表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
1172/1237

第二百二十七話 不穏な影が漂う街へ その三




「先生!! さっさと行くわよ!!」


「待ちくたびれたぞ!! では、行くとするかの!!」


 フィロとイスハが『南』 へと向かって爆進するので俺達は敢えて何も言わず本来の目的地である北へと向かって進み始めた。



 心血注いで作った軟膏を高く売りたいのが人情だってのにこの人は自分の利益を優先させるので無く慎ましい額で満足してしまうのか。


 利潤追求する商人としては大失格だが優しさを求める人格者としては大成功だよな。


 俺もその姿勢を見習うとしますかね。



「おぉぉいい――――!! わしらを置いて行くとはどういう事じゃ!!」


「先生!! 反対方向に行くのなら教えてよね!!!!」


「いてぇ!! イスハ!! 人の頭を叩くな!!」


「貴女達が早とちりしたのです」


「お前等うるせぇぞ!! 俺様の昼寝の邪魔をするんじゃねぇ!!!!」



 喧しい鼠の叫び声とお子ちゃま達の対応。


 そして死神も顔を真っ青に染めてしまう冷徹な表情を浮かべているマリルさんに対して四苦八苦しつつ進む事、約三十分程度だろうか??


 最初の目的地であるマートの南側の入り口が見えて来た。



 左右一杯に広がる長閑な風景の中にポツンと浮かぶ街だが、人通りはある程度あり俺達の前にも旅人若しくは商人達が街の入り口へと足を踏み入れている。


 街の主収入源である人の往来はまずまずといった所か。


 久し振りにこの街に訪れましたけど全然変わっていないな。



「街じゃ!! 街に着いたぞ!!」


「そんなに怒鳴らなくても聞こえているよ。マリルさん、先ずは何処に向かうので??」


 俺の両肩に勝手に乗りやがったイスハの対応もそこそこに、街の中央を走る街道を北へ向かってズンズン進んで行く彼女の背に問う。


「この街ではいつも町長さんに薬を売っています。今日は時間もありませんし、寄り道はしませんよ??」


「あぁ!! あの服可愛いじゃん!!」


 左手側に店を置く服屋さんにタタっと向かいそうになっているフィロを咎めつつ話す。


「えぇ!! どうせだしちょっと位寄って行こうよ!!」



「寄りません。大体、あの服は駄目です。服は機能性を重視すべきなのです。汗の吸収性を見て、保温性に優れた物を選ぶ。そして咄嗟の行動にも対応出来る機敏性も重視すべきかと」



「先生――。また同じ事言っているわよ?? 私達は地の果てに向かう冒険者じゃないんだからある程度の自由な服装はいいんじゃないの!?」


「駄目です。沢山の冒険を経験して来たダンさんも私の意見に賛成ですよね??」


 ほっ!? 急に振られても困るんですけど!?



「え、えっとぉ……。マリルさんの服装はですね。ま、まぁ悪くは無いと思いますよ??」


 くすんだ灰色のローブの中にあるちょっと格好悪い服装を捉えつつ言葉を濁した。



 濃い茶の上着にしっかりとした造りの灰色のシャツ、それとちょっとやそっとじゃ傷付き色褪せないだろうと判断出来る濃過ぎる青のズボン。


 俺は回りから浮かない程度の服装なら全然気にしないんですけども、マリルさんのソレはこれから大きな海を越えて大冒険に向かう冒険者そのものの服装なのですよ。


 女の子なのですからもう少しお洒落しても罰は当たらないよ??


 そう言えたらどれだけ楽か……。


 忌憚のない意見を放った後の彼女のお仕置きが怖くてとてもじゃ無いけど言えませんっ。



「あぁそうですか。では、少しの間失礼しますねっ」


 あらまっ、機嫌を損ねちゃったのかな??


 マリルさんがフンっと軽く息を漏らすとこの街の中でまぁまぁ大きな家屋の扉へと向かって行き、そして扉を叩いて挨拶を済ますと家の中に入って行ってしまった。


 あそこが町長さんのお家だろう。


 俺達が彼女について行くと余計な労力を与えてしまうだろうし、このまま大人しく無言の待機命令に従うべきですね。



「いらっしゃいませ――!! 当店の品は他店と一線を画しますよ!! 是非ご来店下さ――い!!」


「お腹が空いたらうちに限る!! お客さんの胃袋を満たすのは此処しかありませんよ――!!!!」


 通り沿いに併設された店々の前に立つ店員さんの客引きの声が街の活気に一役を買い。


「う――ん……。品は悪くないけどちょっと高いかな」


「ねぇ!! あの店に寄って行こうよ!!」


「ん――了解っと」


 通りを行き交う旅人、観光客若しくは行商人達の往来がそれに拍車を掛ける。


 俺達も街の経済を潤沢に潤す役目を買いたいのですが生憎お留守番という役目を拝命していますのでね。


 ここは大人しく見に回らせて頂きますよ。



 中々に活力溢れる姿の街の景色を眺めて居るとこの陽性な雰囲気に触発されてしまったのか、将又とんでも無く恐ろしい監視の目を逃れた所為なのか。狐のお子ちゃまと暴れん坊の龍が対面のお店に勢い良く駆けて行ってしまった。



「時間もかかる事じゃろうし!! 少し位なら見学してもかまわぬじゃろう!!」


「そうよね!! 折角街にお出掛けしたんだから少しくらいは堪能しないと!!」


「あ、おい。後で叱られても知らないぞ」


 俺の忠告を完全完璧に無視した二人は行き交う人々の合間を器用に縫って進んで行く。


「はぁ――。あぁいう姿を見るとまだまだ餓鬼だって感じだよな」


「同感。店の人に迷惑を掛けるかも知れねぇし、俺達も行くか。すいませ――ん。通りますね――」


「あ、は――い」


 俺達の前を丁度通りかかった馬車の御者席に着く騎手さんに一声かけ。


『っ??』


 そして、沢山の作物を乗せた馬車を引っ張る馬さんの不思議そうな瞳の前を通り横着者達の背に続いた。



「いらっしゃい!! 当店御自慢の品々を見て行ってよね!!」


「おぉ――!! 美味しそうな焼き菓子もあるじゃん!!」


「どれも美味そうじゃのぅ!!」


「あのねぇ……。君達は先生の言う事をたった数分も守れないのかい??」


 陽性な感情を全開に押し出している二つの背に呆れた口調でそう話す。


「別にいいじゃん!! 私達はこの空き時間を有効活用しようとしているんだから!!」


 左様で御座いますか。


「う――む……。小腹が空いた時間には少々酷な香りじゃな……」


 イスハが込み上げて来る何かを堪える様に軒先に並べられている焼き菓子等に視線を送る。



 今の陽性な声色だといつもなら三本の尻尾をふっさふさと揺らすのでしょうが、人が沢山暮らす街もあってか今は少女の姿で居る。


 彼女の視線につられて軒先の商品に視線を移すとそこには中々の効用を与えてくれるであろう品々が確認出来た。



 大地の栄養をしっかりと吸い取って育った春キャベツ、でっぷりと太ったサヤインゲン。沢山の土が付着したままの牛蒡なんかもある。


 その中でも少女二人の視線は作物類から少し離れた位置に置かれてある焼き菓子に独占されていた。


 へぇ――。品は悪く無いけど…………。以前来た時よりも品が少なくなっていないか??



「こ、この焼き菓子。やばそうね……」


「じゃ、じゃな。此処からでも甘い匂いがただよってくるぞ」


「あはは!! お嬢ちゃん達、一個買って行くかい??」


「もちろんじゃ!! これ、ダン!! わしらに一つ買うべきじゃぞ!!!!」


「それは別に構わねぇけど……。おやじさん、随分と前にこの街を通りがかったんだけどさ。その時よりも品が少なくなっていない??」


 俺の裾を引き千切る勢いでガンガン引っ張っているイスハを宥めつつ問う。


「兄ちゃん、中々目利きだね。実はさぁ此処から北東にあるウォルって街があるんだけどね?? 数か月前から送られて来る作物が少なく……。いいや、殆ど送られなくなって来たんだよ」


 農業で生計を立てている街から作物が届かなくなった??


「その理由は分かるかい?? 後、イスハ。買ってやるからそれ以上裾を引っ張るな。千切れちまう」


「おぉ!! 助かるぞ!!」


「悪いわね!!」


 懐から銀貨数枚を取り出して彼女達が所望する焼き菓子のお題を店員さんに渡してあげた。


「毎度あり!! 作物の輸送が滞っている理由何だけどね……」


 二人のお子ちゃまにそれぞれ焼き菓子を渡し終えると俺に耳打ちをする仕草を取るのでそれに倣い右耳を傾けてあげた。



『何でも魔物と取引に失敗したらしく?? 借金を返す為に今はそいつらに従って居るみたいだぜ』


 お、おいおい。それは初耳なんだけど??


『本当ですか?? それなら魔物達に街を支配されたと言っても過言じゃないですか』


『俺達も仕事で忙しくて向こうの街を確認しに行けないけど、ウォルに立ち寄ったお客さんが言っていたから間違いないと思う。それに……。ほら、見えるかい??』


 彼が俺の後ろに意味深な視線を送るのでそれに従い静かな所作で振り返ると。


「ぎゃはは!! もう少しで着くな!!」


「あぁ!! 明日はぼろ儲けしてやろうぜ!!」


 汚ねぇナリの三人の野郎共が通りを北上して行く様を捉えた。



『ウォルに向かって行くあぁいう無頼漢共がここ数か月の間に増えたのさ。外観からしてとても農業に携わる者だと思えないだろう??』


『えぇ、確かにそう思いますね』


『何かがきっかけで街は変わってしまった。それが俺の素直な感想だよ』


 その何かが知りたいけども……。これ以上聞くのは野暮ってもんだな。



 彼はこの街で生計を立てており外部との不必要な接触は生活に悪影響を及ぼす恐れがある。所謂、触れぬ神に祟り無しって奴さ。


 己の利益を優先させるのが商人の本懐であり不利益になる事象に態々頭を突っ込む必要性は全くありませんからね。



「有益な情報を有難う御座います」


 再び懐から銀貨一枚を取り出して情報の御代金として彼に渡してあげた。


「いえいえ。これも商売ですから!! お嬢ちゃん達!! うちの焼き菓子はどうだい!?」


「最高よ!! 何、コレ!! めっちゃ甘くて美味しいんですけど!?」


「良き味じゃ!!」


「甘過ぎて頬っぺたが落ちちまうよ!!」


 いやいや、何でお前さんまで甘味を満喫しているんだよ……。


 いつの間にか俺の右肩からイスハの右肩に移動してサックサクのクッキーを小さな前足で掴んでがっついている小鼠の後ろ姿を捉えると呆れた吐息が漏れてしまった。


 この街で用事を終えたら次は何やら不穏な気配が漂う街に向かわなければならない。


 これまで得た経験からしてなぁぁんか嫌な予感がするんだよねぇ。



 作物の輸送が滞り始めた、無頼漢共がこぞって足を運ぶ、そして街の人々は魔物と取引に失敗した。



 幾つもの不安要素が頭の中を駆け巡り心にざらつく違和感を与えて来やがる。


 俺とフウタは何も問題無いが、お子ちゃま二人を連れて不穏な気配を漂わせる街にお邪魔してもよいものだろうか??


 この事を一度マリルさんと相談してみるべきだと考えていると。



「あら?? 何処に行ったかと思えば呑気におやつの時間ですか??」


 件の彼女が少しだけ減った荷物を持って俺達の方へ歩いて来てくれた。


「先生!! ダンが買うてくれたぞ!!」


「これめちゃ美味いわよ!! 先生も食べて食べて!!」


「ちゃんとお礼は言ったの??」


「勿論じゃ!!」


「それなら結構。ダンさん、有難う御座いますね」


「いえいえ。それよりもマリルさん、ちょっと相談したい事がありまして……」


 彼女の細い肩に右手を乗せて焼き菓子に夢中になっている者達から遠ざかる。



「実はですね、今あそこの店主からウォルの情報を入手しまして。彼が言うには……」


 キョトンとした顔の彼女に獲れ立て新鮮の情報を伝えて行き。


「――――。何か不穏な気配がするとは思いません?? もしかしたら魔物達が街を実効支配している可能性もあるかと思います」


 全ての情報を伝え終えると最後に俺なりの意見も付け加えておいた。


「まぁダンさんも私と同じ考えに行き着いたので??」


 おう?? ダンさんも??


「実は私も町長さんからダンさんと全く同じ情報を伝え聞いたのですよ」


「あ、成程。どんな魔物か知りませんけど、もしも街が実効支配されている様ならイスハ達を置いて行くのも選択肢の一つですが」


 話の分かる奴等ならまだしも、此方の話を全く聞かずに暴力という名の会話術で襲い掛かって来る可能性もある。


 相手の種族も、戦力の規模も、そして住民達の安否も全く不明なのだ。


「いえ、このまま予定通り向かいます。先ずは向こうの様子を確かめるのが最優先事項ですので」


「は、はぁ。そうですか。マリルさんがそう仰るのなら従いますけども」


「ダンさんとフウタさんも居ますし。もしもそういう事が起こっても問題無いですっ」


 あ、いや。俺はどこぞの大飯食らいの白頭鷲ちゃんと違って喜々として敵をぶん殴りに行きませんからね??


「じゃあ早速出発しましょう!!」


 彼女が可愛らしくムンっと拳を作ると通りを北上し始めてしまう。


 青みがかった黒き髪の揺れ具合はどこか楽し気に映るのは気の所為でしょうかね……。


 マリルさんも実は相棒と一緒でワンパクするのが好きなのでしょうか??


「へ、へい!! お――い!! そろそろ行くぞ――!!!!」


「分かったわ!!」


「う――い。ほれ、イスハ。早く歩けや」


「お主が人の姿に変われば良いだけの話じゃろう!? それとフィロ!! わし達の分をさり気無く食おうとするな!!!!」


 残り僅かになった焼き菓子をがっついている三名に出発を告げると慌ててマリルさんの背を追い始めた。



 軟膏を売るっていう超絶怒涛に簡単な御使いになる予定だったのに、何だか物凄ぉぉく嫌な予感がしますよ。


 こんな事になるのなら相棒と一緒にお留守番でもしていれば良かったぜ。



「ふふんっ、ふ――んっ。あ、ダンさん!! あっちのお菓子屋さんのクッキーは歯が溶けてしまいそうな甘さで有名なんですよ??」


「そ、そうですか。物凄く疲れた時にでも買いましょうかね」


「それとあっちの服屋さんもお薦めです!! 余分な装飾を全て排除し、究極にまで機能性を追求した服装は正に完璧と呼んでも差し支えないんですっ」


「は、はぁ。時間があれば一度覗いてみます」



 俺の杞憂を他所にマリルさんの感情は天井知らずに高まって行く。その最たる原因は恐らく、というか確実にこれから待ち構えている不穏な影でしょう。


 俺の気持ちも露知らず元気一杯な彼女の姿を見て居ると何だか異様な感情が湧いて来る。


 これを言い表すのなら。


 まだ世の恐ろしさを知らない我が子が毒蛇に向かって手を伸ばしてしまった様を捉えたお母さんって感じですかね。


 頼むから余計な事に首を突っ込まないで下さい。それと幸運を司る女神様!! ど――かお願いしますからウォルの街が疑い様の無い位に平穏でありますようにっ!!!!


 叶いそうで叶わないいつもの願いを心の中で唱えると、万人が認めざるを得ない高揚感を双肩から滲み出している森の賢者さんの後に仕方が無くといった感じでトボトボと付いて行ったのだった。




お疲れ様でした。


いやぁ、長々と書いて居たらかなりの文字数となってしまいましたので三話に分けて投稿させて頂きました。


次話からは不穏な影が漂う街にお邪魔させて頂きますので引き続き楽しんで頂ければ幸いで御座います。


さて、早い人はもうゴールデンウィークが始まったかと思われますが読者様達の予定はどうでしょうか??


遊びに出掛けたり、買い物に出掛けたり等々。それは多種多様な過ごし方で思い思いの時間を満喫するかと思われます。


私としてはこの期間中にある程度御話を書き進めようと考えていますよ。勿論?? 息抜きの為の外出はしますけども。


何処に行こうか、何を買おうかと日々悩んでいる次第であります。


それでは皆様、引き続きゴールデンウィークをお楽しみ下さいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ