表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
1188/1237

第二百三十六話 吉報を齎す神鳥 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 空には俺の心の色を表すかの様に美しい青が広がり地の果てから清らかな風が吹けば更に心の青がその純度を増して行く。


 俺達の周りを取り囲む群衆のどよめきが一つの事を成し遂げたという達成感の効用を高め、そこから湧く感情の高揚によって沸々と上昇して行く体温は地の果てから届く清らかな風が鎮めてくれる。


 椅子の背に体を預けたまま体を弛緩させていると本当に幾つもの感情が湧いては消え、俺の体は感無量の念を抱いたままそこから動こうとはしなかった。


 これまで幾つもの死を克服して来ましたけども、まさか博打でそれと同程度の達成感を得られるとは思わなかったぜ……。


 それだけスイギョクさんの博徒の才は強烈であったのだ。



「はぁ――……。空が美しい事でっ」


 徐々に西へと傾いて行く太陽ちゃんの笑みに向かって端的な言葉を放つと。


『おいおい。まだ全てが終わった訳じゃないからそこまで気を抜くなよ??』


 当事者では無い彼若しくは彼女は俺とは真逆の呆れた声で気を引き締める様に忠告した。



 それは勿論分かっていますって。俺達が成すべき目的はこれで漸く半分って所なのでね。


 それに乾坤一擲となる手役をブチ食らった彼女がこの様子を見逃す筈が無いのだから。



「ダンさん。早く始めましょう」


 ほらね、恋人に夜の御供を強請る女性の様に俺を急かす声が真正面から届きましたので。


「分かっています。ですが、もう少しだけ感無量の感情に身を委ねていたい気分なのです」


 見方によってはだらしのない姿勢でそう話す。


「なはは!! 先生の強運に心が耐えられなかったか!!」


「もうちょっと心を強く持ちなさいよね」


 今は生徒達の揶揄う声も心地が良いぜ……。


「しっかし……。先生の運ってちょっとヤバくない?? 後ろで見て居た私達も度肝を抜かされたもの」


「偶々ですよ。それにあの手札を引けたのは此処までダンさんが頑張ってくれたお陰なのですから」


「けんそんしなくても良い!! 他ならぬ先生だからこそ引けたのじゃよ!!」


「ふふっ、有難う」


 赤き髪の女性と金色の髪の餓鬼んちょから賞賛の声を受けて満更でも無いマリルさんの笑みを百八十度反対になった視界で捉えていると、今度は温かな達成感とは真逆のちゅめたい風が心の中にサァっと吹いて行った。



 もしもあの時、俺が手札の束から一枚を引くとなれば恐らく最後の九は引けなかっただろう。


 キャイキャイと騒ぐイスハが言った様にマリルさんだからこそアレを引けたのだ。


 彼女が持つ目に見えぬ力は俺にとって本物の幸運の女神様となってくれた。



 一度目は猛毒から俺を救い、二度目は窮地に追いやられてしまった俺の手を救い上げてくれた。



 うぅむ……。そう考えるとマリルさんは俺の守護天使じゃなかろうか?? そんな下らない妄想が湧く程に彼女の姿が眩しく見えて来る。


 このお礼はいつか返しますのでどうかその時まで側に居させて下さいましっ。


 地上に降り立ったちょっとだけ格好悪い服装で身を包む俺の守護天使ちゃんを見つめていると心の臓がヒェッと冷えてしまう声色が放たれた。



「いい加減に始めますよ?? 私は気が長い方では無いのですから」


「はいはい、分かりましたよ――っと」


 だらしのない姿勢を解除して首を元の位置に戻すと弛緩した体と心を引き締める為に軽く首の筋を解す。


「もう二度と今の様な僥倖は起こりません。いいえ、起こさせないと言った方が正しいかも知れませんね」


「最強の一撃を繰り出す前に此方の命を絶つ、という訳ですか」


 博打が始まる前よりも微増した此方の金貨へと視線を落としつつ話す。


「仰る通りです。うふふ……、私に此処まで食らい付いたのはダンさんが初めてですからね。これから始まる戦いは私の人生の中でも一、二を争う素敵なモノとなるでしょう」


 これから起こるであろう蹂躙を想像して大変おっそろしい笑みを浮かべて手札を切っている様ですがぁ……。



 どうやらスイギョクさんが思った様な博打は出来ないと思いますぜ??



「出来れば俺も夜通し付き合いたいのが本音ですけど……。申し訳無いが素敵な博打の時間はこれまでの様ですよ??」


 スイギョクさんの後ろにある本当に遠い空の果てへと視線を送りながらそう言ってあげた。



 ったく……。相変わらず痺れる登場の仕方だぜ!!



「はい?? 一体何を……。ッ!?」


 おっ、どうやら其方も相棒達の強烈な魔力の鼓動を掴み取った様ですね。


 スイギョクさんがハッとした表情を浮かべると机の上に手札の束を置き、素早い所作で体を捻って俺の視線を追った。



「せ、先生!! やっとハンナ先生達が来てくれたわね!!」


「ほっほぅ!! 相も変わらず化け物級の魔力じゃな!!」


「ふふっ、あの飛翔速度からして吉報を期待して良さそうです」


 空の果てに浮かぶ矮小な黒き点が秒を追う毎にその輪郭を確実に帯びて行き、今となっては明確にその大きな形を目視する事が出来る。



 白き頭の先には鋭い嘴が備わり巨大な胴体には大地を削り取る鉤爪が備わった二本の逞しい足が。そして風を自在に捉える神々しい翼が一度上下に動くと俺の心に眩い光が生まれた。


 空の覇者に相応しい神翼を青き空の中で大きくはためかせる姿は正に圧巻。


 もう何度も見て来たがそれでも決して飽きない彼の姿を捉えていると群衆から今日一番のどよめきが響いた。



「お、おい……。何だよあの馬鹿げた大きさの鳥は!!」


「や、やべぇ。もしかしたら俺達アイツに食われちまうかも!?」


 御安心下さいませ。彼は主に肉を好み、たまぁに気食の悪い汎用虫を食べますが人肉は決して口にしませんので。


「ふぅぅ――……。いつも俺を待たせやがって。お母さんはいつも口を酸っぱくして言っているでしょう?? 時間はキチンと守りなさいって」


 街の大通りに居る俺の姿を捉えたのだろう。


 此方の遥か頭上で大きな旋回を開始した白頭鷲の神々しい姿を見上げつつ言葉を漏らした。



「とぉぉおおおおおおおお――――――!!!! じゃああん!! 私、登場っ!!」


 かなり高い位置から華麗に地上へと降り立ったエルザードが美しい桜色の髪をかき上げて推参を告げる。


「先生、お待たせしました」


 そこから微かに遅れて登場したフォレインがマリルさんの前で静々と頭を垂れる。


「いえ、此方も今し方用事が終わった所です。それで?? 首尾は如何でしょうか??」


「えぇ、それは勿論。私達は先生の御使いを滞りなく済ませましたわ」


 ほぅ!! そりゃ結構!!


 蜘蛛の子が浮かべた柔らかい笑みからして俺の御使いをキチンとこなしてくれたようですね。


 相棒には後で美味い飯をたらふく食べさせてあげよう。そう、御使いをちゃんと出来て偉いねぇっという意味を兼ねてね。



 空の中で旋回行動を続けていた白頭鷲が徐々に高度を下げ、通りの真ん中に向かって鋭い猛禽類の視線を向けると地上に神々の使いである神鳥が降り立った。



「シュレンせんせい。とうちゃくした」


「うむっ。分かったからいい加減に離せ。某はこの横着者達を下ろさなければならないのだから」


「やっ」


 白頭鷲の背からラミアの子と彼女の両手の中にすっぽりと収まる一匹の鼠が同時に降り。



「……」

『さっさと降りろ』


「「「「わぁぁああああ――――ッ!?!?」」」」


 相棒が乱雑に体を左右に振ると拘束された五名のゴロツキが地面に転げ落ちて行った。



 へぇ、アイツ。相手を殺さずちゃんと生け捕りにしたんだな。


 俺とマリルさんの御使いをちゃんとこなしてくれた彼に対し、子の成長を見守る親の温かな目で見つめていたのですが……。



 彼は恐らく自分の時間を有意義に使えなかった事に怒り心頭なのでしょう。



 適度な毛繕いを終えると。


「…………ッ」


 ながぁい首を縦にぐぅぅっと伸ばして横顔を此方に向けると片側一つの大きな猛禽類の瞳で確実に俺だけを捉えて睨み付けて来た。


 黒き瞳孔は獲物を捉えたかの如くキュウっと広がり、金色の目は己の心の空模様を表すかの様に真っ赤に血走る。


 例え魔王を倒した勇者でさえもあの瞳を捉えたのならば腰に携える剣を放り捨てて脱兎の如く逃げ遂せる事だろう。



 こ、こ、こっわ!!


 何アレ!? 目力だけで人を殺せる奴じゃん!!!!



「……っ」


 彼の凄みに、殺気に耐えられず卓上の手札に向かってフっと視線を落としてしまった。


 だ、誰だって二階建ての建物と変わらぬ高さから睨まれたら視線を外しちゃうって。



「お、おい。あの化け物……。俺達を睨み付けているぞ!?」


「まさか食うつもりか!?」


 いいえ、違います。彼は俺だけを標的としているのですっ。



「ふんっ、馬鹿者が。手間を掛けさせおって」


 相棒が人の姿に変わり愛剣を左の腰に差して此方へゆっくりとした歩みで向って来ると。


「うっそ!! すっごい美男子イケメンじゃん!!」


「はぁっ……。あの顔だけで御飯三杯は食べられそう……」


「私の店で手取り足取り……。素敵なやり取りで一夜を過ごしたいわぁ」


 その姿を捉えた群衆の中の女性人達から黄色い声援を勝ち取ってしまった。



 ある者はぼぅっとした瞳で相棒の端整の顔を捉え、ある者は感嘆の吐息を漏らしながら鍛え抜かれた体を凝視し、またある者は煌びやかに瞳を輝かせて相棒の下半身の一点を注視している。



 あの野郎……。登場しただけで女の子の視線を一点に集めやがって。いつか鷲の里に帰ったのならクルリちゃんに絶対言いつけてやるぞ。


 彼は各大陸で女性達の心を奪い続けていた、ってね!!



お疲れ様でした。


現在、冷やし中華を食しながら後半部分の執筆並びに編集作業に取り掛かっていますので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ