第二百三十一話 調査経過中 その二
お疲れ様です。
後半部分の投稿になります。
美しい夜空の中に浮かぶ星達の瞬きと三日月の怪しい月光が俺の行く手を照らし導いてくれる。
柔らかい土と矮小な小石が無数に広がる田舎道をのんびりと歩きながら導き手である天然自然の光を見上げて一人静かに言葉を漏らした。
「はぁ――。今日も星が綺麗な事で」
夜空一杯に広がる幾億の星達が俺の言葉を受け取ると嬉しそうに顔を赤らめて更に瞬きの美しさを増してくれる。
だが、自然の美しさに磨きを掛ける行為をヨシとしない大変大きな彼女が憤りの声を上げた。
『私の存在は無視ですか??』
勿論今宵の貴女も美しいですよ?? 夜空の中で先ず捉えたのが星達の瞬きでしたので素直な感想を述べたまでですので。
それなら良いですっ、と。
満更でも無いお月様のはにかんだ笑みを受けつつなぁんにも無い自然の中を全然疲れない速度で歩いていると僅かな水の香りが漂い始めた。
むっ、もう直ぐ到着か。
パルペントさんは意外と近い感じで話していたけども、自分が想像していたよりもちょいと時間が掛かっちまったな。
田舎に住む人の少しと都会暮らしの少しの間には大きな差異があるって改めて思い知らされたぜ。
「到着っと」
俺の眼前一杯に広がる田んぼはかなりの大きさを有しており月の光に照らされた人為的な四角形は一辺凡そ四十メートル程だ。
田んぼには既に水が張られており目をよぉぉく凝らして微風に揺られている水面に視線を送ると、とても小さな水生生物が俺の視線から逃れる様に田んぼの中央へと逃れて行く。
地の果てから吹く風に揺られる苗は気持ち良さそうに左右に頭を揺らして足元から大地の恵みを得続けていた。
既に田植えは終わったのか。
後は水の調整や雑草狩りに中干し等々、御米ちゃんの生育に必要な行為を続ける事で美味しい米に出来上がる訳なんだけど……。
「ん――……。これといっておかしな所は見当たらないけどなぁ」
左右に広がる田んぼの様子を確かめつつ北上を続けているが米の生育を阻む存在は一向に見当たらない。
視界に映るのはこれまで何度も見て来た大変理に適った自然の生育環境のみ。
まぁ俺が気付かないのは当然か。
物心付いた時から作物を育てて来た農家の皆様が気付かぬ事態が起こり、作物が育たないという特異が起こって債務不履行に陥っているのだから。
「水が悪いのか??」
田んぼの淵にちょいと腰を下ろして水を掬い、小さな水溜まりを零さぬ様に口に含んでみるが……。
「強烈な土の匂いだな。これなら御米ちゃん達も水と土の栄養を吸ってスクスクと育つだろうさ」
俺の舌はこの水は正常だと判断してくれた。
水を好む水生生物の存在、特に変化も見られない苗、良質な水。
米の生育に必要な条件や環境は整っているのにも関わらず何故か米が育たない……。
狸ちゃん達が毒を散布するという暴挙を考えていたがそんな事をしたら住民の方々は速攻で気付く筈だろうし。
「ったく、謎は深まるばかりだな!!」
楽しそうに鳴き続ける夜虫の歌声を割って大声を出して己の憤りを誤魔化してやる。
此処まで来たついでだし、ついでに土の様子も見ておきますか。
「よっと……」
美しく盛られた畔から右手を伸ばして田んぼの水を潜り抜けて土に人差し指をモキュっと突っ込むと後方から大変静かな足音が聞こえて来た。
ん?? 誰か来たのか??
天然自然の中に響く人為的な音の方へ顔を動かすとそこには月明かりを浴びた大変可愛らしい女性が立っていた。
「……」
青みがかった黒髪は月光を浴びて怪しさを増し、体の後ろで嫋やかに手を組む姿は守ってやりたいという男心を大変擽る。
使い込まれたくすんだ灰色のローブの中の機能性に富んだ服装は相も変わらず。
怖いもの知らずの森の賢者ちゃんが俺の様子を何も言わず黒き瞳でじぃっと見つめていた。
「あれ?? 其方の調査はもう終わったのですか??」
「……っ」
彼女は何も言わず只口角を柔らかく上げて頷く。
「そうですか……。俺はこの田んぼを調べているのですが、困った事に何処にも異常が見られないんですよ。作物が育たないって事は何か特異な事が起きているのは確実なのに」
一人静かに俺の様子を見守るマリルさんに向かい端的な状況説明をしてあげた。
土の柔らかさにも可笑しな点は見受けられないし、ちょっと勇気が要りますけども違和感を捉える為に口に迎えてあげましょう。
「はむっ……。プペ!!!! うぅ、ジャリジャリして苦い……」
舌の上一杯に広がる苦みと土のざらつく感覚が嫌悪感を与えてくれる。
只、土の苦みはいつも感じるソレと同じであり劇物の様な刺激は一切感じ無かった。
「はぁ――、苦かった……。マリルさんも宜しかったら一緒に土の味を堪能しませんか??」
「……」
冗談交じりで何も言わずに俺の所作をじぃっと眺めて居る彼女にそう促すと、マリルさんは静かな足取りで俺の後方へと歩いて来てくれる。
いやいや、まさか俺の冗談を本気で捉えたので?? 苦さと嫌悪感で辟易してしまいますよ??
「冗談ですって。ちょっと待って下さいね?? 田んぼに張った水で手を洗いますので」
水面に映る三日月がグニャリと歪む姿を眺めつつ素早い所作で手を洗い続けていると……。
「ッ!!」
「グェッ!?!?」
何か硬い物が空気を切る野太い音が響くと同時、後頭部にとんでもねぇ衝撃が迸って行った。
な、何!? 何が起こった!?
もしかして前触れも無く突然星が終わりを告げちゃったの!?
「う、ぐっ……」
田んぼに半身を沈めたままで後方に振り返るとそこには大変こわぁい顔を浮かべているマリルさんが何んと!!
「……」
何処から持ち出したのですか!? と思わず首を傾げたくなる鉄製の角材を手に持って立っているではありませんか!!
「い、い、一体どうしたんですか……。お、俺が何か悪い事で……。ブグェッ!?!?」
『それ以上口を開いたら駄目です』
そう言わんばかりにマリルさんが両腕を思いっきり天に向けて振りかぶると何の遠慮も無しに俺の頭蓋に向かって鉄製の角材を振り下ろしてしまった。
「ちょ、ちょっと止めて下さい!! お、俺は血の通った人間ですからそれ以上叩いたら死んじゃい……。ンギィッ!?!?」
恐らく彼女が激昂しているのは俺がこれまで行って来た愚行の積み重ねが遂にマリルさんの怒りの上限値を越えてしまった所為だろう。
その激昂は二度、三度では足りず四度五度と叩く度に強さが増して行くのがその確固足る証拠だ。
「あ、謝りますからもうこの辺りで……」
田んぼの中に半身を沈めたまま刑の執行を止める様に懇願するものの。
「ッ!!!!」
「ガブチッ!?」
地獄の悪魔も思わずヒィッ!! と情けない声を出して腰を抜かしてしまう恐ろしい顔を浮かべている彼女はその手を止める事無く俺の横顔に向かって怒りの一撃を見舞ってしまった。
あぁ、駄目だ。意識が白む景色の中に溶け始めやがった……。
が、頑丈な俺でもこれ以上の衝撃には耐えられそうにありませんね……。
『おい!! それ以上は止めろ!! スイギョク様は殺生を許していねぇだろう!?』
『殺していねぇよ。これでさっきの借りは返したぜ』
『嘘だろ!? それだけ殴っても死なないのか!?』
『コイツの体は一体どうなってんだ?? 頑丈過ぎて気持ち悪りぃよ』
『と、兎に角コイツを運ぼう。此処に放置していたら本当に死んじまうかも知れないし』
『運ぶって……。何処に??』
『スイギョク様に報告を兼ねて彼女の家に運ぼう。コイツの処遇はそれから決めて遅くは無いだろうさ』
『あぁ、分かった』
『でも何で一人で田んぼに居たんだろう』
『米が育つかどうかの確認だろうさ。スイギョク様が仰っていた通りだぜ』
意識がアッチの世界に完全に飛び立つ前に野郎共のくぐもった声が聞こえて来たが、アッチの世界の使者が有無を言わさず俺の意識を刈り取ってしまったので最後まで聞き取る事は叶わなかった。
向こうの世界の使者に手を引かれながら俺は一人静かに決意を固めた。
マリルさんの前で今後一切愚行を働く真似は止めるべきだと。
しかし、もう一人の俺がこう尋ねて来る。
『それは不可能に近いんじゃね??』 と。
その意見には至極同意しますよ。
目の前に二つの大盛の果実ちゃんを持った可愛い子が現れたら普通の性欲を持つ男の子なら誰だって反応しちゃうし……。
もう一人の俺の意見に同意した俺は愚行を完全に停止するよりもさり気なく、そして何気なく行えば問題無しと判断したのであった。
お疲れ様でした。
明日は休みなのでこれからもう少しプロット執筆して眠る予定なのですが、微妙にお腹空いているのでこれから罪悪感全開のカップラーメンでも食そうかと。
在庫を確認した所、醤油味、味噌味、豚骨味にうどん系と中々にバリエーション豊富なラインナップでテンションが上がっています。
普通に食べるのはアレなので七味や卵で一アレンジを加えて頂きます!!
沢山の応援をして頂き有難う御座いました!!
読者様達の応援が連載継続の励みとなっていますよ!!!!
それでは皆様、引き続き素敵な週末をお楽しみ下さいませ。




