第二百三十四話 博徒の才
お疲れ様です。
本日の投稿になります。
空に浮かぶ太陽は五ノ月後半としては強力過ぎる光量と熱量を放ち地上で暮らす者達の体温を音も無く沸々と温め続けている。
雲もそれを嫌ってか将又太陽の熱によって消失したのか青き空に白は一切確認出来ず、ほっと一息付けそうな涼し気な影は確認出来なかった。
頭上から降り注ぐ光量と。
「聞いたかよ?? アイツ、スイギョクさんと勝負するみたいだぜ??」
「本気で?? 不敗の女郎花と呼ばれる彼女に勝負を仕掛けるとか正気の沙汰じゃないぞ」
「ねぇ、あの人大丈夫かしらね……」
「スイギョクさんは賭け事に滅法強いからねぇ。借金だらけになったら私の店で飼ってもいいんじゃない??」
「あはっ!! それも良いわね!! あの人結構可愛らしいし!!」
群衆から湧く興味と興奮の声が博徒としての俺の闘志を燃やしてくれた。
時が経つに連れて街の通りのド真ん中で繰り広げられる賭け事に興味を惹かれた者達が続々と集まって行き、今となっては通りを埋め尽くさんばかりの勢いで膨れ上がって行った。
群衆の大半は俺がボロ雑巾みたいに負ける様を見届ける為だろうが、小兵が一矢報いる事も多々ある事を忘れてはいけませんぜ??
後、そこのお姉さん??
俺は犬では無くてれっきとした一人の男ですので飼う飼わないの話はお止め下さいませ。
好奇の目を浮かべている彼女達にそう言ってやりたいが今は目の前の勝負に集中しようとしましょう。
狸ちゃんが態々用意してくれた椅子に腰掛けて机の上に置かれている手札に視線を向けていると、群衆から湧いていた音の波がピタリと鳴り止んだ。
「お待たせしました」
群衆を掻き分けて登場したのは本日の勝負の相手、不敗の女郎花と呼ばれるスイギョクさんであった。
大変露出度の高い薄い黄色の浴衣を着用しており実りに実った双丘の陰りは男の性を悪戯に刺激する。
長い髪は綺麗に後ろで纏められており昨晩とはまた違った印象を此方に与えてくれた。
「いえいえ、自分はぁ特に気にしていない……」
盛りに盛り上がった谷間に強烈な視線を送ろうとしたのですが。
「おほんっ」
「ッ!? さ、さぁ!! 集中しましょうかね!!!!」
後ろから途轍もない殺気を纏った咳払いが鼓膜に届いてしまったので慌ててソコから視線を外し、机の上の微妙な擦り傷に視線を置いた。
な、何だよ今の殺気……。まるでし、死神が俺の首にデカイ鎌を掛けたかと思ったぜ。
「なはは!! 何じゃダン。勝負の前から冷や汗をかきおって」
「あんたが馬鹿正直に胸元を直視するからそうなるんでしょ」
イスハとフィロの揶揄う声が耳に痛いですっ。
「ダンさんさえ宜しければずぅっと見つめて貰っても構わないですよ??」
何ですと!?!?
俺の真正面。
机越しに腰掛けた彼女の甘い誘惑を真面に受け止めて視線を元の位置に戻そうとするが。
「駄目に決まっています。さぁ、スイギョクさん?? 先ずは取り決めを説明して下さいっ」
「ギビィェッ!?!?」
お尻ちゃんにズキンとした痛みが生じた後、体全身に痺れる感覚が駆け抜けて行った。
しょ、勝負開始前に負傷したら洒落になりませんぜ!?
これから始まるのは大事な勝負事ですので手加減してくれたら幸いで御座います!!
「九十九の基本の取り決めも、役の強さも、倍率もそのままで。賭金の上限は金貨五枚。三枚目を引く際には賭けた賭金をそのまま上乗せする。それで如何でしょうか??」
「つまり、金貨三枚を賭けたのなら三枚目を引く時は金貨三枚。計六枚を賭けるという事で宜しいです??」
大変痛むお尻を撫でつつ話す。
俺のお尻ちゃん大丈夫だよね?? ちゃんとくっ付いているよね??
「仰る通りです。二枚対三枚で、二枚側も三枚側も役の強さで勝った方が卓上の賭金をそっくりそのまま得られます」
ふぅむ……。と、なるとやはり純粋な運の勝負になりそうだな。
「成程ねぇ。おい、ダン。出来るだけ二枚で勝てよ??」
俺の左後方に居るフウタがそう話す。
賭金が少ないほうで勝った方が、効率が良いから誰だってそうしたいけども……。
「俺も出来るだけそうしたいけどこればっかりはどうしようもねぇさ。運の女神様の御機嫌を上手に取った方が勝つ。そういう仕組みなんだよ」
「その言い方ですとかなりの場数を踏んでいますね??」
「そりゃもう。鼻の毛、尻の毛、果ては此処じゃ言えない毛まで毟り取られた事がありますので」
地元の酒場じゃ朝が来るまで賭けていた事もあったし。まぁその大半はちょい負けか、ボロ負けかの二択だったんだよね。
酒が入ると気持ちが大きくなって次も勝てる、次こそは勝てる!! 等々。説明出来ない謎の勝運を信じてしまいましたので。
「ふふっ、それは楽しめそうですね。それでは早速始めましょうか」
「宜しくお願いします」
椅子に腰かけたまま静かに頭を下げるとスイギョクさんの後方で静かに佇んでいた男が機敏な足取りで此方にやって来る。
「彼は??」
茶がかった黒髪の男性の真面目そうな面持ちを見上げつつ問う。
黒色の薄手の上着を着込みキチンとした身なりは人に好感を与えてくれる。
「手札を配る係、とでも申しましょうか。私達が一回の勝負毎に手札を切っていたら時間が掛かってしまいますでしょう??」
「はぁ、そうですか」
「では勝負を始めます」
彼が真面目な顔に良く似合う冷静な声色を放つと手際の良い所作で手札を均一に切って行く。
手慣れた所作に唸る一方で博打打ちとしての俺が彼の所作を一挙手一投足見逃すなと強烈な警告を放った。
俺に一枚を配って数字を表示、続いてもう一枚を伏せたまま配り終える。
「……っ」
そしてスイギョクさんにも同じ流れで配り終えた刹那にドス黒い感情が胸一杯に広がって行きやがった。
この野郎……。いきなりイカサマを堂々と披露するとはイイ根性してんじゃねぇか。
これから始まる真剣勝負の前にそれはちょいと許せん。
そしてダン様相手にイカサマは通用しねぇとして配り役の男の腕を捻ってやろうとしたのだが。
「よぉ、兄ちゃん。右手をそこの机の上に置いてくれるかい??」
フウタが戦闘時と変わらない圧を纏ったまま彼に言葉を掛けて俺の行動を制止してしまった。
「はい?? こうですか??」
「そうそう良い感じだぜ。それじゃっ、上等ブチかましたお礼をしましょうか……。ねぇっ!!!!」
忍ノ者が真っ赤な装束の懐から小太刀を素早く取り出すと、何んと!! 机の上に置かれている彼の手の甲に突き刺すではありませんか!!
いやいや!! 流石にそれはちょっとやり過ぎじゃね!?
「ギィィアアアアアア――――ッ!?!?」
殺傷能力の高い刃が男の手を貫通すると苦悶の声が賭場に強烈に響いた。
「テメェ、俺様の目を誤魔化せると思ったのか??」
男の手を突き刺したままフウタが彼の袖付近を勢い良く引っ張ると袖から数枚の手札が卓上にパラパラと落ちて来る。
「フウタ、その辺りにしてやれって。この程度のサマを見抜けなければイイ鴨になっちまうぞって忠告だろうさ」
だから敢えて勝負一発目でイカサマを仕掛けて来たのだろう。
卓上に広がりつつある血だまりの中から深紅に染まった剣の手札を取ってそう言ってやった。
うわぁ、痛そう……。
貫通した小太刀と肉の間から今もドクドクと痛々しい血が流れ出ていますもの。
まっ、大金を賭けた賭博にイカサマを持ち込んだコイツの自業自得って事で。
「うふふ、私の想像した通りですね。幾つもの修羅場を潜り抜けて来たダンさん達にはイカサマは通じませんか」
「その通りです。手札を配る彼の手は使い物になりませんので俺達で交互に手札を配りましょうか。勿論?? 袖を捲ってイカサマを出来ない様にして」
そう話すと茶の上着を脱ぎ、己が腰掛けている背もたれに掛けてやった。
「私は服を脱ぐ訳にはいきませんので……。これで宜しいでしょうか??」
スイギョクさんが薄手の浴衣の袖を嫋やかな所作で捲ってくれる。
「えぇ、構いませんよ」
「分かりました。それでは改めて素晴らしい戦いを始めましょう」
彼女が美しい笑みを浮かべると背後に待機していた野郎共が机の上の血だまりを手際良く拭き。
「お、おい。大丈夫か??」
「あ、あぁ……。幸い腱は無事だ」
もう一人の野郎が右手を抑えて蹲る彼の体を大事そうに抱えて群衆を掻き分けて消えて行った。
「ちょ、ちょっとフウタ。やり過ぎだって」
「そうじゃぞ!! 顔面を張り倒す程度にとどめておくべきじゃったな!!」
突然の出血騒動に驚いたフィロとイスハが素直な驚きの声を上げる。
「馬鹿かテメェ等は。これから大金を賭けた博打が始まるんだぞ?? イカサマを見付けてそれは駄目だろ――ってニッコニコの笑みを浮かべながら咎めても無意味だ。こっちは相応の覚悟を持って臨んでいるんだからそっちもそれ相応の覚悟を見せろって意味合いなんだよ」
フウタが小太刀に付着した深紅の血液を勢い良く振り払いつつ話す。
「フウタさんの仰る通りです。今の行為は私達の目を試されたのです。それを見抜けない様じゃこの場に居る資格はありませんからね」
俺としてもフウタとマリルさんの意見に大賛成なのですが、流血沙汰は出来るだけ控えて欲しかったのが本音だ。
「「「……ッ」」」
ほ、ほら。スイギョクさんの後方と俺達を取り囲む狸一族ちゃん達の人相が思いっきり険しくなりましたのもの……。
一触即発の雰囲気の中で始まる九十九は中々の緊張感を伴いそうだぜ。
「それじゃ俺様は小太刀に付着した血を拭いて来るわ。ダン、負けるんじゃねぇぞ??」
「おうよ!! がっぽり稼いでやるからさっさと行って来い!!」
ニッと軽快な笑みを浮かべて群衆へ向かって行くフウタに右の拳を突き出してやると改めてスイギョクさんと対峙した。
「では手札を配りますね。私は賭金二枚で」
「俺も金貨二枚で勝負します」
宜しくお願いします。
そんな意味を籠めて静かに頷くと彼女がかなり慣れた手付きで手札を切ってくれる。
賭金の選択を終え、卓上に金貨二枚を置きそして相手に見えない様に己の二枚目の手札を確認するとそこには槍の絵札の『二』 と書かれていた。
そして表示されている手札の数は『三』。
最も九に近い数は二と三を掛けて六、か。
「……」
己の数を確認し終えるとスイギョクさんの前に表示されている数へ視線を送る。
彼女の表示されている手札は『五』。 あれが九になるのは二枚目の手札が『四』 のみ。
そして俺の表示されている『三』 の手札が九になる数は『三』 と 『六』。
俺が彼女に勝つ確率は単純に二倍の数値、そして三のゾロ目になる可能性もあるのですが果たして相手はどう出るのか、それをじっくりと見物……。
「私は三枚目を引かずにこのまま勝負します」
親番である彼女が静かに言葉を漏らすと感情が一切読み取れぬ表情で此方を見つめて来た。
あ、あらら。もう素直な勝負に出るのですが。其方のお手並み拝見と行きたかったんですけどねぇ……。
「じゃあ俺はもう一枚引かせて貰いますぜ!!」
最初の賭金として金貨二枚、更に三枚目を引く為にもう金貨二枚を卓上に置き机のド真ん中に置かれている手札の束の一番上の手札を勢い良く引いてやった。
俺に配られた二、と三の手札。
そして三枚目の数字で九が出来るのは……、『一』 『三』 『四』 『五』 『六』 『八』 『九』の七種類だ。
配られた数よりも低くなってしまう数が……。おぉ!! 一つもないじゃん!!
九種類ある中からその内の七種類を引けばいいのでかなりの確率で勝てる筈!!!!
これって最初からツイてぇ……。
「ん――……。二、ですか」
まっ、俺の運なんてそんなもんですよねぇ……。
いきなり九にする事は出来なかったが三枚目に引いた二によって八にする事が出来た。
まずまずの数値といった所でしょう。
「それじゃあ勝負!! 俺は八ですぜ!!」
伏せられている一枚目の手札を捲り此方の手役の強さをお披露目すると。
「あら、残念。負けてしまいましたね」
彼女は特に表情を変えず一枚目の手札を捲るとそこには『二』 と書かれた剣の手札が表示された。
「んお!! へへ、悪いね!! 一回戦目は俺の勝ちって事で!!」
卓上に置かれていた二枚の金貨を手元に引き寄せてキュっと口角を上げた。
スイギョクさんに配られた数は二と五。
つまり三枚目で九になる数は……、『二』 『七』 『八』だな。
そして配られた数よりも低く若しくは同じ数字になってしまうのが……。『三』 『六』 『九』 だ。
確率的には五分と五分だが二枚目よりも低くく若しくは同じ数字になってしまう危険性を回避して三枚目は引かなかったのだろうか??
石橋を叩いて渡る、じゃあないけども彼女は確実性を重視する性格なのでしょうかね。
「それじゃあ俺が親番ですね。ちゃちゃっと切って――っと!! じゃあ賭金はさっきと同じで金貨二枚で!!」
「では私は五枚にしましょう」
い、いやいや。いきなり五枚ってかなり飛ばし過ぎじゃあないですかね??
相変わらず無感情及び無表情な彼女と同じ位手慣れた手付きでカードを配り終えるとさっそく己の手札を確認した。
一枚目の表示手札は『一』 二枚目は『三』 か。
んっ!! よっわ!!
景気良く一回戦を勝ったのだから右肩上がりで数値が良くなっていけばいいのに……。
ブスっとした表情のままで彼女の表示手札を見つめるとそこには『三』 の数字が表示されていた。
向こうの表示手札は『三』 か。
二枚の手札で三が九になる数字は『三』 と『六』 の二種類のみ。
そして三のゾロ目は三倍の賭金を貰えるのですが果たして彼女はどういった反応を見せてくれるのでしょうかね。
「……ッ」
真剣そのものの視線のまま伏せられている手札に視線を送り、そして暫くの熟考の後。
「――――。じゃあ三枚目を引きますね」
新たに金貨二枚を卓上に乗せて三枚目を引く事にした。
と、言いますか俺はどの道三枚目を引かなきゃいけないんだけどね。
俺の手札は『一』 と 『三』。
この数字を九十九の取り組みに則り九に近付けると四が限界値になる。そして三枚目を引いて弱くなる数字は一切無いのだから。
「てやっ!! おぉ……。『四』 ですね」
可能であれば九になる数字を引きたかったのだが勝負の女神様はどうやら俺にだけ手厳しい御様子だな。
これで向こうには配布時の一枚目の『三』 と。引いた三枚目の『四』 が表示されている。
この二つの数字と、伏せられている数字を組み合わせて九になる数字はぁ……。
『二』 『三』 『四』 『五』 『七』 『八』 『九』 の七種類か。
九種類ある内の七種類で九が完成されるのだから向こうから見れば俺の手札は中々強力な数字に見えやしないだろうか??
七種類の以外の数字だと……。伏せられている数字が一なら八、六なら八か。ちゅまり、勝つ為には最低でも八以上の数値を叩き出さなければなりませんぜ??
伏せられている数字は弱い方の数字二種か、それとも九となる七種類なのか。
まぁスイギョクさんは五枚の金貨を賭けているのでこれ以上の賭金増加は痛手となるだろうし、此処は己の手役を信じて二枚で勝負を仕掛けて来るで……。
「三枚目を引くので金貨五枚を上乗せしますね」
「へっ??」
俺の思惑とは裏腹に更に金貨五枚を卓上の中央に置くと手札の束の上から一枚の手札を特に表情を変える事も無く引いてしまった。
「お、おいおい。いきなり金貨十枚って……」
「こりゃ大金が動きそうな気配がするぜ」
そして彼女の強気な賭金が群衆からどよめきの声を勝ち取った。
強気な勝負を仕掛けて来るって事はそれなりの数があの下に書かれているのか??
庶民にとって金貨五枚はかなり高額だと言うのにそれを一切躊躇無く出すという事はそれだけ手役に自信があるからなのでしょう。
頼むぜぇ……。弱い手役が行きます様に!!!!
「それでは手札を表示しますね」
「うぇっ!?」
彼女が慣れた手付きで全ての手札を表示するとそこには『三』 と『三』 と『二』 の数字が書かれていた。
あ、あ、あ、あっぶねぇ――!!!! もしも手札束の中の最後の『三』 を引いていたらいきなり金貨四十枚を支払う所だったぜ!!
こ、この姉ちゃん。賭金云々より手役の倍率を重視する性格かよ!!!!
三と三のゾロ目で満足していれば確実に卓上の金貨と俺の手持ちの金貨の十五枚を得られたものの、金貨四十枚を求めて最後の『三』 を敢えて引きに来やがった。
相手に圧倒的大差を付けられる可能性が残っているなら、分の悪い賭けでもそれが乾坤一擲となり得るのならそこへ迷わず賭ける。
真面な考え方を持っている奴なら博打が始まって二戦目でこの賭け方はしない、そうこれは頭のネジが一つ二つ外れた博徒の中でも異彩を放つ賭け方だ。
金貨十五枚、つまり普通の仕事の給料約七か月分がたった一回の勝負で吹き飛ぶ恐れがあるのだから。
可愛らしい顔をしてとんでもなくエゲつねぇ賭け方をしやがって……。
「マ、マジかよ……。三の三ゾロ目を求めて三ゾロを捨てるか?? 普通」
「あ、あり得ねぇ賭け方だぜ」
「ふふっ、二回戦は引き分けですねっ」
群衆のどよめきを割ってスイギョクちゃんの澄んだ声色が鼓膜をそっと揺るがす。
「ゼヒュッ……。も、もう既に心臓がギャアギャア騒いでいて息をするのも困難ですぜ……」
常軌を逸しに逸した賭け方を食らう此方の身も少しは考えて欲しいのが本音だ。
「ダン!! もっとしゃきっとせんか!!!!」
「そうよ!! そんなアホな賭け方をする女なんてギャフンと言わせてやれ!!」
イスハとフィロの声援が背に届くが今は一々構っていられねぇ。
少しでも気を抜いたら金貨百枚なんてあっと言う間に掻っ攫われちまうぞ。
「では、次は私の親番ですね。続いて三回戦。もっと素敵な戦いを繰り広げましょう」
スイギョクさんが口角を歪に曲げて笑みを浮かべると背の肌が一斉に泡立ってしまった。
た、頼むぜぇ……。幸運の女神様。
相棒が来てくれるまで俺に戦えるだけの軍資金を残して下さいませ……。
この場に居る筈も無い幸運の女神様に強烈な願いを唱えるが。
『あはっ!! 毎度毎度無駄な願いを唱えても無駄ですよっ』
きゃはっ!! と腹の立つ眩い笑みを浮かべて俺の願いを秒で却下してしまった。
玉砕覚悟で本丸に突っ込むしか生き残る術は残されていないのか?? それとも専守防衛を図り軍資金を減らさぬ様に戦うべきなのか……。
補給路も退路も断たれた兵士の絶望感にも似た悲しい感情が胸の中一杯に広がらぬ様、此方も精一杯のぎこちない笑みを浮かべながら死神が同席する賭場でお先真っ暗な賭けを続けていた。
お疲れ様でした。
本話でもご紹介した九十九なのですが、その中で役の話が出てきました。
これを麻雀に例えると……。七対子を目指している時、たまぁに対子がアンコになる場面があるじゃないですか。
その時、四暗刻を目指すのか。将又安い七対子を目指すのか運命の分岐点が訪れます。
がっつり点数を稼ぎたいのなら対子を捨てて四暗刻へ。現実的な聴牌を目指すのなら七対子へ。
自分の点数が少ないのなら勿論夢を見て四暗刻なのですが現実主義の思考を持つ者なら七対子を目指します。まぁそれは河に捨てられている牌次第なのですけども、読者様はどちらのタイプですか??
麻雀なんて知らねぇし!! という方もいらっしゃるかと思いますので気になったら麻雀の役を調べて下さいまし。
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それでは皆様、お休みなさいませ。




