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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第二百三十六話 吉報を齎す神鳥 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




「よ、よぉ!! 相棒!! 遅かったじゃないか!!」


 相棒の歩みの延長線上に出来た群衆の割れ目に向かって勢い良く右手を上げてやる。


 彼の顔はほぼ怒りに染まっていますが歩みは大変落ち着いたものだ。あの様子なら叩き切られる事も無いでしょう。



「喧しいぞ。そいつが……、俺の有意義な時間を潰した張本人か」


 彼がスイギョクさんを捉えると怒りを滲ませた声色で話す。


「初めまして、美男子さん。ダンさんの様子からして彼等のお仲間ですか??」


「そんな所だ。貴様には幾つか問い詰めたい事がある」


 相棒が静かに振り返ると、随分と酷いナリの男が頼りない足取りで俺達の前に現れた。


「……」


 所々が破れた衣服、清潔だとは言い難い蓬髪、そして栄養失調がまざまざと現れている表情。


 恐らく彼が拘束されていたケイナーさんでしょう。


 随分と元気が無いが命に関わるまでの状態に至っていない様子のケイナーさんを群衆の中の住民達が捉えると驚きの声では無く、怒号が響いた。



「ケ、ケイナー!? お前の所為で俺達は酷い目に遭ったんだぞ!?」


「てめぇ!! 今までどこをほっつき歩いていやがった!!!!」


「持ち逃げした金は無事なんだろうな!?」


 そりゃあ金を持ち逃げした奴が唐突に現れれば誰だって怒号の一つや二つを放ちたくなるでしょうに。


「皆さん、落ち着いて下さい。そう事を荒立てては話が進みませんよ??」


 群衆から湧き起こる憤怒の熱量を即座に感知したマリルさんが柔らかい笑みを浮かべて彼等を宥めてくれる。


「み、皆!! 落ち着いて聞いてくれ!! 俺はこの人の部下に襲われて連れ去られていたんだよ!!」


「はぁ!? じゃあ街から出て行くお前の後ろ姿を見たって証言はどう説明するんだ!!」



「その点に付いては私から説明しましょう」


 マリルさんが微動だにしないスイギョクさんに鋭い視線を送りつつ、群衆から放たれる怒号とは真逆の冷静沈着な声色で此度の事件の詳細を話し始めた。



「ウォルの街が狸さん達に実効支配されてしまった発端はケイナーさんがお金を持ち逃げしてしまった事によります。それによって債務者の義務である債務の弁済が叶わなくなり、住民の皆さんは苦しい思いをしながら働き今日に至ります」


 彼女がゆっくりとした口調でそう話すと群衆に視線を送る。


「御覧の通り彼は沢山のお金を持ち逃げしたとは思えぬ姿をしていますよね?? それと……。ほら、あちらの方々を御覧下さい」


「うぅっ……。いてぇ……」


「な、何だよこの蜘蛛の糸!! 全然解けねぇんだけど!?」


 マリルさんが静かな所作で少しだけ離れた位置の地面の上で悶え打っている五名の野郎共に指を差す。



「あの五名はケイナーさんを拘束していた者達です。金庫に保管されているお金を略奪すると他人に化けるという狸一族の固有能力を使用してケイナーさんに化け、敢えて住民にその姿を見せて行方をくらます。そうする事によって債務の弁済が困難になるという全ての罪をケイナーさんに擦り付ける事が可能となります。ただ、それだけでは彼女が思い描いた未来予想図は完成しません」


「どういう事だ」


 住民の男性が瞳の中に憤怒の炎を揺らしながら問う。



「この街は農作物の生産によって生計を立てています。作物の生産に時間は掛かりますが無事収穫出来たのならそれを売ったお金で債務を弁済すれば、或いはスイギョクさんに渡せば彼女達はこの街を出て行かざるを得なくなります。しかし……、幾ら田畑を耕しても特定物債務である農作物は育ちませんでしたよね??」


「あぁ、田畑を耕しても水を与えても作物は育たなかったぞ」


「それは……。消石灰とザミド草並びにフロン草を混ぜ合わせた混合薬物を投与した結果なのです」


「……ッ」


 マリルさんがそう話すとスイギョクさんの眉が微かにピクリと動いた。



「ザミド草とフロン草は煎じて飲むとお通じに良く効くのですが、この三つを混ぜ合わせると……。作物の生育に多大なる悪影響を及ぼすのです。言わば生育阻害の効用の一種ですね。彼女は何処から得たのか知り得ませんがこの情報を利用して薬物を田畑に撒き作物の飼育を阻害。貴方達の返済を滞らせてしまったのです」


「な、成程。そういう理由があって育たなかったのか……」


「「「「……っ」」」」


 群衆から向けられる目の全てに怒りという単純明快な感情が浮かび、それは全て一点に注がれている。



 俺がスイギョクさんの立場なら悪事を暴露された動悸によって体中に冷や汗が浮かぶ事であろうさ。


 だが、彼女は憤怒の目を向けられても動じる処か涼し気な顔を浮かべていた。



「ふぅ――……。黙って聞いていれば在りもしない事をスラスラと述べて。私はこの街の住民の方々と真摯な態度で交渉に臨んでいました。それは住民の皆さんの体が五体満足である事を見れば容易く判断出来ると思われます。それに、貴女が述べた証拠は全て状況証拠に過ぎませんので意味をなしませんよ??」



「アイツ等の口を割ったら貴様の名が出て来たぞ」


 スイギョクさんの背を凝視している相棒が後方で力無く倒れている五名の男達に指を差す。


「さぁ?? あの方々が誰かは知る由もありませんね」


「じゃあ、あんたはケイナーさんが襲われた話も関与しないっていう事??」


 フィロが体の前で腕を組みつつ険しい瞳を浮かべて問う。


「勿論です。私はこの街の為と思い今日まで尽くして来ました。ほら、御覧なさい?? 以前の田舎町とは違って此処には円熟した経済が発展しているではありませんか」



 肥沃な大地で育った四季折々の食材に舌鼓を打ち、味の効用に目尻を下げて自然の恵みに感謝する。


 彼等はこれまで自然を敬服し、愛して共に生きて来た。


 それなのに街の現状と言えば私利私欲を肥やそうとする無頼漢共が街を跋扈して男と女の欲が入り混じる色欲の街に変貌を遂げてしまっている。


 スイギョクさんの才運で確かに街は発展した。


 しかし、その影には藻掻き苦しんでいる住民達の悲壮な実状があり彼等は自然豊かで平穏な街が戻って来る事を切に願っているのだ。



「街は以前と比べて発展しているけどそれとこれは話が違いますぜ?? 究極の発展は街の住民も外から訪れる客達も満面の笑みを浮かべる事だ。それなのにこの街には人知れず涙を浮かべている住民達が大勢いる。外面ばかりよくても内面が最悪なのは了承出来ないって話なんだよ」


 心に湧く怒りを口調に滲ませぬ様、冷静を努めてそう話す。


「それでは仮に私が諸悪の根源だとしましょう。その仮説を証明する確固足る証拠を提示してくれますか??」


 スイギョクさんが落ち着いた様子のままで椅子に腰掛けて俺を見上げて来る。


「えぇそれは勿論。そろそろ証拠を持った変態鼠がやって来る頃合いだと思いますよ??」


「変態鼠?? それはもしかして……」


 己が住まう家屋の方へ視線を向けると同時。



「退いた退いたぁぁああああああ――――ッ!! 天下の色男の登場だぁい!!!!」


 手筈通り裏で事を進めていたフウタの馬鹿みたいに大きな声が鳴り響いた。


 あの口調からしてスイギョクさんの家に忍び込みそしてケイナーさんの家族を救出する事が出来た様だな。



「あ、あなた!!!!」

「お父さん!!」


「お前達!!!!」


 群衆を掻き分けて登場したケイナーさんの家族が彼の姿を見付けるとちょっとだけ心配になる足取りで駆け寄り家族の愛を確かめる様に強烈に抱き締め合った。



「へへっ、待たせたな!!」


「いんや、抜群の登場の仕方だぜ??」


 俺の顔を捉えてニッ!! と笑みを浮かべている親友ダチに此方も笑みを返してやる。



 博打開始時からさり気なく姿を消し、表で行われている騒動に紛れてスイギョクさんの家に侵入して彼の家族と証拠書類を盗み出す。


 それがフウタに与えられていた任務であった。


 普段はちゃらんぽらんで女に目が無い奴だけどヤル時はやるんだよねぇ。



「イイ男ってのは格好良く登場するもんだからな!! やい巨乳姉ちゃん!! 俺様達はテメェ等の悪事を完全完璧に見抜いているんだぜ!?」


 フウタがスイギョクさんの顔では無く、胸元を凝視しつつ彼女の顔にビシっと指差す。


「ですから私はそれの証拠を提示して下さいと申している最中なのですよ??」


「へへっ、勿論提示してやるぜ。それも群衆の前でなぁ!! これがぁぁああ!! 何よりの証拠だぜ!!!!」


 彼が真っ赤な忍装束の懐に勢い良く右手を突っ込みそして乾坤一擲となり得る証拠を蒼天に向かって高々と突き上げたのですが……。




「っと!! えへっ、これは違ったねっ」


 彼の右手に収まっていたのは嫌に赤が目立つ女性用下着であった。




 あ、あ、あの野郎ぉぉおお!! 彼女が留守の時間を極限にまで利用して自分好みの下着を漁りやがったな!?!?


 俺だって出来れば中々お目に掛かれない大きさの下着をマジマジと眺めていたかったのにぃぃいい!!!!



「こういう時位はしっかりして下さいっ」


「アババババッ!?!?」


 フウタの馬鹿な真似にちょっとだけキレ掛けたマリルさんが右手を翳すと彼の足元に魔法陣が浮かび上がり、そこからまぁまぁ強烈な雷の力が彼の体を突き抜けて行った。


「ほぅっ、某と同じ位の威力だな」


「シュレン先生よりマリル先生のほうがつよいんだよ??」


「いいや、某は負けてはいない。後、いい加減にその請う手を下げろ。某達はこれから一仕事があるのだから」


「やっ」


 シュレンとミルフレアのいつものやり取りも何だか肩の力が抜ける展開に一役買っているし……。


 此処は一つ、場を引き締める為にも俺が責任を取りましょう!!



「馬鹿野郎が。お前さんの所為で場の緊張感が霧散しちまったじゃないか。ってな訳で、俺がこのふざけた大きさの下着を預かるぜ??」


 さり気なく、そして流れに沿う様に……。


 地面に落ちてしまった下着を誰から見ても完全完璧な機会タイミングで回収しようとしたのですが、森の恐ろしい賢者様はどうやら森羅万象を見通す万物の目をお持ちの様ですね。



「ダンさんもふざけないで下さいっ」


「アギベベベベバァッ!?!?」


 フウタがブチ食らった雷なんてメじゃない強力な雷が体を穿つと地獄の亡者の顔がサっと青ざめてしまう苦悶の声が口から自然と漏れてしまった。


 な、何この痛み!? 体が頭の命令に従わず勝手に踊り狂っちゃうんですけどぉ!?!?



「はぁ――……、申し訳ありません。お馬鹿さん御二人の所為で証拠提示が遅れてしまいましたね」


「「カ、カペペ……」」


「ふん、馬鹿共が。そこで猛省していろ」


 相棒の大変ちゅめたい声と蔑む目を受けても地面の上で動けないでいた。



「えっと……。あぁ、これですか。よいしょ……。これが貴女の部屋に隠してあった書類ですね」


 マリルさんが俺の代わりにフウタの懐から書類一式を取り出すと皆に見えやすい様に机の上に置く。



「人が留守の間に盗みを働くとは……。盗人猛々しいとは良く言ったものですね」


「盗人にも三分の理という言葉を知りませんか?? いかなる事でもこじ付ければ幾らでも理由が付けられる事です。今回は緊急事態の為、犯罪紛いの行為を働かせて頂きました。この書類には大量の消石灰とダミド草とフロン草の取引が実際に行われた際の値段が記されています。更に貴女の家屋の地下にはケイナーさんの家族が幽閉されていました。私がこれまで説明した事、並びにこの書類に付いて説明を願えますか??」



「これはこれは……。大変困りましたねぇ」


 ケイナーの偽物、拉致監禁されたケイナー本人、口封じの為に幽閉された彼の家族に作物の発育阻害を促す混合薬物。


 もう言い逃れが出来ない状況にも関わらず何故あの人は涼し気な態度を保って居られるのだろう??


 まぁそれは恐らく彼女が最終最後にまで取っておいた策の所為であろうさ。


「「「「……ッ」」」」


 彼女の低い声を受け取ると群衆の中に紛れ、スイギョクさんの後方で静かに待機している狸一族達の瞳が一気に物騒なモノに変容したのだから。



「私としても困ります。早く説明をして下さいっ」


「私が困り果てている理由。それは……、武力行使に至らずを得ない状況を生み出してしまった貴女の存在よ」


 来るか!?


「これまで穏便に事を進めていましたがどうやらそれは此処までの様ですね。我々狸一族の力を存分に味わいなさい!!!!」


「野郎共!! 住民達とよそ者を力尽くで抑えろ!!!!」


「「「「「「おぉぉうっ!!!!!!」」」」」」


 一人の男性から野太い叫び声が街に轟くと狸さん達が一斉に魔力を開放して俺達に襲い掛かって来やがった!!



 よっしゃああああ!! 髪の毛がチリっと焦げていてちょっと格好悪い姿で申し訳無いけども!!


 ド派手な喧嘩を始めましょうぜ!!



「フウタ!! ヤるぞ!!!!」


「お、おぉっ!! 髪が焦げくせぇけどやってやらぁ!!!!」


 地面の上で鼻に付く燻す匂いを共に放っていたフウタに発破を掛けると勢い良く立ち上がり、俺に向かって来る二名に対して迎撃態勢を整えた。



 俺は二体、んでフウタにも二体。


 相棒とシュレンと彼の近くに居るミルフレアは放置しても構わないが生徒達の戦闘状況は一体どうなって……。



「住民の皆さんは戦場から避難を!! フィロとイスハが前衛を!! フォレインは中間距離で敵の攻撃を抑えつつエルザードは最後方から敵を牽制しなさい!! ハンナさんとシュレンさんと私で残りの敵を無力化します!!」


 ハハ、流石マリルさん。俺よりも早く戦場状況を理解して最適な指示を与えてくれましたね。


「分かったのじゃ!!!!」


「おっしゃぁぁああああああ!!!! 私は此処よ!! ポンポン狸さん達掛かって来なさい!!!!」


「ちょっ!! そこの脳筋龍!! 私が指示を出す前に勝手に動くな!!!!」


「あの狐と龍を御すのが我々の仕事なのですよ??」



 よし!! これなら自分だけに襲い掛かって来る奴等に専念出来るぜ!!!!



「掛かって来い!! 薄汚い狸ちゃん!! ダンお兄さんが成敗してあげますからね!!」


「このクソ野郎が!! たった一人で数人を相手に出来ると思うんじゃねぇぞ!?」


 お生憎様、この程度の窮地なら腐るほど経験してきたので幾ら凄んでみせても全く効かねぇって!!


 殺気に全振りした瞳で襲い来る野郎二人に対し此方は余裕を持って迎撃体勢を整えたのだった。




お疲れ様でした。


次話からは狸さん達との大立ち回りが始まるのですが、戦いの描写を執筆するのが苦手ですので苦労しそうですよ……。


さて、梅雨真っ盛りですが週明けからは酷い暑さがやって来るみたいですね。急に暑くなって体調を崩してしまいそうなので気を付けないといけません。


夏バテの基本対策はキチンと食べる事。本日はその例に倣って冷やし中華を食したのですが、私が住む地方では冷やし中華にマヨネーズとカラシを入れる習慣があるのですよ。今日もそれをぶっかけて勢い良くススって完食。食後のコーヒーを満喫しながら執筆を続けていましたね。



ブックマークをして頂き、そして評価をして頂き有難う御座いました!!


皆様の温かな応援が執筆活動の励みとなり、今日まで連載を続けられています!! これからも心を籠めて執筆を続けますので見守って頂ければ幸いです!!



それでは皆様、引き続き素敵な週末を過ごして下さいね。

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