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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第二百二十六話 長閑な日々 その一

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 長閑という言葉がどの街によりも似合う平穏で静かな空気が漂う田舎町には本日も住民達の素敵な笑みが溢れていた。


 ある者は農作業で満足の行く収穫が出来たのか程良い汗を浮かべながら。ある者は家族の活発な姿を捉えて。またある者は商売繁盛の予兆を捉えて。



「おいおい。気味の悪い笑みを浮かべてどうした??」


「んっふふ!! 今回の収穫量はボチボチだったからな。住民総出で作った作物の収入を想像したら自然と笑みが零れちまったんだよ」


「勝手に想像するのは構わんけど、この街は街道から外れていているし。隣街まで運ぶまでに色々痛んじまうからそこの計算もしておけよ??」


「分かっているさ!! 後は町長に許可を頂くだけだな!!」


 一人の男性が捕らぬ狸の皮算用だとして咎めると、快活な笑みを漏らす彼は腰に手を当てて手元の紙に視線を落とした。



 泥の汚れが目立つ農作業着に身を包む男が忠告した様にこの街は大陸を縦横無尽に走っている街道から少し外れた場所に位置する。


 大陸の南から北へと抜けて行く旅人が食料補給や休息の為、又は隣町の食料の一部を供給するのがこの街の役割だ。


 農業、酪農、養鶏。


 田舎町に大変良く似合う仕事から得た収入で街はそれ相応の発展を見せており、この街無くしては周囲の街や旅人は満足の行く生活が出来ないであろう。


 それぞれがそれぞれの役割を担う事で経済活動は潤沢に行われる。


 人が生み出した素晴らしい文化の一つである経済。


 たとえその役割が少なくともこの街にはそれが及び大陸の歯車の一つを担っているのだ。



 そこに目を付けたのかそれとも彼等が生み出した文化に魅入られたのか。


 舗装が余り行き届いていない街道から魔物達が街に足を踏み入れるとこれから得るであろう収入に笑みを零している男性に声を掛けた。



「あの、今お時間宜しいでしょうか??」


 魔物達の先頭を行く一人の女性が艶のある声を男性に掛けると彼は数字の海から妖艶な女性に視線を移した。


「あ、はい!! 何か御用ですか??」


 長閑な街に不釣り合いな女性の姿を捉えると彼は刹那に魅入ってしまうが、邪な感情を咎め至極冷静を務めて声を出す。


「大変お忙しい所申し訳ありません。此方で収穫された作物を購入したいと考えているのです」


「はぁ……」



 女の声を受けて真っ先に男の頭に浮かんだのは、何故この街の作物を態々買い付けに来たのかだ。


 言い方は悪いかも知れないがこの街の作物の味、出来栄えは他の街のそれと余り変わりがない。しかも街道から外れている事もあってか他所に持ち運ぶのなら鮮度は多少落ちてしまう。


 他所の作物より微かに劣る物を何故購入しに来たのか。


 それを確かめるべく彼は僅かな間を置いて尋ねた。



「何故うちの作物を買いに来たので?? 態々足を運ばなくても他で買い付ければ宜しいのに」


「味や鮮度は正直、他の街の作物に劣りますが私は貴方達の努力に感銘を受けたのです。肥沃な大地に実りを任せるだけでは無く、人々の努力の結晶が詰まった作物の味は素晴らしく私の舌を唸らせてくれました」


 女がそう話すと淫らな唾液を纏わせた舌で己の形の良い唇を濡らす。


「私はこれまでこの大陸を渡り歩いて様々な味を確かめて来ましたが、この街が一番私の舌に感動を与えてくれたのです。突然の提案に驚いているかも知れませんがどうか私共に収穫された作物を売って頂けないでしょうか??」


「それは別に構いませんけど……。量は如何程で??」


「全てで御座います」


「全部!?」


 女の提案に彼は素直な驚きの声を出してしまった。


「値段は其方の言い値で宜しいですよ??」


「他所の街に売る分は最低限残すとして……。お姉さん達に売るとしたらこれだけの値段になってしまうけど??」


 この好機を逃すべきでは無いと判断した彼は驚くべき速さで作物の値段を紙に書き印して提案する。



 商いを生業とする者なら言い値と言われたら必ず飛び付くであろう。


 街への移動経費や作物の鮮度の劣化等々。


 作物を売る際にはどうしても価格が下がってしまうのだから。



「はい、勿論それで構いませんよ」


「はは!! こりゃあ上客さんだ!! 後は町長に許可を得れば売買契約は成立さ!!」


「有難う御座います。もしも……。其方が宜しければ来年の夏の分の米や次に収穫出来る他の作物も購入しましょうか??」


「え!? 今日だけじゃ無くて他の分の契約もですか!?」


 所謂、先物取引の一種である青田買いの契約を女が持ち込むと男は喜んで食いついた。


「来年だけでは無く再来年、十年後も喜んで購入させて頂きますよ?? 私はそれだけこの街の作物に目が無いのです。勿論、今この場で御支払う事も出来ますので御安心下さい」


 女がそう話すと後ろで控えていた男性が革袋の中から大量の金貨を取り出して男に提示した。


「あ、あはは!! それだけの金貨があればこの街も沢山潤いますね!! それじゃあ確認を取って来ますので少々お待ち下さい!!」


 彼が目の色を変えて勢い良く街の奥に掛けて行くと。


「えぇ……。私共はいつまでも此処で待っていますよ……」


 女は目元をニィっと歪に曲げて軽快な足取りで駆けて行く男の背を見送った。


 不穏な雰囲気を醸し出す彼女達は長閑なこの街では酷く浮いた存在だが街に大好機を齎す事実は変わりない。


 男は彼女達が運んで来てくれた途轍もなく大きな商売の好機を見逃すまいとして風よりも速く街の長が住まう家屋へと駆けて行ったのだった。




お疲れ様でした。


二万文字に迫る文字数になってしまいましたので三話に分けての投稿になります。


続けて二話目を投稿させて頂きますね。

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