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第二十六話 深夜の事情聴取

お疲れ様です!!


本日の投稿になります!!


それでは御覧下さい。




 暗殺者襲来の事件の後、通報から約三十分足らずで警察関係の方々が大挙して屋敷へと踏み込んで来た。


 その余りの多さに客人達は目を白黒させ、右往左往していたのだが。



 その間。



 タンドア議員、並びに家主であられるベイスさんとレシェットさんが来客された人々を屋敷から帰さぬ様に指導していたが。


 それでも警察関係者に数言、言葉を添えて退館してしまう人も居た。



 混乱が一通り収まった所で。警察関係者による客人達の現場不在証明アリバイの聴取が始まった。



 勿論、犯人は既に骸と化しているので簡単な事件の質問と此処に至った動機を伺い。


 客人達は聴取を終えると屋敷を後にした。




 簡単に帰しても良いのかと不安になりますが……。


 招待客の名簿が在る限り、住所は確知されているので心配ないと考えたのでしょう。





 マイ達の場合。


 今回の任務は単独で来ているのに、仲間を引き連れている事が公になっては不味いと考え。ベイスさんと口裏合わせじゃあないけど、二人でひっそりと相談。



 彼が大変な気を利かせてくれて、ここの屋敷で勤める使用人として警察関係の人に紹介して。


 彼女達の出身地は西の廃墟と化した街、そして両親を失った所為で心因性失声症を罹患していると説明し終え事は丸く収まった。



 客人達、使用人さん達は滞りなく聴取を終えたのですが……。



 俺の場合はそうはいかぬ。


 何しろ犯人と対峙し、尚且つ数手拳を交えてしまったので……。



 カエデとアオイの素晴らしい治療によって、激痛は収まったのですが。


 代わりに山の様な疲労感が双肩に圧し掛かり、それを懸命に押し返しながら。屋敷の部屋の一室で熱血刑事と冷静な刑事二人と対面し続けていた。





「――――――――。つまりっ!! レイドさんは犯人が襲い掛かって来るのを目撃してそれを迎え撃ったのですね!!」



「あのぉ……。申し訳無いのですが、ちゃんと聞こえていますので。もう少し声量を落として頂けますか??」



 机を挟んだ向こう側。


 男女二名の内、熱血女性刑事へと小さな声で懇願する。



「すいませんっ!! 事件後の恐怖で正常な聴覚を保てない人もいますので!! ついっ!!」



 だから。


 その声ですよ――っと。



 ちょっとだけ草臥れた黒の背広。


 黒髪を額のド真ん中でピッチリと分け、深夜だというのに今は真昼間なのか?? と此方に勘違いさせる威勢の良い声。


 額の下には男勝りの野太い眉が存在し、女性というよりは。男性並みに快活であるという印象を此方に与えていた。



「こら。レイドさんが困惑しているだろ。ごめんね?? この子、職務に忠実過ぎてちょっと暴走する気があるからさ」



 彼女の左隣。


 恰幅の良いお腹を御持ちになる男性刑事さんがそう話す。



「あ、いえ。大丈夫ですよ」


「じゃあ!! 続けて質問しますがぁ!!!!」



 だから!!


 声!!



 はぁ――……。


 もう一々突っ込むの面倒だ。このまま巨大な声の波を受け続けましょうかね。



「襲い掛かって来た犯人の凶器を左手で受け止め!! 相手の隙を狙い打って右拳を振り上げようとしたのですね!?」


「えぇ、そうですよ」


「どんな感じですか!? 私が犯人役を務めますのでぇ!! 再現して下さいっ!!」



 はいはい。


 分かりましたよ。



 座り心地の良い椅子から体を持ち上げ、彼女と対峙した。




「では!! 行きます!! やぁぁっ!!!!」



 両手で凶器を掴む姿を模倣して、此方へと突っかかって来るのですが。


 何も勢いまで真似しなくてもいいのでは!?



「でやぁっ!!」


「いっでぇえええ!!」



 な、何考えてんだよ!! この人!!



 目に見えぬ凶器を何んと、傷口に叩きつけるではありませんか。




「あはは!! 痛がる振りも上手ですね!!!!」


「本当に痛いの!!!! ちょっと、刑事さん。この人、何んとかして下さいよ……」



 恰幅の良い男性刑事に涙目で請うた。



「ごめんねぇ――。こら、マスル。レイドさんが痛がっているから。手前で止めなさい」


「了解しました!! ではっ!!」



 再び距離を置くと、通常の歩行速度で此方へと歩み来る。


 最初っからそうしなさい!!



「犯人が両手で凶器を掴み、レシェットさんの腹部目掛け突撃を開始しました。俺は彼の行動を見付けると同時に前へと飛び出し、こうして左手で犯人の凶器を受け止めました」



 マスル刑事の手を左手で受け取り、相手の凶器を受け止める様を模した。



「そして、犯人が驚愕の顔を浮かべた所で右の拳を振り上げようとしましたが……。犯人が此方の反撃を予想して咄嗟に後方へと飛び去りました」



「こんな感じですか!!!!」



 はい、そうですよ。


 肯定の意味を含めて一つ大きく頷く。



「それから、此方と数手拳を交え。相手を無力化。 周囲に出来た人集りによって退路を塞がれた犯人は胸元から小瓶を取り出して毒液を服用。帰らぬ人となりました」



「ふぅむ。皆さんと証言が一致していますねぇ」



 そりゃあそうでしょう。


 あれだけの大人数で見ていたのだから。



「式典会場内に残された血痕、犯人が服用した毒液の入った小瓶、そして凶器。三つ全て揃っていますのでレイドさんの証言は間違いないと確立されましたね。そして、次の問題は……。共犯の可能性です」



 でしょうねぇ。


 単独で実行したと決めつけるのはまだ早いからな。



「招待された客は屋敷の門の前で立つ使用人に招待状を差し出し。彼等は宛名、並びに人数を確認。一枚に付き三名まで随伴が許されていたようなのです。使用人が招待状のアーリースター家の印章を確認したら中へと招き入れる。至極簡単な仕組みですよねぇ……」



 彼がしみじみと頷く。



「じゃあ……。亡くなった犯人は印章、並びに招待状を捏造した。若しくは、誰かの付き添いとして屋敷内に侵入した、と??」



「その通り!! いやぁ、流石は軍人さんだ。頭の回転が早いっ」



 誰でも分かるでしょう、それ位。



「名簿を拝見させて頂きましたが……。招待状を送った全員が屋敷へと足を踏み入れています。 勿論、招待された人の随伴者の人数も添えてありましたよ」



「ですが……。今更人数を確認しても余り意味がありそうにないですね」



 事件が始まる前に帰ってしまった人も居るので……。


 人数が欠けているのかどうか。それを確認出来ないのが痛いよな。



「その通り。この場に居る全員が我々庶民とは掛け離れた地位を御持ちになる御方だ。声掛け一つで此方の首が飛びますからねぇ。彼等がさっさと帰りたいのは理解出来ましたが……」



「馬鹿署長の所為ですねっ!!!! デルビッド刑事は帰すなって言っていたのに!! お偉いさん達にヘラヘラと頭を下げて……。情けないですよ!!!!」



「まぁ、署長の気持ちも分からないでも無いよ。私達は税金で食っているからねぇ。誰かの機嫌を損ねたら、私達に回って来るお金も少なくなっちゃうし」



「えぇ――!!!! 何でですかぁ!?」



 いや、理解しましょうよ。そこは。


 俺達の活動資金は血税で賄われていますのでね。



「署長の権限でも彼等全てを此処に留めておく事は出来なかった。後、頼りになるのは……。街の人達ですか」



「何でその考えに至ったのですか!?」



 お願いします。


 ど――か。


 もう少し小さな声で話して下さい……。



「客人達の中には夜に街を発つ者も居れば、街中で宿泊してから帰路に着く人も居ます。宿泊施設に入った時と、屋敷から帰って来た時の人数の差を数えれば歴然じゃあないですか」



 ググっと前のめりになったマスルさんに話す。



「ほぉ――。私と同じ考えに至ったね」


「それしかありませんよ。解決への糸口は地道な捜査が必要ですからね」


「ふふ。随分とお若いのに、苦労をしているようだね??」


「えぇ、人並に」



 彼と目を合わせ、互いの労を労う様にふっと口角を上げた。



「レイドさんは御いくつなのですか!?」


「二十二歳ですよ」


「おぉっ!!!! 私の一個下ですねっ!!!! お互い若いのに苦労しますよねぇ!!」


「え、えぇ。そうですね……」



 何処かに耳栓無いかな??


 これ以上、彼女の声を聞いていたら鼓膜が破裂してしまうよ……。




「――――。デルビッド刑事、宜しいでしょうか??」



 扉がノックされると同時。


 扉の向こう側から若い男性の声が届いた。



「良いよ――」



「はっ、失礼します。――――――――。これ以上、此処に留まるのは不利益に当たるとして、署長が完全撤収を命じました。遺体、並びに証拠品は既に署へと移動を終えました」



 おっ。


 マスル刑事とは違って、この男性は随分と優秀そうだな。


 テキパキとした口調が良い証拠です。



「ん、分かった。皆にもそう伝えてくれ。私はレイドさんと後数言会話を交わしてから帰るよ」


「はっ、了解しました」



 歩く様も機敏だ。


 刑事やるより、軍人の方が向いていないかしらね。



「いやぁ――。お手数をお掛けしました」


「あ、いや。此方こそ」



 小さく頭を下げた彼に対し、此方もそれに倣う。



「御怪我が早く治ると宜しいですね」


「馬鹿みたいに頑丈ですから、その点に付いては安心して下さい」



「あはは。若いっていいなぁ――。ほら、行くぞ??」


「はい!!!! レイドさん!! お悔やみ申し上げますね!!!!」








 ――――――――。


 えっ??


 俺って死んじゃうの??





「そこはお悔やみ申し上げます、じゃなくて。御体を御自愛下さいだろ??」


「間違えました!!!! では、失礼します!!!!」



 は――。


 やっと五月蠅い人が帰ってくれたよ。デルビッド刑事より先に退出し、人知れずホッと胸を撫で下ろす。



 椅子から立ち上がり、彼を見送るが。



 デルビッド刑事が扉に手を掛けた所で、此方へふと振り返った。




「あ――。そう言えば、レイドさん」




「はい??」


「あの凶器に付いて、何か不審な点は見当たりませんでしたか??」



 不審な点??


 確か、鷹の目?? だっけ。それが刻まれていたな。



「それがどうしたのですか??」


「いやぁ――。ちょいと気になりまして……」



 瞳をにゅうっと。柔和に曲げて話すのだが……。


 その瞳の奥は鋭く尖り。此方が放つ一字一句を見逃すまいとしていた。




 あれが一体どうしたっていうんだ……。


 正直に話して、アレコレ聞かれるのも面倒だし。此処は一つ。




「あ、いえ。犯人から目を反らしては不味いですからね。細部までは確かめる余裕はありませんでしたよ」



 彼の目を直視してそう話した。



「ふぅむ。そう、ですか。あ、いや。あはは。気にしないで、それじゃあ」



 あははと乾いた笑い声をこの部屋に残し、静かに扉を閉めて出て行ってしまった。




 ふぅ――……。


 此れにて、事情聴取終了っと。



 椅子にドカっと男らしい所作で腰かけ、天上を仰ぎ見た。



「疲れたな……」



 寝不足、負傷、その他心的疲労。


 疲労の要因となるものが一気苛烈に襲い掛かって来た。




 任務終了まで後少しだ。


 朝に屋敷を出発して、レイモンドへと帰還して報告をしよう。それまでは集中力を継続させましょうかね。




 己の足に喝を入れ、椅子から立ち上がり扉を開けると。




「おや、此方にいらっしゃいましたか」


「あ、どうも」



 廊下に出た所でアイシャさんと鉢会った。



「警察関係の人達は全員退館なされましたよ」


「そうですか。色々ありましたが……。アイシャさんもお疲れではありませんか??」



 目元にちょっとだけ疲労の色が滲んでいますし。



「人並み、ですかね。所でレイド様」



 おっと……。


 この声色は不味い。



 此処へ来てから、もう何度も聞いたお願いをする前の声色に思わず身構えてしまった。



「レシェット様が自室で御待ちで御座います。其方へ足を運んでからお休み下さいませ」



「命令を無視した場合、どうなりますか??」



 試そうとは思いませんけど。


 試した際の結果を、怖い物聞きたさじゃないけど……。


 何の拍子も無く尋ねてみました。




「全ての使用人がレイド様へと襲い掛かり、指先一つさえ動かせぬ様縄で拘束し。大型犬用の首輪をレイド様の首へ嵌めます。 同時、馬用のハミを猿轡の要領で御口に食ませ。レシェット様の眼前へとお持ち致します。そして、朝方まで馬擬きの姿勢で護衛を続けて頂き……」




「行って来ますねぇ!! アイシャさんも早く休んで下さい!!」


「有難う御座います。では、御言葉に甘えて」



 アイシャさんの言葉を聞き終える前に闇に包まれた廊下を進み始めた。




 はぁ――。


 良いよなぁ――。みぃ――んな休めて!!



 俺なんか今からまた子守歌を歌わなきゃいけないんだぞ??



 心労祟って死んじまうよ!!



 鉛を括り付けられたかのような重い足を引きずり、頼むからもってくれよ?? と。


 我が体に優しく懇願しつつレシェットさんの部屋へと向かって行った。




最後まで御覧頂き、有難う御座います。


暑さが目立つ日々ですが。


体調管理に気を付けて、素敵な週末を過ごして下さいね。

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