第二百三十二話 九十九
お疲れ様です。
本日の投稿になります。
空に浮かぶ太陽さんは今日も元気一杯の御様子であり地上で暮らす者達の体温を温めてあげようとして強く光り輝いている。
光を遮る遮蔽物は空に一切存在せず、五ノ月下旬としては強過ぎる光が俺の頭上に降り注ぎ全然疲れない速度で歩いているのにも関わらず額に汗がじわりと滲んだ。
こんな晴れた日にはカワイ子ちゃんと御手手を繋いで楽しいお出掛けに興じたいのですが、生憎俺にそんな時間は残されていないのです。
「ふぅっ……」
体の節々に若干残る疲労感と後頭部の小さな痛みを誤魔化す様に吐息を漏らすと、朝にも関わらず人の往来が激しい通りの正面に視線を送った。
「お早う御座いま――す!! 当店は朝割引を実施しておりますのでまだまだ元気一杯の方はお立ち寄り下さいね――!!」
若干の眠気が残る目元で客引きをする男性。
「昨晩の疲れが残る体じゃ今夜を越せませんよ――。当店では選りすぐりの可愛い子達がお客様に整体を施しておりますので一見の価値ありですよ――」
やる気があるの無いのか、中途半端な声量で客引きをする女性。
「夜に備えて栄養補給を考えている方はうちに寄ってよ!! 巨木もびっくりする位に反り立つ事間違いなしッ!!!!」
そして俺の頭上の鼠の興味を多大にそそる声を放つ中年男性の快活な声。
ウォルの街は昼夜という概念は無く、各店舗は己の利益を上げようとして空に浮かぶ太陽よりも強い光を放ち通りを行き交う人々の財布に狙いを定めていた。
ったく、まだまだ後頭部が痛むのだからもう少し静かに客引きをしなさいよ……。
昨日の亡霊の襲撃事件以来、後頭部の傷口がズキズキと痛むのよねぇ。
俺が気を失っている間にスイギョクさんから治療を受け、それから何故か大変不機嫌なマリルさんから追加の治癒魔法を受けたものの。微妙に中身が傷む感じだ。
痛みを誤魔化す為に如何わしいお店に出向いても良いのですが、森の賢者様のおっそろしい監視の目があるのでそれは叶わない。
万が一、億が一。
その監視の目を掻い潜ってお店にお邪魔させて頂いたとしても後でとんでもねぇ痛みが襲い掛かって来る蓋然性があるのです……。
詰まる所、俺はマリルさんが提唱した作戦通りに行動せざるを得ないのだ。
「ダ、ダン!! スイギョクちゃんの家に寄る前にあの店に行こうぜ!!!!」
俺の頭の上に乗る阿保鼠が巨木もびっくり仰天する程に反り立つ料理を提供してくれる店を指差す。
やっぱり不能なお前さんはあの店に興味を引かれましたか。
「あのな?? 俺達はこれから狸ちゃん達に一矢報いようとしているんだぜ?? 呑気に飯を食っている時間はねぇんだよ」
「英気を養う意味も兼ねてだよ!!」
あぁ鬱陶しい!! 頭に響くから無意味に俺の頭頂部を叩くんじゃねぇ!!!!
「後で行けば良いだろ。道草を食っているとこわぁい森の賢者様にお叱りを受ける事になるぜ」
俺達よりも随分と前を歩いて先行しているマリルさんの格好良過ぎる背中に視線を送った。
深夜の作戦会議並びに超早朝からの行動にも関わらず一切体の芯がぶれていないのは日頃の鍛錬の賜物って感じですよねぇ。
あの細い体の何処に野太い体力があるのか、甚だ疑問が残るばかりだ。
「むふふ……。さぁって、もう直ぐ一暴れ出来そうな感じだし?? 体がウズウズしちゃうわね」
フィロが己の指導者の背を見つめつつ拳を開いては閉じ。
「十分に寝たからわしも元気一杯じゃぞ!!」
イスハは三本の尻尾をいつもより三割増しの速さで左右に揺らしていた。
「勘違いするなよ?? 俺達は今からスイギョクさんと戦うんじゃなくて『交渉』 するんだぞ??」
何かきっかけがあれば直ぐにでも暴れ回りそうな二人を咎めてやる。
「分かっているって。ハンナ先生達がケイナーさんを探して来るんでしょう??」
「超早朝に森に一度帰還してマリルさんと一緒にそう伝えたけど……。俺達は相棒が此処に来るまで住民や客達の目を引き続ければいいのさ」
月が大欠伸を放つ深夜、痛む後頭部の機嫌を取りつつ乾坤一擲となり得る作戦会議を宿屋で行った。
『私に良い考えがありますっ。この作戦が上手くいけば狸さん達を街から追い出せる事が出来ますよ』
猪突猛進を心掛ける鼻息の荒い猪さんも満場一致で合格点を叩き出す荒々しい鼻息を放ったマリルさん曰く。
これまで俺達が行った調査の結果、狸達が企てた悪事を見事に看破したそうな。
その理由に付いて問い正すと彼女は得意気に語り始めた。
『突如として……、いいえ。狸さん達に都合の良い機会で姿を消したケイナーさんと隔離された彼の家族。フウタさんが偶然入手してくれた地図と取引の書類。そしてダンさんを襲った私の亡霊。これらの情報から導き出される答えは…………』
『『『な、成程……』』』
『すぴぃ……』
もう既に限界を迎えていたイスハを除く三名がマリルさんの推理に頷き、彼女が提案した作戦行動を朝も早くから行っていたのです。
相棒もびっくりしていたよなぁ、俺達が突然帰って来て。
『相棒!! 起きろ!! 頼みたい事があるんだ!!!!』
『ハンナさん!! シュレンさん!! 起きて下さい!!!!』
『な、何だ!? 急にどうしたのだ……』
『朝も早くから騒々しいな……』
簡易家屋内で大変気持ち良さそうに眠っている相棒の肩を思いっきり掴んで左右に揺らして夢の世界から現実の世界に引き戻すと、俺達が唐突に出会った事件の詳細をまだまだ眠気眼の彼等に伝えて行く。
『――――。ってな訳で、この地図に印された場所を相棒達に捜索して欲しいんだ』
『それは構わぬが……。ケイナーと呼ばれる者の情報をもう少し詳しく教えろ』
『あぁ、構わんぜ。それと相棒とシュレンが持っている金を全部借りるぞ??』
『金?? そんな物何に使うのだ』
何度も瞬きを繰り返している相棒とシュレンに今回の作戦の肝を話すと。
『『何て手間のかかる事を……』』
呆れた溜息を勝ち取ってしまった。
俺だって本当は単刀直入に事件を解決したいよ?? でも今回の作戦の発案者であるマリルさんは血生臭い事件を嫌っていますので致し方ないのですっ。
「面倒よねぇ……。証拠は全部揃っているんだから横っ面をブッ叩いてちゃちゃっと解決しちゃえばいいのに」
「わしもフィロに賛成じゃ」
どうやら君達はマリルさん側では無く、血気盛んな俺の相棒側に身を寄せている様ですわね。
「フウタが見付けた書類やケイナーさんの偽物。これら全ては俺達だけが知り得ている情報だ。それをスイギョクちゃんに向かってどうだ!! って提示してもあぁそうですかで終わっちまうだろう。売買契約に携わった住民達の前で証拠を示してやるのが肝なんだよ」
今回の作戦の肝は俺達が揃えた証拠も大事だが、最も大切なのは言い逃れの出来ない状況を生み出す事だ。
売買契約の当事者である債権者と債務者だけではなく第三者、四者の目。
様々な立場と視点から証拠を精査して貰い奴等の退路を綺麗さっぱりと断つのだ。
「その時間稼ぎ何だけどよ……。スイギョクちゃんがこっちの提案に乗らなかったらどうするんだよ」
頭上のフウタがのんびりとした口調で問う。
「この街を見れば一目瞭然だろ?? スイギョクさんは色を好む傾向があるし、俺が提示した金貨を見せびらかせばきっと食いついて来る筈だぜ」
「筈じゃあ困るんだよなぁ――」
御尤もで。
今回の作戦の唯一の穴はそこだよな……。
彼女が仕事で、私用で忙しいとしてこちらの提案を断ってしまえば作戦の第二案に移行せざるを得ない。
「第二案はあれでしょ?? ハンナ先生達が来るまでスイギョクの家を包囲するって話よね??」
フィロが徐々に正確な輪郭を帯びて来たスイギョクさんのお家に視線を送りつつ話す。
「正解。奴等の逃げ場を無くし、ケイナーさんの家族を救出した後にハンナ達の到着を待つ。力技に移行せざるを得ないから多少の流血をも厭わない」
平和と平穏を愛する彼女が第二案を嫌ったのは恐らく、というか確実にこの事を嫌っての事だろうさ。
ハンナとシュレンが手間のかかる事を嘆いたのも頷けますよっと。
「クソ面倒だよなぁ。俺様達に反抗するのなら拳で制裁すればいいってのに」
「だからマリルさんは俺達と違ってあくまでも口頭で問題を解決したい優しい人なんだよ」
「へいへい、奴等が牙を剥かない限り俺様は大人しくしているわ」
嘘くせぇ言い方だな……。
フィロ達の手綱はマリルさんが握っているから大丈夫だとして、コイツの手綱は俺がしっかりと握っていなければ不必要な喧嘩が起きそうだぜ。
「ン゛ッ!? おいダン!! 今すれ違った子見たかよ!? あんな整った丸みのある尻なんて早々見られないぜ!?!?」
もう勘弁してくれ。お前さんの横着の所為で何度も要らぬ躾を食らいたくないのよ……。
ほら、熱血指導者が俺達の行動を見逃すまいとしてギラっとした瞳を向けているでしょう??
「……ッ」
「は、はいは――いっ!! 間も無く到着しますからねぇ――!!」
一足先にスイギョクさんの家の玄関前に着いたマリルさんの大変ちゅめたい瞳に急かせる様に足を忙しなく動かすと、遂に悪の親玉が住まう家の前に到着した。
「皆さん揃っていますね。それでは作戦を決行しましょう!! すいませ――ん。スイギョクさんはいらっしゃいますか――」
マリルさんがコホンっと一つ咳払いをして大変御立派な扉を三度叩いて此方の存在を告げると。
「――――。朝も早く何の用だ」
誰しもが睡眠不足であろうと断定出来る顔付きの野郎が扉からぬぅっと顔を覗かせた。
ありゃまっ、すんげぇ寝不足気味な顔だな。
体調不良に繋がる恐れがありますのでぐっすりと眠る事をお薦めしますわよ??
「お早う御座いますっ。スイギョクさんに御用があるのですけど……。彼女は御在宅ですか??」
「姉御に何の用だ」
「ん――……、何の用……。私達、いえ正確に言うと此方の男性は大変賭け事が好きでして。彼女と一勝負したいとの話なんです」
マリルさんの瞳に従う様にして懐から大量の金貨が入った麻袋を取り出して寝不足ちゃんに見せてあげた。
「んなっ!? そ、それだけの大金どうしたんだよ!!!!」
うはっ、分かり易く目の色を変えやがったな。
そりゃ誰だって目の前にご褒美を提示されたら表情が変わるだろうさ。
「コツコツと貯めて来たんだよ。んで?? どうする?? 俺はスイギョクさんと一勝負したいんだけどさ」
「ちょ、ちょっと聞いて来るからそこで待って居ろ!!!!」
寝不足君がトンボも驚く速度で踵を返して扉を閉めると、慌ただしい音が扉を通して表にまで聞こえて来た。
「どうやら作戦の第一段階は成功しそうな雰囲気ですね」
一切表情を変えない扉をじぃっと見つめているマリルさんが言葉を漏らす。
「まだ確定した訳では無いですけど、手下その一さんの雰囲気からして恐らくスイギョクさんも此方の餌に食い付くでしょう」
用心深い彼女は少額では俺達の用意した餌に見向きもしないだろう。涎を垂らして喜んで食い付くだけの額を用意する必要があったのさ。
金貨百枚は普通の仕事をする人達の約四年の所得になりますからなぁ。俺がスイギョクさんの立場だったら速攻で食いついちゃうぜ。
彼女はこの街の実質的支配者なので俺達が想像出来ない資金を有している可能性がある。そんな彼女が喜んで遊戯する賭博にはそれ相応の賭率になるのが目に見えているので長時間戦えるだけの資金を集めなければならなかったのだ。
それ相応の資金を持つ者だけが臨める高額賭博。
これだけの大金を持って高賭率の賭博をした事が無いので一体どうなる事やら……。
「後はしっかりと餌を飲み込むの待つだけ……。ふふっ、何だか釣りみたいですね」
マリルさんが扉から視線を外すと俺に向かって頭上の太陽も思わず顔を背けたくなる眩い笑みを浮かべた。
「餌に食い付いても釣り上げるのが難しいんですよ?? 相棒が到着するまでに尻の毛まで毟り取られたら洒落になりませんので」
「ダンさんの腕前を信じています。可能な限り時間を稼いで下さいね??」
「自信はありませんけど……、全力を尽くします」
ムンっと胸を張って言ったのは良いけども相手の強さが不明瞭なのはちょっと痛いよなぁ。
まぁどんな賭け事を要求されるのか分かりませんけども、やれる事だけをやりましょうかね。
過行く時間を誤魔化す様に地面の上で無意味に足首を解していると朝にも関わらず魅力満点の双丘ちゃんが日の下に現れた。
「お早う御座います。私に用と御伺いましたが……」
おふぅっ!! 相変わらず視覚に、卑猥な精神に宜しく無い果実ですな!!
扉を開けて出て来ただけでたっわわぁんって揺れ動きましたもの!!
「ダンさん??」
はっ!! いかんいかん!! 双丘の陰りに視点を置いている場合では無かった!!
「あ、あはは。えっとですね。昨日のお礼も兼ねてスイギョクさんと一勝負したいと思いこうして朝一番からお邪魔させて頂いた次第であります、はい」
マリルさんの一言で我に返り懐の大金を彼女に提示してあげる。
「まぁ……。それだけの額で私と勝負したいと??」
「えぇ、街の人にお伺いした所。スイギョクさんも賭け事がお好きとお聞きしまして……。如何ですか?? 自分と勝負してくれます??」
頼むぜぇ……。食い付いてくれよ??
普段よりも二割増した拍動を悟られまいとして冷静を努めたまま尋ねた。
「ふふっ、私で良ければ是非」
よっしゃぁああああ!! 大物が食い付いて来たぜ!!
「そうですか!! では早速勝負しましょう!!」
「賭け事の種類はどうします?? それと賭場は何処で??」
「賭け事の種類はスイギョクさんに任せます。賭場は……、そうですね。これだけの大金です。不正が行われない様に多くの人の目に晒したいと考えていますので街の通りでは如何です??」
「ふむっ、街の通りで……」
彼女が体の前で腕を組み深い思考の姿勢を取る。
その体勢は出来るだけお止め下さいまし。
「んひょぉう!! 腕を組むとより一層強調されるよなぁ!!」
頭上の鼠がググっと前のめりになり、まだまだ痛む俺の頭皮に爪を打ち立てますので。
「分かりました。それで構いませんよ」
「良かった!! じゃあ俺達はそこで待っていますので椅子や机を用意して下さると助かります」
「勿論用意させて頂きます。では、賭け事の種類は九十九で宜しいです??」
九十九、か……。
一対一だと分かり易い戦い方が出来るな。
「中々通な戦い方を好みますね??」
「九十九は手札を使った古くから伝わる賭博です。私はこの賭博が大好きでして……。それでは諸々用意がありますので一旦失礼しますね」
「あ、はい!! 首を長くして待っていますよ!!」
「ふふっ、その首……。本当に美味しそう……」
スイギョクさんが背筋が泡立つ視線を俺に向けると静かに扉を閉めて室内に姿を消してしまった。
え?? 俺の首って調味料一式を背負った鴨みたいに美味しそうに見えるのかしら??
「ダン!! 九十九とは一体どうやって遊ぶのじゃ!!!!」
イスハが三本ある内の真ん中の尻尾で勢い良く俺の背を叩く。
「九十九は……、この四十枚の手札を使ってやる賭博さ」
懐から使い古された己の手札の束を取り出してやる。
「この手札は剣、盾、槍、弓矢の四種類で各十枚ある。手札の束から相手と自分にそれぞれ一枚配り、一枚目は表示して次に配る手札は伏せたままにする。これはどの取り決めでも不変だ」
「ふぅん、互いに二枚配られる訳ね??」
フィロが俺の手元を注視しつつ話す。
「そして九十九で最も大切なのは配られた手札で数字の 『九』 を作り出す事だ」
「「「九??」」」
フウタ、イスハ、フィロが仲良く声を合わして声を出す。
外見は全く似ていないのに性格は結構そっくりだよね、この三人。
「そう、二枚配られた手札で『足す』 『引く』 『掛ける』 『割る』。この計算方法を使って九に近付けるのさ」
「例えば……。三と三でしたら、掛けて九という事ですね??」
「その通りです!!」
細い顎に指を添えているマリルさんの言葉に一つ頷く。
「じゃあ……。二と九を足して引いて掛けたのならぁ。十一、七、十八が出来るわよね?? 二桁ある数字はどうなるのよ」
「その場合、二桁の数字は無視して一桁の数字が有効になるぞ。三と九なら二十七で七。七と七となら四十九で九。こんな感じでね」
首を捻って考え込んでいるフィロに細く説明してあげた。
「最弱の数字が零、最も強い数字が九。これが基本的な取り決めだ。配られた二枚の手札で九になったら勝負開始!!!! と行きたいんですけども……。九十九のミソは三枚目の手札なんだ」
「三枚目?? じゃあ二枚から更に一枚引けるのかよ」
フウタが小さな鼻をヒクヒクと忙しなく動かしつつ問う。
「引けるのは一枚だけだけど。最初の二枚が配られてその数字が弱かったり、更に強力な手札を求めて引く事も出来るんだ。手役が弱い順から……。一から順に八までの九に近い数字、 只の数字の九。 九と一、一と九の組み合わせ。 三と三のゾロ目。 三と三と三の三ゾロ目。そして手役が最も強いのは『九』 『十』 『九』 だ。重複を許さないから最強の手役は九、十、九の順番で引かなきゃいけないぞ」
「――――。あ、成程。だから九十九なのですね」
マリルさんが合点のいった表情でそう話す。
「仰る通りです。先ずは自由に賭金を選択。それ以降は降りる事は許されない。賭金を決めたら勝負開始。 九以下の数字同士の戦いは純粋に数字の強さで、例えば八と九なら九の勝ち。要は数の大きい方が賭金通りの卓上の額を得るんだな。 九と一、一と九の組み合わせは最初の賭金とは別に賭金の二倍を相手から得られる。 三のゾロ目は三倍で。 三の三ゾロ目は四倍。 そして最も強力な九十九は……、何んと十倍だ!! 手札の純粋な強さで賭金が増えて行く。要は運が強い奴程有利な賭け事さ。 補足として同じ数字同士は引き分け、同じ倍率の役同士も引き分けだ」
「ねぇ、先生。九と十と九が出現する確率って分かる??」
「えっと……。手札を配る順番と相手の手札で変わりますけど、最も出辛い確率は五万五百五分の十二ですね!!」
「「ブフッ!?!?」」
マリルさんが導き出した確率を聞くとイスハとフィロが同時に吹き出す。
「滅多に出ないからそれだけ倍率も高いのさ。因みに、二枚から三枚目に引く時に更に賭金を要求する取り決めもある。その地域によって変わる取り決めもあるから要注意な」
「要はいかに数字を九に近付けて、んでもって強力な手役を作るのが勝負の決め手って事か」
「そういう事」
フウタの微妙に硬い尻を突きながら言ってやる。
「ダン、お主。この賭け事は得意なのか??」
「賭け事に得手不得手は無いさ。勝負の女神様の御機嫌次第なんだよ。試しに一回やってみるか」
スイギョクちゃん達が中々出て来る気配も無いし、取り決めの確認の意味もかねてというやつさ。
「さてと――、今日の運勢はどんな感じかしらねぇ」
手元で手札を手際よく切り、一番上の手札をマリルさんに渡してあげる。
マリルさんの手元に表示された手札は三、んでもって俺の表示手札は二ね。
「では次の手札を渡します」
「はいっ、宜しくお願いします」
彼女の明るい笑みに心がポっと温まるのを感じると手札を配り終え、改めて己の手札を確認した。
たはっ、相変わらず運がわりぃや。
表示された手札は二、次に配られた手札は一。つまり最も九に近い数字は三だ。
このままじゃ確実に負けるのでもう一枚引きましょう。
「俺はもう一枚引こうかな。マリルさんはどうします??」
「私はこのままでいいですよ」
表情そのものが明るいしきっと中々の数字なのだろう。羨ましいやら妬ましいやら……。
何んとも言えない気持ちのまま手札の束の一番上から一枚を引くとその数字を確認した。
んっ!! 四じゃん!! 二と四を掛けてぇ、更にそこに一を足せば九の完成さ!!
「それでは開示しましょう!! 俺は九ですぜ!!」
俺の運も強ち捨てたもんじゃないだろう?? と。
むっふぅんと鼻息を長々と吐いて手札を開示したのですが……。
「あら、中々の数字ですね。私は三と三のゾロ目でしたっ」
「んなぁっ!?!?」
彼女の強力な手役によって俺の鼻息は見事、綺麗に、スパっと断ち切られてしまった。
いやいや!! いきなりそんな強い手役を出さないで下さいよね!!
「なはは!! 何じゃあ?? お主、先生以下の運量なのか??」
「イスハうるせぇぞ!! この賭け事で大切なのは流れなんだよ!! これで俺の流れじゃないって分かったからこれ以降は慎ましい態度で賭けて行き、んでもって俺の流れになったらドカっと稼ぐんだよ!!!!」
「自分に流れが来るまでに尻の毛までむしり取られてしまうぞ」
その経験は何度もありますので強く反論出来ないのが歯痒いぜ。
この九十九ってのは数字もそうだが運の流れも重要な要素何だよねぇ……。相棒、今日の俺の運勢は曇り空なので出来るだけ早くケイナーさんを見付けてくれ。
そうじゃないと俺達がリーネン大陸で死ぬ思いで稼いだ金があっ!! と言う間に彼女の懐に収まっちまうぞ……。
「ダンより微乳姉ちゃんの方が賭けに向いているんじゃあねぇの!?」
「フウタの言う通りじゃ。代打を頼むのなら今の内じゃぞ??」
「雑魚過ぎて話にならないわね。運気を上げる為にも野鳥の出来立てホヤホヤの野糞でも浴びて来たら??」
「ギャハハ!! フィロの言う通りだぜ!!」
「テメェ等!! 阿保みてぇに笑うんじゃねぇ!! 俺はやる時はヤれるんだよ!!」
好き勝手に馬鹿笑いを放つ大馬鹿野郎達に指を差されると彼等以上に声を張り上げて笑いを跳ね除けてやった。
俺の運量を笑っているのは彼等だけでは無くどうやら頭上で光り輝いてる太陽も同じ意見の様だ。
ほら、目が痛くなる位にすんばらしい光を放っていますもの。
俺の運気、運量を見てギャハハと軽快な笑い声を上げて見下ろしている太陽を見上げると空の彼方で人知れず活動しているであろう白頭鷲ちゃんに向かって慎ましい祈りを捧げたのだった。
お疲れ様でした。
先日の休日は久し振りにスーパー銭湯に出掛けて、そして帰りは相も変わらず御贔屓にさせて頂いてるラーメン屋に寄って行きましたよ!!
いつもは四川ラーメンなのですが、食券を買う時にふとその指が止まってしまいました。
あれ?? 今日は……、四川じゃあないと??
指に、そして己の直感を信じて白湯ラーメンを頼んだのですがこれが大正解!! 程よい油の美味さと塩気に舌が狂喜乱舞してしまいましたもの!!
食べ慣れた物を食し続けるのも大切ですが偶には趣向を変えるのもまた大切だなぁっと思った一日でした。
いいねをして頂き有難う御座いました!!
それでは皆様、お休みなさいませ。




