第二百十六話 ある意味最も不運な者 その一
お疲れ様です。
本日の前半部分の投稿になります。
人の心を潤してくれる億千万もの星達は夜空に浮かぶ雲達に遮られ地上で暮らす者達は彼等の存在を捉えられず、太古の時代から繰り返し行われて来た学者達の天体観測若しくは仲睦まじい友人達と行う天体鑑賞は困難となっていた。
夜空には無数の煌めきの代わりに不安を覚えてしまう深き闇が広がっておりそれを捉えた者達は言い表しようの無い暗い感情を胸に抱き、網膜が痛くなる程の快晴を願って明日に備えて早めに就寝する。
この世に遍く天然自然の事象は感情と意思を持つ生物達に多大なる影響を等しく与えており、それは私も例外では無かった。
不安、恐怖、憂慮。
彼等と別れて単独で降下地点へ向かって行くと得も言われぬ負の感情が心の中に幾つも浮かんでは消えずに漂い続けている。
この感情を全て消去する為にはその原因を突き止めて解決策を見出し、解決に至る順序を構築してその通りに行動すればいい。
臆病なもう一人の自分にそう強く言い聞かせているが……。どうやら目に見えぬが確実に存在する私は随分と強情な様ですね。
生徒達を彼等に預けても良かったの?? 貴女一人で手に負えない強力な敵が現れたらどうするの?? 等々。
聞きたくもない言葉の数々を本当の私に問いかけて来るのだから。
単独行動をして正解ですねっ。こんな弱気な自分を生徒達に見せる訳にはいきませんから。
「マリルさん。もう直ぐ到着しますよ」
おっと、単独行動とは些か語弊がありました。
「有難う御座います。降下したのなら直ぐに撤退して下さいね」
私の直ぐ後ろから声を掛けてくれたハーピーの青年に矮小な声で返事をする。
「え、えぇ勿論です。俺の実力じゃああの大雀蜂一族に歯が立ちませんから」
ハーピーの里で対峙した彼女達の実力は控え目に言ってもかなりのモノを有していた。
剣の腕前や魔力の扱いそして戦場で揺るがぬ確固足る闘志。
彼女達は素晴らしい訓練を受けて来たのだと、戦意を交わしたからこそ確知出来る力の数々を肌で感じる事が出来た。
勿論?? ハーピー一族の風を操る力を以てすればある程度抵抗出来るかも知れませんが、大雀蜂一族の実力はそれを優に上回るのです。
私が降下する予定地点に存在する敵は情報通りなら二体ですが、配置位置の不明瞭な幹部の存在が厄介です。
ハンナさん達が襲撃する予定の北側に一体の幹部が、東西南のいずれかにもう一体の幹部が配置されている。
私はどちらかと言えば運が悪い方なのでその方と対峙する可能性がありそうですよね……。
「ふぅっ」
心に渦巻く不安を小さな溜息に乗せて体外に吐き出し、心の中で揺らめく闘志の炎を絶やすまいとして潮気の強い空気を体内に取り込んであげた。
多少は肩の強張りは解れましたが心に渦巻く不安という名の厚い雲は晴れませんね。
「マ、マリルさん。この辺りでいいですかね??」
背に生える美しい茶の翼を巧みに操り海上から島の東側の崖を駆け上がり、背の低い草々が生える地面に籠を置いて私に問うて来る。
「勿論ですよ。よいしょっと……」
籠の中からおずおずと出ると久し振りに大地の上に両足をくっ付けてあげた。
ふむっ……。周囲に敵影は確認出来ませんね。
暗闇の中に目を凝らしてみても敵さんの姿を捉える事は叶わなかった。
「で、では自分は失礼します。御武運を祈っております!!」
「あ、はぁ――い。道中気を付けて下さいね」
闇が蔓延る海上へ向かって慌てた様子で飛び立って行くハーピーの青年を見送ると心を切り替え、改めて周囲に視線を送った。
この辺りに敵さんは存在しないとなると北、若しくは南に居るかも知れませんね。
強力な感知魔法を使用すれば私の存在を確知されてしまいますし此処は一つ、素の力で敵の力の源を捉えるとしましょうか。
「すぅ――……。ふぅぅ――……」
体の前で手を組み、瞳を閉じて集中力を高めて行く。
心に一切の凪が見当たらない美しい水面を浮かび上がらせてそれを徐々に広げて行き矮小な凪を発生させる存在を探索していると……。
「――――。居ましたね」
北側に私の心を乱す二つの存在を確認出来た。
二体という事はこの周囲に幹部は存在しないのかしら?? そうなるとシュレンさんやダンさんの位置に居る確率が高い。
この場所を速攻で制圧して彼等の作戦行動地点まで移動した方が得策なのだろうか??
いや、それはちょっと違いますね。私達に与えられた使命はレオーネ女王様の救助だ。
それに彼等の実力は私も目を丸くする程のモノであり、私は彼等の事を信頼しているので手助けは無用ですよね。
「うんっ、行きましょうか」
体の前で可愛い拳をムンっと作り、今回の事件を起こした悪者さん達の下へと向かい闇と同化しつつ歩み出した。
お疲れ様でした。
後半部分が書けていないので現在、誠意執筆作業中で御座います。
次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。




