじゃ失礼しますね」
大変疲れた足取りで家の扉を開けて影の中に姿を消したマリルさんの後ろ姿を見送ると溜め息に近い吐息を長々と吐いた。
「ふぅ――。マリルさんって他人の為に身を切り過ぎる質があるよな」
「まぁねぇ。先生は自分よりも他人の事を優先するし」
「それが人間なら尚更じゃな」
フィロとイスハが俺と同じ心配の色を滲ませた瞳で家の扉を見つめる。
「魔物でありながら人の身を案ずる、ね。本当に良く出来た人だよ」
「マリル先生はダンが想像しているよりも数十倍格好良くて優しい人なのよ。さて!! お邪魔虫が居なくなった事だし!? さっきの話の続きを話しなさい!!!!」
お邪魔虫って……。
君は数秒前、彼女の事を尊敬していると言ったばかりだよね??
「そこに居るシュレンに聞けって。俺は洗濯の続きがあるんだよ」
本日も黒頭巾で頭をすっぽりと隠すシュレンに向かって顎を差してやる。
「まぁ家事があるのなら仕方ないわね……。それじゃあシュレン先生!! 龍一族との激闘を聞かせなさい!!」
「わしにも聞かせるのじゃ!!」
「あ、いや……。某はこれから指導があってな……」
「フィロ、イスハ。だめっ。シュレンせんせいはこれから私とあそぶの」
「ミルフレア。話を聞いていたのか?? 某はマリル殿の代わりにお前達に対して指導を施す必要が……」
「やっ」
はは、ガキンチョ共に絡まれて右往左往してら。
忍ノ者はどんな時でも気を、心を揺らさず冷静を保つべきじゃなかったのかい??
下手に揶揄するとこっちに酷いしっぺ返しが襲い掛かって来る可能性があるし、俺は言葉通り責任を持って己に課された家事を済ますとしますかね!!
「大陸南側から上陸しようとした我々はビビヴァンガの強襲に遭い、奴が放った大火球から身を挺して守ってくれたハンナと共に形容し難い生物が住む森に不時着した。摩訶不思議な森を抜けて湖に到着すると……」
「そんな前から話さなくても結構よ!! あそこの森は私達龍一族の中でも厄介な場所って知られているし!!」
「シュレン先生!! そいつのいう事を聞くな!! わしはお主達の冒険の詳細を知りたいのじゃ!!」
「シュレン先生。はやくもりにでかけよう」
「ええい!!!! 一気に話し掛けるな!!!!」
「ふふ――んふんっ。今日は天気も良いし、たぁくさんの洗濯物が乾きそうですよねぇ」
三方向からの強力な攻撃に珍しく狼狽える彼の姿を己が眼に収めて安堵の吐息を漏らすと両手に洗濯籠を持ち、本日の主戦場である洗濯場へと大変軽やかな足取りで向って行ったのだった。
お疲れ様でした!!
漸く最終話の流れがキッチリと纏まったので本日から連載を再開させて頂きますね。
久々の投稿でしたので少しだけ緊張しちゃいましたよ……。この後数話は軽い日常話が続きますが過去編最後の日常話だと思って楽しんで頂ければ幸いです。
さて、連日暑い日々が続いていますが読者様の体調は如何でしょうか??
夏バテを罹患しない様にしっかりと食べてぐっすりと眠って体力を付けて下さいね。
いいねをして頂き有難う御座いました!!
それでは皆様、素敵な週末をお過ごし下さいませ。




