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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第二百二十五話 女王様の秘密の場所

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 本当に細い針が地面に落ちた時の矮小な音さえも拾えそうな静寂が部屋を包む。


 鼓膜が微かに痙攣してしまう静謐な環境の中で私は一人静かに椅子に腰掛けて窓から差し込む淡い月の明かりを見上げていた。


 今宵の月の笑みは先程の宴の余韻もあってか、とても柔らかであり私は月の微笑みにつられる様に口角を上げて吐息を漏らした。


「ふぅっ」


 小さな吐息に含まれるのは小さな疲労と先の事件を無事に終えられたという安堵感。


 そして……。本当に僅かな心残りだ。


 瞼をそっと閉じると篝火に照らされたマリルさんとダンさんの楽し気に踊る姿が映し出される。


 二人の男女が仲睦まじく手を取り合い、見つめ合い、心を通わせ合いながら踊る様は宴の席に相応しい姿だった。


 里の者達は彼等の踊る様を見つめつつ笑い合っていた。私もその内の一人なのでしたが……。


 我儘な私はマリルさんの姿を自分に、そしてダンさんの姿を意中の人物に勝手に重ね合わせてしまった。



 もしもあの時、私にもう少しの勇気があれば叶うはずだった幻の舞いに後悔の念が募る。



 はぁ――……。何で私は彼の手を取ろうとしなかったんだろうなぁ……。


 里の長という立場を加味したから?? 周りの目がちょっとだけ心配だったから??


 尤もらしい理由が頭の中に浮かんでは消えて行くが、真実は恐らく私自身が臆病だからでしょうね。



 彼の手を取りお互いの瞳を見つめ合って踊る。


 そんな簡単な事さえ出来なかったのだから。



「自己嫌悪じゃないけど、弱気な自分が心底憎いですね」


 何だか知らないが月の笑みが無性に苛立ちを募らせてしまったので淡い月明かりから漆黒の闇の中に身を置きもう何度目か分からない溜息を吐くと、この静謐な環境に酷く合った乾いた音が扉から発せられた。



「レオーネ様。少々宜しいでしょうか」


 え?? ランドルト……?? こんな夜更けに一体どうしたのかしら。


「あ、は、はいっ。少々お待ち下さいね」


 ちょっとだけ格好悪い寝間着をパパっと脱ぎ捨てて無難な服に早着替えすると髪型をキチンと整え、そして椅子に深く腰掛けた。


「どうぞ」


「失礼します」


 木製の乾いた扉が開かれ少しだけ疲れた顔のランドルトが私の部屋に足を踏み入れた。


「お休みの最中申し訳ありません。本日中にどうしても許可を頂きたい事案が御座いまして」


「別に構いませんよ。その事案とは一体……」


「はっ、先の事件を受けて私が提案した南部防衛についてです」



 そう言えば彼が物凄く真剣な顔で提案しましたね。疲れているのなら何も今日じゃなくても良かったのに。



 今回の事件は大雀蜂一族のルミナの奇襲から始まり、敵に対する防衛線を張っていない我々は否応なしに後手に回ってしまった。


 彼女達の手によって傷付いて行く里の者達の姿を捉えると幸せな時は有限であるとまざまざと思い知らされた。



 そして今回の反省を踏まえてランドルトが提案したのは、敵の奇襲、強襲に備えて先の戦闘が行われた島に里の者達を配備するというものだ。


 島に駐在する者が戦えなければ意味が無いのでランドルト主導の厳しい訓練を施し、鍛え上げ、一人の戦士として我々に悪意を持つ敵を迎え撃ち。残りの者は里へ緊急事態を伝える為に翼を鍛える。


 平和を愛し、平穏の時を望む我々ですが最低限の自衛行為だけはしなければならないのだ。



「島に駐在する者は里の者達から取捨選択する予定です。南の島での拘束時間は約五日。その間に戦士としての最低限の訓練と里への緊急連絡の方法を念入りに指導します」


「大まかでいいのですが南の島に連れて行く人数を教えて下さい」


「暫くの間は奴等の奇襲は無いと考えていますので……。そうですね。五名程を所望します。人数は順次増やして行き、それぞれが最低限の戦える力を持たせるつもりです」


「私が許可すれば直ぐにでも行動に移るのですよね??」


「はい、勿論です。私はもう二度とあの様な光景は見たくはありませんので」



 彼がそう話すと真剣そのものの瞳を浮かべて私の顔を直視した。


 貴方の決意は受け取りました。しかし、私の決意はまだ決行出来ていないのです。



「えっと……。許可するのは構わないのですけど。南部防衛線を構築したら、ランドルトは島にずぅっと駐在するのですよね??」


「え?? まぁそうなる可能性が高いですね。彼等に剣技や付与魔法の指導を出来るのは私くらいですので」



 やはりそうなりますよね……。いつも私の周りで守っていてくれた彼が居なくなると思うと胸にチクンとした痛みが生じてしまう。


 この痛みは恐らく、そういう事なのでしょう。



「分かりました。許可を与えます」


「有難う御座います。では、夜分遅くに失礼しました」


 彼が静かに頭を下げて退出しようとするが。


「コ、コホン。待ちなさい」


 私は多感な思春期の女性よりも上擦った声を放って彼の足を止めた。



「どうかしましたか??」


「許可を出すのは構いませんが……。そ、その代わりに夜間飛行に付き合って下さい」


「これからで御座いますか?? レオーネ様の疲れた御体に響きますので深夜の行動は……」


「これは命令です。指示に従わない場合は許可を取り消しますっ」


「わ、分かりました」


 私がちょっとだけ意地悪して怖い声を出すとランドルトがキュっと目を見開いてしまった。



 ふふ、ごめんね?? これからの数時間は私の人生の中で最も大切な時間になりそうだから貴方を引き留めたの。


 私の我儘を許してね。



「じゃあ北西の空へと向かって飛び立ちますよ!!」


 私は後悔だけはしたくないという強大な決意を胸に秘めて窓を開くと白き翼に風を纏って美しい夜空へと飛び立った。



 うんっ、今日も素敵な空気ですね。


 細かい砂や塵が含まれた地上の空気に比べ、空に漂う空気は本当に清らかに澄み渡っている。


 己の緊張感を誤魔化す様にいつもよりちょっとだけ大袈裟に夜空の空気を胸一杯に取り込んでいると直ぐ後ろからランドルトの低い声が鼓膜に届いた。



「レオーネ様。北西の空に向かって飛び立つと仰いましたが目的地は決めているのでしょうか??」


「えぇ、勿論です。今から向かう先は私しか知らない特別な場所ですよ」


「レオーネ様だけ?? 我々でも知り得ない場所に向かって何をするおつもりなので??」


 あ、いや。それだけは今、此処で答えられないのですよ。


 何故なら今からしようとしている事は人生の中でも一、二を争う特別な事なのだから。


「え――っとそれはですね……」


 彼の問いを誤魔化しつつ幾万もの星達に呆れた顔色で見下ろされていると目的地周辺の上空に到達。


「み、見えて来ましたよ!! 私の後に付いて来て下さいね!!」


 誰が聞いても彼女はきっと狼狽えているのだろうと判断出来る声色で到着を告げて夜の闇が広がる森へと向かって降下を開始した。



「到着です」


 上空から森に降下する際に木々の枝に邪魔をされましたが、何んとか無事に着陸を果たすと体に付着した葉をそっと手で払い周囲を見渡す。



 深い森の中に現れた少しだけ開けた空間には幾つもの人工物が確認出来る。


 私から向かって右手側には雨風によって少しだけ傷付いた木製の机と一対の椅子、左手後方にはこじんまりとした家が上空の木々の合間から差す月光を浴びている。


 自然の中に突如として現れた人工物は怪しくも幻想的な風景を醸し出す雰囲気を担っており私はその景色の中、背の低い草々の上を軽やかに進み開けた中央へと向かった。



「森の中にこの様な場所があるとは……。レオーネ様、此処は一体」


「此処はハーピー一族の歴代指導者しか知り得ない場所です。私達は此処を『秘密の王園ロイヤルシークレットガーデン』 と呼称していますよ」


「秘密の王園ですか。何の為に作られたのかは御存知で??」


「今は亡き私の父親からは好きな時に使用しろと教わりましたね。ですから一人になりたい時。腹が立った時の奴当たりに。そして、特別な時に……」


「成程……」



 秘密の王園の中央で歩みを止めると物珍し気に周囲へ視線を送っている彼の顔を確と捉えた。


 ふふっ、珍しそうに周囲を見渡していますね。その顔も素敵ですよ??


 彼があの様な顔を浮かべるのは珍しい事なのですが、これからもっと驚いて貰います。


 その覚悟は出来ていますか??



「すぅ――……。ふぅ――……」


 その前に己の心の準備を整えようとして痛い程鳴り響いている心臓の上に右手をそっと添えた。


「レオーネ様!? まさか体調が……」


 私の所作を勘違いした彼が目をぎょっと開いて私の下へと駆け寄ってくれる。



 うん、丁度良い距離感ですね。


 私の心は準備を終えましたので後は少しだけ……。ううん、かなりの勇気を振り絞って私の想いを彼に伝えましょう。



「宴の余韻もあってか、私の体調は物凄く快調ですよ。ランドルト、私は今特別な時に此処を使用すると言いましたよね??」


 手を伸ばせば触れられる距離に立っている彼の顔を見上げつつ話す。


「そう伺いましたね」


「今がその特別な時なのです。貴方は私が幼い頃から今に至るまでずっと守ってくれましたね。今回の事件でも私を守ってくれて有難う」


 彼の右手を誘う様にそっと静かに右手を差し出すと。


「い、いえ。彼等の助力がなければ私は貴女を守り切れませんでした。己の実力の不甲斐無さに憤りを感じています」


 ランドルトは奥歯をぎゅっと噛み締めて私から視線を外すと地面を見下ろしてしまった。


「マリルさん達が居なくても貴方はきっと私を助けにやって来てくれた。そう信じているのです」


 彼に歩み寄り、力無く地面に下がっている右手を両手で大切に掴んであげる。


「それが私に与えられた役目ですからね」



 そう、それが彼の仕事だ。彼の家系は私の身を守ると忠誠を誓い今日に至る。


 私の前に立ち塞がる敵を切り裂き、風が荒れ狂うのなら黒翼が生み出す風で薙ぎ払い、漆黒の闇が広がるのなら剣の光で道を照らす。


 私は幼い頃から彼の生き様を最も近くで見て来たので彼がどれだけ傷付いているのか、どれだけ疲弊しているのかを一番良く知っている。


 彼の疲れを労ってあげたい、彼の心を癒してあげたいと思う様になったのは二十歳になった頃だ。


 しかし、彼は己の剣を磨こうとして大陸各地へと飛び立ちそれは叶わなかった。丁度その頃に謎の病気に掛かり私は生死の境を彷徨った。


 数か月もの間、高熱にうなされて意識が朦朧としている中。


『レオーネ様!!!! お気を確かに!!!!!!』


 彼の声がきっかけとなって意識が現実の下に帰って来てくれた。


 白む意識のままで重い瞼を開けるとそこには……。恋焦がれていた彼の泣き顔があったのだ。


 その時は何も言えず貴方の顔を只々見る事しか出来なかった、そして先の戦いで幸せな時間は限りあると私は知ってしまった。



 臆病な殻を破り、勇気ある翼を持った私の飛翔を見て下さいね。



「ランドルト。私はね?? 私は…………」


 彼の右手を両手で大切に包み込み、異常とも捉えられる拍動を必死に抑え込み、そして臆病な私を勇気で上書きすると改めて彼の瞳を捉えた。



































「私は……。貴方の事が誰よりも好きです。ランドルト、私と共にこれからも同じ道を歩んで行きましょう」


 い、い、言えたぁぁああ!! 自分が出した勇気に百点満点をあげたい気分ですよ!!


 恥ずかしさでどうにかなってしまいそうな動悸を鎮めつつ彼の反応を待っていると。



「えっ!? えぇっ!?!?」


 ランドルトは私の突然の告白を受けて顔を真っ赤に染め、今にも倒れそうな体を支えるのに必死になっていた。



「お、驚きましたよね??」


 彼の右手をぎゅっと握りながら尋ねる。


「に、西から朝日が昇る。そんな有り得ない事象を目の当たりにした気分ですね」


「そ、そうですか。それでぇ、そのぉ……。出来れば本日中に返答を頂きたいのですけども……」


「い、今からお答えしますので少々お待ち下さい」



 わ、分かりました。


 私も貴方の答えを聞くのに勇気が要りますので今一度、心を整えましょう。


 彼の右手を離すとちょうど良い距離感に身を置き。



「す、すぅ――……。ふぅぅ――……」


 戦いの時よりも更に緊張した面持ちのランドルトの顔を見つめた。



「わ、私はレオーネ様の身を守る為に今日これまで鍛えて来ました。主に仇なす敵を討ち滅ぼすのが私の使命です。レオーネ様が幼少の頃から御側でお守りし続けて今日に至ります」


 だ、大丈夫ですか?? 生い立ちを話しているだけで顔が真っ赤で今にも気絶してしまいそうですけども。


「成長して行くレオーネ様を最も間近で見られるその喜びは何物にも代え難く、私は常々従者である喜びを感じていました。そんな折、修行の日々を終えて里に帰還してレオーネ様が原因不明の病を罹患したと聞いた時は気が気じゃありませんでした。病は何とか完治しましたが……。その時からでしょうか。私の心に異変を感じ始めたのは」


 異変ですか??


「レオーネ様の笑みを捉えると嬉しそうに心が弾み、沈んだ表情を浮かべていると私も同じく心が沈む。気が付けばレオーネ様の心や御姿に私の視線や心を奪われ始めていたのです」


 ま、まさかそれって!!



「私の剣は貴女を守るために存在するのです。それは今後も一切変わりありません。レオーネ様。私も貴女を心の底からお慕いしていますよ」



「ッ!!!!」


 私は彼の答えを聞くとほぼ同時に彼の胸に飛び込み思いの丈を叫んだ。



「あはは!! やったぁぁああああ!! やっと、やっと私の想いが通じたのね!!!!」


 彼の大きな体を両腕で力の限り抱き締めてあげる。


「レ、レオーネ様!! きょ、距離感を少々間違っていますよ!!」


「今日だけは良いの。それに、この場所はそういう事をする為にも作られたって伺ったのよ??」


 私が大変意地悪な視線をあちらの家屋に向けると。


「い、い、いけません!! ふしだらですよ!!」


 私の視線の意味を理解したランドルトが更に顔を赤らめてしまった。


 これ以上揶揄ったらきっと憤死してしまいそうですし、今日の所は牽制程度でお終いにしてあげましょう。


「恋人同士なら当然の行いだと思いますよ?? で、では本日は共に同じ道を歩むと決めた誓いをしましょう」


 私が静かに瞳を閉じて顎をクイっと上向けると。


「い、いきなり口付けは淫らだとは思いませんか?? それにレオーネ様の体調の事も御座いますし」


 彼は私の誓いの口付けを受け止めるべきかどうか躊躇してしまった。



 もう!! 男らしくありませんね!!


 女性が頑張って勇気を振り絞ったのだから男らしくそれを受け止めるべきなのですよ!!



「んぅ――!!」


 親鳥に餌を強請る子鳥の様に頑張って唇を上に向け続けてあげる。


 すると彼は遂に観念したのか、私の体を抱き締める強さがグンっと上昇。


 そして、その数秒後。



「で、では失礼します……」

「……っ」


 本当に優しい接触が私の唇一杯に広がった。


 彼の唇は私の想像よりも乾燥しており此方の唇が接触して間もない間は微かに震えていたが、私がランドルトの体を強く抱き締めてあげると震えが止まり漸く恋人同士らしい口付けが出来た。



 ふふっ、不器用な彼らしい口付けでも私の心には満開の花が咲いていますよ。


 このまま時間が止まればいいのになぁっと、彼の硬い唇を堪能しているとランドルトが私の肩をそっと掴んで離してしまった。



「申し訳ありません。苦しかったですよね??」


「ううん。窒息しても構わないと思っていました」


「それは流石にいけませんよ。従者が主君の命を奪う等ありませんから」


「あはっ、それはそうですね。で、では!! 今日は夜が明けるまで語らいましょう!!」


 彼の手を取り、開けた空間の隅で少しだけ寂しそうに私達を見つめている机と椅子の方へと歩んで行く。


 その歩みときたら……。女王の肩書を忘れ恋に溺れる女性特有の軽やかなものであった。



 歴代の指導者達が今の私の姿を見ればきっと呆れた溜息を吐く事でしょう。


 でも、私も一人の女性だ。好いた男性としかも心を通わせる事が出来た彼が直ぐ側にいるのですから致し方ないと思うのです。


 私達だけしかいないこの空間なら私は女王の肩書を捨てて一人の女性として居られるのだから。



「ランドルトは私のどんな所が好きなの??」


 椅子に腰掛けて今も顔が真っ赤に染まっている彼に問うと。


「真摯に仕事に取り組む姿や里の者達の事を常に考えている所ですかね」


 彼は暫しの沈黙の後にありふれた答えを出した。


 むっ、もう少し容姿について触れて欲しかったですね。



「そっか。じゃあ私の外見でどこが気に入っています??」


「え、えっと……。レオーネ様の美しい桜色の髪で御座います」


「あはっ!! 有難うね!! ねぇ、今度さ。里の皆に内緒で二人っきりで王都に出掛けない?? ほら、新しい花の発見の為にとか適当な理由を付けて」


「それは勘弁して下さい!! 里の者達にこの関係がバレてしまったら一体何を言われるやら気が気じゃないのです!!」


「も――。そんな事言っていたらずぅっと子供が出来ないじゃないですか」


「こ、こ、子供ぉ!?」


「そうよ?? 私達はこれから愛を育み、愛の結晶を新たに生み出すのだから……」


「きょ、今日は駄目ですよ!?」


「戦いの時は誰よりも頼れるのにこういう時は本当に臆病ですねっ」


「そ、そんな顔を浮かべても駄目です!! 口付けを交わすだけで失神してしまいそうでしたのにこれ以上進めばきっと私の命は消失してしまいますから!!」


「あははっ!! 大丈夫ですよ!! ランドルトの命が消える二歩手前で止めてあげるから!!」


「で、ですから駄目なものは駄目です!! お願いですから私の手を離して下さい!!!!」



 新しい恋人同士の明るい会話の声量が静寂な森の中に強く響く。


 普段は静謐な環境が漂う森の中一杯に広がって行く男女の声は酷く浮いた存在であり、彼等から少しだけ離れた距離にある木々の枝で翼を休めていた二羽のツガイの梟がこんな深夜に一体何事かと大きな目を見開いた。



「と、言いますか!! レオーネ様は一体誰からその様な情報を入手したのですか!?」


「え?? ほら、偶にマリルさんが私の所に遊びに来てくれるでしょう?? その時に男性経験の無い二人同士、いつその時が来ても良い様に知恵を絞り合って色々と話し合っていたのですよ」


「えぇっ!? あの聡明な彼女とですか!?」


「彼女だって一人の女性よ?? 恋する心を、そして男性を愛する心を持っていて当然なのですから」


「成程……。それは確かにそうですけど……。ってぇ!! さり気なく椅子を動かして近付かないで下さい!! それ以上の不必要な接近はとてもじゃありませんが了承出来ません!!」


「私はもっと近付きたいんですけど?? それに私の命令に貴方は従う必要があるのですっ」


「こういう時に立場をちらつかせるのは卑怯です!!」


「うふふ、今日は寝かさないからね……」


「ちょっ!? お願いしますから私の膝では無くて其方の椅子に腰かけて下さい!!!!」



 森の中に蔓延る闇に響く下らない人間の大声が此方の脅威になり得ないと考えたツガイの梟達は小さくも鋭い嘴を微かに開けて新鮮な空気を取り込み再び眠りに興じようとするが……。それから間も無く東の空から朝日が昇り始めてしまったのでそれは叶わなかった。


 今日の一日の始まりを告げる太陽が眠気眼を擦りながら森の中で今も飽きれた男女の会話と、濃厚な接触を続けている二人の人間を捉えると巨大な欠伸を放ちだらしなく肩を回す。


 徐々に活力が湧いて来た体で地上を照らし始めるものの、二人の男女はそこから一歩も動かず互いの瞳を見つめ合いながら素敵な会話を続けていた。


 森の中の野生動物の邪魔になるからいい加減にそこから動きなさいと、言葉では無く強烈な光量で彼等に伝えるものの。


 真新しい関係を構築した男女二人に太陽の陽光は一切効かず、それ処か彼等は光を味方に付けて時間の許す限り森の動物達の安寧と安心を阻害し続ける陽性な音を奏で続けていたのだった。





お疲れ様でした。


今回の御話はカットしようかと考えていましたが、第一部最終章のとあるワンシーンを書く為にどうしても必要だと考えて投稿させて頂きました。


次話からは新しい御話が始まりますので引き続きお楽しみ頂ければ幸いです。



本日も花粉が酷くとても辛い状態で一日を過ごしていました。読者様達の調子はどうでしょうか??


季節の変わり目であるので体調管理に気を付けて下さいね。


それでは皆様、お休みなさいませ。

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