第二百三十一話 調査経過中 その一
お疲れ様です。
本日の投稿になります。
足元からふわぁっと香る汗と雄の臭い混ざり合った匂い。
俺様の好みとはかけ離れた何とも言えない男の匂いが鼻腔に届くと微妙に痺れ続けていた四肢が落ち着きを取り戻してくれる。
休日の昼食後の様なだらけた心持のままながぁい尻尾を蓬髪気味の後頭部の髪の毛に絡ませ、体中の筋力をグデっと弛緩させて色欲の街を行き交う男女へ視線を送る。
「今日はどのお店の子と楽しい話をしようかなぁっと!!」
これから楽しむであろう色のある女との会話に胸を高鳴らせている野郎。
「さぁさぁ!! 腕に自信のある奴等はうちの店に寄って行きなさい!! 明日の富豪を夢見るのなら当店で御遊戯下さいね――!!」
客達の財布を空っぽにしてやろうと画策する店員の呼び声。
「旅の移動疲れはうちの女の子で癒して下さいねっ。本日は五名の可愛い子がお客様達の疲れた筋力を解していますよ――」
そして、怪しい蝋燭の光を背に浴びて如何わしい雰囲気を醸し出す店先に出て客を呼び込んでいるねぇちゃんの姿を捉えると漸くぼやけていた意識が現実の下へと帰って来てくれた。
「くはぁっ!! はぁ――……。シューちゃんよりも強力な雷を浴びたのは久々だぜ」
顔をプルプルと振るい両前足で微妙に硬い頭皮をムギュムギュと掴む。
おう!! 体全身が漸く俺様の命令を真面に受け付けてくれるようになったぜ。
これなら問題無くあの巨乳姉ちゃんが住処とする屋敷を隈なく調べられそうだ。
「お前さんが余計な事をしなければマリルさんのお叱りを受ける事も無かったんだよ」
「てめぇだってあの張りのあるお尻をガン見してたじゃねぇか!!!!」
親友が俺様に責任転嫁をしようとしたので右前足で大馬鹿野郎の頭の天辺を高速で叩いてやる。
「そりゃあ誰だって美味しそうな果実が目の前に現れれば見ちまうだろう??」
「見るだけじゃ無くて実際に手に取りじっくりと味わいたい気分だぜ。んっ!? ダン!! あの店に軽く寄って行かねぇか!?」
俺様から見て右前方に現れた店に向かって指を差してやる。
他の店に比べて店構えも立派だし?? それ相応の店にはきっと魅力溢れるカワイ子ちゃん達が居る筈なんだよ!!
「いらっしゃいませ――!! 当店の積極的な接触を受けてみませんかぁ――?? 本日は何と五割引きですよ――!!!!」
「ほ、ほら今日だけ五割引きだし!? 微乳姉ちゃんの監視の目も餓鬼共の目も無いしさぁ!!」
「店員さんの声を良く聞けって。いつと比べて五割引きなのか分からないし、それに俺達に与えられた仕事を忘れてないかい??」
ち、ちぃ!! やぁっと楽しめるかと思ったのに!!
「何でそう真面目なんだよ。普段のお前さんなら喜んで店に突入しただろ??」
あ、あぁ……。畜生、店が遠ざかって行くぅ……。
「これ以上マリルさんからお叱りを受けると意識処か肉体が滅んでしまう恐れがあるからな。それと、問題を解決しないと心の底から楽しめ無いだろうが」
「まぁこの色欲の街の裏側には苦しんでいる住民達が居るみたいだしな」
奥歯をギュっと噛み締めて徐々に遠ざかって行くカワイ子ちゃんを見送ると再び正面に視線を戻した。
「そういう事さ」
「でもよ、問題を解決したらこの街は元の田舎町に戻っちまうんだろ?? 街に溢れる色のある女達が街から出て行ったらお終いじゃん」
「問題なのはそこなんだよねぇ……。元の住民達が魔物達を追い払うよりも早く楽しめる方法を模索しないといけないぞ」
はは!! 何だよ、ちゃあんと楽しもうとする事を忘れて居ない様だな!!
シューちゃんとハンナのクソ真面目さが乗り移ったかと思ったぜ。
「じゃあ注文通り情報を粗方入手して微乳姉ちゃんに報告をし終えたら楽しいお出掛けの時間だぞ!!」
「ん――。宜しく――」
この野郎!! 覇気の無い生返事をしやがって!!
「もっと気合を入れろよ!! そんなんだといざという時に立つモノも立たねぇじゃねぇか!!」
「不能の奴に言われたかねぇよ」
お、俺様が一番気にしている事をさらっと突っ込みやがったな!?
「俺様の聖剣はこの街で輝きを取り戻す!! そんな気がしてならねぇんだよ!!!!」
ダンの頭の天辺で勢い良く立ち上がり暗き夜空に光り輝く星に向かって勢い良く右前足を掲げてやった。
ふっ、星達も俺様の完全回復を祝福しているかの様に輝いているぜ。
これは所謂祝福の光って奴だな!!!! 星達に見守らながら爆乳、桃尻を食らい尽くしてやる!!!!
左前足で己の股間辺りをキュっと掴み久々に沸々と湧いて来る性欲ちゃんを誤魔化していると唐突に俺様の足役であるダンがその歩みを止めた。
「っと……、急に止まるなよ。勢い余って落ちそうになったじゃねぇか」
「ほら、お前さんが潜入する家屋が見えて来たぞ」
街の喧噪が随分と鳴りを潜め始めた通りの左手前方に件の家屋が見えて来やがった。
通り沿いにずらっと並ぶ普遍的な家屋に比べると真新しい木材で建築されており月明りに照らされた家は美しい木目で月光を反射している。
二人の大人が余裕で通過出来そうな大きい扉、窓硝子は塵一つ見当たらず室内の様子は黒いカーテンに遮られて見えないが僅かな隙間から漏れて来る蝋燭の明かりが人の存在を仄めかす。
二家族が余裕で暮らせそうな大きさを誇る家屋はこの街の権力、富を他者へ知らしめる様にその場に静かに佇んでいた。
へぇ、情報通りに他所の家屋と違って真新しくて結構な面構えをしているじゃねぇか。
家のデカさからしてあの姉ちゃんの権力や築き上げた富が把握出来るぜ。
「いいか?? お前さんに与えられた仕事は匿われているケイナーの家族の安否確認だ。余計な事に首を突っ込まず、それだけを確認したら脱出しろよ??」
ダンが真面目な口調でそう話すと俺様の尻を指先で突く。
「お前なぁ……。シューちゃんとハンナの真面目さが乗り移ったみたいぜ??」
「俺は基本的に真面目なの。それに遊びと仕事の分別は付く大人ですのであしからずっと」
へいへい、分かったからそう何度も尻を突くんじゃねぇ。変な気分になったら困るじゃねぇか。
「よっしゃ、それじゃあ忍ノ者の本領発揮といきますかね!!」
刹那に魔力と気配を消失させてやると四つの足を器用に動かして件の家屋へと向かって行く。
「俺は田畑の確認をしてくるから……、そうだな。一仕事を終えたらさっきのアマヤに集合しようか」
「ん――。ちゃちゃっと確認して来るからそっちも気を付けてな――」
「何に対して気を付けるんだよ」
そりゃ御尤もで。
此処は恐ろしい化け物が跋扈する場所じゃねぇし、でも余所者の俺様達は一応最低限の注意は払うべきだぜ??
「俺様なりの気の利いた言葉さ。んじゃ頑張れよ――」
「へいへ――いっと」
ダンが俺様に向けて右手をヒラヒラと振って街の出口に向かって行く後ろ姿を見送ると滅茶苦茶掴み易い壁を伝い家屋の屋根によじ登った。
おぉ!! 高い場所から俯瞰して見ると違った雰囲気に見えるぜ!!
街の通りを歩いて行く人々に視線を送り満足気に鼻からフンっと息を漏らすと心を入れ替えて侵入部分の捜索に取り掛かった。
さてと……。何処から侵入しましょうかねぇ。
屋根から身を乗り出して四方の壁の窓を確認するが何処も施錠が施されているので硝子を割らない限り侵入は不可能。
ならば奇をてらって正面玄関から忍び込もうと画策するが真面目なもう一人の自分がそれは最も有り得ねぇとして却下する。
それならば裏口も一つの手だが初手をしくじる訳にはいかん。
「結局、この狭い空間に身を捻じ込むしかねぇって訳ね」
屋根と壁部分の僅かな隙間から覗く闇にじぃっと視線を送りつつ言葉を漏らす。
真新しい家だから埃は無いと思うけど、時間が出来たのならカワイ子ちゃんのお店に寄りたいから出来るだけ綺麗なままで仕事を終えたいんだよねぇ――。
「まっ、グダグダ文句を言っても仕事は終わらないし。ちゃちゃっと確認しますか!!」
僅かな隙間に鼻頭をムチュっと突っ込み体全体を左右に揺らして狭い空間に無理矢理体を捻じ込みと闇が蔓延る室内に潜入する事が出来た。
案の定真っ暗だぜ。
夜目が利かなければ何処に進むべきか全く見えぬだろうが、忍ノ者の目は闇の中でも全てを見通す事が出来るのさっ。
『さてと……。先ずは二階部分を探検しますか』
新築特有の美しい梁の上を四つ足を器用に動かして進み、各部屋の様子を確認して行く。
全体の広さからして二階は四つの部屋があるな。
んでもって……。
「お――い。奴等の晩飯は用意したか――」
「今日の献立は腐りかけのパンとこれまた腐りかけの野菜をぶっこんだスープだぜ」
「わはは!! 誰も食いたがらない飯かよ!!」
二階には二つの魔力が確認出来て一階には一体の魔物の魔力が確認出来る。一階に居る奴は恐らくあの巨乳ねぇちゃんだろう。
俺様の真下に居る二体の魔物は手下って感じか……。
「じゃあ地下に運んで来るわ」
「ん――。早く戻って来いよ?? 今日の俺はツイているからな!!!!」
「また賭け事をやるのかよ……。毎晩付き合わさられる俺の事も考えてくれ」
地下?? ケイナーの家族は地下に匿われているのかよ。二階建ての建物だからてっきり何処かの部屋に居るかと思ったのに。
地下室となると家屋の隙間から侵入する訳にはいかねぇよな?? 新しい侵入箇所を探さないと……。
一階部分にはスイギョクちゃんの気配しかしねぇから裏口から侵入しますか。
『んぎぎぃ……。ぷはぁっ!!』
先程の侵入場所に再び顔を捻じ込み素敵な夜空の下に出ると壁を器用に伝って一階の裏口に素早く移動。
「……」
尻尾を器用に動かして扉の施錠を確認すると俺様の思いとは裏腹にあっさりと開いてしまった。
へぇ、中はこうなっているのか。
裏口から侵入すると先ず目に飛び込んで来たのは正面入り口だ。
無駄に広い家屋は幅の広い廊下によって四つの空間に区切られており、廊下の脇には花瓶を乗せる台であったり雑貨を仕舞っているであろう背の低い箪笥もある。
俺様の左手側の部屋からは一つの魔力が確認出来、ほぼ真上にも同じ様な力が。そして右下からも一つの魔力が確認出来た。
色んな場所にお邪魔したいけれども先ずは地下室にお邪魔しようか。
四つ足の爪の音を消し去る無音歩法で移動を始めて廊下が交わる中央を右折。
廊下の先にある地下へと繋がる開閉式の扉に到着すると改めて周囲を窺った。
気付かれている気配は全く無いな……。このまま地下室にお邪魔させて貰うぜ。
『あらよっと』
廊下の床部分に設置されている扉から地下へと続く階段に足を乗せると更に気配を消失させて一段一段確実に下りて行く。
土くっさ……。
足元に転がる無数の小石も、野郎共の靴の裏にくっ付いて運ばれて来た小さな小枝。
天然自然の音の罠に細心の注意を払い慎重な足取りで下りて行くと、暗闇の先に突如として光が現れた。
「ったく……。折角飯を用意したってのに全然食いやしねぇ。スイギョク様もお人好しだよな」
やべぇ!! 急に出て来るんじゃねぇ!!!! 急いで身を隠さねぇと!!
といっても?? 隠れる場所がねぇんだけどな!!
「ッ!!」
素早い身の熟しで土壁を伝い、天井に張り付き息を殺して祈る思いで野郎の通過を願う。
頼むぜぇ……。俺様の存在に気付いてくれるなよ??
「契約を継続させる為に不殺を心掛けろってさぁ……。まぁ勿論従いますよ?? 狸一族の首領ですので。でもなぁ、いい加減人間の世話は飽き飽きしているんですよぉっと」
よっしゃ!! 俺様に気付かずに階段を上って行ったな!!
闇に紛れて一人の男の目から逃れると素早く壁を伝い降りて階段を下って行き、そして暗闇の先にある扉の前に到着した。
へへっ、今の身の熟しと咄嗟の判断は自画自賛じゃ無いけど完璧だったぜ。
きっとシューちゃんも目ん玉を見開いて驚く事だろうさ。
「後はこの扉を開いて現状確認――……。ってぇ!! 施錠されているじゃねぇか!!」
クソが!! あの野郎、鍵を閉めて行きやがったな!?
どうする?? このまま踵を返してもいいけども……。此処まで来て引き返すってもの何だか中途半端だよな??
体の前で前足を組み、俺様なりの深い思考を繰り広げていると扉の向こうからすすり泣く声が聞こえて来やがった。
「お母さん……。このままずぅっと此処に閉じ込められるの??」
「我慢よ……。きっとお父さんが帰って来てくれるから」
ちっ、出来る事なら今の台詞は聞きたく無かったぜ。
忍ノ者は私情を挟むなって口を酸っぱく言われ続けて来たけどよぉ、俺様は血の通った温かな心を持つ新しい忍ノ者なのさ。
ってな訳で!! ちょっと強引だけどお邪魔させて頂くぜ!!
「ハムハムハムハムハムハムッ!!!!」
頑丈な木製の下部の枠に齧り付き俺様の体が通れるだけの狭い隙間を前歯で齧り取って行く。
うぉう!! かなりの硬度で時間が掛かりそうだと思ったけど意外とすんなりいきそうだぜ!!
齧り甲斐のある木を堪能しつつ何んとか体が通れるだけの空間を確保すると本日三度目の捩じり込む所作を取り、地下室へと侵入を果たした。
人間二人が過ごすのにはちょいと狭い空間の中央に小さな机が置かれており、その上には先程運ばれて来たであろう質素な食事が置かれている。
こじんまりとした部屋の奥には扉があり部屋全体に微かな硫黄臭が漂う。
きっとあの扉の向こう側は便所なのだろう。
換気が行き届いていない不衛生な部屋に足を踏み入れると顔を顰めて口を開いた。
「よぉ!! ちょいと尋ねたい事があってお邪魔させて頂いたぜ!!」
こんな狭い部屋に閉じ込めやがって……。これじゃあ匿うじゃあなくて幽閉じゃねぇか。
「わっ、鼠さんだ」
頬が痩せこけた男児が俺様の姿を捉えると瞳に微かな光を宿す。
「あ、貴方は一体??」
餓鬼んちょと同じ位やつれた女が俺の瞳を直視して問う。
「まぁ訳合って此処に訪れた風来坊って言えば分かるかい?? 俺様の素性よりも先ずは一つ質問させてくれ。実は俺様達は……」
この街に偶然訪れて街の変化知った。そしてケイナーの裏切りを知った事を端的に伝えてやった。
「――――。ってな訳で。俺様はケイナーが本当に金を持ち逃げしたのかを確かめに来たんだよ」
「父さんは絶対にそんな事をしないもん!! あの日はいつも通り仕事に出て行ったから!!」
「そう声を荒げるなって。んで?? そこの所はどうなんだい??」
顔を真っ赤にして荒げる男児を他所に彼の母親に視線を向けた。
「あの人は仕事に真面目で家族を裏切る真似は決して出来ない小心者です」
小心者って……。もう少し言い方ってもんがあるんじゃね??
「狸一族との交渉で得た契約金は街の金庫に厳重に保管されていました。鍵は彼が持っており彼だけしかお金を動かせないのは周知の事実なのですけど……。私は主人がお金を持ち逃げしたとは考えられないんです」
「つまり確固足る証拠は無いけどケイナーの小心者の性格からして金を持ち逃げするとは到底考えられないと??」
「えぇ、鼠さんの仰る通りです」
ふぅむ……。奴の性格からして、街の住民からそして家族から真の信頼を得ている野郎が愚行に走るとは考え難いとの結果に至ったのか。
状況証拠としては悪く無いけどもまだまだ証拠が足りないって感じだな。
「ねぇ、鼠さん。僕達を此処から出してくれるの??」
後ろ足で立ち体の前で腕を組んで考えていると小僧が俺様を見下ろしつつ小さな言葉を漏らした。
顔も身なりもボロボロ。
彼等の事情を知らない奴等が見ればきっと捨て子だと思われても致し方ないナリだ。
小さな口から出て来た言葉がどれだけ力無く感じる事か。
俺様がコイツの年頃には野を駆け山を駆けあがって元気良く遊んでいたってのに……。餓鬼に此処までの仕打ちをするのはちょいと許せねぇぜ。
「ん?? 約束は出来ねぇけどもう少し待ってろ。必ず俺様が助けてやっから」
「有難う鼠さん!!」
「だから約束は出来ねぇからそこまで舞い上がるな。後、俺様の名前はフウタってんだ。名前で呼べ」
「フウタさん。主人の事を信じて下さい。そして……。この街を元の素敵な姿に戻して下さいね」
だぁ――!! だからそうやって一縷の希望に縋る様な瞳を浮かべるんじゃねぇ!!
俺様は情に弱いから流されちゃうの!!
「取り敢えず仲間と相談してから決めるわ!! それまでの間、此処で待ってろよ!!」
「うん!! 待っているね!!」
監視の野郎が戻って来る恐れもある為、これ以上の長居は禁物だ。
自分にそう強く言い聞かせてやると前歯でこじ開けた微かな空間に体を捻じ込んで外に出ると土の香りが漂う地下階段を上って行った。
金を持ち逃げしたのは欲に目が眩んだ。
誰がど――見てもその理由に行き着くのだが、果たして真実はその通りなのだろうか??
万人が認める聖人でも金の魅力には心が揺らぐだろうが、犯罪に至る手前でケイナーの脳裏に浮かんだのは大金を手にして大盤振る舞いする自分よりも家族の悲しむ顔じゃなかろうか??
家族から小心者と呼ばれ、街の住民から信頼を得ているケイナーが愚行に走るとは到底考えられないんだよねぇ……。
まっ!! 俺様が得た貴重な情報を微乳姉ちゃんに報告して情報を精査しよう。
狸退治に至るのはそれからでも遅くは無いだろうさ。
「……」
廊下に出て敵性対象の存在を確認するが室内は驚く程シンっと静まり返っていた。
ありゃ?? 一階に居た巨乳姉ちゃんの魔力が二階に移動しているぞ。
その場に留まり耳を澄ませていると二階から微かな話し声が聞こえて来る。
『……』
『……』
その内容は全く理解出来ないが何かを話し合っているという事だけは分かる。
それじゃこの好機を生かして裏口からおさらばさせて貰おうかね。
部屋の四隅を素早く移動するゴキブリよりも巧みな足捌きで裏口に向かって駆けて行くと。
「……ッ」
スイギョクちゃんの部屋と思しき扉が開かれっぱなしである事に気付いてしまった。
こ、この男心を擽る匂い……!! た、堪らねぇぜ!!
家の主は二階に居るし?? ちょ、ちょっとだけお邪魔しても罰は当たらないだろうさ!!
『お邪魔しま――っす』
何処までも高鳴る胸を懸命に抑えて女の匂いがそこかしこに存在する御部屋にお邪魔させて頂いた。
左手奥に大きなベッドがその存在を知らしめその脇には化粧台がある。そして右手には二つの箪笥に左手には執務用の机が置かれていた。
時間が許してくれるのならベッドに飛び込んで女の香をこれでもかと胸の奥に取り込んでやるのだが、生憎時間が無いのだよ。
「にししっ。となれば此処だろう!!」
右手の壁際に置かれている箪笥に飛び付き期待に胸を膨らませ、下着というお宝を拝見する為に勢い良く取っ手を引いた。
「御開帳――!! って……。何だこりゃ。紙の束じゃねぇか」
美しい木目の箪笥の棚の中には……。
この街の近辺の詳しい地図があり随分と離れた北北東の位置に幾つもの丸印が刻まれていた。
そして、大量の石灰とこれまた大量のザミド草並びにフロン草の取引の書類の束がキチンと纏めて仕舞ってあった。
ザミド草?? フロン草?? 草と石灰の売買をして一体何の得になるんだ??
もっとこう……。大量のイヤラシイ下着の取引とかだったら少しは興奮するってのに。俺様のワクワクした感情を返してくれ……。
だがしかぁし!! 箪笥はもう一つあるのだっ。
二分の一の確率を外しちまったがきっと向こうには俺様が恋焦がれているお宝が眠っている筈ッ!!
開いた棚をキチンと元の位置に戻してもう一つの宝箱に向かおうとした刹那。
『では引き続き彼等の監視を怠らぬ様に』
『はっ、心得ました』
二階に続く階段から会話と扉を閉める音が聞こえてしまった。
「ッ!?」
畜生めが!! これ以上の長居は危険だな!!
「うぅっ……。お宝が目の前にあるのに開けられないこのジレンマ!!」
後ろ髪を引かれに引かれる想いを胸に抱き巨乳姉ちゃんの部屋から颯爽と退出すると裏口を静かぁに開けて土と草の匂いが漂う外に脱出した。
「はぁ――。空気はうめぇけど心はキンキンに冷えていますよっと……」
肩を落としに落として夜空を見上げると何だか月が呆れた笑みを浮かべている様に見えてしまう。
きっとお月様は呆れ声でこう言っているのだろうさ。
『ふしだらな行為は御法度ですよ??』
俺様は自分の心に従って正直に行動しているの!! いつもクソ真面目だと肩が凝りに凝っちまうだろうが!!
月に唾を吐く行為じゃないけれども本日も怪しい月光で地上を照らしている月に溜息を吐くと一足先に集合場所であるアマヤへと駆けて行ったのだった。
お疲れ様でした。
現在、後半部分の編集作業並びに執筆中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。




